『星に降る雪/修道院』

星に降る雪/修道院
池澤 夏樹
4048738380


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読了。

喪失による傷、生と死の狭間、罪への贖いを、非日常と日常のあいだで静謐につづる。中編二編を収録。

評論、紀行文や翻訳などでも活躍中の作家、池澤夏樹の小説を久しぶりに読みました。きっかけは何だったのだか忘れましたが、タイトルに惹かれたのかな。うん。

読んでいて、この方の文章はこんなに乾いていたかなーと思いましたが、冷静で感情に流されずに、そのうえで熱いなにかを描いていると感じました。

ここに収録されている作品はどちらも死をテーマにしています。が、印象は正反対。

下界とは隔絶された山頂で展開し、ひんやりとして静かで、理解の難しいけれどどこか解放された感のある「星に降る雪」。

クレタを舞台に、若さゆえの熱とそれによる激情を距離をおいて描き、ギリシア悲劇のような濃密さを時の経過によって過去の逸話とする「修道院」。

話の舞台も対照的でした。冷たい風によってさらされていく白と、強い陽射しと濃い影の落ちる南国と。

「星に降る雪」は過去の(そうとう過去。しばらく読んでなかったから初期作品くらい?)池澤作品に空気感が似ている気がしました。けれど読んでいる私が歳を食ったのでうけとめる内容がかなり変化していて、不思議な気がした。

いまの私が読むとこの話は一度彼岸を見て帰ってきた人が此岸に戻れない話だとおもわれるのですが、主人公が捕らわれているなにかが闇ではないあたりが非常に興味深いんですね。
この話の彼岸は、宇宙なのだろうか。
日常世界を忌避する態度と無限の宇宙に対して開かれた状態を保とうとする姿勢が奇妙にアンバランスで。

あ、そうか、かれは世界には開いているけれど人間に対して閉じているのか……。

とても不思議な感覚の残る話でした。

それに比べると「修道院」のほうがわかりやすかったです。
ギリシャ悲劇の近過去版みたいな雰囲気でした。

どちらも短いけれどこってりとした内容で、いろいろと考えさせてくれた。面白かったというか、興味深かった。読みながらいろんな事を考えました。でもって答えがなかなか出ないのですな。

端的に言えば、ツカレタ(苦笑。

でも、いつも単純な話を読んでいると頭を使わなくなるので、たまにはこういう読書もいいかなと思いました。

文章的好みでいうと、池澤文はエッセイで読むほうが馴染みやすいなと、私は感じました。もすこし色気とか飾りがあるほうが読むのが楽な気がするの(苦笑。

『犬夜叉 40』

犬夜叉 (40) (少年サンデーコミックス)
高橋 留美子
4091266703



読了。

戦国時代へトリップした女子中学生日暮かごめが、半妖の少年犬夜叉や仲間たちとともに四魂の玉の欠片を求めて旅をする、伝奇アクションコメディーコミック。シリーズ第四十巻。

たいそう久々の犬夜叉です。
久々すぎて話を忘れていたので思い出すのにしばしの時を要しました。
思い出したのは話自体があんまり進んでなかったということでしたが(汗。

この巻では、鉄砕牙が竜鱗の鉄砕牙に変化するエピソードと、
現代に一時的に休みに行くコメディーエピソード。
それに尼寺の化け猫のエピソードに、
魍魎丸の肉片を喰らった毒蛟のエピソード途中までが収録されています。

結果的には竜鱗の力を得たけれども鉄砕牙はなにかの弱点を抱えてしまった……ということを示唆したい巻だったようです。

個人的に一番楽しかったのは、傷を癒すためにかごめちゃんの実家に連れていかれた犬夜叉の行動。
まさに犬、しかもしつけのできてない犬!
大笑いだ~~!

そして黒目がいっぱいにみひらかれたかごめちゃんの真顔にびびりました(苦笑。

さてつづきを予約しよう。

20090828の購入

新刊捕獲作戦、第二弾発動。
というわけでまた出撃してきました。

翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈下〉 (幻狼ファンタジアノベルス)
妹尾 ゆふ子
4344817400


一冊をゲット。

荷ときの時間を見はからってのピンポイント襲撃です(苦笑。
入荷してたのは一冊だけだったので、ちょっとずれたら危ないところでした。

最近頭を使うのはこんな場面だけですな……。

なにはともあれ、無事に目的をはたしたので安堵しました。
作戦、成功w

それで、寝る前にちょっとチラ見、と手にとって、半分くらい読んでしまった。やばいやばい。図書館本を片づけるまではお預けです。

『夢見る水の王国 下』

夢見る水の王国 下 (カドカワ銀のさじシリーズ)
寮 美千子
4048739514



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読了。

生と死とその狭間にたゆたう夢の世界で愛の裏と表を描く、幻想的なファンタジー。下巻。

言葉の選び方と情景描写の美しい、詩情あふれるお話でした。
徹頭徹尾、静かな夢の世界だとわかる書き方でリアリティーはないのですが、だからこそ普段は見えない真実がくっきりと浮かびあがる。ファンタジーの特性を最大限に生かした物語。

お話は夢ですが、夢は少女やおじいさんのこころを鮮やかに映し出して、これまでともに過ごした時間につもりつもった愛と憎しみを暴き立てていくものでした。

現実では一瞬のうちに過ぎ去った時間であっても、生から死へとうつりゆくものを心が認識し受けとめきるにはこれだけの間が必要なんだなーと、読み終えて思った。

移ろいゆく月とその光、流れる水、たゆたう水の冷たいイメージ、循環する生命と宇宙のひろがりが、美しくもあり切なくもある物語でした。

二人に分かれたヒロインそれぞれにつきそう、黒猫のヌバタマ、子馬のヨミのぬくもりが愛おしかったです。

ところで、本のこの作品はとある別作品の作中作、なのだそうです。
泉鏡花文学賞受賞のその本はこちら。

楽園の鳥 ―カルカッタ幻想曲―
寮 美千子
4062124394


読んでみようかなーと思ったのですが、アマゾンの評が賛否真っ二つに割れていてちょっと怖い(汗。

20090827の購入

新刊捕獲作戦のために出撃しました。

GA-芸術科アートデザインクラス 3 (まんがタイムKRコミックス)
きゆづき さとこ
4832278355


一冊ゲット!

アニメ化ってほんとに宣伝効果絶大なんだなーと新刊売り場で見つけて思いました。
平積みされてます……!!
いつもは一、二冊しか入らなくて背表紙で懸命に探しだすシリーズなのに、すごーい。
その一、二冊もすぐ売り切れずにいつも残っていたシリーズなのに、すごーい。

心の中で残響を響かせながらレジへと向かいました(苦笑。

目当てのもう一冊はまだ来てなかったです。
ので、今日も出陣の予定です。

こちらはたった一冊の争奪戦になりそうな予感(汗。

こういうときだけ真面目に出かける自分はなんて現金なヤツなのでしょうか。
目的がないと外出できない→エサがないとなにもできない。

健康増進とかダイエットというのはエサにならないらしいです。

『鋼の錬金術師 23』

鋼の錬金術師 23 (ガンガンコミックス)
荒川 弘
4757526024



借りて読了。

異世界アクション錬金術ファンタジーコミック、シリーズ第二十三巻。

近代的なテクノロジーがありつつ錬金術と呼ばれる魔法が絶大な力を誇る世界で、禁断の領域に足を踏み入れたために失った肉体を取り戻すために旅する兄弟と、世界支配を目論む謎の組織(?)と人間たちの戦いを描く、シリアスハードでちょいコメディーな少年マンガ。

しばらく前にクライマックスに突入してずーっとテンション高いまま持続しています。すごい。何がすごいといってアクションシーンの切れ味と渋い人情物語が同居しているあたりかな。絶対甘くならないんだけど泣けるなーハードボイルドだなーて感じ?

