『風の王国 砂の迷宮』

風の王国―砂の迷宮 (コバルト文庫)
毛利 志生子 増田 メグミ
4086012642



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読了。

吐蕃王のもとに嫁いだ唐の公主の波乱の人生を描く、歴史小説。シリーズ第十八冊目。


吐蕃王ソンツェン・ガムポの命で隣国シャンシュンを公式の使者として訪問することになった翠蘭は、義妹セーマルカルとの対面ののち王太后によって拉致監禁される。自分の息子リク・ミギャを強引に王位に就けた吐蕃出身の王太后は、シャンシュンの民に軽蔑されてきた恨みをはらすかのような専横を行っていた。吐蕃へも憎しみを持つ王太后の元からなんとか逃げ出した翠蘭だったが、追われるうち、かつて自分を殺そうとした密偵サムジェンと出会う。捕らわれていたサムジェンを救い出してまた逃亡を始めた翠蘭は、方向を見失い川に流されたあげく、シャンシュンの金鉱へと流れついた。そしてそこから金鉱の管理者ギガン・ブラナンの元へと送られた。




なにも知らない外国へ使者として送られてみたら、そこは内乱寸前の不穏で危険な無法状態で、権力闘争に利用されたり疎外されたり殺されそうになったりと、とんでもない目に会い続けながらも、なんとか生きのびて事態を上向かせようとする翠蘭一行の奮闘記です。

シャンシュンの政治体制は、もう、めちゃくちゃですね。末期状態。
一部の者が利害関係だけで事を進めた結果、指揮系統が統一されていず、治安は悪化し、やりたい放題をする地方領主に歯止めがかからない。

前王の時代から崩れ始めていたものが、強引な王位継承のために王権が求心力を失って、国がバラバラになってしまったのですね。

シャンシュンの王朝が崩壊寸前だなんてこと、ソンツェン・ガムポ陛下はお見通しだったんじゃないか、すくなくともシャンシュンの王太后の状態くらいは知っていただろうと思うのですが、まったく情報を与えずに翠蘭を送り出すあたり、本当に意地が悪いお人だと思います。彼女が唐に寝返る可能性を、まだ疑っているのか。抜き差しならない事態にどう対処するかを見てみたいのか。そんなに翠蘭を試したいのでしょうかねー。たしかにどこまでやるかを見てみたい人物かもしれないけど……心休まる暇がぜんぜん与えられないのに頑張る翠蘭が気の毒です。

このままだと、シャンシュンの体制が持ち直すか、あらたな体制を整えるかしないかぎり、翠蘭は吐蕃へ帰れないし帰らないという気がします。ということは、シャンシュンの混沌にケリがつくまでつきあうことになるんだろうな。まあ、最初からそんな気配はしていたけれど。

ところでこの巻は翠蘭の出番がちょっと少なかったです。
前巻ではセムジェンと思いきりサバイバルしてましたが、この巻ではシャンシュンの内部はどうなっているのかの説明が多かったからでしょうか。

前半は金鉱管理者のギガン・ブラナンとその妻レデナが大活躍でした(悪い意味で・苦笑)が、これまでほとんどお目にかかれなかったシャンシュン国王リク・ミギャ様がご登場あいなってからは、セムジェンの存在が大きくクローズアップされてきて、この理不尽な態度は何事? と興味をかきたててもらえます。最後の最後まで驚かせてもらえて楽しかったです。

これでいままでの理不尽さの理由がようやくわかりました……なるほどねえ!

このシリーズ、巻を追うごとに歴史小説成分が大きくなっていって、ラヴが激減ですね。
そのほうが面白いのでどんどんやってと私は思いますが、売り上げ的にはどうなってるんだろう。
それに、どこまで話がつづくのかという問題もあるかなあ。まさか、このあとソンツェン・ガムポ様とラブラブにはならないだろうし……と私にはどうしようもないことで悩んでも無駄ですね。

とにかく、次巻でシャンシュン編は完結の模様です。
これはぜひともすみやかに読みたいなと思うのですが、予約はどうなっているのかな。

風の王国―うつつの夢 (コバルト文庫)
毛利 志生子 増田 メグミ
4086012944

『薔薇とダイナマイト グラスハート2』

グラスハート〈2〉薔薇とダイナマイト (コバルト文庫)
若木 未生 橋本 みつる
4086118564



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読了。

若き天才音楽家とかれとともに音楽を作り出そうと奮闘する若者たちの青春バンド小説。第二巻。



人気バンドZ-アウトの前座に現れた知る人ぞ知る藤谷直季ひきいるロックバンド、テンブランク。初ステージの興奮覚めやらぬ朱音の元に、速達で郵便物が届いた。送り主はステージ前に極道行為で朱音を動揺させてくれた通称オーヴァークロームの真崎桐哉。おそるおそる封を切ろうとしたところで電話が鳴り、坂本の誘いで出かけた朱音は背後から見知らぬ人物に生卵をぶつけられる。それは一連の理不尽な嫌がらせ行為の始まりだった。




バンド名も藤谷先生の命名で決まり、本格始動したテンブランク。
始動したということは、これから活動するってことでそれは藤谷先生の場合、自由に楽曲を造り、演奏活動をするということで、その自由のためには商業的な成功を収めることが必須なのでした。

でも、藤谷先生は営業活動を一手に引き受けていて、ほかのメンバーは自分で選んできたのだから自分が守るという姿勢らしく、朱音ちゃんの元には外部の騒音が聞こえてこないように気をつかってくれていた。

でも、世間で突出して名が売れ出すということは好意と共に悪意をもひきよせることなので、一気に脚光を浴びたテンブランクの弱みとして朱音ちゃんは格好のターゲットにされてしまうのでした………というのが大筋、でしょうか。

同時進行で、朱音ちゃんは藤谷先生と半分兄弟らしい真崎桐哉の悪意ある友情?をもらってしまったり、その縁でオーヴァークローム信者のきれいな女性と知り合いになったり、テンブランクのマネージャー甲斐さんがなんだか複雑な事情でいまの位置にいるということを知ったり、いまだ憧れギタリストの高岡尚の日常顔を知ってドキドキしたり驚いたり、坂本君の過去作品をもらったり、藤谷先生がもってきた極悪非道なデビューCDの録音スケジュールにテンパったり、ということがなだれのように起きていきます。

とぎれなく続く毎日にこれだけいろんなことが起こりつづけたら、日常感覚がなくなってしまいそうだなと思いました。

とくに藤谷先生といる時間のスペシャル感ときたら、なんなんだろうと思います。

藤谷先生にはこれがフツーなのかもしれないけれど、朱音ちゃんはそうとう無理してついていっている気がする。

そんな合間にふと立ち止まったり、深呼吸したりするとき、側にいるのがなんでつねに高飛車でけんか腰に見える真崎君なんだろうかという疑問もあったりする(苦笑。
真崎君が夕飯につれていった店が思い出横町というのもなんだかなー(苦笑。
いろいろと意表をついてくれる真崎君が私はけっこう好きかもしれない(苦笑。

そんなこんなでいろいろあちこちにぶつかり悩みつつも前進する朱音ちゃん。とテンブランク。
デビューCDのタイアップ作戦など、CD売り上げ全盛期の雰囲気が漂っていて、初読のときにはすごく新鮮だったんだよなとかちょっと懐かしモードが入ったりしましたが、そんななかで朱音ちゃんが自覚してしまうひとつの思いがこれからどうなっていくのか、ドキドキしています。このさきも読んでいるはずなのに、ドキドキするのです、覚えていないから!

というわけで、次巻へ参ります。

ムーン・シャイン―グラスハート〈3〉 (コバルト文庫)
若木 未生 橋本 みつる
4086141787

『そらトびタマシイ』

そらトびタマシイ (アフタヌーンKCデラックス)
五十嵐 大介
4063345831



いただいて読了。


『魔女』や『海獣の子供』のマンガ家さんの、初期短篇集です。
とてもインパクトのある幻想作品ばかりでした。

収録作品は以下の通り。


産土
そらトびタマシイ
熊殺し神盗み太郎の涙
すなかけ
le pain et le chat
未だ冬




緻密な線で描き出される濃密な世界のしたたるような空気を味わいました。
初期作品だからといって未熟なところはまったくなく、もうすっかり作者さんの世界はできあがっていて、それを切り取る画面構成など見事なばかりです。

しいていうならば人物の描き方が安定していないな、という程度。

そしてその画面を持って語られるお話の、なんという力強さ。
幻想に手触りすら感じさせてしまう、すごいマンガ家さんだなと思います。

どの話も残酷でうつくしい生き物と生き物が持っているタマシイのお話でした。
リアルな日常に現れる異常な出来事は、グロテスクでありけれど美しい。
どんな生き物もタマシイをもち、痛みを感じている、そのことに直面するひとびとの物語たち。
世界に存在するすべての生き物のタマシイへの愛を感じてしまいました。

