『梁塵秘抄』

梁塵秘抄 (ちくま学芸文庫)
西郷 信綱
4480088814


[Amazon]


読了。


平安朝末期に後白河院によって編まれた今様集『梁塵秘抄』を、日本古代文学の碩学が言葉を中心に読み解いていく。
1976年『日本詩人選 22』として刊行されたものの文庫化。

『古代人と死』の著者による『梁塵秘抄』の歌解釈です。

『梁塵秘抄』は全二十巻であったものが忘れ去られて、近代になってごく一部が発見されるまではほとんど伝説と化していたものであるらしいです。

例によって読み手の古文読解能力が非常に低レベルなため、よく解った、目から鱗が落ちたというところまでたどり着いてない感がありありとした読後感でしたが、興味深い本であったなーとは思います。

なにが興味深いかというと、読み手の境遇を推理してその精神世界をのぞき見るあたりでしょうか。

今様は、現代で言うならば流行歌。
貴族のたしなむ和歌や雅楽とは違う言葉優先のうたであり、その担い手は非人階級であった遊女(あそび)や博徒、鵜飼などの、階級を持たないからこそ底辺にも上流にも通じることのできたひとびとで、その生は時代の色を濃くうつし、であるからこそかれらの生みだした今様もまた、というわけです。

その今様に入れ込んで歌い耽っていたという後白河院って、なんだかスゴイ御方のようです。平安末期を取り扱った本には必ずといっていいほど登場なさる、超重要人物なのですが、たいていは脇役や黒幕扱いなのでこれまで私はあんまり意識してこなかったのですよね。

でも、最近はすごく気になる御方です。

荻原規子の『風神秘抄』もこの本を読んでから読むとまた印象が変わるかもなーと思いました。

以下に目次を記しておきます。


 第一部 梁塵秘抄の歌
  一 我を頼めて来ぬ男
  二 遊びをせんとや生まれけむ
  三 遊女(あそび)の好むもの
  四 楠葉(くすは)の御牧の土器作り
  五 我が子は十余になりぬらん
  六 我が子は二十になりぬらん
  七 舞へ舞へ蝸牛(かたつぶり)
  八 いざれ独楽(こまつぶり)
  九 茨小木(うばらこぎ)の下にこそ
  十 頭(かうべ)に遊ぶは頭虱(かしらじらみ)
 十一 鵜飼はいとをしや
 十二 択食魚(つはりな)に牡蠣もがな
 十三 吹く風に消息をだに
 十四 熊野へ参らむと思へども
 十五 仏は常にいませども
 一六 拾遺梁塵秘抄歌

 第二部 梁塵秘抄覚え書
  一 梁塵秘抄における言葉と音楽
  二 遊女、傀儡子、後白河院

 付 和泉式部と敬愛の祭
   神楽の夜――「早歌」について――

 あとがき

 梁塵秘抄歌首句索引

 解説 『梁塵秘抄』の発想と言葉 鈴木日出男




その他に目をひいたのは、今様は言葉をうたうものだったということ。
古代において歌われてきたうたはやはり言葉主役だったのですが、平安時代には和歌は書かれるものとなり、さらに中国からはいってきた雅楽の影響を受けて楽は曲優先のものへと変化していったという考えです。

ここを読んでいて思い出したのは、先日ネットで見た現代ヨーロッパの吟遊詩人の動画。

とうとうと語り続けた後で竪琴は添え物のように演奏されていただけだった。

吟遊詩人というと歌っているイメージがあったのでちょっと肩すかしを食らった気分だったのですが、あれは言葉を、ものがたりをとどける語り部本来の姿だったのかなあと思いいたった次第です。

……どうやら妄想を生み出すためにはかなり有益な本であったもようです(苦笑。

『銃姫 9 ~It is Not to be "Now"~』

銃姫〈9〉It is Not to be “Now” (MF文庫J)
高殿 円
4840121435



[Amazon]


読了。


ヨーロッパ近代風の異世界を舞台に、銃で魔法を撃つ魔銃士の少年とかれを取りまく大人たちの愛と友情と陰謀の戦乱ファンタジー。シリーズ第九巻。

ものすごく久しぶりの『銃姫』です。八巻を読んだのは二年前の十月でした。それくらい間隔が空くともう私の記憶的には物語がほぼ消えかけてます。これまで主人公はなにをしていたんだっけ……ハハハとかわいた笑いを浮かべつつ読みました。

おお、思い出しましたよ。
なるほど、セドリックは英雄チャンドラース率いる灰海の流星軍の元に身を寄せているところでした。
姉エルウィングに必要なある石のために。
そのためにガリアンルードの王女アンブローシアとは離ればなれになっていた。
そして流星軍とスラファト帝国との決戦が開始されたところだった。

あ、これ八巻までのネタバレですね。スミマセン。

この巻ではまず、スラファト軍のアガート・クレイサスの過去から語られます。そのなかで竜王アスコリド=ミトの謎があきらかに。

そして現在へと時を移し、スラファト軍との激戦を戦う流星軍の一方で、スラファトと帝国の間にはとある密約が交わされており。

収束していく伏線によって、感情的にも状況的にも身動きの取れない状況があきらかになってしまう。

命令に逆らうことのできない帝国の軍人たち。増していく緊迫感、焦燥感。一族の意志として護ってきたものを護りきれないと知ったときの絶望感。そしてすべてを背負って人生をまっとうしようとする指揮官。

様々な場面で大切なものたちとの時間が失われると知ったとき。

「それは今ではなかったはずなのに」



とり残される者たちが口にする言葉が心に響きます。

うーん。クライマックスですねー……。

と思うのですが、どこか距離感があるのは何故でしょう。
やはり時間を置きすぎたからかなー(汗。

私は、これまでの“なにかが起こる”予感めいたものがただよう状況のほうが、“起きてしまった”状況よりも楽しかったみたいです。

それと、ちょっと気になる文章が散見されたのも醒める原因だったかも。

今回、魔銃士の放つ魔法があんまり活躍しなかったのも残念でした。
戦争よりも戦闘のほうが読むのは楽しいのかも知れませんな。

ともあれ、次巻で完結とのことなので、それはできるだけはやめに読みたいと思っております。

……まだ出てませんよね?

『惑星CB-8越冬隊 航空宇宙軍史』

惑星CB-8越冬隊 航空宇宙軍史シリーズ (ハヤカワ文庫JA 165)
谷 甲州
B000J7HN9U



借りて読了。

氷に閉ざされた惑星で生きのびるために観測隊員たちがむかう苛酷な旅路を、ハードなSF設定の元に乾いた文章で描く、未来ハードSF冒険小説。「航空宇宙軍」シリーズの開幕編。


独特の環境を持つ氷の惑星CB-8。近日点の通過を迎えた惑星は、大規模な地殻変動に襲われた。汎銀河資源開発公社の人工太陽による開発計画の先鞭として送り込まれた観測隊員であるパルバティたちは、混乱のなかで暴走を始めた人工太陽を停止させるべく、決死の強行軍を科される。極寒の氷の平原をいくかれらは任務を遂行することができるのか。




 惑星CB-8の独特な設定によって生み出された凍てついた世界。そこでくり広げられる決死のサバイバル。

 この作品はハードSFの舞台をもってあらわされた山岳冒険小説なのではと思いました。

 極寒の世界における氷河やオープンクラックやなにやらの厳しい環境と、極限状況での登攀や休憩などのサバイバル術の描写がたいへんに細やかにリアル。そしてひとつの決断に命がかかるシビアな状況。つぎつぎに命を落としていく仲間たち。

 ハードで醒めた文章が突き放したようにえがく、そのかわいた雰囲気がたまらなく好きです。

 そうだ、私の好きな冒険小説はこういうのだった。

 と深く納得して読み終えました。
 面白かったー。

 とはいえ、「航空宇宙軍史」シリーズとしてはあれ? と思うことがたびたび。

 汎銀河人てなんだっけ。地球人はどうしてこんな状況になってしまったの。というより航空宇宙軍そのものがでてこないし。あれあれあれ?