今回は炎の錬金術師ことマスタング大佐が大活躍でした。激怒した大佐がすげー怖かったデス。

鳥頭な私は、前巻のお話をかなり忘れまくっていたのですが、このエピソードには心をぐさりとやられましたです。衝撃的だったのはエンヴィーとのやりとりですが、ホークアイ中尉のあれやこれやに惚れる。カッコイイーvvv

……ホークアイ中尉といえばわんこはどうしているのだろうか……。

それから、アームストロングの姉弟は当然にカッコ良かったです。
とくにお姉さまがクールでストロング! まさにアームストロング!(笑。

そんなこんなで、息もつかせぬ展開に読み手もたのしく疲れました。

これからもこの緊張感のままラストまでつづくのかなー、読んでるほうは何ヶ月かに一ぺんですが、書いてるほうはそうとうに消耗しそうだなー、大変だなー。

なんて作者様を勝手に案じつつ、つづきをお待ちしています。

『翼の帰る処2 鏡の中の空 上』

翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス)
妹尾 ゆふ子
4344817079



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読了。

隠居したい。切実に願う心中とは裏腹にどんどん出世してどんどん忙しくなってしまう、病弱な三十七歳、官吏ヤエトのぼやきの記。あるいは皇帝の跡継ぎをめぐる陰険な権力闘争と戦う皇女陣営の奮闘記。日常と幻想とが交錯するドラマチックな異世界ファンタジー、シリーズ第二作の上巻。

前作がとても面白かったので期待大すぎでちょっと不安だったのですが、杞憂でした。

冒頭からどんどん行きます、展開速い!

キャラクターが前作にも増してつよい存在感を放ち、それぞれに勝手なことを言い出します。漫才のようなシーンが続きますが、かれらの行動には意味があります。状況を反映した漫才なのです。

そしてわれらが主人公・皇女の副官ヤエト先生の心中突っ込みが大炸裂!(笑。

ヤエトは観察者としては冷静なあまりかなり辛辣なようです。多分に、かれらの行動がほぼすべて自分に面倒として降りかかってくるからだと思われますが。この突っ込みがあんまり可笑しいので、ヤエト先生語録を列挙したくなりました。

そうして漫才をしているようで話は次第に深刻な方向にむかっています。ヤエトの疲労とぼやき突っ込みに攪乱されているうちに、ずぶずぶと深みにはまっていくようでした。ううむ、なんという深謀遠慮。

ディテールにのめり込むたちである私は、もったいないからという理由で小刻みに読んでいたこともあり、物語の表面の漫才(だけじゃないけど!)ばかりに気をとられてしまいました。だってあんまり面白いんだもん。

世界設定の緻密さと深さ、広さがいろんなところで浮かびあがるところが好きなんです。旧帝国からわかれて立った帝国の歴史とか、砂漠の諸国の話とか、古王国の神の話とか表音ではない表語文字のこととか。征服王朝の内実を動かしているのは誰かとか、おりおりにヤエトにあらわされる予言とか、ジェイサルドの過去とか、なぜか強くなりつつある神の恩寵のこととか。

そう、恩寵のことはとても気になります。今回は舞台がどんどん移動していき、皇女が権力闘争に巻き込まれていく様などが描かれていくため、幻想シーンは抑えめなのですが、鳥たちが羽ばたいて舞いあがる様が描かれるたびにくり返される、「魔法なのだ」というフレーズが、とても心に残るのです。

なぜ、恩寵のちからが強まるのか、それはもしや人間と神との距離が縮まるようなとんでもない出来事の前触れなのではあるまいか。

そんなことを考えつつ読んでいたら、感想を書こうというときになってストーリーの輪郭を思い出せない自分に呆然としました。バカモノ(涙。

ええと、読み返してみましたら、これはヤエトが新たな困難に立ち向かう話でした。ヤエトは皇女の側で助け手でいるためにいろんな苦労を重ねなければならないようです。皇女が認められる度にヤエトも周囲に認められねばならなくなり、面倒な仕事が増えていき隠居から遠離る、というふうにシステムができあがっている模様です。

皇女のひきたては周囲に複雑な波紋を描き、ついに真上皇帝の御前にて嫌がらせのようにとてつもない試練に放り込まれる始末。

……哀れな。とか言いつつ面白がっているのは私ですが。

その後は皇帝の跡継ぎとして横一線に並ばされた皇子たちの権力レースのえげつなさとともに、帝国内の権力図があきらかになるという、じつに生々しい展開です。ルーギンがいつになく協力的なのが救いでしょうか。かれもいろんな過去でいろんな決断をしてきたのですね。というエピソードがとても印象的でした。帝国って、ホントにまだできて間もない国だったんだなあ……。

これからの皇女陣営の舵取り役を任されたヤエトの運命やいかに。

というわけで、ヤエトは大なり小なり苦労しっぱなし、倒れたり倒れかけたり倒れそうになったりしっぱなしですが、私は鳥が命の北領の民と巨鳥たちに癒されました。

ヤエトの騎鳥シロバってヤエトを雛だと認識してたんですね。頼りないから(苦笑。
鳥と乗り手との共感いや交感か、を他人事としてしか認識できないヤエト視点からでも、その絆の強さは想像できます。

このあたり、やはりマキャフリイの「パーンの竜騎士」を彷彿とさせますねー。
繁殖期に入った鳥に人が引きずられるという話がじつにそうでした。

北領の厩舎の状況が怖いです(汗。そして皇女の状況も……!

強面爺執事のような騎士団長ジェイサルド様の万能っぷりに酔いしれつつ、下巻をお待ちしていますv

読むならぜひ、第一作からw
翼の帰る処 上 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-1)
妹尾 ゆふ子 ことき
4344814665


作者様のブログ【積読山脈造山中】にて、感想を募集されているのでトラバを送ってみます。トラバを送るのもしばらくぶりなので緊張する。成功しますように。

『賤民の異神と芸能 山人・浮浪人・非人』

賤民の異神と芸能
谷川 健一
4309225128


[Amazon]

読了。

歴史的に差別されてきた山人・浮浪者(うかれびと)・非人にまつわる民俗学的な論考についてのいろいろ。
『季刊東北学』『東北学』に掲載された記事に大幅に加筆した物。

この本、読むのにとても苦労しました。対象が素人ではないんだろうと思います。ある程度民俗学を学んでその学術的な変遷も頭に入れている人が読む本なのではなかろうか。

取りあげている題材はとても興味深い物でしたが、題材に関する直接的な言及が少なく、二重三重にフィルターをかけられているようなもどかしさを感じました。読むのに要した労力に見合った実を得るにはもっと読み手に経験がないとダメなんだと思った。とほほ。

とりあえず、目次を記しておきます。


 序章 永久歩行者

第I章 山の原始
 御窟考 三輪山と天皇霊
 山部と二王子逃亡の物語
 役の優婆塞
 山の神の原像

第II章 山からの贈り物
 山人と寄生木
 海彼の巫医
 山の民と川の民 ワタリ・タイシ・井上鋭夫批判

第III章 終わりなき漂泊
 山聖と市聖
 白の放浪者 白比丘尼・大白神・白大夫
 巫女と巫娼

第IV章 四宮河原の非人と芸能
 海の翁から山の翁へ
 宿と宿神
 摩多羅神 障ぎと祝福の地主神
 地神盲僧と平曲琵琶
 逆髪考 地獄の女王

終章 ケガレとキヨメ



私が一番面白かったのは終章でした。他の学者の論に対する記述が少なく、著者の言葉がダイレクトに伝わってきたので。

逆にいえば、他の部分は他人の論考についての論評ばかりのような印象を受けたわけです。一時資料の引用はともかくそういう二次、三次の文章の引用を長々と読まされていると対象のイメージがどんどん薄れていって、けっきょく何がテーマの話だったかあんまり印象に残らないという感じになってしまったと。

そういう論評を取りのけて対象を読みとる力が私になかったというだけの話ですが、出版社がわりと一般的なところだったのでここまで専門家向けの本だとは思わなかったんですよー。