とくに圧巻だったまぼろしのデビュー作だという「未だ冬」には、神話の壮大さを感じてしまいました。

絵の力でこれだけのことを伝えてしまう画力はほんとうにすごいと思う。

読んだあとはしばらくぼんやりとしていたい一冊です。


魔女 1 (IKKI COMICS)
五十嵐 大介
409188461X


海獣の子供 1 (IKKI COMIX)
五十嵐 大介
4091883680

『芙蓉千里』

芙蓉千里
須賀 しのぶ
4048739654



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いただいて読了。


明治末期、大陸に生まれた混沌の街哈爾濱(ハルビン)の女郎屋を舞台に、少女のひたすらな生を描く、「ガールズ大河小説」。



フミは十二歳。辻芸人の父親とともに角兵衛獅子を舞って各地をめぐり暮らしてきたが、父親は女とともに行方をくらましてしまった。ひとりになったフミは人買いに自分を売り込んだすえ、海を渡り、哈爾濱の中国人街にあって日本人が経営する女郎屋・酔芙蓉に連れていかれる。フミの容姿を見た酔芙蓉の女将・芳子は難色を示すが、自分の母は吉原のお職で自分も大陸一のお女郎をめざしているといいはると、なんとか下働きの赤前垂れとして置いてくれることになった。酔芙蓉は日本人女郎が売りの店だ。なかには厳正な階級制の女郎たちの濃密な世界がこもっていた。フミとともに売られてきた新潟の貧農の娘タエは、女郎になる運命のときに怯えて泣き暮らしていた。そんなタエを気の毒に思ったフミは、タエに芸妓になれば無理に客を取らなくてもいいと吹き込み、自分の舞の技術を教え始めた。




コバルト文庫という少女小説レーベルで活躍されていた作者さんの、一般小説ということで読みました。初の、ではないようですが、私がコバルト以外で読むのは初めてです。

読み終えて、須賀さんはやはり須賀さんだった、と思いました。
もともとスケールの大きい、前向きでさばけた作品を書く方だったのでそれほど心配はしていなかったんですが、一般向けに作風を変えたということはなく、ぐいぐいひきこまれるストーリーテリングも、熱い思いも、非情な現実に立ち向かう前向きな精神も、なにも変わりません。
ただ少女向けとして自重していたところが解放されて、書ける幅が広がったという感じ。

どういう風にひろがったかというと、とにかく、あけすけ(苦笑。
もともと後宮だのなんだのの話も書いてらしたけど、ここまで具体的かつ赤裸々なディテールはなかった。女郎屋での生活って、女郎の一日って、こんなんだったのねえ、なるほどーとかなりお勉強させていただきました。

たしかにこれは重労働だわ……。
しかし、女郎屋の下働きである赤前垂れの生活もそうとう酷い。毎日洗濯が必要なのはわかるけど、洗濯機なんて無いんだからぜんぶ手で洗うんですよね。真冬のハルビンで。もちろん脱水機もないから手で絞るんだろう。しかもすべてシーツやらなんやらの大物ばかり。これ、一日で全部乾くのだろうかとかなり心配になりました。毎日晴れてるってわけでもないだろうしと。

というわけで、女郎屋の実態にかるくショックをうけたわけですが、あとはいつもの須賀節が炸裂。

どんな状況でもめげない、折れない、何かをつかみ取るヒロインが、数奇な運命と様々な出会いによって成長していく様が、からりとした爽やかな筆致で……逆にいえば全然しめっぽくなく描かれています。

からりとしすぎて色気がないのもいつも通りでしたが(苦笑、フミちゃんは「流血女神伝」のカリエちゃんよりは恋する乙女だったと思います。

どうしてもフミちゃんをカリエちゃんと重ねて読んでしまいましたが、恋愛に関してはかなり頑張っていましたと思う。
そういうわけなのでフミちゃんに相対する二人の男の原型とかもいろいろと推測したりしてしまいまして、こちらはまあ、あんまり書くと興を削ぐだろうから言明しないけど、黒谷さんは某皇女の弟さんとかおもいうかべて読んでたり。←書いてるし。

ごちゃごちゃ書きましたが、ようするにとっても面白かったです。
フミちゃんの舞がもうすこし目に浮かべられたらもっとよかったと思うけど、これで内容はぎゅうぎゅう濃縮されてるので無い物ねだり、でしょうね。

女郎屋の人間関係、とくに姉さんたちの存在感がそれぞれすごくて、哀しくて、フミちゃんだけじゃないほかの人たちもちゃんと生きているんだよ、というところが描かれているところがとてもよかったと思います。


ところで、この記事を書くのにアマゾンをみたら、作者さんのインタビュー動画が載ってました。
須賀さん、かなり美人さんでびっくりw
タイトルの由来などを語っておいでです。

『グラスハート』

グラスハート (コバルト文庫)
若木 未生 橋本 みつる
4086118092



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読了。

音楽に魅了され音楽によって自己を表現することに憑かれた若者たちの、現実と夢の狭間でもがく姿をみずみずしく描く、青春音楽小説。シリーズ開幕編。



西条朱音は高校二年生。音楽教師と音楽リポーターの両親を持ち、幼い頃から音楽に浸って育ってきた。しかし、その日朱音はプロ志向のバンドから女だという理由でキーボーディストをクビにされた。怒りと情けなさに震える心で信号待ちをしていたとき、ふと目の前に憧れのギタリスト高岡尚のすがたを発見する。人気バンドZ-アウトのサポートメンバーである尚は、朱音とほぼおなじ年齢の眼鏡をかけた少年と一緒だった。話しかけることもできずにかれらはいなくなってしまったが、その夜、朱音の家に奇妙な電話がかかってくる。最終的に坂本と名乗った相手の用件は、朱音に自分たちのバンドでドラムを叩いてくれないか、ということだった。




再読です。
この本が出たのは1994年のことなので、1994年に読んで以来の再読なわけです。
このたび、めでたく完結編が刊行され、それをめでたくゲットしたので、おさらいのために読み返すことにしました。

読み返してみて、やっぱりあらかたは忘れ去っていたのですが、それでもけっこう覚えているところもあり、や、さすがに大好きだと思った作品は違うね、などと感慨を覚えたりしました。

しかし、一六年の歳月は長かった。
登場人物がみんなすごく年下に感じられる! 初読の時だってみんな年下だったんだけど、さらに距離が開いて、なんか若々しいなあ、かわいいなあ、頑張れよ、みたいな感覚で読んでいる。

あの藤谷先生に対してすら、けなげに思う自分がいるよ。どひゃー(汗。

先日読んだ『さよならピアノソナタ』でこの作品の存在を思い出したのですが、あちらは立派なライトノベルでした。

でも、こちらはラノベとはいえない。これは青春小説です。登場人物が記号じゃないもの。生き生きとしてる、でこぼこしてる、枠に収まりきらない部分があって、ひとことでは言いきれない。複雑な感情を整理しようとはしていない、徹頭徹尾理屈で書いてない。と思う。

そうだった、昔はコバルトは青春小説のレーベルだったんだ。

でも最近のコバルト文庫にはこういうのは無くなった気がします。ラノベ化しているのかな。読み手が楽をしたがるようになっちゃったのかな。

それは置いておくとして、グラスハートです。

初読の時は音楽にばかり気をとられていましたが、じつは実際に音楽しているシーンはそれほどないんですね。
なのにすごく音楽を感じるのは、音楽を愛している人間、音楽の周囲にいる人間たちの生態がなまなましく描かれているからだと思われます。

曲作りを始めると現実が見えなくなってしまう天才・ロック界のアマデウスこと藤谷先生をかしらに、天才的なテクニックで傍若無人に突き進むキーボーディスト坂本君、冷静そうにみせていながらじつは激情一直線なギタリスト高岡尚、かれらのつくりだす熱い音にのぼせそうになりながらも必死でついていく朱音ちゃん。

物語では音楽をとりまく商業的なものだったり人間関係だったりのシビアな環境を織り交ぜつつ、朱音ちゃんのいる場所がどんどん変化していく状況が描かれています。

目の前の音楽が素敵だと思って手を伸ばしたら、いつのまにか周りの景色が変化していた、みたいな感じで。

でも、この話、朱音ちゃん視点で朱音ちゃんの変化を書いているようで、じつは朱音ちゃんの見た藤谷先生の生と死の物語なんじゃないかとか、今回感じてしまいました。生と死なんて書くと大げさだけど、音楽家としての、とつけたらいいのかな。

この話の背景には藤谷先生の過去のしがらみや現在の微妙な立ち位置などがあって、それを打開したい藤谷先生の望みがある。それがどうやらストーリーを動かしている原動力みたいだと、いまさらながらに気がついたんですよ。いまさらながらに。

なんて鈍いんでしょうか私。
つねに地べたを這ってる視点で読むのをやめなさい、と過去に戻って蹴りを入れたい感じです。

でも今は気がついたからすこしは成長したのかもしれませんよね。
だからかれらが若くあやうく見えるんだな、きっと……そうにちがいない。真崎君なんてかわいい~って感じだもの(汗。
ああ、私ももう若くないんだな……と感慨に耽ってしまいました>けっきょくどちらがいいのか、私!

