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『決戦のとき クロニクル千古の闇 6』

決戦のとき (クロニクル千古の闇 6)
ミシェル ペイヴァー 酒井 駒子
4566024164


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読了。

六千年前のヨーロッパを舞台に、邪悪なシャーマンに目をつけられて苛酷な運命と立ち向かう少年の成長を描く、先史時代ファンタジー。完結編。

トラクの〈生霊わたり〉の素質を狙う〈魂食らい〉イオストラの攻撃は、多くの氏族に壊滅的なダメージを与えかねないものとなっていた。氏族の危機に責任を感じ、父親の魂が危機にあることを感じとったトラクは、ワタリガラス族の族長フィン=ケディンの言葉を振りきり、ひとりきりで〈魂食らい〉と対決するために旅立った。




これでもかと悲惨な目にあいつづける少年トラクくんの無鉄砲なたたかいと、かれを兄貴と慕いつづける狼ウルフとかれを想い懸命に支える少女レンの健気な姿を描くシリーズも完結編となりました。

責任感と罪悪感に苛まれつづけているトラクは、しだいにすべてを自分ひとりで背負い込もうとして、他人の助けを拒絶するようになっています。開始当初から三年が過ぎてトラクも十五歳。自己完結っぷりがひどくて鼻につきますが、これも自意識が強烈に肥大する思春期のなせるわざなのかなと思うのでいたしかたないかも。

しかし、トラクが巻き込みたくないと拒絶したウルフはイオストラに目をつけられて悲惨な状況に陥ります。そして、トラクを追いかけるレンにも苛酷な旅路が待っています。

相変わらずのハード環境。ハード展開。
先史時代のひとびとのタフネスさには感心するばかり。

そしてとうとう、〈魂食らい〉イオストラとの最後の対決……。

もうすこしいろいろと書いて欲しかったかなあと思う部分もありますが、内容的にはきちんと完結。きびしいことはいろいろとありましたが、かなり大団円といっていいラストで読後感は悪くなかった。

わたしがもっと読みたいなと思ったのはイオストラの過去だったり〈魂食らい〉たちが集った理由だったりするわけですが、対象年齢や枚数の枠内に収めるためにはこれがベストの書き方だったんだろうなーと想像できてしまうので、しようがないか。ちょっと残念ですが。

最後までトラクを見捨てないウルフとレン。
とくにウルフの姿には和ませていただきました。
自分もひどい目に遭ってるのに、しかもそれはトラクのせいなのに、ま、そのことはウルフは理解していないんですが、危機に陥ったトラクのために全身全霊をかけてくれて、もううるうるしどおしでした。

某作品の狼のことがあったのでウルフのことも相当心配しましたが……よかった。

それと、いままでどおり先史時代の暮らしをまざまざと体感させてくれる描写がたいそう素敵でした。

トラクがもらったあたたかな服の描写は、冬に読みたかったですw


シリーズ開幕編はこちら。
オオカミ族の少年 (クロニクル 千古の闇 1)
ミシェル ペイヴァー 酒井 駒子
4566024113
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『扉守 潮ノ道の旅人』

扉守(とびらもり)
光原 百合
4163287302


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読了。

瀬戸内海沿岸の小さな集落を舞台にした、日常と非日常のあわいと訪れるマレビトたちの交錯する現代ファンタジー。連作短篇集。

すべてことなる少女の視点で、たおやかな文章でやさしく描かれる物語群。
日常におとずれる不思議な出来事と、かろやかにでもひそやかに小さな町を行き来する不思議な人々との出会いが、ちょっとすてきです。

収録作品は以下の通り。


帰去来の井戸
天の音、地の声
扉守
桜絵師
写想家
旅の編み人
ピアニシモより小さな祈り

あとがき



わたしが好きなのは断然「帰去来の井戸」です。
静かで穏やかで哀感に満ちて陰影の深い雰囲気がポイント。

それと、力に満ちた場である潮の道という土地のかがやきがもっとも現れた作品だからかな。

この最初の一編でわたしのこころはぐいと鷲づかみにされました。

とはいうものの、他の話は面白くはあったけどそれほどぐっとこなかったので、ちと残念。
この方のやさしく穏やかな作風は好みなんですが、ウエットな部分がやや苦手なのです。
だから対象と距離があるほうが、読みやすいんですよね。