 「航空宇宙軍史」シリーズ物のほかの作品は読破しているはずなのに。しかし自分の記憶に自信の持てない私がたんに忘れているだけかもしれない。

 ものすごく気になったのでネットでちょっくら探してみました。
 すると、シリーズ最終巻『終わりなき索敵』でその意味がわかることになっていたことがわかりました。

 そういえば私は『終わりなき索敵』を読んだときなんかよく理解できなかったんだよなーという記憶が甦ってきた。そうか、その理由はこの『惑星CB-8越冬隊』を読んでいなかったからなんだ……。

 こんなに重要なことに読後十年以上経ってから気づくなんてうかつというにもほどがあります。

 シリーズ物の冒頭はちゃんと読め、という教訓を得た読書でした。

 でもたしか図書館にこれだけなかったのですよ。だから読めなかったのですよ。けしてめんどくさいとかうっかりしていたとかではないのですよ……。

 ところで「航空宇宙軍史」シリーズはとっても面白いですよ。
 といまさらですがお薦め。
 以前なにかの対談で『プラネテス』の作者のひとが影響を受けたと語っているのを読んだことがあります。

 あ、『プラネテス』のひとって『ヴィンランド・サガ』のひとだった。

 でも絶版なのかしら……(汗。

『ヴィンランド・サガ 8』

ヴィンランド・サガ 8 (アフタヌーンKC)
幸村 誠
4063145816



読了。


十一世紀の北西欧を舞台にアイスランド生まれの少年が生き抜いていく姿を描く、ハードで劇的な歴史活劇コミック、シリーズ第八巻。

物語の冒頭からデーンの武将アシェラッドを父親の敵として生きてきたトルフィンのお話が、ひとつの転換点を迎えることになりました。

デーン人のイングランド征服の次第が謀略とともに殺伐と描かれてきたストーリーは、クライマックスもど迫力。
緊迫感につつまれたスレスレのやりとりがもう最高にスリリングで、ギャー、怖いよー! だれかこの人たちを止めてー! と心の中で叫びながらでもやっぱりお話は進んでいくんだ無情だぜ……な阿鼻叫喚の展開でした。

シビレタ……。
シビレタよ、私!

(たしか)前巻で目覚めたクヌート王子も立派でしたが、この巻のヒーローはなんてったってアシェラッドだよなー。というか、登場時からアシェラッドを中心にストーリーはまわってたんだなといまさらながらに思いました。

これからトルフィンは、物語はどうなるのかなー。
予想外の光景で始まった新章ではどんな事件が待っているのでしょうか。
当時のユトランドの歴史を調べたらなにか予想ができるかもと思いましたが、知らずに読んだほうがきっと面白いですよね。
と決めつけて予習はしません。

ところで、この本を買うにあたり私はいつものようにタイトルだけ見てよく確かめもせずレジに持ち込み、カバーをつけてもらって帰宅したのですが、なんと、付された帯にとんでもないネタバレ事項が表記されていたということで、おお、間一髪で罠を逃れたと感慨に浸りました。

もっとはっきりした視界をお持ちで気の利く方たちがつぎつぎに犠牲になっていたのを知り、ぼんやりうっかりな私にもたまにはよいことがあるのねと思った。

というわけであえて読了後にカバーをとって帯を眺めてみたわけですが。

これは酷い。
そうとうに酷いです。
核心ばらしてますよ、奥さん!

これは見たらがっかりします。
お怒りの方々の失望、お察しいたします。

というわけなので、これから購入される方はくれぐれも帯を注視しないように!

だれが作ったんだ、こんな帯。

『ピアノの森 10』

ピアノの森―The perfect world of KAI (10) (モーニングKC (1449))
一色 まこと
4063724492



借りて読了。

社会の底辺に生まれたピアノの天才児、一ノ瀬海とかれを取りまく人びとを描く音楽マンガ。シリーズ第十巻。

海、高校生編の二冊目。
視点は雨宮君からより海の日常に近くなり、そのフツーじゃない生活が日常として描かれてます。

海もお年頃になって色恋がらみのエピソードもありますが、海の才能のために大きな影響を被る人びとが続出。

まるで海は狂言回しで、話はむしろ海に振りまわされる人びとがメインのようにも思えたり。

とくに女装した海=マリアのおっかけオジサン、じつは音楽界で幅をきかせる親を持つ俺様評論家だったのね、はこれから執拗にマリア=海を追いかけそうでスリリングです。

この佐賀センセイ、阿字野先生に心酔して阿字野もどきをきどったスタイルしてるのが笑える……まるで千秋もどきの影の薄い指揮科学生君みたい(ごめん、名前忘れたよ)。

はたして佐賀君はマリアの正体を突き止めることができるのか。

そして丸山誉子ちゃんに教えを買って出た司馬センセイの思惑は。

海よりもその他の人たちの動向が気になって仕方ありません。
ので、つづきも借ります。

『亡国のイージス 上』

亡国のイージス 上 講談社文庫
福井 晴敏
4062734931



[Amazon]


借りて読了。

現代日本(執筆時)を舞台に、国家間の謀略に巻き込まれて家族を失い復讐を誓った男たちと、かれらのひきおこす厄災から国民を護ろうとする男たちの陰謀と暗闘を、海上自衛隊の護衛艦を主な舞台として描く、スケールの大きな海洋冒険小説の上巻。

〈辺野古ディストラクション〉と呼ばれる在日米軍基地で起きた惨事によって明るみに出た生物化学兵器。その存在をめぐって国家間のかけひきが活発化し、自衛隊ではイージス艦の現場投入が開始された。その端緒として簡易的なイージスシステムを搭載した護衛艦《いそかぜ》が演習のための航海に出発する。艦長は不審な自動車事故により息子を失ったばかりの宮津二佐。かれを補佐する人員はすべて宮津の息のかかったものたちばかりだ。いっぽう、先任伍長として下士官を統率する仙石は、任務直前に妻から別れを告げられた。弱気になった仙石の目の前に、如月という若い部下が特異な存在感を持って認識され始めた。



〈辺野古ディストラクション〉というのは以前読んだ『Twelve Y.O.』で起きた事件です。
というわけで、先にそちらを読まされたわけですが、なるほど、読まないと「?」な感じで話が進むかも知れない。貸出元に配慮ありがとうございますと言っておきます。

物語の展開は前作とはちがい、丹念に登場人物の背景を描くところから始まります。

読んでいるとなるほどと思えるときがやってくるのですが、前振りが長いと感じる人もいるでしょう。じつは私もそのひとりでした。

主な舞台が護衛艦の艦内にしぼられてくると、ようやく始まるのかと期待が高まりますが、それからもしばらくは艦内に不穏な空気が蔓延していくようすが描かれていくので大量の謎と疑心暗鬼が満載です。

それに、作品全体の雰囲気が感情的に湿った感じで、ハイテク搭載の護衛艦の描写もどこか泥臭い。

日本の冒険小説ってこんな感じだったっけ……。
冒険小説を読まなくなって久しい私は、その湿り気に足がずぶずぶと沈んでいきそうな重苦しさにちょっと閉塞感を覚えました。

真正面からの人情話というのも、読まなくなって久しいからなー。

前作の薄っぺらさはきれいになくなって、これはこれでドラマとしてはよいと思うのですが……ほんとにドラマを見ているみたいな気がした。

というわけで、私はこの作品の登場人物の感情的な背景の描き方がちょっと苦手です。

たぶん、もっと醒めて乾いた感じの文章が好きだからなんだろうなー。
もしくはもっとエッジの効いた感じのシャープな文章。
あるいは華麗で切れ味の鋭い文章。

この作者さんの文章はオーソドックスをベースにして、全体的に湿った熱を帯びている、ような感じを受けました。

ストーリーはようやく本格的に動きだしたところでおわり。
下巻に続く、です。

すでに手元にあるのですみやかに読みたいと思います。

亡国のイージス 下 講談社文庫
406273494X

20090924の購入

家族から買い物指令が出たので、久々に駅前まで出ていきました。
そして当然本屋襲撃。

ヴィンランド・サガ 8 (アフタヌーンKC)
幸村 誠
4063145816


ゼロ (バーズコミックスデラックス)
藤田 貴美
4344817303


予定の本と予定外の本と二冊ゲット。

もう今月はあと一冊、とか宣言したのにまた破ってしまいました。
しかも、一度も読んだことのないマンガ家さんのマンガ。
眼があってしまったとしか言いようがないです。
平積みじゃなくて微妙に立てて置いてあったため、表紙がばーんと飛び込んできたのです。

その表紙がお見せできなくて哀しい。

ノンブルがないのでこれで完結なのかという思考がめぐり、つつつとレジへ……。

これで最後だぞ、自分と、戒めているところです。
そしていまになって、続き物だったらどうしようと動揺しているのだった。

「雨の日とビスケットの味は憂鬱」

早瀬千夏さん作「雨の日とビスケットの味は憂鬱」読了。

二十世紀初頭のイングランドを舞台に青年執事の悲喜こもごもを描く、時代物連作「ジョン・エリオットの日誌」シリーズの第二作。短編完結済み。

基本的に淡々として幾分辛口だけど、ほのぼのあたたかい読後感の残る人情話?
当時の風俗がたいへん細やかに描かれていてお勉強になります。

『オイレンシュピーゲル 肆 Wag The Dog』

オイレンシュピーゲル肆 Wag The Dog (角川スニーカー文庫)
冲方 丁 白亜 右月
4044729085



[Amazon]