でもね、以前読んだときにドキドキした感覚は失われず、きちんとドキドキがよみがえって読めたのが嬉しかったです。ちょっと時代を感じるところもあったけど、携帯電話が出てこないとか、ポータブルプレイヤーの種類とか、でもそれ以外はぜんぜん古くない。

この巻は、「伝説の藤谷直季」バンドが衝撃的にお披露目されたところで終わっています。
ドキドキワクワク最高潮ですね。

さあ、感想書いたからつづきに行きます。

余談。
朱音ちゃん母のモモコさんって、『さよならピアノソナタ』の主人公父と立場が似ているよね。
……いやそれだけなんですが。

グラスハート〈2〉薔薇とダイナマイト (コバルト文庫)
若木 未生 橋本 みつる
4086118564

『深山に棲む声』

深山に棲む声
森谷 明子
4575236551



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読了。

いついずことも知れない場所にある聖域・深山にかかわる噂をものがたりとして描く、ファンタジー風味のミステリ連作短篇集。

目次は以下の通りです。


朱の鏡
黒の櫛
青の衣
白の針
囲炉裏の前で
黄金長者




同著者の『七姫幻想』とよく似た構成の話でした。

似ているのはひとつのことに関わる、異なる時系列の話を異なる視点でつづる短編であること。
登場人物の重複やかれらの年齢をつなぎあわせると見えてくる、全体的な流れを推測しながら読むのが面白いお話です。

聖域という名の異界としての深山と、それに関わることを忌避する離れ里のものたちの、閉じた世界の物語という構造も似ていると思う。

違うのは、短編が時系列順に並んでいないこと。
話のなかでも時々後戻りしたり、未来に飛んだりするのでかなり混乱する。

それと、場所と時代が特定できないこと。
冒頭に載っている全体に関わるであろうテーマを提示するお伽噺が、ロシアのバーバヤガのものがたりの断片なのでまず混乱。

固有名詞は古風な和風なのにカタカナ表記なのでまた混乱。

都の天子の話や武士たちの争いなどの風聞と、登場する小物による時代推測がかみ合わないことでまた混乱。

そんなふうに作中にいろいろと仕掛けられた罠に見事にハマって、最後まで翻弄されてしまいました。

推理することがたくさんありすぎて、作品全体を味わうところに至るまでにけっこう苦労してしまった(汗。

この話は噂話が伝説となり物語となるまでの変遷とその要因と過程を、人為的なものから自然発生的なものまであらわして見せてくれたような気がします。

個人的に邪推をすると、この話はもともと『七姫幻想』とおんなじシリーズだったんじゃないかなーと思う。そのなかで場所と時代を特定しても差し支えない物、むしろ特定したほうがいい物を『七姫』に分けてまとめ、特定しないほうがいい物をこちらにまとめたんじゃないかな。完全なる当てずっぽうなのですが、そんなことを考えてしまうくらい似た味わいがありました。

面白いのは『七姫』の終わりがどことなく開けているのに、こちらはしっかりと閉じているところですね。
時代的にそれほどたくさん世代がまたがっていないせいか、それとも物語世界が箱庭だからなのか。

いずれにしろ、すべてが緻密に構成されていることに感嘆いたしました。
面白かったです。
疲れたけど(苦笑。

『ミストボーン 霧の落とし子 1 灰色の帝国』

ミストボーン―霧の落とし子〈1〉灰色の帝国 (ハヤカワ文庫FT)
Brandon Sanderson
4150204950



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読了。

独特の世界設定にスピード感あふれるストーリーが展開するクールな異世界ファンタジー、シリーズ開幕編。


火山灰が降りつづけ、夜は霧に覆われる、身分格差の厳しい世界。支配王を神と崇める〈終の帝国〉において、スカーと呼ばれる奴隷階級は貴族たちの横暴にうちひしがれ、無気力に陥っていた。ヴィンはスカーの孤児で、とある盗賊団の一員として頭目の虐待を受けながら暮らしていた。ある日、頭目キャモンが〈鋼の聖職省〉の義務官を詐欺にかけようとしたとき、ヴィンは自分でひそかに“幸運”と名づけている力をつかった。義務官はいっけん上手く騙されてくれたようだったが、その場に居合わせた男たちがヴィンを追いかけてきた。かれらは〈鋼の聖職省〉の追っ手からヴィンたちを救ってくれ、同時にヴィンをキャモンから救い出してくれた。男たちの頭目はケルシャー。帝国内で最も悪名高い盗賊の首領であり、複数の合金術をつかいこなす〈霧の落とし子〉だという。そしてかれは、ヴィンが“幸運”と読んでいたものが合金術であることを告げる。




これはとても面白い設定のお話です。

終末期に入った世界という暗い雰囲気の舞台。金属を体内で燃焼させて得た力をふるう合金術。合金の種類によって使える力は異なり、たいていの合金術者はひとつの合金しか使えず〈霧の使い〉と呼ばれる。

そこに存在する、それぞれに性質の異なる〈霧の使い〉たちが得意分野でそれぞれにスペシャリストの働きをする盗賊団。

集団を率いるのは、存在からまれなすべての合金を使うことができる〈霧の落とし子〉であり、一度帝国に捕らえられたが牢獄から逃亡したという伝説のもちぬし〈ハッシンの生き残り〉。特異なカリスマ性を備えた男ケルシャー。

そのケルシャーによって〈霧の落とし子〉であることを見いだされた少女ヴィンが、「帝国をひっくり返す」仕事に盗賊団の一員として参加することになる――というのが、この巻の大筋。

訳者あとがきによると作者は『オーシャンズ11』みたいな話を書きたかったんだそうで、なるほどと思いました。抑圧感漂う世界で権力者相手に一矢を報いる悪漢たちの話、みたいなコンセプトかな?

設定が独特なので物語世界の仕組みやらなんやらを呑みこむのに多少時間がかかりますが、ストーリーは読み手のとまどいをよそにぐんぐんと進んでいきます。異世界ファンタジーとしてはかなり能動的な部類に入るんじゃないでしょうか。

キャラクターも把握するのにちょっと手間取りますがなかなか個性的、なんだかラノベを読んでいるときと気分が似ている。普段読んでいるファンタジーと比べると、キャラクターと読み手にすこし距離があるんですね。

でも、このスピード感はその距離のおかげで出せているものだと思う。
主人公はいちおうヴィンなのかなと思うのですが、彼女視点べったりというわけでもなく、ケルシャーが中央にいるときにもケルシャー視点というわけではなく、人物をすこし上から外から眺めて
いる感じ。

で、私にとってなにより面白かったのは、合金術とその周辺の設定です。
これは読んで把握していくことに歓びがあると思うのでくわしいことは書きませんが、こういう魔法があったか、と思いました。新鮮な驚き。

正義感とは距離を置いた動機で革命を起こそうとする盗賊の精鋭たちと、巨大で謎めいた存在感で君臨する支配王。

ピカレスクロマンというか冒険物というか、コンゲームの要素もありそうな感じで。

騙し騙され、利用し利用され、何度も間一髪で死線をくぐりぬけていくような、そんなスリリングな展開が待っていそうで、とてもわくわくします。

支配王への復讐を誓うケルシャーですが、ときに現れる失った恋人への複雑な思いに興味津々。
男ばかりの集団の話の場合、女って裏切りの象徴みたいなものだしなーとか、妄想が膨らみます。フフフ。

つづきはすでに既刊です。
私も早く読みたい!
というわけで予約しました。


ミストボーン―霧の落とし子〈2〉赤き血の太陽 (ハヤカワ文庫FT)
Brandon Sanderson
4150204993

20100117の購入

超超おひさしぶりに密林様からギフト券をもらったので、ちょっとリッチに散財してみました。


王のしるし(上) (岩波少年文庫) (岩波少年文庫 595)
ローズマリ・サトクリフ 猪熊 葉子
4001145952


王のしるし(下) (岩波少年文庫) (岩波少年文庫 596)
ローズマリ・サトクリフ 猪熊 葉子
4001145960


イデアマスター―GLASS HEART (バーズノベルス)
若木 未生 藤田 貴美
4344815750


リージェント・ファーイースト フルーツジムボール アップル 55cm 39598
B0009NTLPI



これで散財……。ささやかですなあw

岩波少年文庫は近所で買った方が本屋さんのためになるかもしれない(ひるがえっては自分のためになるかもしれない)と思いつつ、いつもなかなか入荷しないのでつい予約購入してしまいました。

『イデアマスター』は待ちに待ちつづけてすっかり忘れ果てていた「グラスハート」の完結編です。出ていたことに最近気づきました。既刊を読み返してから読んだほうがいいかも。

そして、ついにやってしまいました。バランスボールです。
いまはまだゆらゆらゆれてるけど一日中坐っていられるようになるんだ、そしてお腹周りをひきしめるんだ……。

『双調 平家物語 1』

双調平家物語〈1〉序の巻 栄花の巻(1)
橋本 治
4124901216



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読了。

橋本治が『源氏物語』にひきつづき『平家物語』を語り直す、大長編の開幕編。
単行本のサブタイトルは「序の巻 栄花の巻I」。

この巻の内容は以下の目次をご覧下さい。


序の巻
 大序
 叛臣伝
 賊臣佞臣
 女禍
 安禄山
 楊氏権勢
 君寵
 愚衷
 対峙
 蕃将勇武
 潼関
 玄宗
 長恨歌
 腸
 父子寂寥
 諸行無常

栄花の巻 I
 大織冠
 御位談義
 入鹿暴虐




読み始めてうおーと思いました。

『窯変 源氏物語』のときにも注釈が全部本文に注ぎ込まれた文章に唸ったものですが、ここまでではなかった。

まさか、導入部にひかれている中国の歴史の丸ごと解説小説を読まされることになるとは思わなかったです。なんということでしょう。

ここでは中国における叛臣佞臣権臣の区別から、それらの実例、さらにその実態を懇切丁寧に語ってくれてる。そして本邦のひとびとがどれだけ中国の情勢についての誤解を重ねてきたかの分析まで加えてくれちゃってます。