だから力のある人には面白いんじゃないかと思います。
私にはツカレタというイメージばかりが残りました。無念。

20090824の購入

図書館本の返却がてら本屋に立ち寄りました。
お目当てはこちら。

運命の騎士 (岩波少年文庫 594)
ローズマリ・サトクリフ 猪熊 葉子
4001145944


最後の一軒でなんとかゲットできました。

サトクリフはほとんど読んでいるんですけど、すべて借りて読んだので手元にはなく、少年文庫というリーズナブルな形態とお値段で出ているとなんかもう買うしかない! という気持ちになってしまいます。特に岩波の特装版で出ていた本は。

でもかわりに『蟲師』のつづきをあきらめ、宮城谷昌光もあきらめ、これ以上の支出は増やすまいと逃げるように帰宅。

つまりそれだけ金欠なんです(苦笑。

夏休みのおかげか図書館本の回転がよくないのでときどきぽかっと読む本が無くなりそうな事態になりますが、そんなときにはものすごく手強い本にぶちあたって読むのにえらい苦労をすることになったりして、そんなことをしているうちに予約本が到着する……というふうなことになる。

上手いことできてるなあ……(何が?)。

『グリム姉妹の事件簿 1 事件のかげに巨人あり』

グリム姉妹の事件簿1 事件のかげに巨人あり (創元ブックランド)
マイケル・バックリー 三辺 律子
4488019684


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読了。

現代アメリカを舞台にグリム兄弟の血をひく幼い姉妹が死んだと聞かされていた祖母とともに妖精たち相手に活躍する、ローファンタジー。


 十一歳のサブリナと七歳のダフネ、二人の姉妹は両親がとつぜん行方不明になってから里親の元をたらい回しにされていた。そんなおり、姉妹の祖母だと名乗る人物が現れ、ふたりをひきとることになった。サブリナは警戒していた。これまで両親から祖母は死んだと聞かされていたのだ。自称祖母の老婦人レルダ・グリムは優しい笑顔をしていたが、自宅のドアに数え切れないほど鍵をかけてあいさつをする、ありていにいえば頭のおかしい人物と思えた。ところが、逃亡の機会を探るサブリナに反してダフネはすっかり老婦人とその飼い犬を気に入ってしまう。翌日、老婦人と同居人のケイネス氏にふたりは“事件現場”へとつれていかれる。そこでは一軒の家が潰れて崩壊し、大地にとてつもなく大きな足跡が刻まれていた。「これは巨人のしわざだ」という祖母にますます変人説への確信を強めるサブリナだったが――



グリム童話の作者(?)グリム兄弟の末裔の姉妹が、妖精がらみのとんでも事件に遭遇し、妖精の掟を遵守したやり方で解決することになる、冒険ユーモアファンタジー。

出てくる妖精はグリム童話などのヨーロッパ民間伝承出身だけでなく、「おとぎばなし」として現在認知されているキャラクターがてんこもりです。たとえば魔法の絨毯とか、ハートの女王とか、善き魔女グリンダとか。

だからちょっととっちらかった設定なのかとおもいきや、妖精譚の規則をきちんとふまえた展開で、安心して読むことができました。冒頭はすこしラーバレスティアの魔女のシリーズを思い出しましたが、この作品はあかるくかるくたのしめる童話風ファンタジーです。

読んでいて、これって3DCGアニメにもってこいの作品だなあと感じました。感覚ではなく視覚優先で、さらにストーリー優先。スピーディーであれよあれよと意外な展開が押し寄せてくるあたり。

幽玄の深みはないですが、童話の子供向けパロディーとして面白かったですw

ナンバーがふってあるからつづきもあるのでしょう。……ていうか、まだ大きな謎が解決していませんからあると思います。

『黄金の魔女が棲む森』

黄金の魔女が棲む森 (トクマ・ノベルズ)
麻木 未穂
4198507120


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読了。

ローマ帝国が東西に分割されようとしていた時代。追放されて魔女の棲む森で暮らしていた小国の王女の、戦乱と神々に翻弄されながらも意志強く前進する姿を描く、異世界ファンタジー。

と、要約した雰囲気と本文のもつそれとの乖離に頭を抱えてしまう一冊。

冒頭の描写から荘厳で深い物語かとおもいつつ読んでみると意外にあかるい話です。基本的にキャラクター小説ぽいからかな。ヒロインのあけひろげな性格も大きいのだと思います。

舞台は周辺の異民族の反乱に求心力を失いつつあるローマ帝国とその周辺の地中海北部沿岸。

ヒロインは異民族の侵攻に振りまわされていた小国アエスティの王女だったシフ。とある罪により追放され、十八年間、神狩りの森と呼ばれる魔女の棲む森に当の魔女と一緒に暮らしてきた姿だけ十三歳のままの少女です。

シフが歳をとらない理由は死と嵐の神ヴォータンが彼女をつけねらっていることと関係があります。

そんな彼女の元にある日、ローマ帝国皇帝から“赤毛の魔女”を保護し首都に連行せよという命を携えてやってきたのが美形の近衛騎兵隊長レギウス。
レギウスに捕らえられたシフのコンスタンティノポリスへの道中がストーリーのメインです。

反乱分子や異民族が入れかわり立ち替わり現れる物騒な展開に、シフのぶっ飛んだもくろみが重なり合って、なんだか奇妙な雰囲気を醸し出すお話でした。

外見十三歳でも中身はぷらす十八年。下品な魔女との暮らしで恥も慎みも消え失せたシフの言動に、若き近衛隊長レギウスのおたつく様が楽しかったです。

ただ同時にえがかれる当時のローマ帝国の不安定な情勢とのバランスが微妙で、うーん、ストーリー全体としてはまとまってはいるのですが、漫才と描写と説明とシリアスなやりとりがでこぼこしてうまく溶け合っていない感じだったのが残念でした。

シフの謎がとける最後のカタルシスは見事でしたが、そこで生まれた疑問に最後まで? となったまま終わってしまったのもむー。

同時代を描いたサトクリフの作品を読んでいたので知識を補完しつつ読みましたが、それがさらに余計なことだったような(汗。

面白かったのですが、個人的にいろいろと躓いてしまう要素の多い読書でした。申し訳ない気がする……。

『夜は短し歩けよ乙女』

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
森見 登美彦
4043878028



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借りて読了。

京都を舞台にしたちょっと古風でかなり変てこでスラップスティックな、大学生の恋愛ファンタジー。

たいそう有名なタイトルです。
普段はこんなに一般的な人気本は手に取らないのですが、手近に所有していた人物がいたので借りてみました。

読み始めて「かなり独特な本であるなあ」と思いました。
一人称小説でここまで自虐的かつ饒舌な文章を読んだのはこれが初めてなのではないか。とても面くらい、ものすごく読みにくく感じ、どうじにとてつもなくウザく思いました。

なにがウザいといって、物事を一記すたびに妄想と蘊蓄が五つくらい爆発するあたり。

さらに問題なのは、爆発した破片のほうがかなり面白いこと。

あたまが爆発した破片に吸い寄せられてしまうので、ストーリーについていけないよー状態になるのです。

というわけで、ウザいんだけど面白い。面白いんだけどウザくて疲れる。という状態で懸命に読み進みました。自然と読むのに時間がかかり、集中力も途絶えがちです。一章終えるごとに息を切らしているかんじ。最終ページまでにたどり着くまでどれだけかかるのか、足もとはおぼつかず意識朦朧、迷路の中に入り込み、側溝に足を踏み外しして、なんとかかんとか読み終えました。

おもしろかった!(青息吐息で)

お話は大学のとあるサークルの後輩であるひとりの乙女と、彼女に恋して方向間違いの努力をくり返す先輩の、珍道中(ぜんぜん一緒に歩いてないけど!)です。
自虐的で弱気なくせにプライドは高い妄想野郎である先輩は、天然不思議ちゃんの乙女の道行きを一生懸命追いかける。けれど乙女は先輩の胸中などなにひとつ察せず、様々な人びととの出会いにむじゃきに喜び、笑い、楽しみます。