借りて読了。

近未来のウィーン=国際都市ミリオポリスで機械化された少女たちが地獄の最前線で駆けめぐる、ハードでありながら繊細かつ哀切な、国際謀略アクションSF。シリーズ第四巻。

クールでタイトでクリアでブチ切れの文章で歯切れよく描かれるアクション。
スピーディーかつ目まぐるしく変化する、自在の展開。
説明たらしくなく行為で描かれる複雑な心理。
苛酷な状況で身もこころも切り刻まれて苦痛に血と涙を流しながらも前進する、無謀ともいうべき勇気と忍耐。

とにかく、面白かった。

物語のスケールはどんどんアップして、三人の投げ込まれる状況もどんどん悲惨になっていきますが、優れた判断能力を持つ頭を持った組織がひとつの目的に向かって結束し対処していく様や、ともにたたかうひとびとの信頼関係などなど、読みどころもまたどんどん熱いものになっていっている。

話の密度が半端じゃない。
これだけめまぐるしい展開にこれだけの心理的な側面を描いてスピード感を損なわず、なおかつアクションものとしてのレベルも高く、しかもヒーロー物として必要不可欠な敵方のユニークさでも度肝を抜くという、とんでもないお話。
とくに敵との戦闘は『マルドゥック・ヴェロシティ』並のグロテスクさです。これをこなしているのが女の子なのか、はー。

しかも、この話、並行展開している姉妹編「スプライトシュピーゲル」としっかりリンクしていて、なのに独立してもきちんと読めるんですよ。

すごーい(溜息。

少女たちの不屈のど根性もスバラシイですが、彼女たちを補佐しリードする大人たちも格好良くて、吹雪くんはあいかわらず可愛いし、バロウ神父はほぼ定位置を獲得し、焱の妖精たちの登場も印象深く、もうこれ以上なにを求めるつもりか、というくくらい凄かったです。

そして今回はいままでいまひとつ人となりがつかみきれなかった夕霧ちゃんが大活躍。
ただ能天気に歌をうたっていたわけじゃないということがあきらかになったり、あの人に近づくためにと恐怖を抑えて戦い続ける姿がとっても健気で仰天ものだったり、いろいろと度肝を抜いてくれました。

レベル3の特甲のもたらす致命的な精神的副作用への必死の抵抗も、この巻の読みどころですね。

鍵はおそらく自分を保つための拠り所を得ているか否か。それはひるがえっていうと自分が周りに対してひらかれているか否か、にも通ずる物なのではないかと思うのですが、それって大人になるための通過儀礼のようなものなのかも。

苛酷な環境で育ってきた特甲児童にとっては厳しすぎる通過儀礼ではないかと思うのですが、これはフィクションだからより象徴的によりわかりやすい形で描いて読み手の心にすこしでも響くように、と意図してのことだろうと思います。

話が逸れましたが、とにかく面白かったです。
涼月が偶然手にした端末による、スプライトシリーズの小隊長とのやりとりにどきどきしました。

ケルベルスが地上で血みどろになって奮闘しているあいだに、別のところでおなじように戦っているフォイエルスプライトたちがいるんだーと思って。

ラストでふふっと笑えるのもよかったw

シリーズはここでいったん小休止状態のようですが、つづきを熱烈にお待ちしています!

『シナン 下』

シナン 下 (2) (中公文庫 ゆ 4-6)
夢枕 獏
4122049350



[Amazon]

借りて読了。


一六世紀、中央集権化する西欧諸国と対峙する絶頂期のオスマントルコ帝国のスレイマン大帝のもとにあって、首席建築家として四百七十七もの建造物を手がけたシナンの生涯をかれの生きた時代と共にえがく、歴史小説の下巻。

まさに「スレイマン大帝とその時代に生きた建築家シナンの物語」という趣の小説でした。

シナンは時代の流れを全身に受けつづけるという幸運を得て、おのれの欲するまったき理想を追求しつづけることができた果報者だなーと思いました。

かれの幸運の大きなひとつはスレイマン大帝の時代に生まれて、その恩恵を十分に受けられる立場に居合わせたこと。
スレイマン大帝なくばシナンの存在もなく、だからこそ、この物語のほとんどはスレイマン大帝の治世における様々な出来事に費やされていきます。そしてその出来事はシナンにも大きな影響を与えて、かれはスレイマンと共に時代を生き、建築家としてスレイマンの偉大さを表現する存在にもなったのだと思います。

スレイマン大帝もまた、そのことに自覚的だったことが、ここには描かれています。
スレイマンの成した数々の偉業は光り輝いていましたが、為政者としての孤独と闇はそれだけ深かったのだということが心にしみいりました。
スレイマン大帝は自分の生きた証を求めていたのでしょうか。

シナンは五十を超えてから頭角を現し、あっというまに首席建築家の地位を得ますが、それまでのシナンの歳月はスレイマンの治世の空気をたっぷりとすいこんで、時代の技術を身につけるために費やされていたのかなーと思いました。

シナンは地中海文明に遅れて参加したトルコ人の、ようやく咲かせた花であり、最大に実った果実だったのだなーとしみじみするお話だった。

途中、あまりにもシナンが傍観者のまま話の中心にからんでこないので、いったいどういう話なんだと思ったりもしましたが、なるほど、シナンは時代そのものを表現するものとして最後に現れる人物なんですねー。

たとえていうなら、シナンは話の額縁。
ヨーロッパ列強とのせめぎ合いを圧倒的な力で押し返していたスレイマン大帝のオスマントルコの隆盛時を描いた一幅の絵を、その最高峰の技術と美的感覚によってふちどるための、まとめ役だったのかなーと思いました。

建築家シナンの波瀾万丈の生涯を期待すると当てが外れますが、それなりに読み応えのある小説だったという印象も残りました。

とここで私信。
残念ながらキリスト教徒の地下都市の構造に関する話はまったく出てきませんでした。
そのかわり、シナンが計画都市設計の先駆者であったことが書かれてました。
ジャーミーを中心にして、ハンマームや神学校、孤児院、隊商宿、病院、などなどで構成され、ワクフによって運営される、キュリィエと呼ばれる複合施設はシナンが発案者で、今もトルコには生き残っている物があるとか。

面白いなあ、と思いました。

シナン〈上〉 (中公文庫)
4122049342

「サヌザと共に ~草原の道~」

冬木洋子さん作「サヌザと共に ~草原の道~」読了。

異世界ファンタジー短編、完結済み。
砂鳥に乗って草原を旅する楽人の出会う不思議の話。

砂鳥に乗りたい。
砂鳥ラヴ!

『オイレンシュピーゲル 参 Blue Murder』

オイレンシュピーゲル 参 Blue Murder (3) (角川スニーカー文庫 200-3)
冲方 丁 白亜 右月
4044729050



[Amazon]


借りて読了。

近未来のウィーン=国際都市ミリオポリスで警察組織に所属する機械化された少女たちの活躍を、シャープにクールにヴィヴィッドにえがく、SF陰謀アクション小説。シリーズ第三巻。

面白かったー!

黒犬、涼月。
赤犬、陽炎。
白犬、夕霧。

それぞれの個性とそれぞれの過去を背負って事件の最前線に突撃する三人の特甲児童たち=ケルベルス。
華やかで鋭い切れ味たっぷりのアクションと、深い傷のもたらす影のコントラストが印象的な小説です。

三巻では三者三様のエピソードをつなげてひとつの事件が構成されています。

涼月と、彼女を恋い慕う激烈な運動音痴の接続官吹雪少年の、超にぶい恋愛話。
陽炎の、初出撃の消された記録と消えた記憶に関する探索と、それによって引きおこされた超派手な撃ちあいアクション話。
夕霧と、公演でヴァイオリンを奏でる少年との、儚くも哀しい交流と、その背後で画策されていたプリンチップの陰謀話。

どの話も読み応えがありましたが、さまざまな要素が最後にひとつの結末へとなだれ込んでいくさまがスバラシイと思いました。

軸となるのは、第弐巻で涼月が実現してしまったレベル3の特甲と、三人の初出撃になにが起きたのかという謎。

この謎には『スプライトシュピーゲル』の特甲児童も関わっていて、スプライトの重要な脇役ふたりもすこしだけですが登場します。

こんなに賑やかでこんなに派手でこんなに明るくて悪ふざけばかりなのに、どうしてこんなに哀しいんだろう、この話は。

随所に描かれる人と人とのぬくもりある交流に救われます。
涼月を純真におもっている健気な吹雪くんなんて、かわいくてなりませんw
陽炎の片想い相手の中隊長さんは、ひたすら渋くてカッコイイ。

陽炎が目の敵にしていたモリィ捜査官だって、じつは……だったし。

ただひとつ不安なのは、自身が天然電波ちゃんな夕霧の、皆を明るく照らすが故の深い闇を本当に救ってくれるのはだれなのか、てことかな。

とにかく先を読みたい!
と叫んだところで、すでに借りてきているので続きを読みます!