とくに詳しいのは安禄山の変について。
安禄山の人となり。かれがどのように謀反に追い込まれていったか。安禄山は皇帝に背く気持ちはまるでなく、ただかれを眼の仇にする楊貴妃の縁者・楊国忠によるはかりごとに巻き込まれて抜け出せなくなったありさまが、楊国忠の皇帝の楊貴妃への寵を利用してのしあがる、たかることしか知らないならずものの出世と転落と共に描かれているあたり、圧巻でした。

国のためを思って働く賢臣、忠臣などどこを探しても存在しません。
官というものは一度システムが動きだしたら現状維持のためにしか働かないものだと、切って捨てております。

そうしてどうしても立ちゆかなくなった国というシステムは、革命という天子殺しによって解体される、というのです。

ひるがえって、日本は革命を一度も体験したことのない国です。
ここには、天皇というシステムに寄生し形骸化させ、あまつさえその上に君臨する佞臣つまり藤原氏ばかりが存在し、それがたいそう尊い一族であるかのように扱われてきた。
平家のしたことはその尊い一族の所業をなぞったばかり。

では、なぜそのような臣が世に尊ばれるようになったのか、の次第を、今度は藤原氏の前に権勢を誇った蘇我の一族の初めから説き起こして、それでこの巻は終わりです。

感想。
まるで歴史の勉強をしているみたい。

しかもこの歴史教科書は情の部分がかなりくどいのです。何度も何度も念押しするようにおんなじことがくり返される。
情景描写のなかにしずかに浮かびあがることばにされない感情、といったような文章が好きな私はちょっと辟易させられました。

しかも、この作品はどこまでも真面目で真摯なのです。

話の構造は『弱虫泣き虫諸葛孔明』と似たところがあると思うんだけど、あっちの突っ込みが斜めからのユーモアたっぷりなのに、こちらは真正面からのストレートばかりで息抜きがまるでできません。題材が違うから笑いのめせないんだと言えば確かにそうなんですけど、おんなじ所をぐるぐる回っているような気分になって、疲れました。

これは相当覚悟を決めて読まなければならない本ですねえ。

日本のお勉強をしよう、まずはフィクションからと思って選んだ本なので、その観点からいうならそのものズバリなんだけど、予想以上のお勉強本だったので逃げ腰になっているというところでしょうか(汗。

とりあえず、つづきに立ち向かうためにはエネルギーをためる必要がありそうです。

余談。

このシリーズはすでに文庫化されているのですが、図書館に文庫の蔵書がほとんどないので単行本で借りています。
リンクは文庫のを貼ろうと思ったのですが、なんかサブタイトルが違うので止めました。
文庫版はこちら↓。

双調 平家物語〈1〉序の巻 飛鳥の巻 (中公文庫)
4122051436

『闇の左手』

闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))
Ursula K. Le Guin
415010252X



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読了。


異なる生態を持つヒューマノイド型異星人との困難な関係作りと友情をはぐくむ過程を、冷静かつシビアに描く、SF小説。
1969年に書かれたアーシュラ・K・ル・グィンの出世作。



惑星〈冬〉には、雌雄同体の身体を持ち極寒の気候に適応した生活と文化を長く育んできた高度な文明をもつゲセン人が住んでいる。地球人ゲンリー・アイはかつて宇宙中に散ったハイン人の末裔と外交関係を築くために連合エクーメンから派遣された使節である。アイは〈冬〉の一王国カルハイドにて王との繋がりを求めていたが、そのためにつてとして頼ってきた宰相エストラーベンが突然失脚し、追放されてしまう。身の危険を覚えたアイはカルハイドから隣国オルゴレインへと脱出する。




再読です。

書かれてからすでに四十年経っているわけで、大枠の設定などにすこし古さなどを感じたりもしましたが、作品そのものの持っている深み、象徴、それをあらわす技巧、などにはいささかも古びたところはないと感じました。

まとめてしまえばこれは異文化接触の話ですよね。
異文化を持つ相手が地球人とは生物的に異なる点があり、その原因が地球とはかけ離れた気候のせいであるという設定。

ゲセン人の雌雄同体の生態の根底にはフェミニズムを感じますが、ル・グィンの優れたところはこんなに異なる肉体をもつ人々の生み出す倫理観やら死生観やらを、歴史や伝説として昇華して提示することができる点にあるのだなーと思いました。

ゲンリー・アイ視点の章と〈冬〉側の資料とが交互に提示されるという構成で話は進みます。
物語全体の雰囲気はどこまでも知的で静かで厳しく、重々しい。

こうした展開ではスピード感は望めないけれど、うわつくことのない手触り、話の真実味に深く貢献していると思います。

それぞれに自分たちの文化を背負って、なおかつ歩みよろうと努力を重ねるゲンリー・アイとエストラーベンの、誤解と不審のはてにゆきついたところに、感慨を覚える話でした。

それにしても、ル・グィンの逃避行の描写はいつもながら苛酷さに半端が無いですね。
いつもながらというか、この話がそもそもの原点なのかも知れませんが、辛くて苦しくて痛々しい旅は主人公たちがくぐり抜けなければならない試練であると同時に、たどりつく目的地の価値にも結びついているのかもなどと思ってしまうことでした。

それと最近のル・グィンの作品に通じるモチーフがけっこうたくさん潜んでいたのが興味深かったです。


最初に読んだのは高校生の時でしたが、その時の印象はなんて暗くて寒い、地味な話なんだろう、というものでした。
高校生の私はまったく頭が耕されていなかったんだな。
ここに記された深いテーマも、興味深い出来事も、まったく理解できていなかったんだ。
あのころの私が面白がれたのは、ストーリーテリングでひっぱる話が多かった気がします。

時機を得ない読書って、無意味だなとしみじみ感じました。
一度つまんないとおもった本でも、別の機会に読み直すと発見があるかもしれないです。

というわけで、今回私はこの本の中身にようやく触れることができた、と思います。


余談。

SFに出てくる異星人はだいたいヒューマノイドタイプで、突飛な設定を現実で支えられるならばファンタジーにしてもいいんじゃないかなと思うことがあるわけですが、このル・グィンの「ハイニッシュ・ユニバース」シリーズの場合はヒューマノイドである点にもきちんと理由設定があったんですね。巻末解説で知りました。(以前にも読んでいるはずなのにぜんぜん覚えてませんでした。内容を忘れているのに解説を覚えているわけがない;)

この高度な文明を築いたハイン人の設定は、スケールが桁外れで気が遠くなりそうですが、でも筋は通っている。

また関係ないけど、ヒューマノイドでない異星人たちがでてくる話って、どんなのがありましたっけ?
私が思い出せるのはピアズ・アンソニイ「クラスター・サーガ」だけだなー。
べつに読みたいわけではないんですが、なんとなく思いついたので書いてみました。

さらに余談。

私の持ってる本は1983年のハヤカワSFフェアのときのものなんですが、カバーイラストがすごく渋くてよくこんなのに手を出したなあ私、と思います。
ぜんぜん美形じゃないゲンリー・アイの冬支度ワンショットなんですよ。いまみると、毛皮の帽子を被ってるわりに耳が丸出しで、これちょっとまずいんじゃないかとふと思ったりした。

『犬夜叉 45』

犬夜叉 (45) (少年サンデーコミックス)
高橋 留美子
4091203507



読了。

戦国時代にトリップした女子中学生日暮かごめが、半妖の少年犬夜叉や仲間たちとともに四魂の玉のの欠片を求めて旅をする、伝奇アクションコミック。シリーズ第四十五巻。

すっかり月一でしか読めなくなってしまった『犬夜叉』です。

この巻はひきつづき、奈落対、奈落の分身・魍魎丸と赤子の対決。

プラス、四魂の玉をひとつにしようとする巫女翠子の遺志に無力化されてしまうようになった欠片のために危険にさらされることになった鋼牙君と、やはりひとつに集めて一気に浄化しようとする桔梗から琥珀くんを、それぞれから守ろうとする犬夜叉たちが、奈落との戦いのなかで葛藤する話になっています。

奈落のなかでの争いに犬夜叉たちは直接かかわりがないような気がします。どちらが勝っても強敵に変化するのは眼に見えているから。それにどうせ奈落の心は引き継がれるんだろうなと思うし。

ただ、わずかに奈落の手を逃れている四魂の玉の欠片を所持しているものたちの運命に、スリルを感じて読んでいました………んが。

ええっ、そんなところから!?
という不意打ち攻撃を喰らって目眩がしてしまいました。

うわー、たしかにそういう運命が待っているという設定がありましたよ。
でもこのところののんびりゆったり展開ですっかり油断していました。
それがいきなりここに来て生き返るとは!