それと、サブタイトルから推して知るべしだったのですが、旅人が出てくる。そして事件が起きる。
しかし、わたしはこの本では旅人よりも町の不思議の方を読みたかったのですな、おそらく。

読む前に勝手に妄想をふくらますなという教訓を得ました。

本そのものは楽しみました。
瀬戸内のおだやかな風土の描写が美しかったです。


銀の犬 (ハルキ文庫)
光原 百合
4758433410

『500年の恋人』

500年の恋人 (創元推理文庫)
スーザン・プライス 金原瑞人
4488599036


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読了。

二十一世紀から十七世紀へ、スコットランドの悪名高い一族スターカームの世継ぎに恋した現代女性がふたたびタイムトリップする、「タイムトラベル・ファンタジイ」。『500年のトンネル』の続編。

荒々しいまでに幻想の力を感じさせる物語を紡ぐスーザン・プライスの作品。ですが、うーん、、、これはファンタジーとはいえないような気がする。

固定されたタイムトンネルであるチューブの設定は『犬夜叉』の涸れ井戸みたいなものかと思いますが、この設定以外に現実ばなれしているところはひとつもないので。わたしはシミュレーションSFだと思って読みました。


前作とおなじく、十七世紀のスコットランド辺境の暮らしが生々しく描かれているところが好きです。
そこに住むスターカームやかれらと敵対するグラナム一族は、おなじ人間とは思えない価値観のなかでほんとうに生きている異文化人である、その描写にリアリティーと迫力があります。

現代と十七世紀の価値観・倫理観のギャップが、とんでもない状況をひきおこすという点では、前作も今作もかわりはありません。

しかしですねえ。

前作はそのどうしても埋められない隔たりと断絶がラストの哀切に繋がっていたのに、つづきがあると知らされた時点で「あのときの感慨はなんだったの?」という気持ちになりはしませんか。わたしはなりました。

はっきりいって、つづきがあると知ってて読んだら前作にあれほど感動しなかったんじゃないかと思ってしまいます。

この本はおもいっきり前作を前提としているので、ぜひ前作を読んでからとご紹介するのもなにか遠慮がちになってしまうというか。

しかしつづきは出てしまったのでやはり読まねばという気持ちになり、読みました。

読んで「うわあ、なんという極悪展開!」と叫びました。心の中で。

ヒロインの知らないうちに、二十一世紀陣営は決裂してしまった十七世紀とは別の次元の十七世紀と交渉を開始していたのです。
つまり、ヒロイン・アンドリアが出会うかつての恋人ピーアは別人。かれは彼女と出会ったことがない、けど彼女は愛し合った記憶があるという、残念なピーアなわけです。

この、こちらは出会ったことがあり、親しくしていた記憶があるのに、相手は初対面という状況の作り出す微妙な空気がヒロインを泥沼にさそいこんでいくあたり、ひぃ~と悲鳴をあげながら読みました。

前作ではたしかにロマンス小説でもあったのに、今回はロマンスではなく陰謀の臭いばかりがぷんぷんと漂っていて、状況が変化するごとにどんどん悪化していくんだもの。

これは血なまぐさい展開が苦手な方にはお薦めできないかもしれない(汗。

悲劇と憎悪と復讐と暴力と。

プライスの話はハードなものが多いけど、ここまでひどいのは初めて。十七世紀的な価値観で話が収まっていたならばそういうことだよねと思えるところが、二十一世紀価値観が絡んでるからよけいにひどいと感じてしまうのも原因かもしれません。

はっ。もしかしてそれが作者の意図するところなのか?
中世に漠然と憧れるひとびとにそんな甘い物じゃないといいたいの?

たしかに、中世の生活の不潔さとか不便さとかは、体にまといつくように描かれてて、わたしはそこが好きなんですけどねえ。

日常生活のことばかりじゃなく、中世の蛮族的な価値観がどれほど厳しいものであるかということも、強烈に印象づけられたのは確かです。

面白かったです。情け容赦ない展開に泣きながらも面白かった。

しかし、この話、完結してません。
おもいっきり、つづくで終わってる。

うわーん、この先一体どうなるんだよう!