ああ、なんという悲喜劇→おもに先輩のみ。

乙女を助け先輩を挫くのは、二人の周囲に配された個性派ばかりの登場人物。尋常ならぬ力をもつものから、尋常ならぬ性格のもの、尋常ならぬ存在のものまで、よりどりみどり。

大きな緋鯉のぬいぐるみや、由緒正しい詭弁倶楽部、まぼろしのカクテル偽電気ブランなどなど。珍妙なアイテムもごろごろと転がっています。

どこか古風なたたずまいを感じるのは、主役二人の一人称の古めかしさと舞台となった京都の雰囲気がそうさせるのでしょうか。

なんとなく『百鬼夜行抄』を京極夏彦が脚色しているような印象を受けたのですが、どこぞの感想で「高橋留美子ワールドを文章化するとこうなる」というのを目にして、ああそうかもしれない、とも思いました。高橋留美子の『めぞん一刻』が小説だったらこんな感じかも……。高橋留美子が描いたら乙女はもうすこし現実的になりそうですが。

というわけで、疲れましたが楽しかったです。
悪の総元締めと噂される李白さんご当人とお住まいとに惚れました。

ところで、先輩と乙女はいったいなんの倶楽部に属しているのでしょうか。
詭弁部じゃないですよね?(汗。

『カンフー・パンダ』

カンフー・パンダ スペシャル・エディション [DVD]
B0026121Q2



夏休みなので借りて見ました。

この作品を選択したのは妹。タイトルを見たとたん彼女の頭には『らんま1/2』の第一巻「あのパンダ強ええ~!!」が再現されたのに違いない……。というかかくいう私もそうだった(一巻しか読んでないんですが;)。

パンダというと“かわいい”が代名詞のような昨今ですが、この3DCGアニメのパンダにそれを期待してはいけません。

たるたるとしたデブで食い意地が張ってて、妄想野郎でミーハーで怠け者。しかも表情筋が欧米人そのものにうごくのでまったく! かわいくありません。

だから可愛いパンダを見たい向きにはおすすめしません。なんだか嫌悪感を持つ方もいるみたい(汗。

ストーリーは単純そのもの。
ダメパンダがヒーローになる話。

私は、細やかなところまで心配りの行き届いた演出とCGのスピード感あふれる描写で、楽しくおかしく描いているところに好感を持ちました。

格好悪くてかわいくないパンダでもいいよ、という方は息抜きにご覧になっても良いのではと思います。

ワタシ的にはパンダの師匠がマスターヨーダみたいで萌えた!
かれのボイスキャストがダスティン・ホフマンなんて、最後まで知りませんでしたわ。日本語版で見てたからさ……。アンジェリーナ・ジョリーがタイガー娘だってのも知らなかったよ、以下同文。

そういえば日本語版のパンダの声がTOKIOの山口達也だったというのも、最後のクレジットを見て知りました。意外に三枚目声なんですね……。

一緒に見ていた甥っ子は遊び疲れで眠ってしまったのですが、寝るまでは楽しんでいた模様です(苦笑。お持ち帰りしたのでもう見てくれたかなー?

「羽根」

土岐さん作「羽根」読了。

近未来SFファンタジー中編。完結済み。
文明崩壊しかけの日本の、とくに傾町(かぶきちょう)の猥雑で生き生きした描写と、飛翔の感覚が素敵でしたv

『夢見る水の王国 上』

夢見る水の王国 上 (カドカワ銀のさじシリーズ)
寮 美千子
4048739506


[Amazon]


読了。

詩的な美しい言葉で夢幻の世界を描き出す、神秘的なファンタジー。上巻。


海辺の寂れた別荘地に住む引退した老人は、娘の置いていった赤ん坊によってはじめて生きていることの幸せと哀しみを知る。マミコと名づけられた赤ん坊はすくすくと大きくなっていくが、突然の出来事が彼女の心に深い影を落とす。そのときマミコはマコとミコのふたりにわかれ、ミコは記憶を失った。ミコは、マコによって角を失った一角獣の子馬とともに姿を消したマコの行方を追うことになる。



ストーリーよりもその場の雰囲気、文章から立ちのぼる香気を味わうような、繊細で美しい小説。
ひたすらに言葉の意味し、描き出す世界に心を浸して読み進みました。

これは夢の世界、夢の話、心の奥底の暗がりの話ですね。

現実の世界を描いているところも浮世離れしていて、夢との区別がつきにくいです。
それでいて、夢の世界は大きくひろがり、大地の底から宇宙の果てまで続いていく。

月と、永遠に生まれ変わり続ける龍のイメージが鮮烈に焼きつきました。

私はヒロインではなく、ヒロインのおじいさんに異常に感情移入して読んでます。
マミコが姪っ子に読めて仕方がない(苦笑。
おじいさんの切なさが身に沁みますわ~。

つづきもかならず読みます。
まだ手元にないけど……。

夢見る水の王国 下 (カドカワ銀のさじシリーズ)
4048739514

ハマスタ学習帳

これはその名も「ハマスタ学習帳」。

学習帳1

言わずと知れたジャポニカ学習帳のパロディーw
中身には野球に関することや横浜スタジアム、ベイスターズに関する「ひみつ」が載っています。

これはスタジアムのスコアボードのひみつ↓。名前の部分だけで高さ288センチメートル、幅72センチメートルの大きさなんですってさ!
学習帳2

そのほかには「トキメキワークファイル」としてハマの番長こと三浦大輔投手へのインタビュー記事や、カメラマンの仕事解説もあります。

プロカメラマンのデジカメって160万円以上するんですねえ……商売道具だから当然なのかも知れないけどひぇ~っでした。

この学習帳は、プロ野球チーム・横浜ベイスターズの「2009夏休み 横浜教育スタジアム」に参加した妹から貰ったものです。

参加する小学生にのみ配布される物なのかと思っていたら、万人向けに配っていたそうな。妹は家族分含めて四冊貰ったそうなので一冊くれと言ったらくれたw

そんなわけで妹一家は当然その日は対広島戦を観戦してきたわけなのですが。
結果的には散々な代物を見物することになり、ローテーションの谷間なんか見るんじゃなかったと泣いてました。

でもね。
そもそもスポーツ観戦とは博打のようなもので、谷間じゃなくたって負けるときは負けるのです。

それにわがベイスターズの場合、谷間じゃないローテの日なんか二日しかないのだ。勝利を期待して見るものではないと思う。ファンの言うことかとは思うけどそれが現実。

ウッチーのホームランを見られてもうけもの、と思うがいいよ!(苦笑。

『とある飛空士への追憶』

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い)
犬村 小六
4094510524


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読了。

敵国軍掌握下の植民地から自国軍のもとへ、皇子の婚約者をのせて単機で一万二千キロ飛びつづけろ――限りなく不可能に近い命令を受けた若き傭兵と美しい姫君の、異世界戦闘機冒険譚。

あちこちで評判だったので借りてみました。

これはあれだ、戦記物の中でも戦闘機ものと私が名づけている(苦笑)ジャンルの話ですね。
舞台と設定には多少のSF性がありますが、ストーリーそのものは戦記物+身分差ロマンスです。

というわけで、話の読みどころは主人公狩野シャルルのほぼ丸腰偵察機と敵の最新鋭戦闘機とのドッグファィトと、かれが守り届けなければならない美姫ファナとのぎこちなくもほほえましいやりとり。

展開もエピソードのつなげ方も滞りなく、クライマックスを十分に盛りあげたあとで切なくさわやかな幕切れを迎えます。

たいそう面白く読みました。

が、素直に楽しむには、私の読書歴が邪魔をするようです。

戦闘機が実用化されているということは、地べたに這いつくばって血みどろで死んでいく普通の人間がたくさんいるということだ……と考えてしまうので。
戦闘機のドッグファイトは、技術の発達した時代に残る騎士道の残滓なんだとは思うのですが、戦争ってかっこいい事じゃない無様な悲劇なんだよなーと、私は思う。