考えてみればこれは相当重要な伏線なので……いや最初は伏線なんかじゃなく公然としていてただ私のなかでいつのまにか伏線化していただけなんですが、これは回収しないとやっぱりかなりまずいでしょう。
その回収がいまはじまったってことは、つまりようやく終わりが見えてきた、てことか……!

うーむ、なにか感慨深いものが……。

ここまできたら一気に最後まで読んでしまいたいですねえ。
それができるならとうにしているんですが(涙。


犬夜叉 (46) (少年サンデーコミックス)
4091205585

『月夜のチャトラパトラ』

月夜のチャトラパトラ (文学の扉)
新藤 悦子
4062158647



[Amazon]


読了。


トルコの世界遺産カッパドキアの洞窟を改造したホテル、ペリバジャス。あるじの父親アタ、母親アナとともにホテルで暮らす少年カヤの視点で、カッパドキアの景観と自然、トルコの文化などを織り交ぜて描く、ファンタジー。


この話はとっても好きだー!!

なにしろあのカッパドキアですよ。奇岩の風景が世界遺産に指定されているトルコの土地。
しかもその岩に昔の人が掘った洞窟を改造したホテルが舞台なんですよ。

しかも、あたたかく薄暗く居心地よい空間に、美味しそうなトルコの食べ物がふんだんに登場。
ぶどうの絞り汁を煮詰めた甘味ペクメズとか、餃子みたいなマントゥとか、ああ私も食べてみたい~という欲求に駆られます。

もうそれだけで私としては充分なのですが、そのうえにこの話にはかつてここにあったという古代都市ソベソスが出てきてしまったりするのです。

登場人物たちはカヤをのぞいて皆大人ですが、それぞれに個性があり癖があり欠点がある、大人らしくない大人たちなのもいい。

寒い月夜、ぬくぬくとした家の中で甘い飲み物を飲みつつ読みたいなあと感じる、ほっこりとしたお話でした。

アナのよくするコーヒー占い、『イスタンブールの群狼』にも出てきたような気がしますが、いったいどうやってコーヒー滓から何かを読みとるんでしょう。

してもらいたいとは思わないけど、自分でやってみたいような気がする……。

書き忘れてましたが、著者はオスマントルコ時代を舞台にした『青いチューリップ』を書かれた方で、ノンフィクションも書かれる方です。あとがきによるとカッパドキアの洞窟ホテルに実際に何度も宿泊されているらしい。なんかいいなあ。

青いチューリップ (講談社文学の扉)
新藤 悦子 小松 良佳
4062125862

『おとめ妖怪ざくろ』1~3

おとめ妖怪ざくろ 1 (バーズコミックス)
星野 リリィ
4344811879



借りて読了。

妖怪と人間が共存する明治維新後の日本で、ともに戦うパートナーとなった半妖の女の子と陸軍少尉と周囲のものたちの活躍を描く、ファンタジー活劇ラブロマンス。


開国した日本は太陰暦から太陽暦に改暦した。そのことが気に入らない妖怪による人間への嫌がらせ事件を解決するために創設された『妖人省』。
そこに妖怪側から派遣されることになったざくろは、人間側からやってきた陸軍少尉・総角景と出会う。
絶世の美男で王子様キャラかと思われたかれとパートナーを組むことになったざくろは胸をときめかせたが、景がじつは妖怪嫌いで臆病なヘタレ男だったと知り、失望する。


というところから始まるお話です。

少女マンガだなあ!
とにかく絵がとっても愛らしいです。特に女の子が。
男性陣のちと骨格のはっきりしないプロポーションが気になりますが、美形はとっても甘く描かれています。

開国後、ちょっと時間が経っているのでしょうか。
明治よりは大正の雰囲気で、総角少尉との出会いでは大和和紀『はいからさんが通る』を思い出してしまいました。

いっけん男女パートナーによる退魔物の体裁をとってますが、本筋は少女漫画的胸がキュンキュンストーリーだと思われます。

一巻を読んだときはかわいいけどかわいいだけのような気がしましたが、二巻、三巻のほうが面白いですという貸し主のお言葉を信じて進みましたら、本当でした。

ヘタレな王子様とツンデレ半妖娘だけじゃなく、そのほかにもいろいろとラヴな展開でキュンキュンしまくってます。

中途半端に青春してるとこっぱずかしい私ですが、ここまでキュンキュンだと、いっそ爽快!

というわけでけっこう楽しみました。
また貸してもらったら読むと思います。


おとめ妖怪ざくろ 2 (バーズコミックス)
4344814118

おとめ妖怪ざくろ 3 (バーズコミックス)
4344816226

『おおきく振りかぶって 13』

おおきく振りかぶって Vol.13 (アフタヌーンKC)
ひぐち アサ
4063106055



借りて読了。


等身大の少年たちの心理描写が細やかな高校野球マンガ。シリーズ第十三巻。

夏の甲子園埼玉大会の五回戦。対美丞大狭山戦のつづきです。

うーんと、前巻ではたしか阿部君のサインが見破られて西浦はかなりのピンチに陥っていたんですよね?

と確かめねばならないほど記憶が薄れている私ですが、まあいいや、と前後関係をあんまり気にせず読んでしまう人だったりもするのでそれほど支障は感じなかったです。

野球なんて局面局面の積み重ねさー。まあ、試合の流れも大事ではありますよむろん。でも局面だけでも楽しめるのが野球ですよ。チーム戦であるにもかかわらず個人プレーがはっきりと大きな部分を占めるめずらしいスポーツなんです。

だから投手対打者という構図が成り立って、松坂対イチローなんてのがもてはやされたりするわけです。

そんなのはマンガには関係ないですけどね。一野球ファンとしての個人的見解でした。

ということで美丞大狭山戦です。
あいかわらず細かい野球しているねえ。
美丞大は強豪校でスタッフも充実しているだろうから当然なんだろうけど、西浦がこのレベルで戦えているのは監督の手腕が大きいと思われます。

高校野球の監督は選手を育てるところからするのだから、大変ですねえ。
技術はもちろんだけど動機付けやら意識改革やらをまだ人間としても固まっていない高校生を相手にするのだから、責任重大。
まあ、高校生は大人よりも柔軟だから飲み込みは早いかもしれませんが、それだからこそ、誤った指導をしたら少年たち個々の性格や人生をも左右しかねないわけで。

モモカン、若いのにすごいなあ、と毎回感じます。
それでも実戦ではまたいろいろとあるんですねえ。
それで選手たちに助けられたりもする。
若者は日々成長していくんですね。

今回の最大の山は阿部君のアクシデントだろうと思いますが、ここでチームをまとめるきっかけをくれたのは田島君。

田島君はいいところをさっとかっさらっていってしまう才能がありますな(笑。

でもって不穏な伏線が次第に進展しているのにも興味津々です。
美丞の捕手とコーチ。コーチと監督の間にあるのはいったい何。

この巻でおおよその出来事は推測できるけれども、呂佳コーチの動機がいかなるものかが次巻の読みどころになるのかなーとか、勝手に妄想しています。

どんな動機があったって絶対に許されることじゃないと、思うけどね。

というわけでつづきが大変に気になります。
この巻まるまるが2007年に雑誌掲載された分だなんて、なんという殺生な単行本化ペースなんでしょう。
テレビアニメ化セカンドシーズンが決定だそうですが、放送開始前後につづきが出なかったらただじゃおかないよと言いたいです。

とか言いながらこの巻からひとに借りて読んでいるんですけどね(汗。

『さよならピアノソナタ』

さよならピアノソナタ (電撃文庫)
杉井 光
484024071X



[Amazon]


ボーイミーツガールの青春音楽小説。



機械いじりが好きな少年ナオは、粗大ゴミの不法投棄所を《心からの願いの百貨店》と名づけて秘密の場所にしていた。その日もひとりでひそかに掘り出し物を探しに訪れたナオは、そこでとてつもない音楽と出会った。うずたかく積み上がったゴミの山で鳴り響いていたのはオーケストラの音だったのだ。父親が音楽評論家をしているからナオは耳だけは肥えている。得も言われぬ響きに呆然としたが、そこにいたのは廃品のピアノを弾いている少女がひとりだけだった。ナオの存在に気づいた少女は敵意をむき出しにして威嚇する。不快なやりとりのなか何故か少女の壊れたカセットレコーダーを直してやったあとで、少女にここであったことは全部忘れろと命じられた。ナオは不愉快だったが、少女の顔に見覚えを感じることに疑問を覚えてもいた。




ああ、もうすこし若いときに出会えていたらよかったのに!
と感じる小説でした。

読みながらなんどもなんども、なんてこっぱずかしいの、若い、若い、青春だあ、と悲鳴をあげてました。

でも惹きつけられていく。とくに素晴らしいのは音の描写。言葉にするのがむずかしい様々な音楽のイメージを、クリアな輪郭をもって伝えてくれる、じかに肌に響いてくるようなのがすごい。

こんな感覚を味わうのは若木未生の『グラスハート』以来なんじゃないかと思います。
音楽の雰囲気を伝えてくれる文章はそれほど珍しくはないけれど、音そのものの存在感を感じさせてくれる文章にはあんまりお目にかかれないような気がする。音楽そのものを聞いてもその感触を曖昧にしか感じとれないひとでも、この文章を読んだら音楽を聴きたくなるんじゃないかと、そんな気持ちにさせてくれる文章でした。上手い!