訳者あとがきにも続編の情報はないと書かれているのでこのまま放置されたらどうしような不安でいっぱいです。

そこで、はっと気がつく。
うえっ。自分も似たようなことしとるやん……(大汗。

気をとりなおして。

前作はこちら。
こちらはまだファンタジーの気配があるといえばあるかもしれません。

500年のトンネル 上 創元推理文庫 F フ 7-1
スーザン プライス Susan Price
448859901X

500年のトンネル 下 創元推理文庫 F フ 7-2
スーザン プライス Susan Price
4488599028

20100625の購入

通院帰りに本屋に寄りました。

乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)
森 薫
4047265861

ヴィンランド・サガ(9) (アフタヌーンKC)
幸村 誠
4063106721


以上、購入。


今回行ったのは半年ぶりの病院でした。
といっても今通っている中ではもっとも古くからのつきあい。
なので通院時の巡回コースはほとんど毎回おんなじ、遠いけどなんにも考えずに行けるところだったのです。

ところが、昼食をとるために利用していた某ファストフード店のビル内支店が閉店しているのを発見。
大ショックです。わたしはどこで昼ご飯を食べればいいの?

よく考えなくても店は他にもあるのですが、それまでなんにも考えずに歩いてたので思考停止したまま、「え~と、、、」とそのまま病院に行くことを選びました。

会計が終わるまでにたいそう時間がかかったので、それまでにいろいろ検討できてよかったです。
とてもとてもお腹が減って、へろんへろんになりましたが(汗。

そういえば某銀行の支店もなくなってました。
これまでは長くても二ヶ月おきには行っていたからこんなにギャップがあったのは初めてでした。
都会は半年でこんなに変わるんですねえ。


いや、でも某百貨店内の某書店のレイアウトが変わってることはこれまでもけっこうありましたが。あの書店はいまも試行錯誤をくり返しているのだろうかw(今回は行かなかったのです)

これからはどこかに行くときは事前に店を調べておこうと心にメモした出来事でした。

『天地明察』

天地明察
冲方 丁
404874013X


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読了。

江戸時代初期、戦乱から幕府による泰平の世へと移り変わる中、社会を支えるシステムとして改暦に取り組むことになった碁打ち衆の若者の生涯を描く、歴史小説。


碁をもって徳川家に仕える“四家”のひとつ、安井家の跡取りである安井算哲は二十二歳。決まり切った定石をうちつづける毎日に飽いていた。さいわい、父親の晩年の子であったため、お役目は養子である義兄が立派に果たしている。しいて一家を支える必要に迫られず、渋川春海と名乗るようになったかれを虜にしたのは、算術だった。渋谷の金王八幡神社でたくさんの“算学奉納”の絵馬を眼にして興奮した春海は、そこで関孝和という天才とすれちがった。そしてまたその日、江戸城で老中酒井忠清の相手に指名される。




第三十一回吉川英治文学新人賞受賞作であり、2010年本屋大賞の受賞作。

『マルドゥック・スクランブル』や「シュピーゲル」シリーズの作者が、歴史小説?
と驚いているうちに、あちらこちらで話題になって賞も受賞してしまったので、うわあ、どうしようとおもいながらも予約順がまわってくるのを待っていた本です。ようやく読めました。

面白かった!
期待からはちょっとはずれていたけれど、それでも面白かったです。

僭越なことを書きますが、この作品で著者はこれまで積みあげてきた自身の作品を描くための技巧をすべて放棄している、ような気がします。

これまでの冲方作品のイメージをそのまま予想していたら、肩すかしを食らいます。
ここには、言葉遊びもこだわりのディテールもアクションもバイオレンスもありません。
登場人物がどんな服を着ているかすら、わからない。

でも、たしかに著者が書きたかったものを書いたという思いの伝わってくる作品です。

それは、高いこころざしであり、あきらめない精神なのではないか。
ここに描かれた精神は「シュピーゲル」シリーズで受けとめたものと繋がっているような気がしました。
シュピーゲルシリーズに施したさまざまな装飾をあえて捨て去って、そのテーマに真っ直ぐに素手で取り組んだ作品なのではないか。

とにかく、若い。前向き。
という印象が残るのは、宮城谷作品のあとに読んだからかもしれませんが。

歴史小説としてときに俯瞰的に後世から見た視点が混ざりはしますが、基本的に江戸時代を現在としてあらたな秩序を打ち立てようとするひとびとの奮闘の姿に、深く心を打たれました。