こういうレーベルだからヒーローが出てこないとダメなんだとは思うのだけど……むー。

完璧に異世界もので、どこにも現実を想起させるところがなければこんな感想は抱かなかったかと思うのです。

“光芒五里に及ぶ”なんていう形容をされる美姫がえらく砕けた言葉遣いをされるところも、響いたかなー。作品の隅々まで硬く重苦しい雰囲気を追求していたら、とつい想像をしてみてしまう。

そんなふうに設定と雰囲気に第一次大戦や第二次大戦を彷彿とさせるようなリアリティーがあるのでよけいにそう感じてしまうのかなーと。

この話、私には爽やかすぎた、ということでしょうか。
ううむ、歳を食ったぜ(汗。

『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』

ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ! スペシャル・エディション [DVD]
B001P9CGT8



夏休みなので借りて見ました。

クレイアニメの「ウォレスとグルミット」シリーズの長編映画です。
発明家で浮世離れしたウォレスと、かれを執事のように補佐する賢い飼い犬グルミットのコンビが奇天烈な事件に遭遇する、ディテール細やかな遊び心に満ちた私の大好きなシリーズ。

今回は、巨大野菜コンテストを控えた町で、対野ウサギ野菜畑警備を請け負っていたふたりに襲いかかる大いなる試練のお話です(笑。

すんごく面白かったですー!!!
あれこれの細かいネタやエピソードにも笑えるし、スピード感あふれるアクションはクレイアニメとは思えないし、キャラクターたちは個性にあふれていて楽しいし、もうサイコーvvv

たしか原語副タイトルは「ウェアラビットの恐怖」。
つまり敵はウェアウルフ(狼男)ならぬウェアラビット(ウサギ男)なのです!

おお、ファンタジー?!

そしてストーリーのあちこちにいろんな先達へのオマージュがあふれています。
グルミットのライバル飼い犬との空中戦(まさにドッグファイト!)。
巨大な怪物にとらわれて悲鳴をあげるヒロインの姿やその怪物が逃げていく場所。

うわあ、あれだー! とわかるともっと楽しめるかと思いますが、わかんなくても大丈夫、ちゃんと楽しめます。

現に小六と小三の姪と甥も、大笑いしながら楽しんでくれました。借りて良かったー!!

クレイアニメでこれだけの作品を作るのは相当な労力が必要と思われますが、ぜんぜんそんなことを感じさせない素晴らしい作品です。なんでこんなに細かいところまでつくりこんであるんだと感嘆しますが、きっと作り手も楽しんでいたのに違いありません。

絵本のバムケロシリーズがお好きな人なんかには超おすすめです。

『カラシニコフ』

カラシニコフ
松本 仁一
4022579293


[Amazon]

読了。

旧ソ連軍の設計技師カラシニコフが一九四七年に開発した自動小銃AK(アフタマート・カラシニコフ)47。故障が少なく手入れが簡単なために、未熟な兵士でも取り扱いが容易なこの兵器は、現在も全世界の紛争地帯で使用されている。カラシニコフにまつわる悲惨な現実を堅実な取材を元に描く、ノンフィクション。

Azuriteさんのおぼえがきをみて本になっていたことに気づき、借りてみました。
朝日新聞に連載されていた「カラシニコフ」という記事に出版当時の現状を書き加えたものだそうです。

読んでいるうちにどんどん暗い気持ちになっていきました。
本当の無法な地域というものは実際はどういうものなのか。いまの日本に暮らしている私には想像も付かない厳しさです。

日本ではあまり報道されないアフリカ諸国の現状は、もしかするとこれまで人類が経験してきた中でも最悪の無法状態かも知れないと思いました。

その原因の一端にカラシニコフがあるのです。

兵士になるためには必要だった熟練の技が、カラシニコフの前には無意味になります。子供でも一週間程度で扱えるようになる、ということは子供でも兵士になれるということを意味します。

武装勢力に拉致されてカラシニコフを持たされた子どもたちの末路は悲惨というほかありません。武装勢力に留まり暴力の限りを尽くしていくにしろ、そこから脱出することに成功するにしろ、深い傷を心に負って生きていくことに変わりはない。

さらにかれらは被害者であると同時に加害者でもある。子供兵士の過激な暴力によって障害者になった人びとの暮らしもまた、悲劇に満ちています。

読んでいて楽しい本ではありません。
私も、新聞連載時に読むのが辛くて途中で脱落してしまったものです。
でも、この本に書かれていることは現実。目をそらして逃げてはいけない現実なのだと思います。

なぜこんなことが起きてしまったのか。
その理由を目の当たりにすると二の句が継げなくなります。

人間はどこまで利己的に自己中心的になれるのかと、空恐ろしい気持ちになりました。

以下、目次を挙げておきます。


はじめに

第1章 一一歳の少女兵
 「私は三人殺しました」
 腹が空くと村を襲った
 ダイヤをめぐる私欲の内戦
 手入れしなくても使える銃
 襲撃前に「マリフアナ茶」
 「ぼくは二度拉致された」
 「赤い肉」みんなが食べた
 国を壊した「手首切り」
 製造刻印のないAKが流入
 「人を殺せる層」が拡大
 少女兵の多くは売春婦に
 ダイヤの露天掘り、日当三〇円
 復学、妊娠、また休学……

第2章 設計者は語る
 「母国を守るためだった」
 「弓矢」と「刀」を合わせた武器
 泳ぎもスケートもだめ
 一四歳でピストル修理
 「スカスカ設計」の新発想
 「変形弾」も苦にせず
 米兵がAKを使った
 超有名人、ウオツカの銘柄にも
 「日本はAKを買ってほしい」
 冷戦の通貨、エビ代金に
 銃の密輸、裏に必ず国家あり
 自衛隊の小銃は三五万円
 月給四〇〇ドル、アパート住まい

第3章 護衛つきの町
 最低七人、銃を放さず
 ホテルの門に機関銃
 東西の綱引きで武器流入
 五〇ドルで中古、八〇ドルで新品
 米軍ヘリ撃墜で大騒ぎ
 機関銃つきのトラック
 妻は「仕事やめて」
 銃回収、AKは一丁だけ
 兄の機関銃を持ち出す
 「誰が安全を保証する?」
 カナダ市民権を捨てて帰国
 襲われたスクールバス
 ちらつく「アルカイダ」の影

第4章 失敗した国々
 フォーサイスも絶賛のAK
 『戦争の犬たち』は実話?
 再び狙われた赤道ギニア
 白昼強盗に見物人多数
 「この国は病んでいる」
 「植民地のほうがましだった」
 NGOにたかる役人
 「兵士と教師の給料」がカギ
 終わった「紳士の時代」

第5章 襲われた農場
 「隣家まで二キロ」の恐怖
 数日かけて現場を下見か
 まず発砲、素人の手口
 狙われる民間保有の銃
 事件の七三パーセントで銃を使用
 被害後、一割は農業を捨てる
 カメラでAK強盗逮捕
 都心の犯罪は激減したが
 殺人は日本の一六倍
 解放一〇年、はびこる汚職
 ソウェト住民、犯罪と取り組む
 政府は治安に無関心

第6章 銃を抑え込む
 徹底した「毎日返納」
 部族長老が和平を率先
 路上でのんびり札勘定
 司法大臣は中古車通勤
 三児の母が司法研修生
 評判をとった女性公証人
 女性の清潔さが必要
 先生一六人に給料は三人分
 「君ならどっちを選ぶ?」
 「国際空港」はヤギだらけ
 銃などで壊れない国家を

あとがき



カラシニコフは祖国を救いたいという想いでAK47をつくったといいます。
けれど設計者の気持ちとは関係なく、技術はひろまっていきます。目的が何であろうと人は便利な物を手放すことはできないのですね。そしてそれは今や悪魔の兵器として世界中を席巻しています。

絶望的な状況に、読み手である私も暗澹としてしまいましたが、終章にあらわされたソマリランドの取り組みに小さいけれど強い希望を感じました。住民たちがみんなでその気になれば、銃を抑えこむこともできるんだと。