だから冒頭に戻るわけです。
青春小説にこっぱずかしさを感じる自分が生まれないうちに読めればよかったのに。
そうしたらもっともっとこの世界にのめり込めたのに。もっと共感できたのに。

若人たちを「若いぜ」と客観的に見まもるような年齢になってしまった自分が、ちと寂しい読書でした。

でも音楽はいいよね。
聴くのもいいけど演奏するのもいいよね。
そして演奏するのはひとりよりも仲間とのほうがいいよね。

というわけで、バンド演奏のシーンの文章がまたすばらしくて、うっとりしてました。

だからワタシ的には音楽と関係ないシーンが邪魔でしょうがなかったです(苦笑。

クラシックとロックに関する蘊蓄がさりげなくいろいろあって、自分の知識の中途半端さにがっかりしつつも、この作者さんはほんとうに音楽に対する造詣が深いんだなあと感心しました。

青春と音楽。
いや、私としてはむしろ音楽と青春。

この話シリーズ化されていてつづきがあるのですが、いったいどうなっていくんだろう。
バンド活動ができるのでしょうか。

正直に言ってヒロインにはあんまり興味が持てなかったのですが、借りられたらつづきも読みたいと思います。


さよならピアノソナタ〈2〉 (電撃文庫)
4840241953

『千年の黙 異本源氏物語』

千年の黙―異本源氏物語
森谷 明子
4488023789



[Amazon]


読了。


『源氏物語』を執筆中の紫式部が探偵役を務める、平安朝の雅な貴族社会を舞台にしたミステリ。
第十三回鮎川哲也賞受賞作。

『七姫幻想』が面白かったので同著者の本をまた借りてみました。

視点人物ははじめのうちは紫式部(作品上では藤原香子)につかえる女童あてきで、そのうちあちこちに飛びますが、最後まで式部は権力争いから身を隔て、おのれの創作に打ち込むひとりの女性として描かれています。頭のめぐりはいいのだけれど服選びのセンスがないとか、ものすごく不器用で紐ひとつ結べないとか、なかなか親近感のあるキャラクターでした。

タイトルから受けた重々しい感じは完全に裏切られ、雰囲気的には氷室冴子を読んでたような感じでするするっと読めました。
面白かったです。


第一部 上にさぶらう御猫(長保元年)
第二部 かかやく日の宮(寛弘二年)
第三部 雲隠(長和二年―寛仁四年)
附記

第十三回鮎川哲也賞選考経過
選評 笠井潔
選評 島田荘司




第一部は。帝の寵愛の深い猫の命婦が行方不明になったところから、あちこちで猫盗難事件が起きる謎を追いながら、子供から少女になりつつあるあてきの初恋が描かれていて、少女小説の読み心地。

第二部は、中宮彰子に献上した『源氏物語』からいつのまにか「かかやく日の宮」と題された一帖が行方不明になっていたことが判明し、それがいつどこからか、何故なのかを探るミステリ。

とくに私が印象深かったのは第二部です。
ここにはいったん作者の手を離れた創作物がどんな運命に晒されるかが描かれていて、創作者ならいろいろと感じることがあると思う。

とはいえ、源氏物語のみならず日本の古典に知識がそうがあるわけではないワタクシ。
ここで問題になっている「かかやく日の宮」散逸説なんてまったく欠片も存じませんでした。
そもそも、源氏の君と藤壺の初めの逢瀬のシーンが原作にはないということから知らなかったのでして、ええーっそうだったんだ! 状態だったので、この作品を隅々まで楽しめたとはいえないような気がするのでした。

つまり『源氏物語』を原本で読み通したことがないわけです。古文の授業でつまみ読んだだけで。
通して読んだことがあるのは大和和紀『あさきゆめみし』と橋本治『窯変源氏物語』だけだ。
そのどちらにもあのシーンはあったと思うのですが、もうその記憶も彼方なのでいまいち自信がありません。

あーでも、そうか。
それで藤壺の女御の生理周期とかが問題になるわけですな。日本文学的に。
日数が合わないということで。

まあ、そういう古典文学的な教養を持たない私でもけっこう楽しめたおはなしでした。(ミステリ的にとはいえないけど。ミステリ要素に関する教養度も古典とどっこいどっこいだ)

少女の日々に氷室冴子に親しんだ記憶のある方なら楽しいのではないかと思いますです。

ちなみに、すでに文庫化されています。
図書館では借りやすかったハードカバーを借りました。


千年の黙 異本源氏物語 (創元推理文庫)
4488482015

『獣の奏者 IV 完結編』

獣の奏者 (4)完結編
上橋 菜穂子
4062156334



[Amazon]


いただいて読了。


聖獣と闘蛇、謎に包まれた生き物を象徴とするふたつの系譜に率いられてきた王国で、けして操れないとされていた聖獣と心を通わせたために苦難の道を歩むことになる女性エリンの生を描く、異世界ファンタジー。完結編。


侵略を企てるラーザの軍隊に対抗するため、聖獣を戦闘力として組み込むことを決定したリョザ神王国。エリンは真王セィミヤの命により、リランたち聖獣を繁殖させ自在に操る訓練を重ねつつ、予言された悲劇の真実とそれを回避する術を探りつづける。エリンの息子ジェシは聖獣に没頭する母親と闘蛇使いとなって家を離れた父親イアルに置いていかれた寂しさを、リランの子供アルによって癒していた。




うーん、やはりこうなってしまったか。
ある程度予想はついていましたが回避するすべを模索しつづけるエリンの姿に、もしかして、と一縷ののぞみを抱いていたのですが。

ひとのできることには限界がある。ひとりの人間ならば限界はすぐに見えてくる。
エリンの苦悩はすべてをひとりで背負い込むことになったこと、すべてをまっさらな状態で始めなければならなかったこと。そして刻々と変化する状況が、猶予を与えてくれなかったことだと思いました。

人間には知識欲があるけれども、すべてのひとが一から始めていたのではまったく進歩がありません。そこに記録し伝えていくという行為があってこそ、ひとの経験は受け継がれ大きく前進していくのだと、エリン自身も知っています。

失われてしまった歴史的な知識の、いかに価値高く尊かったことか。
その知識が失われたのは、直接的には不幸な事件が原因ではありますが、まず第一に為政者たちが知識を独占していたためでした。

それが情報開示が重要である理由なのですね。

その知識が秘密でなければ、どこかでだれかが道を誤ってもそれを指摘し正そうとするものも現れるはずだから。

知らないということはどれだけおそろしいことなのか。
それを身を持って示した上で、現実を受けとめる潔さがエリンにも真王セィミヤにもあって、それがこの物語が理想を示すことのできるファンタジーである理由だと感じました。

現実社会ではたいてい命じたものはなんだかんだいって責任逃れをしてしまうものです……。

たいそう重たいテーマを重たく扱っているお話でした。

まるで大作映画のようなスケールで、上下巻を一気に読まなかったことを少々後悔いたしました。
ひと休みしてから読み出した下巻の冒頭で一気にとんでいく時間経過に、ちょっと呆然としてしまったので。

たぶん、時間がないというエリンの焦りをあらわすためだったろうと思うのですが、ここのあたりでもう少しエリン一家に感情移入できるシーンがあれば嬉しかったなとちょっと残念。ひとつひとつのシーンのブツ切れ感とか、描写の減少とか、ワタシ的に残念なところでした。

このシーンのブツ切れ感が総集編みたいな印象につながって、最終的にはクライマックスでの登場人物たち――エリンたちとの距離感に繋がってしまったような気がします。

だから映画みたいだなあと――思ったわけですが。

ここからはさらに余計な話ですが、この話を統一感を持ったすべて地続きの話として提示するにはとか、いろいろ考えてしまいました。

とても面白かったので、残念な部分が残念すぎてしまうようです。

さらに余談。
異世界的普通名詞で〈獣ノ医術師〉というふうに「ノ」でつなげる書き方が、個人的に『パーンの竜騎士』シリーズを彷彿とさせられて萌えましたw

『夏目友人帳 9』(追記あり)

夏目友人帳 9 (花とゆめCOMICS)
緑川 ゆき
4592186699



読了。


人ならぬモノが見えるために孤独に育った少年夏目の、不器用ながらも周囲とのかかわりをつくっていく姿を描く、日常ファンタジーコミック。第九巻。

祖母レイコさんの形見であるあやかしの名を記した友人帳を手に入れたせいでつねに人ならぬモノが近づいてくる夏目少年に起きる、小さな災難の数々を描くシリーズ。

安定した面白さでした。

前巻ではわりと人間寄りの生活をしていた夏目ですが、今回はまたぐいっとあやかし寄りの展開でした。

異種ゆえになかなか相互理解の難しいあやかしに対する夏目の態度には、少々あやういかなと思う場面があったりもしますが、あやかしよりも敵意の強い同種つまり的場一門のおかげで人間に対しても警戒が高まってしまうあたり、なかなか複雑な感じです。

夏目の立場はあやかしと人間の中間で、どちらにもシンパシーを感じていてどちらとも仲良くしたい拒絶したくないというのは、寂しさを抱えた少年としてはごく自然な態度なのかもしれませんが。

おそらく人間としての一般的な態度は的場一門が象徴していると思うのですよね。

人間もあやかしも等価であつかう夏目の存在は現代の人間社会ではかなり異端だと思われます。
異界のものと人間を区別しないということは、死と生を区別していないということ。
つまり、夏目の意識は死者も生者もそのまんまここにいるという、古代のひとびとの意識とおんなじなのかなーと思ったりしました。

そうか。夏目の意識は先祖返りの意識なのですね。

それにしても、レイコさんというのはいったいひとだったのか。
夏目の親はレイコさんの娘なのか息子なのかもぜんぜん出てこないし、レイコさんのお相手なんか謎そのものです。

レイコさんはつねに女子高生の格好で出てくるわけですが、それってそのお年頃で亡くなったということなのかなー?