まるでプロジェクトXみたいだなー。いや、わたしはプロジェクトXはあんまり見てないんですが;

人々のひたむきさが好印象な話ですが、とくにわたしのお気に入りは、全国各地を天測してあるく大旅行にわくわくと飛びこむ爺様たちです。
会津藩主さまや水戸光圀公も捨てがたいけど、やっぱ建部さまと伊藤さまは特別だ。

碁打ちの同僚・本因坊道策君は、数少ないラノベの遺産でありましょうか。かれはかわいい奴だと思います。

すれちがってなかなか出会えない、まるで片恋の相手のような関孝和氏の後半の活躍は見事です。

泰平の世を安定させるためのシステムを生みだしていこうという、数多くの人間の意志が春海という人物に結実して、かずかずの挫折を乗り越えさせ、多くの成果を生み出していく時代の波を感じる展開にも熱くなりました。

暦がどれだけ日本の人々の暮らしを左右しているか。
京都の公家や天皇家と、江戸幕府との関係。
日本における宗教勢力の大まかな状況まで組み込んで、情報量は膨大な数に上りますが、それをうるさいと思わせない話運び。

必要なことだけが必要なありさまで書かれた、骨太な小説でした。
あらけずりとは思いますが、それを補ってあまりある熱気がたちのぼるような作品で、ひさしぶりに爽快な読後感でした。

わたしとしてはもすこし情景などがあってもいいようなきもしますが、この作品はそんな話ではないという気もする。うん。

あとはあれだ。数学がわかるひとにはもっと楽しめたのではなかろうかと、推測するばかりであります。
数学が大の苦手であるわたしは、数式や図形はすっ飛ばさせていただきました。
ここに伏してお詫びいたします(汗。

『晏子 4』

晏子〈第4巻〉 (新潮文庫)
宮城谷 昌光
4101444242


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読了。

古代中国の稀代の聖人・晏瑛の生涯を、陰謀と戦乱の斉の国の来し方行く末とともに描く、歴史小説。


妻を君主に奪われつづける恨みに突き動かされて、ついに崔杼が行動を開始。
『晏子』最終巻は、めまぐるしくも血なまぐさい斉の権力闘争と、信念によって道を貫き通した晏瑛のひとばなれした存在感が印象的でした。

やはりクライマックスは崔杼の反乱だろうと思います。
かれの屋敷での攻防はスピード感があって手に汗握りました。

そして、この闘争の中で、どちらの陣営に着くかに家の存亡をかける大夫たちの、欲深だったり日和見だったり視野狭窄だったりする姿がこっけいで、それらと一線を画す晏瑛の姿が浮かびあがるという仕組み。

さらにつねに理性の人だった崔杼が情によって権力を奪ったのちの展開には、欲が人を滅するという作品のテーマが現れているように感じました。

こうして右往左往する人間たちのドラマは、しようがないけれどじつに人間らしく、哀れで愛おしい気がします。

いっぽう、状況に流されずにつねに立ち位置を不動とする晏瑛は、あまりにも偉大すぎて共感する余地がありません(汗。

このひと、ほんとに人間ですか?
あ、聖人でしたね……。

ほとんど表舞台に出てこない晏瑛が圧倒的に存在できるのは、かれを浮かびあがらせるしようもない人間界があるからです。

とくに崔杼という悪役がかれの対抗馬としてあるときに、晏瑛はなにもせずとも光ってしまう。

晏瑛はみずから行動するひとではないからかなー。

そうして崔杼が退場し、晏瑛の身分に変動がなくなると、晏瑛の存在も日常に埋没し、小説は歴史を俯瞰する後世の著者の眼からの著述が多くなり、数々の逸話を持って話が締めくくられていきます。

宮城谷作品を読むといつも思うんだけども、登場人物によりそった臨場感と動きのある印象的なシーンで始まるのに、最後には視点がその時代からも土地からも人物からもかけ離れたところに遠離ってしまうのが残念です。わたしはその人物の歴史的評価とか後世の歴史家の評とかはあんまり興味がなく、その場その場の情景やひとのかかわかりなどを読みたいので、俯瞰視点になると醒めてしまうんですよね。