本の刊行から五年後の今、ソマリランドがどのようになっているのかはわかりませんが、着実に前進していてくれればいいなと願ってやみません。

余談。
内容にはあまり関係がないのですが、アメリカ人が銃を手放せない原因はこのあたりにあるのかなあとぼんやり考えました。無法状態に対して武器で身を守ってきた過去に意識がとどまっているのかなあと。アメリカはいまはきちんとした法治国家で警察力も軍事力も教育力も備えているはずなのに。無意識に感じていることはなかなか変えられないものなのかも知れません。

ところで、私が読んだのはハードカバーですが、先日二巻と同時に文庫化された模様です。

カラシニコフ I (朝日文庫)
4022615745


カラシニコフ II (朝日文庫)
4022615753

『海獣の子供 4』

海獣の子供 4 (IKKI COMIX)
五十嵐 大介
4091884709


読了。

人と海と宇宙のつながりを壮大なスケールで描く、海洋ファンタジーコミック。シリーズ第四巻。

少ない言葉を補完してあまりある圧倒的な画力による臨場感で魅せる、世界の大きさ豊かさと神秘が印象に残るマンガです。とくに登場人物たちの透明な目にインパクトあり。

静かに興奮しながら読みました。

物語は佳境に入り、ヒロイン流花たち主要な登場人物はそれぞれの人生の波間に流されていっている模様。これまではひとつひとつの出来事が驚きの連続でしたが、この巻ではその出来事のつながりと全体とにひとつの解釈が与えられようとしていると感じました。

鯨たちのソングが響きわたる大きな世界。
人間にとって海が異界なら、海の物にとっては陸地が異界。
でも二つの世界はたしかにつながっている。
生と死によって。死と生によって。

積み重ねられる過去のエピソードと、動いているいまの出来事。
交互に描かれる物語の全体を、なにか大きくて神秘的な物が覆っている、というか浸している? 心地がします。

海女として育った流花の母親の物語が提示されたときに、この話は転回点を迎えたように思います。

生まれる前の記憶を持つ子どもたちの発言にはどきりとしました。

いったい、海は地球は宇宙は、何を生み出そうしているんだろう?

物語は次巻で終幕を迎える模様です。
どきどきしつつ冷静に、つづきを待ちたいと思います。

海獣の子供 1 (IKKI COMIX)
4091883680

『のだめカンタービレ 22』

のだめカンタービレ #22 (講談社コミックスキス)
二ノ宮 知子
4063407497



読了。

ピアノの天才だけど音楽的な欲のないのだめと、音楽エリート千秋先輩の、クラシック音楽コメディーマンガ。シリーズ第二十二巻。

今回は、ミルヒーの毒牙にかかって電撃的にデビューしてしまうのだめのエピソード。
やはりのだめは天才だったんだと思いました。しかも、衝撃的なあまり聴く人の反応のやたら激しい類の、超天才アーティスト。

のだめのデビュー演奏はたいへんな迫力でした。
マンガだから音はないのだけれど、音がないからこそ想像でどんどんレベルを高くすることが可能なわけですが、でもそれだけものすごいんだーということを想像させる画面をつくるのもそうとうレベルが高いんだと思います。感動しました。

しかし、こんな超才能を着実に開花させるために音楽を探求する楽しみを植えつける小さな積み重ねを続けてきたのはオクレール先生なのに、ああ、ミルヒーったら道半ばの小娘を自分の精力剤なんかにしてしまって……。ミルヒーも所詮は自分本位な芸術家って事なんだろうと思うけど、罪ですねえ……。

のだめにはたぶん理想とする音楽がないんですね。
その場その場の感情と欲求に浸って奏でつづけてきて、それでいいじゃないというスタンス。
それを千秋先輩のオーケストラと共演するという目標に置き換えて頑張ってきたけれど……。

のだめに音楽に対する探求心はついに生まれてこないのでしょうか。理想への道のりは見えないままにここで終わってしまうのでしょうか。

すっかり落ち込んでしまった千秋との今後はどうなるのでしょうか。

次巻の予告がすごーく気になります。千秋パパの登場でなにかがかわるのか?!

クライマックス間近、どきどきしながらつづきをお待ちしています。

『伯爵と妖精 月なき夜は鏡の国でつかまえて』

伯爵と妖精 月なき夜は鏡の国でつかまえて (コバルト文庫)
谷 瑞恵
4086013150


[Amazon]


読了。

ヴィクトリア朝のイギリス周辺を舞台に、妖精伯爵の女の子とタラシ伯爵のロマンスを妖精界を巻き込む陰謀を背景に描く、ケルティックなファンタジー。シリーズ……第何作目ですか?(汗。

今回は新婚編の第二弾。
ハネムーンから帰還したリディアとエドガーの、まだまだぎこちない新婚生活でのすれ違いが描かれます。
青騎士伯爵とプリンス関連でいうと、ブルターニュから持ち帰った妖精国の地図の解読をめぐっての幽霊屋敷での怪事件です。

こんなに不安でイライラしているエドガーを読むのが楽しいとは思わなかった(笑。

今回はシリーズ中でも屈指のドタバタコメディーでした。
そのおかげで幽霊屋敷での事件なのにまったくゴシック風な雰囲気がなく、すれ違うリディアとエドガーの心理がお笑いとともにさりげなく描かれていきます。

登場人物が多いうえにいろんな事が起こるので展開が速いです。笑えるシチュエーションとサービスエピソードがてんこ盛りの巻でした。

リディアとエドガーも大変でしたが、そのほかにも状況の犠牲者はたくさんいて、そのなかでも可笑しかったのはやはりニコとレイヴン。

“ニコとレイヴンお友達同盟”者としては、こんなにたくさん活躍するふたりにちょっと困惑……(汗。

いや、ニコとレイヴンが仲良くしているのも、そのシーンが幸せに笑えるのもとっても嬉しいのですが、こんなに堂々と何度も出張ってくれなくても、もっとひそかに活躍してくれればそれでいいんですがという気持ちです。微妙でわがままな読み手心理というものでしょうか。そんなに大規模にファンが増えなくてもいいのよーとか(苦笑。

というわけでお話は笑えて楽しかったですが、一方でファンタジー要素がどんどん背景にひいていくようなのが残念な巻でもありました。

レーベル的に、恋愛要素のほうが大きい方が正解で、読み手にも受けるんだとは思うのですが、主人公たちが戦っている意味までが間延びしているうちにうすれて緊張感が無くなると、ファンタジー読みのワタシ的にはだんだん興味が薄れていくのですよね……。

いまはまだかろうじて留まっている、おもにニコとレイヴンのおかげでという段階なので、今後あんまり引き延ばさずに、緊張感を持続してシリーズを終えてもらえたらと思います。極個人的に。

20090810の購入

台風による大雨がふりつづき図書館本返却ができるかどうかで頭がいっぱいだったから、あやうく発売日を忘れてしまうところでした。

のだめカンタービレ #22 (講談社コミックスキス)
4063407497


本屋の前を通りかかって「はて、なにかがあったような?」と思い出したので、売り場に行って発見。
無事ゲットしてきました。

台風のおかげで毎日蒸し暑く、体調的に下降線の私は日常生活がぐだぐだになっています。
もともときびきび生きている方じゃないのに、これじゃあまだスライムのほうが元気なんではと、早朝の地震でたたき起こされた頭はぼんやりと考えるのでした……。

『恋のドレスと追憶の糸 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』

恋のドレスと追憶の糸―ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (コバルト文庫)
青木 祐子
4086013185



[Amazon]


読了。

ヴィクトリア朝のイングランドを舞台に、恋のドレスをつくる仕立屋の娘と公爵家の跡取り息子の恋愛、娘の背後に隠された陰謀を描く、ミステリ風ロマンス。シリーズ十七冊目。

もう十七冊目なんですねー。
と感慨に浸っているのは、ゼロだったクリスの恋の経験値がどんどん上がっていることと関係があるかもしれません。思えば遠くに来たものだ……。