夏目ですら意識にものぼらせないということは、よほど一族でタブー視されていたのかなと想像してしまいます。

この話のなかでそんな年代記的な事実が明らかになるとはあんまり思えないわけですが、いろいろと考えとしまう今日この頃です。

ところで、ニャンコ先生がイカにこだわっていたような気がするけど、猫ってイカを食べても大丈夫なのでしょうか。


-----------------

追記。

レイコさんは夏目の母方の祖母です。
九巻にちゃんと書いてありました。

拍手コメントで情報をくださった方、どうもありがとうございます。

興味があるくせに何故読み飛ばすのだ、自分よ。


『獣の奏者 III 探求編』

獣の奏者 (3)探求編
上橋 菜穂子
4062156326



[Amazon]


いただいて読了。


謎の生き物闘蛇と聖獣。それらを象徴する一族を柱とする国で、だれにもできない聖獣を操る術を得たがために様々な争いに巻き込まれることになった女性・エリンの生き方を描く、生活感たっぷりの異世界ファンタジー。第三巻。



〈降臨の野〉での事件から二十年。リョザ神王国で獣の医師となったエリンは大公のよこした護衛と共に闘蛇衆の住む隠れ村に赴いた。この村では闘蛇の〈牙〉がいっときに全滅したという。母親の死のきっかけとなった過去の苦い記憶を噛みしめながら、〈牙〉の死の原因を探るエリン。禁忌とされる腑分けまでして突き止めたのは、死んだ〈牙〉がすべておなじ年齢のメスであるということだった。夫と息子から離れ、交尾期を迎えた聖獣リランを放置していることが気になるエリンだったが、護衛ヨハルの強い要請によって〈牙〉の大量死の発生例がない最古の闘蛇村に向かう。そこで意外な過去の真相を垣間見たエリンだったが、突然何者かによって襲われ、拉致されそうになる。




第二巻の聖獣編で完結したのだと思っていた『獣の奏者』。
二十年間のインターバルを挟んでのつづきは、初めから周到に用意されていた物語でした。

エリンの母親の謎の言葉や行為が、ここでこんなに生きてくるなんてぜんぜん想像してなかった。
霧の民だった母親の闘蛇に対する態度の原因がおぼろにつかめたとき。その嘆き、苦しみ、哀しみが、今度はエリンのものとして甦るのです。

そしてエリンにも今は守るべき息子と夫がいます。
十代からの二十年は人生の激変期ですもんね。
でもエリンはこの二十年をおおむね幸せに過ごしてきた模様です。
三十代になったエリンの年齢を感じさせるあちこちの文章にはちらと笑みが浮かんだり、そうなのよねーと共感したりしました。

でも、その幸せな時間は終わりを告げたと、エリンは自覚します。
そもそものはじめから、穏やかに過ごせる時間は少ないと彼女と彼女の夫は予期していた模様。

こんな期限付きの幸せって……と思いつつ、だからこそ時を惜しんで大切に過ごしてきたのだろうなという想いにひたってしまい、緊迫した展開のなかでふり返られる過去に胸が苦しくなったりしました。

〈牙〉の大量死から見えてきたのは、建国神話の裏に隠されてきた真実。
真王の系譜が聖獣を、太守の系譜が闘蛇を、それぞれにあずかり受け継いできたことの本当の意味はなんなのか。

リョザ神王国をおびやかす大国の存在と、いまだに一体感を持てずにいる国民たちの板挟みになって苦悩する大公シュナン。真王としての自分に自信が持てないセィミヤ。

ゆれうごく王国の内外情勢に次第に絡めとられて身動きできなくなっていくエリンたちの姿が、とても痛々しい展開でした。

この先、どうなるのかわかりませんが、なんとなく大団円は望めないような気がするなー。

ところで、リョザ神王国って将軍家と天皇家の婚姻が成功した開国間際の日本のシンプル版、のような気がします。

シンプル版なので外圧はひとつに絞られ、大公家と真王家の結びつきもごく単純にわかりやすくなってます。

そうすると〈血と穢れ〉は新選組みたいなものかなーとか(苦笑。

それから闘蛇と聖獣に与えられている特滋水ってホルモン薬だよねーとか。
どうやって特滋水をつくるのか忘れましたけど、牙を大きくするのだからきっと男性ホルモンに違いない。

忘れたと言えば、第二巻までの話をワタクシあらかた忘れておりました。
エリンがリランに会って笛なしで育てるあたりまでは覚えているのですが、そのあとの真王と大公が出てきたあたりからごっそり消えていた(汗。

それでも混乱せずに読めたのは、年末にたまたまエリンのアニメをチラ見したおかげです。
イアルなんてアニメを見なかったらほんとに忘れたままだったよ。なんという薄情者でしょうか。
〈堅き盾〉、ああそんな人たちもいたっけ……てな世界でした。盛大に反省しています。

エリンの息子八歳のジェシは口が達者すぎるのが特徴の男の子。
八歳の男の子にしてはいろいろ観察できる子だなー。

この子が重苦しい雰囲気を和らげているのは確かなんですが、この子視点のシーンはちょっと話の次元がいきなりずれる気がして読みにくかったです。視点人物が大人ばかりの児童書はつらいかもしれないけどね。でもこれって児童書なのかという疑問も。

本の仕様は児童書だなと思います。
字は大きく字間もひろく、余白がいっぱいとってある。

そのためか、ハードカバーだぞと身がまえたわりにはさくっと読めました。
いただいて読んでいるのになんですが、自腹を切ってたら肩透かし喰らっていたかも知れません(汗。

さあ、これだけ書いたのでつづきを読めます。
一時停止で別の本を読んでるのは辛かった。

書くの忘れてましたが、とっても面白かったです。
いざ、続きを読まん!


獣の奏者 (4)完結編
上橋 菜穂子
4062156334

20100104の購入

2010年、初めての本屋襲撃です。

夏目友人帳 9 (花とゆめCOMICS)
4592186699



以上、購入。

今年の初買いは『夏目友人帳』となりました。

そのほかにもいろいろと眼を惹かれるものがありましたが、今月はたくさん買う予定があるので我慢我慢で帰宅。

外はとても寒くて風も冷たく、重装備で出かけたにもかかわらず、その後身体中がこわばってなかなかほぐれませんでした。

なんだか筋肉痛っぽい感じ。

まだ毎日散歩してますが(元日から。いつまでつづくかは不明)、こんなに疲れたのは初めてでした。
寒いからよほど緊張して力んで、必死で歩いていたんだろうな。

しかし、意外にも歩数としては一番少なかったのでした。
おまけに夕方空腹すぎて年賀でいただいたショコラをついつまみ食ってしまい、体重増加。

……こんな無念なことはもうしない。

『バガボンド 8』

バガボンド(8)(モーニングKC)
井上 雄彦 吉川 英治
4063287203



借りて読了。


江戸時代初期の剣豪・宮本武蔵の若き日を描く時代コミック。シリーズ第八巻。


ひたすらに“強さ”を追い求める男たちの物語。

今回はひきつづいての武蔵と胤舜との対決。

無敵の強さを誇る胤舜の人間としてのいびつさの理由がその対決中に語られるという、スピード感を殺しても深みをとるぞ、という決意表明のような展開でした。

アクションも手を抜かないけど、魂をこそ追求するぞ、というような。

胤舜の魂が思い出す過去の出来事が、胤舜だけの個人的な体験として展開せず完結もしないところに唸らされました。こんな書き方があったんだ……。すごい離れ業だけど、有無を言わさず納得させられてしまった。うーむ……。

胤舜の開眼を武蔵がどう受けとめたかはいまいち不明というか、まだ自分のことだけでせいいっぱいて感じですが、武蔵もまた、半歩ずつでも前進しているなと感じました。

なのに又八ったら………。
出てくる度に失望アンド失笑してしまう。
ばあちゃんも息子見つけたら有無を言わさず村につれ帰ればいいのに。

この親子、どこまで行ってもトラブルメイカーなのか。
武蔵だけだと重くなりすぎる話のバランスをとる役割なんだろうけども。

なんにしても又八君はまたやってくれてます、というところで次回へ続く、です。

まったく、どうしてくれようか又八(笑。


バガボンド(9)(モーニングKC)
井上 雄彦 吉川 英治
406328736X

『なつかしく謎めいて』

なつかしく謎めいて (Modern & classic)
アーシュラ・K・ル=グウィン 谷垣 暁美
4309204503



[Amazon]