ただ、今回の景公のエピソードのしめくくりはよかったと思う。
景公にとって、もしかすると斉にとっても、晏瑛は導いてくれる保護者だったんですねえ。
このあと斉の国がとても不安ではありますが、歴史小説ってめでたしめでたしで終わらないんだよね。日常に戻ってくるんだから。

あるいは最後が破滅であるほうが物語的には陶酔できるのかなと思いました。

余談。
この文庫版のあとがきは担当だった編集者によるものですが、本文の引用の多さにちと困惑しました。それをまたいちいち解説してくれるのも、うーん。しかも連載のようにどの巻にもついているし。担当した本に思い入れがあるのはわかりますが、それって読み手には関係のないことだと思うのです。

『花咲ける騎士道』

花咲ける騎士道 [DVD]
ジャン・コスモス
B000H308CA



十八世紀末のフランスの軍隊を舞台に、ちょっとおバカで女たらしの若者が真実の愛に目覚める(苦笑)姿を描く、ロマンティックコメディーアクション映画。

ぼんやりとチャンネルを変えていたテレビで思わず引き込まれてしまった作品です。

七年戦争中のフランスはアキテーヌ連隊を中心に描かれる、歴史っぽいけどどことなくリアルを外した感じの物語。

まず、軽快な台詞回しにスピード感あふれる剣劇に魅せられました。

そして、十八世紀フランスのコスチュームプレイ。
当時は歩兵でもこんなにピラピラした服を着ていたんですね。まあ、軍服というのは時代の最先端の技術で作られるものかもしれませんが。
しかしあの高そうな服で泥だらけで訓練をつづけられると、洗濯はどうするんだーといいたくなりますw

女性の服の胸の谷間だけを強調した衣装も、すごかった。
腕も脚もあんなに覆いつくしているのに、どうして胸だけはあんなにさらけ出してるんだろう。いつも謎です。こんな服が常識だと貧乳はとっても困るじゃないかw

そしてちょっとおバカな若者の出会う、運命を占う謎めいた美女。
この女優さんがとっても美しくて!
なのに彼女ったら、「軍隊に入って、王女と結婚する」なんて占いを信じちゃう女たらしの純真バカに恋をしちゃったんですよ、おやまあ。

主人公のファンファンを演じる役者さんは、スタイルと決めのポーズがカッコイイ。

物語は、戦時スパイをめぐる陰謀がファンファンの上司との確執と王女との恋路(一方的)にからまって、かろやかに進んでいきます。

まったくだれずに、CMナシで休憩なしなのに、見切ってしまいました。

面白かったー!!

この戦争はいつまで続くんだときかれて「七年戦争だからあと○年(すみません忘れた)ですよ」と返す、歴史もののようでメタな感じもする脚本は、リュック・ベッソン。

そういえば『タクシー』も結構好きだったなあ。

重厚だったり悲愴だったりするのはあんまり見ていないけど、ベッソンのコメディーはわたしの好みであるようです。

『f植物園の巣穴』

f植物園の巣穴
梨木 香歩
4022505885


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読了。

謎の木の穴に落ちた男が体験するふしぎな日常とそこから導かれる過去との交じりあう、重層的な幻想譚。

舞台は日本。
時代は、停車場という単語が出てくる、明治維新当時の女性の体験談が伝聞ながら出てくる、というところから、明治大正あたりなのかなと思われます。

ということは『家守綺譚』とかとおなじような時代でしょうか。

主人公は植物園に勤務する男。
女性の大家が営む下宿屋に独りで住んでいる。

かれが木の穴に落ちて愛用の長靴を紛失したり、放っておいた虫歯がひどいことになって仕方なく行った先の歯医者がとんでもないところだったり、植物園のかれの管理部分に狼藉が働かれたりと、ひとつひとつはたあいもない事件と、それによっていちいちひきおこされる過去の記憶が、かわるがわる、微妙に現実感を欠いた雰囲気でつづられていきます。

まるで夢のようにとらえどころのない話です。
まあ、しまいにはそういうことだったかとわかるのですが。
というか、わたしにはめずらしく真ん中あたりで行き先がわかってしまいました、という話です。