「なーんか……世界とか救いてえ――……」




オイレンシュピーゲル肆 Wag The Dog (角川スニーカー文庫)
冲方 丁 白亜 右月
4044729085

『ディミティおばさま現わる 優しい幽霊1』

ディミティおばさま現わる (ランダムハウス講談社文庫)
ナンシー・アサートン 鎌田 三平
4270102292



[Amazon]


読了。

現代アメリカとイギリスを舞台にしたコージーミステリ風味のハートフルファンタジー。


三十代になったロリの生活は負のスパイラルに突入していた。離婚ののち、生活に苦しんでいるうちに意地を張って遠ざけていた母親が死去したのだ。父親をはやくに亡くしたロリは楽天的な母親によって育てられてきた。幼い日に母親がしてくれたディミティおばさまのお話はいまも大切な宝物だ。だが、派遣社員の薄給でみすぼらしいアパートでみすぼらしい私服に身を包み、食べるものにもことかく日々に気持ちがくじけそうになるのも事実。そんなある日、ロリのもとに法律事務所から手紙が届いた。その手紙は架空であったはずのディミティおばさまの死を伝え、至急連絡を請う旨が書かれていた。



現実と幻想がほどよく交じりあったちょっと歳を食った乙女向けファンタジー(笑。
死去したというディミティおばさまの存在感の大きさがこのお話のポイントです。

初めは架空の存在と思われていたディミティおばさま。
実在が判明した途端に死去していることまで判明。
はたして、ディミティおばさまとはいかなる人物だったのでしょう。

ディミティおばさまはどうしてフィクションになったのか。
母親との関係は。
何故、死亡後にロリに連絡が取られるようになっていたのか。

ロリはおばさまの依頼とは別に母親から託された謎解きに乗り出すことになります。
様々な過去を発見する度にディミティおばさまの実像が見えていく過程はミステリそのもの。
ですが、そこに本人が介在するところがファンタジーなんですね。

私は、ディミティおばさまの実家であるイギリスの家屋敷の描写がとても好きだなーと思います。
古きよきものをそのまま残して現代的な便利さもかねそなえた、料理ベタにも優しいお屋敷です。
この素敵なところがロリの幼い日の夢の舞台。
そしてロリの再生の舞台なんですね。

この話は、現実に傷ついた女性にまだ夢を求める権利はあるのよーと応援しているような話だなあと思いました。
ディミティおばさま関係の話はとてもよかったとおもいます。

そしてワタシ的にはロリのロマンス部分はどうでもよかったというかいらない気もした。欧米ロマンス小説の匂いというのがあんまり好きじゃないんですよね……。
でも恋愛部分がないとちょっとマヌケな話になるかもしれないという気もするし、うーん。まあ、ビルはマッチョじゃないから許すことにします。

ところで、このお話、〈優しい幽霊〉というタイトルの一巻で、すでに二巻も出ている模様なのですが。
こんなにきれいにまとまってるのにシリーズにする意味があるのかという疑問がふつふつと。

『ピアノの森 9』

ピアノの森 (9) (モーニングKC (1446))
一色 まこと
4063724468


借りて読了。

劣悪な環境に育ったピアノの天才・一ノ瀬海の成長を描く、音楽マンガ。シリーズ第九作。

この巻ではスランプに陥っていた雨宮君がいかにしてふたたびピアノと向かいあうことになったか。
さらに海の冴ちゃんとの出会いが描かれています。

うーむ。
雨宮君のドラマにはいろいろと感慨深いものがありました。
かれと父親との関係とか、かれが持参した阿字野先生の在りし日の演奏ビデオとか……しみじみするようなエピソードでした。

しかし……。
いや海もお年頃だからそういう話になっても不思議ではないんだが、相手がまたなんというか、かなりやばくないですか。冴ちゃん自身はとってもいい子なんだけど彼女の背景がさー。

どこまで行っても海は社会の底辺で輝くひとならぬものなんだなあ……とか考えてしまったです。

ここで引き合いに出すのはなんですが、のだめが常軌を逸しているのもやはり神からの賜物を発揮するためなのかも知れないなー。

ちょっとトーンダウンしましたが、たぶんつづきも借ります。

『蜘蛛の巣 下』

蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫)
ピーター・トレメイン 甲斐 萬里江
4488218083



[Amazon]


読了。

七世紀半ばのアイルランドを舞台に、うらわかき女性法廷弁護士フィデルマが事件の謎解きに挑む時代ミステリシリーズ。邦訳第一作ですが、シリーズとしては五作目だそうです。

上巻を読んだのはいつだっけ……遠い目。

ちょっと長い間放置してましたが下巻を借りてきました、読みました。

もとは農場の相続権を争う裁判を担当したフィデルマが、かれらの首長殺害事件の法廷開催の依頼を受けて訪れたのは美しい山奥の隠れ里のようなところにある豪族の集落。
ところが、犯人と目されていた人物はヘレン・ケラーのような三重苦で罠にはめられたとしか思えない。真実を求めて捜査するうちにつぎつぎに起きる殺人事件。
小さな集落にからみもつれあった損得と感情の蜘蛛の巣。はたして、慈愛深きと讃えられていたはずの首長の真実の顔とはいかなるものであったのか。

上巻では延々と状況証拠が積み重ねられていましたが、下巻ではそれが一気に収束していきます。
展開はかなり速く、あらたな証拠がどんどん開示されていきます。おかげでフィデルマの態度がそれほど気になりませんでした。生まれ良き賢いエリート法廷弁護士の彼女、かなり高飛車なんですよね(苦笑。

ひたひたと押し寄せる謎? がメインだった上巻を読んでからかなり時間が経っているのでその雰囲気を味わうことができなかったためか、人間模様の描かれ方がなんだか唐突。説明するはずだった人たちがどんどん先に死んでいってしまってて、他人からの又聞きばかりが証拠というあたりも原因かしら。なんだかぼやけた感じの話だったなあ……という印象が残ってしまいました。

話の後味もなんだかなあ。

全体的に七世紀アイルランド先にありきで、ストーリーテリングがぎこちない気がしました。このへんは『イスタンブールの群狼』とちょっと似てるかも。でもイスタンブールのほうが雰囲気は濃厚だった気がする。七世紀アイルランドは社会の仕組み説明のほうが雰囲気よりも勝ってた気がする。なるほどーといろいろあらたな知識が増えてそのへんは楽しかったのですが、やはりお話自体が面白くないとなー。

しかし私の敗因は、ツンデレヒロインのフィデルマさんが好きになれなかったのが一番かも。
多分著者の好きなタイプなんだろうとか勝手に憶測したりしてました。

私としては年老いたドルイド、ガドラさんに探偵して欲しかったな、と強く思いました。そしたらフィデルマ・シリーズじゃ無くなっちゃうけどね。そういう私はもちろん修道士カドフェルが大好きです。

ところで、五巻目からというシリーズの翻訳順にはべつに言うことはないのですが、訳註で未刊のストーリーのネタバレするのはいかがなものかと思います。

蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫)
甲斐 萬里江
4488218075

『竜の夢見る街で 2』

竜の夢見る街で (2) (ウィングス文庫) (新書館ウィングス文庫)
縞田 理理 樹 要
4403541429



[Amazon]


現代イギリスを舞台にじつは○○○○の美青年とかかわったフラットの下宿人たちのどたばたを描く、アーバンファンタジー。シリーズ第二作。

超絶美形青年キャスパー・ランプトンは、かれが出会った小鼠こと駆け出し記者コリン・アトキンスが長年求めていた人物なのではないかと疑い、確かめようとコリンの下宿するフラットを訪れた。ところがコリンは不在。自作料理の試食をたのむ無害そうな青年にひどくまずい料理を大量に食べさせられて人事不省の睡眠状態に陥ってしまう。眠るランプトンの姿を見たフラットの住人エレンとトッドは、自分の目を疑った。ランプトンの寝姿にはドラゴンが重なって見えたのだ。目覚めたランプトンはコリンを待たずに帰っていった。エレンとトッドはランプトンの正体を探る手がかりとしてコリンの後を追跡する。