ここ数巻はクリスとシャーロックの愛の語らい(笑)が主でしたが、この巻の前半では女伯爵イヴリンの恋人でかつてはシャーロックの馬丁も勤めていたユベール視点での、トレシヴィク伯爵家過去編が描かれます。

そうと知らずに読んでいて、時系列があれ? となりました。いやでも、すごく興味深かったです。イヴリンの絶対語らないだろうユベールとのなれそめもそうですが、悲劇がどのようにして起きたのか。その背後に見え隠れする闇のドレス。ちょっとしたサスペンス展開でした。

そうか。このシリーズの根幹にこの事件があったのか……。いまさら気づいた私です。

いささか、いやかなり暗くて重くて、いままでとはかなりトーンが違いましたが、すごく面白かった~。すこしダフネ・デュ・モーリアみたいだったかも。

なのでそこにシャーロック君がいきなり出てきてちょっと興を削いだかも。
しかも自分で事態をコントロールできると思いこんでいる、はたからみれば迷惑なだけの自負心がさらに鼻持ちならなかったかも。

結局、シャーロックは他人も自分の都合で動かせる、動くはずだ、動かないはずがないとおもっている根っからの貴族なんですね。

そんなシャーロックのことをいろいろと慮って、彼だけじゃなくその他の人たちの立場にも深く共感して、すべてのひとをしあわせにしたいと願うクリスも、やっぱり理想主義なのかも知れませんが。

そんなふたりを待ち受けていた衝撃的な展開に、ちょっと言葉を失いました。


 クリスの心は、熱くなっていた。これまでにないほどに、激しい感情がうずまいている。(p.252)



あのクリスが、自分の巣穴にこもって縫い縫いしていれば幸せだった、小さくて臆病なクリスが、こんな状況に陥るなんて!

クリスの母親、リンダ・パレスやその愛人やその妻等々、これまで背後でうごめいていただけの人びとが次第に姿をあらわし始めて、物語も佳境に入ってきたのだなーと、それがまた感慨深かったです。

ああ、続きがはやく読みたい。文章に断定口調が多くなっているのが気になりますが、この先どうなるのかがとっても知りたいです。

余談。
パメラちゃんはやっぱり男前でした!

『キプリング短篇集』

キプリング短篇集 (岩波文庫)
ラドヤード・キプリング
4003222024



[Amazon]


読了。

十九世紀後半から二十世紀前半にかけて活躍したイギリス作家キプリングの、日本独自に編まれた短篇集。九編収録。

『プークが丘の妖精パック』がとても好きな作家、キプリングの短篇集。
キプリングは小説と詩を並行して書いた作家で、短編の数は三百を超えるそうです。
そのなかから代表的な作品を時代的にまんべんなく、この本の刊行時点で未訳であった物を選んで編集されたのがこの本。

インドで生まれ、イギリスで教育を受け、インドで新聞記者として独り立ちした後に世界各地をまわって最後にはイングランドのサセックスに終の棲家を築いたキプリング。

作品はその人生と密接に絡み合っていますが、虚実は明確には判別不能な作家でもあるそうな。

そんなキプリング短篇集の収録作品は以下の通り。


領分を越えて
モロウビー・ジュークスの不思議な旅
めえー、めえー、黒い羊さん
交通の妨害者
橋を造る者たち
ブラッシュウッド・ボーイ
ミセス・バサースト
メアリ・ポストゲイト
損なわれた青春

解説



『プークが丘』が深みのあるあたたかさとどことない明るさを備えていたのとは対照的に、ここに収録された作品は後味が苦いものが多いです。おそらく前者は明確に児童向けとして書かれたからなんだろう。キプリングの本質は、こちらのほうなのだろうなあと思います。

恐怖、不安、恨み、嫌悪などが、夢、それも悪夢とともにけっこうそこかしこにあらわれて、ハッピーエンドになってもどこか不穏な雰囲気が残る気がする。
かなり技巧が凝らされているのと、テーマをむき出しにしない、むしろさまざまなディテールの中に隠してしまっているようなところは、文学だなあという気がします。熱さとか驚きとか、そういう感情ではないところで受け手には何かが伝わればいい、伝わらなくてもいいというような、妙な感じを受けました。

うーん、欧米物の短編はあんまり読んでないんですが、はっきりと落ちが付くのってあんまりないような。キプリングはまさに付かないタイプで、私は落ちが付いて欲しいタイプなのか、はぐらかされたような気分になることがしばしばでした。

キプリングは一時期本国でも読まれなくなっていたそうですが、その理由はよくわかる。キプリングはイングランドの保守派で、人種差別ととられかねない言葉をたくさん口にしていた模様です。

たしかに今の私が読んでいてけっこう眉をひそめる文章や台詞がありました。

しかし、キプリングの時代はヴィクトリア朝から後の、いま日本で盛んにもてはやされ書かれている時代そのものであったことを考えると、かれは一般的なイングランド人の価値観を代表していたのだろうと想像はできます。

キプリングはインド在住イングランド人の子弟でイングランドでは差別の対象でもあったこと、さらに作品中にも扱われているキプリング自身の生い立ちなども考え合わせると、無理もないのかなと。

キプリングの少年時代を題材にしたとおもわれる短編は、これはいまなら児童虐待です、というようなひどいエピソードがてんこ盛りです。
ですけど、同時代の児童書ってけっこうそういうのがありますよねー、『小公女』とか。ハリー・ポッターもその系譜なのかな。

そういうトラウマ体験がキプリングの人格形成に多大な影響をもたらしていて、今はその歪み関連でまた読まれるようになったらしい、というのを解説で読むと、作家にとっては忘れられていくのとどっちが幸せなのかなと思ってしまったりしました。

なんだかうだうだと書いてしまいましたが、読んでいて非常に気になる作品集だったということはたしか。

なかで「橋を造る者たち」は橋を作る人たちの困難の物語かと思ったらおもいがけないファンタジー展開で、これが一番後味が良かった気がします。

『タザリア王国物語2 黒狼の騎士』

黒狼の騎士―タザリア王国物語〈2〉 (電撃文庫)
スズキ ヒサシ
4840236070


[Amazon]


読了。

皇子の影武者とした育てられた少年の出会う苛酷な状況とそこで選び取る波乱の運命。地に足の付いた筆致で描く、疾走する異世界冒険ロマン。シリーズ第二作。

男の子版「流血女神伝」か、いやそこまで深くはないか、みたいな雰囲気になってきた波瀾万丈のストーリー。
展開が大変に速いですが、一巻のじっくりとした書き込みが土壌となって、それも納得のできるお話となっています。

主人公のジクリットは貧民の出ながらタザリア王国皇子とうりたつという容姿を買われ、王宮で皇子とともに教育を受けさせられることに。
そこで皇女の執拗ないじめを受けながらも次第に周囲の信頼を勝ち取っていく……というのが一巻のあらすじでした。そして衝撃の展開が。

二巻はその衝撃の出来事を受けてのお話なのであらすじを書くと必然的に一巻のネタをバラしてしまうことになります……どうしよう。

と、とにかくジグリットはさらに困難な生活を送ることになり、身の安全を図るためにさらにさまざまなことに挑戦していかなければならなくなったのでした。

今回のタイトルは、影を背負った美形騎士ファン・ダルタの不幸な過去とジグリットとの友情から来ているものと思われます。

このエピソード、ちょっと友情を超えてある方向にやばいんじゃ……(苦笑。

ま、それはともかく、シリアスハードでユーモア感覚もちとぎこちないながら、苛酷な中にあたたかみある瞬間瞬間が描かれていくことで黒いだけの話に終わらず、まさに手に汗握る陰謀冒険モノ、という雰囲気です。