途中で暗示されたりあきらかになった出来事のせいで暗くなってしまったけど、終わりは期待以上にあかるくほのぼのとしていたのがよかったです。

あとこの話で楽しかったのは、主人公以外の登場人物が動物になっちゃうところかな。
現実にあったら絶対に行きたくないけど、かれの通う歯医者は他人事としてみるならとっても面白いと思うのです。

梨木さんの本としてはちょっともの足りませんでしたが、これはこれでいろいろと楽しめる本でした。


家守綺譚 (新潮文庫)
梨木 香歩
4101253374

『王のしるし 上』

王のしるし(上) (岩波少年文庫)
ローズマリ・サトクリフ 猪熊 葉子
4001145952


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読了。

およそ二年年前のスコットランドを舞台に、ローマの奴隷剣闘士だった男が氏族の王の身代わりとなっていく様を臨場感ゆたかに描く、歴史小説の上巻。



ローマ帝国支配下のブリテン島。氏族の母親を持つフィドルスは、北の辺境にあるローマの闘技場で奴隷剣闘士として命をかける日々を送っていた。あるとき、ローマ軍団の新任の総督が就任祝いに四組の剣闘士を死ぬまで戦わせる代金を支払った。その戦いに勝ち抜けば、奴隷身分からの解放を意味する木剣を授けられるのだ。その四組の中に選ばれたフィドルスは、親友ボーティマックスとの死闘の果てに生きのびた。晴れて自由の身となったフィドルスだったが、一時の開放感の後に訪れたのは目的のない心許なさだった。途方に暮れたこころをもてあましたフィドルスは酒場での乱闘に巻き込まれる。




少年文庫に入ったので早速購入。再読しました。
再読といってもわたしのことなのでほとんど初めてとかわらないような案配でしたが、いやしかし、わりと初めの頃に読んだサトクリフの作品の中でこの作品が一番好きだと思った感触に、間違いはありませんでした。

主人公はスコットランドの氏族の血をひく奴隷の母親とローマの商人の父親をもつフィドルス。
子供の頃に父親が死んだ後、べつのあるじに売られ、そこからふたたび売られて、いまに至るまで剣闘士として暮らしてきたという経歴を持つ若い男です。

かれは容姿の描写からしてかなり男前だとわかります。際だつ存在感をそなえていることも。
そのことはかれの運命を左右する大きな要素であるのですが、ただ読んでいるこちら側からするとそれだけでちょっとときめきませんか?(笑。

物語の背景には、北進するローマと敵対するスコットランドの内部事情があります。カレドニア族とダルリアッド族の反目です。

このふたつの部族の歴史は、初読の時にはほとんど意味不明だったのですが、読み直して「おお、そうだったのか!」と眼から鱗が落ちました。


読んでいて、印象に残るのは、とくにスコットランドの海岸の風景や遺跡の情景、そして馬たちにそそがれる愛情です。

サトクリフはとても馬が好きなんだと思います。他の作品でもたくさん出てきます。この話でへえと思ったのは、アラブの雌馬には輸出規制がかけられていたってところでした。

「馬というものは、その強さは父親から受けつぐが、その勇気を母方から受ける」ということわざ(?)も印象的でした。

その場に立って同じ空気を吸い、同じ空を見ているような臨場感のある文章で、力強く厳しく愛情を持って描き出される、元剣闘士とスコットランドの氏族の対立が生み出してゆくドラマにつよく引き込まれます。

やっぱりサトクリフはいいです。
大好きな作家です。

さ、これで下巻が読める。
結末はおぼろにおぼえているけれど、そこに至るまでのフィドルスの運命をかれとともにもう一度体験しようと思います。


王のしるし(下) (岩波少年文庫)
ローズマリ・サトクリフ 猪熊 葉子
4001145960

『サンドマン 夢の狩人―ドリームハンター―』

夢の狩人―The sandman (DC COMICS VERTIGO)
ニール・ゲイマン 天野 喜孝 夢枕 獏
4924914339


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平安の雅と闇を舞台にニール・ゲイマン、天野喜孝が描く幻想的な異形の愛の物語