現代に生きる魔法の生き物が長い年月を待ち望んでいた人物は、呪いを解いてくれる人の生まれ変わりだという。

果たしてランプトンのめざすべきはコリンなのかどうなのか。
ランプトンの懊悩をよそにかれの正体をめぐってフラットの住人達が大活躍する第二巻でした。

対人恐怖症のエレン・セインズベリと売れない作家を装いつつもじつはベストセラー連発ロマンス作家のトッド・バーナックル。そして無邪気にまずい料理を作り続ける料理人アーウィン・カーライル。いずれも一癖ありつつ愛すべきキャラクターでたいへん愉しかったです。

私のお気に入りはやはりトッド小父様。自作の無鉄砲な姫君を護る中年騎士になぞらえてわくわくしている姿が得も言われぬ可愛さですw

コリンは相変わらず猪突猛進のおバカ。でもかれが勝手なことをして話が転がるという展開なので許します。それにマックユーザーだし。というか一巻ではランプトンにほいとMacBookProを買ってもらってて超絶羨ましかったのですが、今回はiPodしかでなかったのでちと不満(オイ。

でも究極に楽しかったのはランプトンの寝入っている姿でした。
なんというか、生き物としての幸せをむさぼっているというか、本能に忠実というか、周囲なんかまったく気にしていないねというか、じつに無防備な寝姿に豪快ないびき(笑。
無敵の○○○○だから当然なんでしょうが、ここまで緊張感なくねむる生き物の姿って……幸せな気持ちになりますねぇ。

このあともランプトンの行動は実に○○○○らしくて、前巻でのまだ正体がわからないうちに進んでいた部分も読み返したらさぞかし楽しかろうなーと感じました。
いちいち○○○○の部分がおかしくて、もう、にやにやしまくりでした。

超絶美形という設定がさらに笑える要素になってますね。

実際イラストに描かれたランプトンはほんとうに美しい。
お話ではその美しさが物語に有機的に絡んでいて、たんに美形であるという以上の効果になってるところがいいなあと思います。

ランプトンを育てた魔術師はいったいどういう力を持つ存在だったのかなー。

ラストでえっ? とひっくりかえったので、思考があちこちにさまよい気味です。

シリーズは次巻で完結だそうですが、いったいどういう展開になるんだろう……どきどきしながらつづきをお待ちしています。

『ピアノの森 8』

ピアノの森―The perfect world of KAI (8) (モーニングKC (1445))
一色 まこと
406372445X



借りて読了。


劣悪な環境に生まれたピアノ天才児・一ノ瀬海の音楽人生とかれを取りまく人びとの人間ドラマコミック。シリーズ第八巻。

前巻から五年が経過して、留学先から帰国した雨宮君。
スランプに陥っている彼の視点から海くんの現在を明らかにする、第二部開始編といった趣の一冊でした。

このマンガを読んでいると海の住んでいる俗な世界と音楽の落差に愕然とします。
現実に肉体が存在するのは人間の欲得に彩られた汚い世界。
なのにそこで海の奏でる音楽は汚穢を突きぬけ浄化して、天への光となってつきぬけていくんです。

私は元々このマンガの泥臭い絵柄があまり好きでなく、評判を聞いてもなかなか手が出なかったのもそのせいなのですが、この現実との落差を描くためにはこの絵柄が必要なんだよなあ、と今は思います。

芸をするものは人ではない存在。
聖であったり穢れであったり、そのときどきによって変化したりする。

というような民俗学的な話に思いを飛ばしながら読んだりしてました。

マンガの本筋とはあんまり関係ない感想ですね(汗。

とにかく、海くんは逆境の中でにこにこと笑いながらもかなりの努力を積み重ねている模様。
海くんの存在を壁と認識してスランプになってしまった雨宮君は、どうやってこのコンプレックスを乗り越えていくのでしょう。

まるでモーツァルトとサリエリですねえ。

海くんには阿字野先生が後ろ盾としてついているようですが、このまま万事が上手くいくわけがないよなあ……と校則違反の数々を見ながら思った。

きっとまた海くんは困難にぶちあたるに違いないです。

そういう話、最近とみにヘタレの私にはちょっと辛かったりするのですが。
音楽の表現が好きなのでつづきも借ります。

『オイレンシュピーゲル 弐 FRAGIELE!!/壊れもの注意!!』

オイレンシュピーゲル弐 FRAGILE!!/壊れもの注意!!(2) (角川スニーカー文庫 200-2)
冲方 丁 白亜 右月
4044729026



[Amazon]


借りて読了。

いろいろ大変なことになってる近未来のウィーン=ミリオポリスで、警察組織MPBの飼い犬である三人の少女の活躍を描く、アクションSF。シリーズ第二巻。

すごくっ、面白いです、このシリーズ!

時も所も同じくする「スプライトシュピーゲル」をすでに読んでいて舞台背景が頭に入っているので、その分理解するのがはやい、というのもあるかと思いますが、このスピーディーでとんがった文章、驚天動地の展開、熱くもえあがる情熱、読んでいて頭が沸騰しそうです!!

第一巻は主要登場人物紹介編でした。この巻は前巻を踏まえて、さらに突っ込んでさらに前進した物語が語られます。
『スプライト』でも大事件として描かれた超高層ビル〈ヴィエナ・タワー〉と人工衛星墜落のエピソードが、視点を地上に据えたうえで動いていきます。

空とぶ少女たちには縁の薄かった、ミリオポリスの地べたを這う人びとの姿が痛々しいです。
国家同士のパワーゲームがスプライトシリーズのテーマなら、国家の存亡の影で切り捨てられていく生身の人間たちの悲鳴がオイレンシュピーゲルのテーマなのかも、しれない。

上層部からは理由も知らされずにロシア軍の指揮下に置かれる涼月のすがたが、その象徴なのかも。

ルール不明のゲームに理不尽な理由で強制参加させられるひとびとの、苦悶と葛藤とそれでもあきらめないという根性がずしんときました。

うーん、このシリーズどうしてこんなパッケージでくるまれてるんだろ(苦笑。
中身を全然しらなかったら、カバー絵だけみて敬遠すると思われます、私の場合。
やたら扇情的な三人娘のコスチュームもあれだし、犬耳に至ってはすでに作中でも意味がないような。
激しく読者層を限定する売り方をしているなあ……そのつもりでやっているんだろうから、外野のとやかく言うことではないのでしょうが。

国際謀略モノ冒険アクション小説がすきなひとにもけっこういけるんじゃないかと思うのですよね……。

まあ、手に取らせたとしても文体に拒絶反応を示される可能性も高いんですけどね。

でも私はもう慣れた。
というか、スプライトシリーズのほうが文体としては過激な気がしますね。
内容はこっちが過激だと思うけど。

読みながらスプライトシリーズとつきあわせたくなって困りました。手元にないんで。
これから読みたいと思われたら、スプライト→オイレンのI→壱つづきで読んでいったほうがいいです。私みたいに読んだ本の内容を片端から忘れていくようなひとには絶対そのほうがおすすめ。

では、つぎ参巻へ突撃します!
……そのまえに借ります。

おでかけ

PTA関係の仕事で遠出することになった妹に昼食を誘われたので、いそいそと出かけていきました。

普段の外食は通院の合間か子守りの合間なので、きちんとしたものをゆっくりと食べるのは超・ひさしぶり。

出先で待ち合わせ、妹のリクエストで入ったのはスパの店です。

嬉しさついでに料理写真などを撮ってみました。

スパゲティ

といってもこれは妹が頼んだものを妹が撮った写真。
私が撮ったのは手ぶれが発生してましてとてもお見せできるような物ではありませんでした。

手が、手が震える……。

しばらくぶりに横浜に出たついでに、CD屋だのハンズだのに行きました。
滅多に行かない横浜駅西口は、すでに記憶とは全然違う世界になってます(汗。
CD屋は売り場面積が半減してたり、棚が欠品だらけだったりで、往事の隆盛は見る影もありませんでした。みんなネット配信とかネット通販とかで買ってるのでしょうか。

めずらしく本屋には寄りませんでした。まあ、前日に鬼のような形相で突撃したばかりだし。

そんなこんなで、調子に乗ってデザートまで食べたおかげのはち切れんばかりのお腹を抱えて、もうけして若いとは言えない二人、よれよれになって帰途につきました。

こんなにお腹いっぱいなのに夕飯の支度しなきゃならないんだと泣いてた妹に同情します。
子持ちって辛いね。

『シナン 上』

シナン〈上〉 (中公文庫)
夢枕 獏
4122049342



[Amazon]


借りて読了。


一六世紀のオスマントルコで聖ソフィア大聖堂をもしのぐモスクを建造した宮廷建築家シナンの生涯を、かれの生きた時代の流れとともに描く。歴史小説の上巻。

オスマントルコよ、イスタンブールよ! と借りてきた本。
上巻のみだったのは他にもいろいろ借りたので重かったからです。

著者はあの夢枕獏。
私のイメージは最初期の叙情SFからエロス&バイオレンスとSFで止まってるのですが、外国の歴史小説まで書くようになってたんですね。
最後に読んだのは『上弦の月を喰べる獅子』か『陰陽師』。でも『陰陽師』は岡野玲子バージョンのほうが強烈で、原作の印象が消えてしまっているという。