読了。


様々な異次元を旅行者の視点から描くSF短篇集。

またル=グウィンです。ル=グウィンにはまりそうだ。
今回はファンタジーではなく、情や魂ではなく理知的な視点の印象がつよい、紀行エッセイ的な短篇集です。エッセイといっても行く土地は架空のものだから、SFなのです。

飛行場で搭乗待ちをする退屈で無意味な時間に、ちょっとどこかに遊びに行けるようになったら、という設定で異次元観光をするという、要はほら話なのですが、ほらは自分を大きく見せようとするものではなく、その世界の特異な部分つまり設定部分にあらわれています。

もし、あらゆる生き物に遺伝子改良を施す世界があったら、もし、夢をすべての生き物で共有する世界があったら、もし、言葉をほとんど口にしない世界があったら、もし、季節ごとにすべての人が渡りをする世界があったら、もし、王族だらけの世界があったら……。

つまり、すべてはifの世界。

ときに風刺的な寓話のようだったり、SF設定のファンタジー風味だったり、滅びた文明の伝説のようだったり、いろんなテイストの話があって、様々な楽しみ方のできる本でした。

観察者視点で語られる話なので適度に距離があり、わりとかろやかに読める感じがした。
読後感はずしりとくるものもありましたが。

以下、収録作品です。


はしがき
シータ・ドゥリープ式次元間移動法
玉蜀黍の髪の女
アソヌの沈黙
その人たちもここにいる
ヴェクシの怒り
渡りをする人々
夜を通る道
ヘーニャの王族たち
四つの悲惨な物語
グレート・ジョイ
眠らない島
海星のような言語
謎の建築物
翼人間の選択
不死の人の島
しっちゃかめっちゃか

訳者あとがき




一編一編が密度の濃い、それだけでも読み応えのある話ばかりで、読み終えるのにかなり時間がかかりました。ひとつ終えるたびにいろいろと考えさせられてしまいまして。

現代文明の風刺として読める話がたくさんあってそれらもとても面白かったですが、私は文化人類学的な要素を含んだ話のほうが好きだし、楽しく読みました。

とくに一番好きなのは「渡りをする人々」だなー。

思考実験的なものはまさにSFという感じがしました。眠らない天才児たちの話は悲惨でした。
翼人間もほとんどはそうなんですが、でも翼のあるなしでの意識の違いにうーんと唸ってしまった。

読み終えて思ったのは、ル=グウィンの作品において、SFは観察者的な立場で書かれているものが多いのかなーということ。
それに比べるとファンタジーは視点が内側にある気がする。
というのも、おぼろな記憶から言っているので確かなことではないのですが。

大昔に読んだ『ロカノンの世界』とか『闇の左手』とか、ほとんど覚えていないのでまた読み返したくなりました。

というか、読み返したいです。

『バガボンド 7』

バガボンド(7)(モーニングKC)
井上 雄彦 吉川 英治
4063287025



借りて読了。


江戸時代初期に生きた剣豪・宮本武蔵の若き日を描く、時代コミック。シリーズ第七巻。


2010年初読みは『バガボンド』でした。
今年の読書路線がこれで予想できる……かどうかは疑問ですが、やっぱり面白かった。

登場人物の肉体の存在感もすごいのですが、この方のマンガは背景も一体となった画面作りが雰囲気たっぷりで素晴らしいと思います。

森のなかで立ちはだかる武蔵の姿の迫力ときたら……!

武蔵と胤舜の対峙する緊迫したシーンでの、じいさん胤栄の回想がまた意味深で。

話はなかなか進まないのに内容はものすごく濃くて深いマンガだなーと思いました。

戦いは相手が在ってのものだけれど、じつのところ、自分との戦いでもあるのですね。

そんなふうにどこまでいっても男の世界なのも、いっそ潔いかと。

つづきも借りてあるのですみやかに読みます。

しかし全編このペースで進まれると話の全体像を忘れそうで困るなあ……たぶん私だけだろうけど(汗。

そういえば又八がまったく出てこなかったな……!



バガボンド(8)(モーニングKC)
井上 雄彦 吉川 英治
4063287203

新年あけましておめでとうございます

今年の私の目標。

本を読む。感想を書く。量はそれなりに。そのために面白い本を見つける。

創作サイトを更新する。そのために更新材料をつくる。つまりお話を書く。できるだけたくさん。(できるだけ、というのがミソ;)

居間の片付けをする!

体脂肪を減らす! そのためにできるだけ毎日散歩をする!


とりあえず、最後のだけはもう始めてます。昨日外を歩いてきました。寒風吹きすさぶなか。寒かったです。

本はできるだけ効率よく面白い本と出会いたいです。節約生活はさらに厳しさを増しておりますので。新刊がないときは昔読んだ本を再読しようかと思ってます。すっかり忘れているから初読とおなじように楽しめると思います(苦笑。


というわけで、今年も主観的な感想をたれ流していくかと思われますが、おつきあいのほどどうぞよろしくお願いいたします。

『鳳船の書 暁と黄昏の狭間VI』

暁と黄昏の狭間VI 鳳船の書 (トクマ・ノベルズEdge)
西魚 リツコ D-SUZUKI
4198508402



[Amazon]


いただいて読了。


世界に潜む力を利用しすぎたために起きる災厄を人間同士の争いとともに大きなスケールで描く、魔術的異世界戦乱ファンタジー。シリーズ完結編。



解き放たれたボルジの呪いとともにリヴォから脱出したセフルは、ギルダン・レイの命でセゲドの民をドムオイへ導くことになった。ところが渦の海で雇った水先案内人によって水賊に船ごと売り渡されてしまう。水賊の頭領ハンチェッタの元には、友人の魔術師エイメ・バジールの姿があった。セフルと別れ、ボルジの呪いを解くミリディアンとともにリヴォ救済のために発ったギルダン・レイは、ミリディアンのうちに潜んでいた大魔術師サイヤーレに呪縛され、ボルジの呪い拡大のために奉仕させられることになる。いっぽう、ボルジの呪いを解きはなった汚名を着せられたリヴォ参謀総長ケリード・ゼメスタンはリヴォ貴族マナ一族とともに、属国から反乱ののろしを上げた。




読み終えてはーーーっと盛大な溜息をつきました。

なんという圧倒的な物語なのでしょう。
次から次へと変転する登場人物たちの状況もそうですが、次から次へとあらわれる圧倒的な力の及ぼす影響力にボウゼンです。

砂漠のオアシスで人々が崇めた水の神の裏の顔が、こんな災厄をもたらすものだとは。
すべてを押し流してしまう水害ならまだ想像の範囲内だったのですが、まさかまさか、こんなかたちで呪いが現れようとは、思いもよらなかったです。

でも、冷静に考えてみれば、生態系の変化によって生物にさまざまな影響があらわれるのは当然のこと。
災厄の単純で直接的な形は自然災害ですが、疫病だってそのひとつの現れなのですよね。

それにしても病に冒されたひとびとの狂乱のすがたは、まさに神の呪いによってその力に押しつぶされ、自分の意志を失ってちからに奉仕するだけの存在となり果てたもはや人ならぬモノ、としか思えませんでした。

把握しきれない巨大な力を操ろうとした結果が招いた、壮大なしっぺ返しのようでした。

その最大の標的となったギルダン・レイとサイヤーレの、緊張感つづく精神的な攻防戦に手の汗握りつつ、ギルダン・レイにすべてを託されながらも最愛の人の心を信じ切れないセフルの奮闘が健気です。

水賊に捕まったり、渦のなかに放り出されたり、故郷の村に帰ったら帰ったで身内から非難囂々、なんと報われない人生を歩んでるんでしょう。

それでも自分のすべきことを確実に見いだしていくセフルによって、物語も着実に進んでいきます。

ほんと、主役ってなんて損な役回りなんだろう……というのがセフルちゃんに対する私の感想です。

いっぽうで美味しいところをすべてさらっていったのがケリード・ゼメスタン。
かれは災厄の中心から前進するセフルちゃんの手助けをする存在として、世界の今の状況をセフルちゃんに伝える存在として、さらにギルダン・レイの真実を見極める存在として、縦横無尽に活躍してました。

クラスマックスでは、すべての物事が別の次元に上昇していくような、壮大なスケールの力の発現に酔いしれました。

そして、ラスト。
このラストの開放感は、なんとなくSFに近いもののような気がしました。
そして、ワンをすべて把握し管理しようとしたヘン=ジャックたちは、つまりは知識欲の塊のようなとても人間的な人々だったのだなーと思いました。

最後まで、すべてが物語世界と物語に奉仕する、とてもストイックなお話だったなーと思います。
運命に翻弄されつづけた人々が最後に穏やかな居場所をみつけることができて、本当によかった。

ひさしぶりに重量級のファンタジーを読んだなという気持ちにひたった読後感でした。

面白かった!