ところどころ文章が不安定だし、設定的に疑問符が付くところもなきにしもあらずですが、物語の放つ力の前には不問に付してもいいかと思えるくらいに面白いです。

タザリア王国の王の息子が皇子なのはどうしてって、やっぱり思ってしまうんだけれども(苦笑。

本の内容とは関係ありませんが、個人的には図書館で借りてる本の口絵がどうやら一巻も二巻も切り取られているらしい、ということに失望を覚えています。

たぶん、イラストが魅力的だったんだろうなーとは思うんだけど、だからって公共物を損なう言い訳にはなりませんよー。

三巻の口絵は拝みたいなあ……と思いつつ、つづきを予約いたします。

炎虐の皇女―タザリア王国物語〈3〉 (電撃文庫)
4840241481

『天山の巫女ソニン 5 大地の翼』

天山の巫女ソニン(5) 大地の翼
菅野 雪虫
4062155206


[Amazon]


読了。

朝鮮半島風異世界を舞台に、巫女として落ちこぼれた少女ソニンの見聞のひろがりと成長を国家間の駆け引きの中で描く、戦乱ファンタジー。完結編。

最初のうちはたんなる少女の成長ものかと思っていたのですが、最終的には人びとの部分や国を突き動かすものの正体までを少女の視点から描いていく、視野の広い物語となりました。

前巻までに顔を揃えた三国の王子・王女たちは、巨山王の思惑に人びとの心が戦争へと傾いていく情勢でなんとか踏みとどまろうと努力し、最小限の被害で食い止めようと力を尽くします。

急激な流れの中で自分を見失わず、流されまいとし、かつ抗おうとすることの大変さと、その行為の尊さが印象に残ります。

このあたり、かつての、そして現在のこの国の雰囲気に似ている部分があり、背筋が寒くなりました。

ソニンの義兄イルギの語る「七割の法則」も堪えた。

七割の人はその場の雰囲気に流される。自分の考えをしっかりともっていないからという話です。

自分がしなくてもだれかがなんとかしてくれる、みんながするから自分も同じことをする、という理由で目先の利益にふりまわされていると、とんでもない状況をひきよせてしまうのかもしれない……ということをあらためて考えさせられました。

物語の大きさに比して本自体はこれまでと同じくらいのページ数。すこし描き足りないかなと思われるところもありましたが、この枚数にこれだけの展開を収めたということには、子供向けという点で意味があると思います。ディテールに細かさを求めるとそこに意識がむかってしまい、大きな流れを見失ってしまう畏れがあると思うので。

とても優しく穏やかな文章で、わかりやすく、なおかつ実感のできるリアリティーをもち、シビアであるけれども理想も忘れない、希望あるエンディングでほっとしました。

ソニンの物語としても、巫女として落ちこぼれたという発端が最後まで効果的に生きていて、うつくしいまとまり方をしたと思います。

全体的には子供むけですが、大人が読んでもいろいろと楽しめるシリーズでした。

欲を言うならば、どこかにラブがあればなーと(笑。
ちょっとした淡いほのめかしはありましたし、深読みも懸命に努力すればできないこともない気はしますが、全体的にほんわりのどかに清かったなあという読後感です。

私の印象にもっとも強く残った巨山のイェラ姫など、どんな伴侶を持つのかものすごく疑問と期待が募るのですが、いまのところ飼い犬ムサ以外の相棒が見当たらない(苦笑。

いや、彼女はそれでいいのです、ということにして余韻を楽しみたいと思います。

天山の巫女ソニン 1 金の燕
4062134233

『高校球児ザワさん 2』

高校球児 ザワさん 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
三島 衛里子
4091826695



借りて読了。

高校野球部の一年生女子部員・都澤理紗を、彼女の周囲にいる人物視点で描く、ビミョーなバランス感覚の短編連作コミック。シリーズ第二巻。

相変わらず野球一直線のザワさんと、そのゆかいな仲間たち、みたいな雰囲気になってきました、二巻目です。

巻頭の人物紹介が無駄に力はいりまくりで大笑いです。これだけ見たらどんな熱血野球マンガかと誤解しそう(苦笑。大丈夫です、中身は一巻とおんなじ野球部の日常ですから。野球そのものもあんまりしてませんから。

今回はザワさん以外の野球部員にもちょっとした個性があらわれてきて楽しかった。それが人物紹介に反映されているんですね。

部員たちから「ザワさん」「ザワ」と呼ばれて普段は野球部員以外の何物でもない彼女が、ふと浮きあがって気になる存在になる一瞬。

それを下品にならないぎりぎりのラインで描いているあたりが、この作品の秀逸なところだなあと思います。

巻末に収録されている連載スタート前の読み切り作品では、そのギリギリラインがまだ定まっていなかったんですねー。ラインを引き上げてくれてよかったー。

というわけで、とっても面白かった! です。

『草祭』

草祭
恒川 光太郎
4103130415


[Amazon]


読了。

日本のどこかにある“美奥”という集落にかかわる、どこか懐かしく恐ろしくかわいた切なさを含んだ連作短編集。

近世くらいから変化していないような風景と昔風の言い伝えを持つ、不思議な場所“美奥”。
“美奥”に惹かれたり捕らわれたり、不思議で怖いものと出会ったりした人びとそれぞれの人生の大きなワンシーンの記憶のような物語集でした。

収録作品は以下の通り。


けものはら
屋根猩猩
くさのゆめがたり
天化の宿
朝の朧町



この作家さん、初めの頃は怖ろしさと悪意と意表を衝く展開が強烈に印象に残ったものですが、この作品集は懐かしさとうっすらとした哀切が読後に残りました。

全体的に描写に密度が増してきたのも嬉しいです。とくに自然描写が増えたような。「樹の皮の甘いにおい」みたいな言葉遣いにくらっときたり。好きなんですよねー、こういう、五感に訴える描写が。おかげで昔めいた異界の光景がより鮮やかになりました。

展開はやっぱりえっと思うようなものばかりなんですが、それが物語の中で突出してこなくて、物語世界に深く馴染んでお話ぜんたいとして味わえるような作品に仕上がってます。

いままでは、どこかここではないところを舞台にしていても、それがあるということが解るだけでしたが、この本では“美奥”の起源もわかったりして、それがまた日本昔話ばりの怪奇譚だったりして、いやー、たいへんに面白かったです。

語り手の思い出話みたいな雰囲気の話もおもしろいけど、この「くさのゆめがたり」は別格に好きだと思いました。

それから、不思議が二重に組み込まれていて、現実的な悪意の話が朧の中にうすれていくような最後の話は、どこか居心地の悪いような、それでいてこれでいいのだみたいな雰囲気で、かなり独特な読後感でした。

読みながら、二作目の長編の要素があちこちにあるような気がしました。ただの私の印象ですが。

いままで読んだ恒川作品で一番この本が好きです。
いきおい、他のも読みたい! という気分になったわけですが、この本が最新作でした。

次作を首を長くしてお待ちしています。

『蟲師』とかがお好きで人の黒い部分が露骨に出てきても大丈夫、な方はお気に召すのではないでしょうかw

『ピアノの森 6』

ピアノの森―The perfect world of KAI (6) (モーニングKC (1438))
一色 まこと
4063724387



借りて読了。

森にうち捨てられたピアノをおもちゃに育った天才少年、一ノ瀬海の成長と音楽とのかかわりとを描く、音楽マンガ。シリーズ第六巻。

阿字野先生との取引で出たコンクールで予選落ちしながらも、自分の音楽に目覚めた海。
海と隔たりに愕然としつつ、「一番になる」ことを海と誓う雨宮くん。
海との出会いによって自分のピアノを追求しようと決意する、“便所姫”丸山誉子。

それぞれのピアノへの思いが印象的な、人間ドラマです。

このマンガは、音楽の世界の出来事と生々しい現実のギャップが激しくて、それがものすごいコントラストになってるなーと感じます。

それは海の音楽的才能が、どれだけ社会に認められるのが困難であるか、を象徴しているような気がする。両者のせめぎ合いが激しければ激しいほど、ドラマが盛りあがるのかもーと思う。

森のピアノとの決別は海にどんな心境をもたらすのか、不安と期待を抱きつつ、つづきを読みたいと思います。