で、この『シナン』なわけですが、作者=神が見下ろす感じで語る、距離のある書き方がされています。
オスマントルコという舞台が読み手から遠いので説明を簡単にするにはそのほうがいいんだろうと思います。
ただ、臨場感には甚だしく欠ける。
私はオスマントルコの空気を吸いたくて読み始めたので、これはかなり残念な書き方でした。

小説と思わず、歴史読み物として読めば、オスマントルコの歴史的な流れとか、当時の世界情勢とかが大づかみでわかるようになっていて、なかなか面白いです。

一六世紀オスマントルコがスレイマン大帝の元で繁栄を極める頃、西ヨーロッパではルネッサンスを経て各地で中央集権化がなされ、フランス、ドイツ、スペイン、イングランドといった列強が台頭してきて、互いにいがみ合いながらも西欧商業圏を拡大しようとしているのです。世界中の富を集めようとするかのように、西洋諸国は世界へと脚を伸ばしていきます。その足どりを東でせき止めていたのがオスマントルコ。強大な帝国は西洋列強諸国の共通の敵だったのです。

なるほどねー。

読んでいてそんなに西洋視点ばかり……と思ったのだけど、この時代は西洋文明が爆発的な力をもって世界へと拡散していく時代なんですね。他の地域の文明はその土地で閉じていたので、不幸にも列強と出会ってしまった地域は予備知識なしに蹂躙されてしまったわけです。

日本にも影響がなかったわけではない、ということは日本史をお勉強していれば思いあたります。

そうだったのかー。
お勉強になるなあー。

と感心してしまいましたが、肝心の主人公がいっかな活躍してくれません。
それもそのはず、シナンが宮廷建築家として名を馳せるのは五十をすぎてから。
かれの人生の前半は完璧に雌伏の時なのです。

というわけで、話は延々とシナンを取りまく情勢説明がつづき、シナンはイェニチェリ軍団の工兵にこそなりますが、その後はときおり顔を出して時代の空気を吸ってますーとばかりにハンマームに行ったり、コーヒーを飲んだりしています。

そのへんのエピソードでようやくイスタンブールの日常が出てきてくれるので、ちょっと満足したりしましたが、そんなことでいいのか。これじゃあ、スレイマン大帝とその時代に生きる一工兵シナンの日常です。スレイマン大帝の即位前から即位後、各地の反乱と戦う華麗な日々の現場的おまけエピソードでしかないではありませんか。

いつになったら活躍するんだよ!(笑。

とじれじれしていたら、ようやくシナンに密命が下りましたよ。
ああ、やっとやっと主人公が動きだす……と思ったら上巻終わり。

くっ……。
なんで私は下巻を借りてこなかったんだ……。

はげしく後悔しながら、なるべく早く下巻を手にしたいと思ってます。

シナン 下 (2) (中公文庫 ゆ 4-6)
4122049350

20090910の購入

病院に行って帰りに本屋に寄りました。

竜の夢見る街で (2) (ウィングス文庫) (新書館ウィングス文庫 142)
縞田 理理 樹 要
4403541429


ゾティーク幻妖怪異譚 (創元推理文庫)
クラーク・アシュトン・スミス 大瀧啓裕
448854102X


以上、購入。

普段通ってる本屋ではあまり出会うことのできない本の発売日が、大都市圏に出かける日に重なるなんてラッキーv

と思ってたんだけども、実際に購入できたのは乗換駅そばの穴場本屋でした。
大都市圏には大規模店が何軒もあるけど、何軒もハシゴできるほど私の体力がなく。
私の徒歩圏の本屋にはラノベ棚がほとんど無いことを忘れてました。とほほ。

そのうえ、ウィングス文庫の装丁が変わってて。
普段目にできないレーベルだから変わってたことを知らず、背表紙を探して右往左往してしまいましたよ。旧版が一冊だけ残ってたのを発見しなかったら、そのまま見過ごして帰ってしまうところだった。泣きながら(嘘。

二冊目は最初の本屋で空振りしたあとでふらふらとしていたときに目があって、つい魔が差したというか、吸い寄せられて手に取らされてレジにつれていかれた本です。

いや、クラーク・アシュトン・スミス好きなんですけれどね。
現物見なかったらきっと買わなかったと思う……たぶん。
文庫で千円越えだという時点で、すでにリスト外になってると思う……たぶん。
おそるべし、現物。

だから、今月はもう予定外の本は買わないぞ、と宣言しておきます。
『ヴィンランド・サガ』だけ!

『風の王国 黄金の檻』

風の王国―黄金の檻 (コバルト文庫)
毛利 志生子
4086012340


[Amazon]


吐蕃に嫁いだ唐の公主・李翠蘭の半生を描く、歴史ロマン。シリーズ十七冊目。

吐蕃王に復帰したソンツェン・ガムポの命により西の大国シャンシュンへと向かった翠蘭は、シャンシュン国内の不穏な空気を感じていた。シャンシュン王に嫁いだ義妹セーマルカルは離宮に離れ住み、王自身も外界とはほとんど没交渉。王家の支配がゆきとどかずに地方貴族への抑えはなく、治安はひどく悪化している。豊かな資源で潤っていた往事のシャンシュンはなぜ堕落していったのか。セーマルカルの離宮に訪れた使者は王命を口にしながら、道中で翠蘭を拉致しあるところへと連れ去る。



あいかわらずハードですなあ……。
歴史ものでもファンタジーでもSFでもそうですが、社会がゆれ動いているときを舞台にした物語では主人公が体力勝負になることが多いです。

翠蘭も公主として吐蕃王に嫁ぎ、王妃となったのに、なんでこんなに物理的サバイバル状況に追い込まれてしまうんだろう。
今回も生きるか死ぬかの瀬戸際に何度も追い込まれてますが、そのたびに尋常ならぬ生命力を発揮して寸前で切り抜けています。いや、ほんと。人間業じゃない。

私が翠蘭なら、たぶんリジムに逢う前に死んでます。

というわけで、なにがそんなわけなのかわかりませんが、波瀾万丈、権謀術数、体力限界、な状況を、知恵と勇気と体力で脱出する翠蘭、見事です。

神の落とされる災いも大変な難事には違いありませんが、人間同士の感情がらみの暗闘というのは、ほんとうに困ったものですね。それぞれにそこにいたる事情があってそれなりに理由はわかる、だからといってそのまま放置はできないが、解決するにもさまざまな思惑がからんで、すぱっとした解決は望めない。その場その場で最善の選択をと望んでも、それこそ神ならぬ身ならば視界は限られてくるし、影響を及ぼせる範囲にも限界がある。

そんななかでもあきらめない、投げ出さない、という翠蘭の姿勢が、このシリーズの魅力なんだろうなーと思いました。

展開は速くするりと読めましたが、読後が重たい一冊だった。

シャンシュン国内の事情がわかったので、これからは敵と味方とどちらでもない陣営がくんずほぐれつで展開しそうです。

劇的に再登場したあの人物の安否は。
ソンツェン・ガムポの密命をおびたサンボータの行く先は。
翠蘭と別行動になってしまった随員たちはのその後は。

つづきが大変気になります。

ところで、なりゆきで翠蘭の道連れとなったセムジェンさん。まさか表紙イラストの方だとは思いもしなかったのであとのイラストで吹きました。

ええっ、若いよ、若すぎる!

私の脳内イメージのセムジェンは、むさい中年男だったんだよー。

ちょっとショックを受けたまま、つづきを予約したいと思います……。

風の王国―砂の迷宮 (コバルト文庫)
4086012642

『龍のすむ家』

龍のすむ家
クリス・ダレーシー 浅沼 テイジ
4812412544


[Amazon]


読了。

現代イギリスを舞台にした、愛らしいローファンタジー。


下宿人募集中
一軒家のすてきな部屋 食事、洗濯付き
清潔で、きれい好きな、静かな学生にぴったり!

ただし 子供とネコ(と龍)が好きな方に限ります

こんな広告に惹かれてやってきた大学生デービットは、陶芸家のリズと十歳のルーシーのペニーケトル親子の家に下宿することに。そこでデービットはおしゃべりなルーシーのペースに巻き込まれて傷ついたリスの救出作戦に参加することに。さらに家中に置かれた陶器のドラゴンたちのようすがとてもへん。もらってガズークスと名づけたデービットのドラゴンは、かれに不思議な体験をさせてあることをはじめさせるのでした。



アマゾンの「なか身検索!」で冒頭を読んでちょっと気に入ったので借りてみた本です。

穏やかでちょっと変わってる陶芸家のリズ。お喋りで積極的でリスが大好きな女の子ルーシー、なんとなくデブってるぽい飼い猫ボニントン。リスが大嫌いなお隣のベーコンさん。走りまわるリスたち。それとなく存在感を漂わせてときどき「ハァー!」と息吐き出しているような小さな陶器のドラゴンたち。

個性的な親子の住む生活感あふれる家に、ひそかに息づく魔法の気配がとても好きなお話でした。

スゴーイとかキャーとかいうほどではないんだけど、ああ、こんなところで暮らしてみたいなーと思うような空間が描かれているのが素敵。

児童書なので描写があっさりとしてて、魔法の気配も残り香くらいにしか思えなかったんですが、実はど真ん中のところでファンタジーしてる作品でした。

ほのぼのとした平和な読後感で、夏に疲れ切った私にちょうどよいゆるさのあるお話だった。

と思うのですが、やっぱり私としてはもうすこし描写が欲しかったなー。描写というか、前後関係のわかりにくい文章がときどきあったというか。

あと、主人公の名前なんですが、デービットて訳される名前ってなんだろうw

そこそこ楽しかったので、機会があればつづきも読んでみようと思います。

龍のすむ家〈2〉氷の伝説
クリス・ダレーシー 浅沼 テイジ
4812418429

「機械師の右手」

土岐さん作「機械師の右手」読了。
異世界ファンタジー中編。完結済み。

静かなはじまりなのに後半テンション高めの展開でびっくり。でもそれがおもしろかった。
ちょっとスチームパンク風味? な物語世界ですが中身は生と死とその狭間を描いたファンタジーでとても好きです。

20090905の購入

図書館本の返却ついでに本屋に寄りました。

蟲師 8 (アフタヌーンKC)
漆原 友紀
4063144429


以上、購入。
九月新刊でもなんでもなくて申し訳ない気が(汗。

今月はすこし懐に余裕がありそうかなと思って、ようやく八巻を入手しました。
いつになったら完結まで読めるんかいなと一瞬気が遠くなりかけますが、それだけ長い間楽しみ続けられるのだとおもってのんびりといきます。

いまのところリアル本屋に在庫がありつづけているのが幸い。
完結してしばらくたつのに珍しいよなと思いつつ。

もしかしてタイムリミット近づいてたり?

一瞬で青くなる私でした(大汗。

『ピアノの森 7』

ピアノの森―The perfect world of KAI (7) (モーニングKC (1444))
一色 まこと
4063724441



借りて読了。

野性のピアノ天才児一ノ瀬海の、たぶん波瀾万丈のピアノ人生を描く音楽マンガ。シリーズ七冊目。

この巻は、たいせつな森のピアノが失われた後、衝撃に自分を見失った海が自分はピアノと深くむすびついているのだと気がつくまでの紆余曲折でした。

なんとかして海を薄汚い底辺からひきはなそうとする母親。
海の才能を開花させるためにベストな方向に連れていこうとする阿字野先生。

そんな大人たちのかれをおもうがゆえの思惑を大きく裏切り、海は自分で見いだしたピアノの道を自力で歩もうと決意するのでした。

眩しいな~!

そんな海のいろいろを知らないくせにしっかと信じてて、着実に自分の道をあゆみつづける雨宮君。君もキラキラしているよ!

ふたりが対等に向かいあうまでにはまだまだ時間がかかりそうですが、それまでの道のりもまたとっても面白そうです。

路上コンサートのエピソードが楽しかったなー。

つづきも借りますv

『Twelve Y.O.』

Twelve Y.O. (講談社文庫)
福井 晴敏
4062731665


[Amazon]


借りて読了。


とある極秘文書を盾に在日米軍を脅迫しつづけるテロリスト、トゥエルブ。かれを慕い護る少女ウルマ。巻き込まれたトゥエルブの知り合いである自衛隊員・平の視点で歪んだ日米関係の裏でうごめく思惑と駆け引きをアクションとともにスリリングに描く、軍事サスペンス小説。第四十四回江戸川乱歩賞受賞作。

軍事物です。ハードです。痛いです。大風呂敷です。
なによりも、ページが真っ黒です。こんなに字で埋めつくされた本って、久しぶりに見たような気がするわ……。そういう意味で、見ただけでカンドーした。

メカメカしいアクションシーンはかなり面白かったです。ヘリコプターものは初めて読んだから意味不明部分が大半なんですが、こまかく書いてあるとなんだか臨場感にひたってしまいます。ここに書かれている武器はきっととてもリアルに書いてあるんでしょうね……検証する知識はないのでたんに雰囲気に酔いましたと告白するだけですが。

どんどん転がっていくストーリーで、緊張感の途切れぬままに一気に進みました。いろいろと疑問は湧いてくるんですが、それを検証する知識はないので、そのままスルーです。この後どうなるのかに一点集中。ひろがりつづける風呂敷にとまどい気味ながらも一冊で終わるんだから、と言い聞かせて最後まで。

うわあ、とんでもないわ、このクライマックス!

ラストは興奮の冷めてゆくカタルシスに浸りました。

でも最後まで疑問は残りました。
その疑問が「戦う女の子ウルマ=理沙ちゃんはふつーの肉体を持った人間でしかなかったの?」だったのが我ながら何とも言えなかったりして(汗。

そこから話をふり返ってみると、うーん、なんだか薄味なかんじが。
たとえていうならアクション大作映画のノベライズのような物足りなさが残ります。
枚数制限とかキャラクターを勝手に改変できないとか、そういう不自由さから生まれた、ストーリーとシーンは派手な原作を忠実以上に再現したノベライズ作品。

物語が事件を描いてドラマに行き着いていないという印象を受けました。

そのワタクシ的なポイントが、理沙ちゃんの設定なんだと思います。
理沙ちゃんが特に選ばれてそこにいる理由が、希薄に感じられた。
理沙ちゃんがその活躍に見合うだけの力量と闇をそなえていないように思える。

ようするに、

義体化してもいない、特甲児童でもない、アンゲルゼでもない女の子がこんなに強いわけがないじゃん!

と思ってしまうわけです。これで私が何と比べていたかがバレバレです(苦笑。

常識的なリアリティーを追求して、ドラマ的なリアリティーが失われた、ような気がします。

理沙ちゃんがフツーの人間なら、こんな役割を与えてはいけなかったのではないかと私は思う。素直にトゥエルブを中心にしたほうがスッキリしたと思う。あくまでワタシ的には、ですけどね。

私が感情移入できたのは自衛隊で世をすねていた平さんの復活劇のほうでした。
でもさ、パニック障害があんな荒療治で治るかなーという疑問は残るよね……。

ところで、この本は福井晴敏面白いよという推薦者に「じゃあ、一番面白い物を貸して」といったら「一番面白い物はこれを読んでから読むほうがいい」といわれて借りた、オードブルでした。

このあとでその「一番面白い」はずのメインを借りる予定です。

『オイレンシュピーゲル 壱 Black&Red&White』

オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White (1)(角川スニーカー文庫 200-1)
冲方 丁 白亜 右月
4044729018



[Amazon]


借りて読了。

辛い過去を経て機械化義肢により武装化した三人の少女たち。彼女たちと正体不明のテロ支援組織とのかつてのウィーン=ミリオポリスでの攻防をクールシニカルに描く、近未来SFハードアクション。富士見書房刊の「スプライトシュピーゲル」シリーズの姉妹編。開幕第一巻。

『スプライトシュピーゲル』が面白かったよーといまだ未読の供給元に圧力をかけていたら手に入れてくれた模様ですw

スプライトシュピーゲルの三人娘は焱の妖精たちでしたが、こちらは飛行能力がなく、猋(表示されそうにないので書いておくと、犬がみっつ。ケルベルスとルビ)と呼ばれている三人娘です。どうやら皆同い年です。

黒いプードルと形容される突撃手の涼月。
赤いドーベルマンの風情とされる狙撃手の陽炎。
白いマルチーズと讃えられる遊撃手、夕霧。

それぞれに個性的に不幸な過去を持つ、個性的な性格の個性的な能力を持つ戦士たち。
彼女らの所属するのはミリオポリス憲兵大隊、通称MPB。
基本的には警官である三人の対するのは、基本的には国内犯。でもかなり物騒で危険な事件。
派手な衣装(下着を含む・苦笑)に身を包み、広報活動にも従事しつつ、もっとも危険な最前線での任務に突撃していきます。

読み始めて、スプライトシュピーゲルのお嬢さんたちは善良な性格でまだまだ幼かったんだなーと感じました。

こちらの三人は地を走る犬だからでしょうか、地上の汚穢を踏みしめつつ、それを皮肉に笑って蹴りとばしてしまうようなタフさがある。それがゆえの悪ふざけなのでしょう。

それぞれの過去も現在形の事件もスプライトにも負けず劣らずの凄惨さですが、シャープでクールな文章と、くっきりと描かれる近未来のウィーンの輪郭に、すがすがしささえ感じます。

スプライトと共通しているのは、舞台と敵。
国際都市ミリオポリスをとりまく複雑な国家闘争がメインだったスプライトに対し、こちらではその結果うまれた歪みによって苦しむ人びとの暮らしに焦点が当てられてます。
そんな社会に生まれる不幸な歪んだ人間を利用する反社会的な存在・武器製造会社プリンチップとその代理人リヒャルト・トラクル。

スプライトシュピーゲルのストーリーはまたしても大幅に失われている私の記憶ですが、トラクルおじさんのことは忘れてませんでした。さすがに。

でも、ミハエル中隊長ってどこかで見たような気がするんだが思い出せない(汗。

とにかく、アクションシーンの切れ味も、三人のやりとりも、サイコでスリリングな展開も、たいへん面白かったです。はやく空とぶ三人娘との絡みが出てこないかなー。わくわく。

余談。
オイレンシュピーゲルは、悪漢ティル・オイレンシュピーゲルからのネーミングでしょうね。
ドイツ語でオイレンシュピーゲルが悪ふざけの意味なのかどうかは門外漢の私にはわかりませんが、ティル・オイレンシュピーゲルのほうはぼんやりと記憶に。あれはたしか庶民寄りのピカレスクヒーローだったはず。ヒーローといってもやることはおもに詐欺なんだった気がするけど。

『ACONY 2』

ACONY 2 (アフタヌーンKC)
冬目 景
4063145875


借りて読了。

へんてこな住人の住む古びた幽霊アパートでの不可思議な日常、不思議な少女アコニーにまつわるきな臭い秘密を、ほのぼのミステリアスに描く、“ゴシックブラックアパートメントコメディー”マンガ。シリーズ第二巻。

これは楽しかったw

連作読み切りみたいなかんじで、単発っぽい作品と大きな背景のある作品がバランスよく配置されて、大枠は気になるけどそれは気にしなくても充分おもしろい、ホラーコメディーです。

永遠の十三歳アコニーと父親と行方不明の母親との過去には、シリアスかつ不幸な出来事があったことがうかがい知れますが、それとは別次元で展開される古い木造アパートの幽霊屋敷っぷりがお見事。奇天烈な登場人物(妖怪? 幽霊?)も四次元迷路もなんでもありです。読んでいてくすくすと笑ってしまいました。

もう本筋なんてどうでもいいので、このまま日常をつづけていてもいいんじゃないかと思ってしまいそう。

アコニーといえば、こちら関係の人物配置は『羊のうた』とちょっと似てますね。
一巻を読んだときにはまったく気づかなかったけど。というか、一巻を読んだときには『羊のうた』を読んでなかったのか。

アコニーの過去は気になるけれど、別に明かさなくてもいいのかな、とか。
たぶんあんなふうには終わらないと思うけど……。雰囲気が全然違うので。

くすくす笑った後でしんみりというか切ないというか、そんな後味の残るお話も好きだなー。ホラーというより、妖怪譚というか幻想譚みたいな雰囲気なんですよね。私のイメージでは。

アパートの経てきた年月がふっと目の当たりになるような描写も好き。

叙情的でなおかつ歯切れの良い展開で、お話としてのまとまりがずいぶん良くなってると感じました。

つづくのならこのままのテイストで、とわがままを言いたくなるほど楽しかったです。

『翼の帰る処2 鏡の中の空 下』

翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈下〉 (幻狼ファンタジアノベルス)
妹尾 ゆふ子
4344817400



[Amazon]


読了。

深みと広がりを持つ異世界を舞台に、隠居願望のつよい病弱役人ヤエトとそのあるじである皇女を中心に帝国の陰謀を描く異世界ファンタジー。シリーズ二の下巻。

ああ、とてもよかった……!

巨鳥に乗って空を飛ぶ魔法的な爽快感と、地べたで営まれる人間たちの張りめぐらせる陰謀と。
強い光と落とす深い影のコントラストが印象的な物語です。

上巻では皇女がどうにかなっちゃった! というところで終わったので、心配20%好奇心80%でつづきを待っていたのですが……なんともはや。ヤエト先生、乙女心にはまったくアンテナが立ってない模様です。そこが読んでいて楽しいのですがね(苦笑。

本筋は盗賊団を追って砂漠へ。とある人物との出会い。そしていっきに第二皇子の収める隣国博沙国へ焦点が移動。皇帝の子どもたち同志の会合《天地輪》(これをなんど天地人と読んでしまったことか;)の集いで顕在化する跡目争い。と腹の探り合いの続く展開。

ヤエト先生が息も絶え絶えで「隠居したい」と悲鳴をあげ続けているのもむべなるかな。息の抜けない緊張感つづきの下巻でした。

ヤエト先生が有能なのに欲がないのは、たぶん自分の身体に見切りをつけているからだろうなーと思います。あることについて自分にはできないと思ったらもうそれ以上のことは考えない、という方針で三十何年生きてきたんじゃないかと。人生の幅を非常に狭めていると思いますが、やりたいのにできないと思うと辛いわけで、辛い思いをするくらいなら初めからあきらめていた方が楽なのです。というわけで人にたいしては律気でも自分になげやりというか、自分に対して無責任というか、そういう人間ができあがってしまったと。

有能なのに出世できなかったのは、そのあたりのことを周囲が感じていたからではなかろうか。

それでも今日まで生きのびてきたからにはどこかからの援助がほそぼそとでもあったんじゃないかな。たとえば、スーリヤみたいなさ、ヤエトが笑顔で無自覚にスルーしていった人がものすごくとはいかないまでもそれなりにたくさんいたんではないかと、勝手に推測いたしました、ワタクシ。

というか、今の無自覚にひとをたらし込んでいるヤエト先生をみると、そう思わざるを得ないのですな。

その証拠に、なんだかんだいって、ヤエトの周囲にはかれを好ましいと思っている人間がたくさん残っているではありませんか。ヤエトが受けとめれば、笑顔を返してくれる人びとがこんなにも。

『翼の帰る処』で大切な物を得たヤエトは、『2』でそのことを自覚したのかなーと感じました。

ファンタジー的には、物語世界の神話や伝説にかかわるいろんなことがでてきて、とても楽しかったです。これって『風の名前』とか『魔法の庭』と絡んでいるんじゃないでしょうか……うろおぼえなので確信ないですが、いまとても読み返したくなっています。

それから、サブタイトルの由来が何度も形を変えて提示されてくるのがとても印象的でした。

下巻の表紙絵そのままにきらびやかな主従が大活躍してくれたのも嬉しい限りです。
ジェイサルドがすっかりなりをひそめている間に、ルーギンが良くも悪くも出ずっぱりで、その美形っぷりを振りまいていたのが面白かった。美形なのが面白いというのはなにか問題がありそうなんですが、どんなことをしても美形だっていわれるとなんとなく笑いがもれてしまうのです。私にとってはそれはギャグなのかもしれない(苦笑。

皇女がどんどん大人になっていくのは読んでいて嬉しかったし、どきどきしました。
ヤエト先生の、面倒なところがほほえましい、という気持ちはよくわかります。
こんなに観察力があるのにどうして乙女心だけスルーするのかなあ……。

出番は少しでしたが、皇妹と預言者殿の存在感がキョーレツでした。
とくに皇妹殿下、あなたはホントに怖いです。

このシリーズ、女性は強いから怖くなれる、男性は一見強いけれど可愛いヤツだ、というコンセプトなのかなあとふと感じる瞬間でした。

とにかく、面白かった。
時間を忘れて読みました。途中まで半端に読んでしまったのでまた冒頭から読んで、物語の流れを摑みなおすのにもう一度、さらに細部を確認するのにもう一度、と何回読んでも飽きませんでした。私には大変に珍しいことです。

乱戦の中でいまにも倒れそうなかれが意外に粘っていたのは、視点人物がすぐに昏倒したら戦闘シーンが消えちゃうからでしょうか。だとしたら視点人物であるという点もかれには面倒くさい役割なのかもと思ったりした(苦笑)

物語世界の、ストーリーに関連する部分の視界がどんどん広くなっているシリーズ、まだまだつづきがあるだろうし、つづいて欲しいと切に思います。

なんといってもシロバの雛が見たいです!

翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス)
4344817079


作者様のブログ【積読山脈造山中】で感想を募集されています。トラバを送らせていただきます。