お借りして読了。

ニール・ゲイマンが物語を書き、天野喜孝が絵を描いた、絵物語です。
訳は夢枕獏。クレジットの内容はそういうわけです。
オールカラー。

ニール・ゲイマンは「サンドマン」というアメコミのシリーズで大人気を博した作家。
かれは『もののけ姫』の英語版の執筆もしているそうです。(英語版の字幕なのかノベライズなのかは私は知りません)

そんなかれに出版社から天野喜孝というイラストレーターとの合作の話が舞い込み、この作品が出来あがったというわけです。

なぜ、ゲイマンが平安時代を舞台にするのかという理由は、『もののけ姫』の準備で読みあさった日本関係の文献にあったそうです。

なるほどねえ。

狐と狢の化かし合いから、僧と狐の異種恋愛譚になっていくお話は、ゲイマンのサンドマンを平安朝を舞台に日本のテイストで語りなおした、といった以上に日本的なものになっていました。

でも、異文化といえど文化の底の底には原始時代の人間の感性が流れているので、驚くには当たらないのかもしれませんね。

イラストの幻想的で絢爛な美しさとあいまって、ひじょうにすぐれた幻想物語になっているなあと感動いたしました。

これを読んで「サンドマン」の他の話も読んでみたいなあとまたしても思いましたが、なんか絵柄がちょっと好みとは外れているような……。あ、ゲイマンは絵は描かないひとなので海外のコミックライターの絵なのですが。

ゲイマンが「サンドマン」の話だけ、小説として再話してくれないかしらん。

個人的には、某日本人シンガーソングライターの曲の中にでてくる「サンドマン」との関わりが、あるようなないような感じがしてとても気になっております。

『駅神ふたたび』

駅神ふたたび
図子 慧 こさ ささこ
4152089660


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読了。

駅で易をたてる老人“ヨンバンセン”の卦をもとに、易学学院の面々が他人の事情を推測する、日常ミステリ。『駅神』のつづき。

前回と同じく、男子大学生の章平視点でかれの身近なひとびとの事件を題材にした話が展開される、連作ミステリ。

前巻では章平君の父親のエピソードが話への入り口になってましたが、今回もメインは章平君の妹と父親の話で、このシリーズはどうやら家族ものの側面も持ちあわせているようです。

とはいえ、そのほかに相続人が犬という話があったり、お隣の美人妻の話があったり、八卦仙のつづきがあったりと、バラエティーはゆたか。

どのはなしも、章平君のひとのよさと大家のミヤコさん曰く「アンポンタン」な穏和な性格によるのか、物騒な話でもどこかのどかな雰囲気を漂わせているところが好きです。

妹は、四歳より先の人生でもらえる誕生日プレゼントとき替えに母親にもらったものだ。だから妹にどれだけ振りまわされても仕方ないのだ、と諦めている章平君が、わたしは好きですw

自分に似ているのにとびきりの美少女で頭もよく、気も強い。そして兄にはとことんわがままで横暴だけど、母親は苦手。
そんな吉乃ちゃんは、この話ではめずらしい萌えキャラか。
彼女のエピソードはとてもほほえましくて、楽しかったです。

最後には章平君の政治家秘書をしているお父さんが登場。
そういえば、章平君が易学学院の面々と知り合うきっかけを作ったくせに、本人はけっきょくほとんど出てこなかったんでしたね。

かれの進退伺いをヨンバンセンに尋ねる話は、とっても面白かったです。

これであと、相沢家のメンバーで出てきてないのは、高校教師だというお母上だけですね。
章平君の話を聞いているだけでもけっこうキョーレツな御方みたいですが、お姿を拝見してみたい。

それに、大家のミヤコさんのキャラが絶妙なので、彼女の活躍ももっと読みたいです。
章平君が一人前になるまで、元気が頑張ってください。

たあいない人間同士の会話の中に、戦後の昭和を生き抜いてきたひとびとの歴史や思いを織り交ぜ、いまを生きるひとびとの日常の事件を絶妙の距離感でさらりと描くこのシリーズ、お気に入りです。

どうかつづきも出ますように。なむなむ。


前巻である開幕編はこちら。

駅神 (ハヤカワ文庫 JA ス 2-2)
図子 慧 こさ ささこ
4150309345

「オダリスク」

ちなこさん作「オダリスク」読了。


オスマントルコ風後宮陰謀ロマンス。完結済み。

ハレムの生活感と陶酔感のバランスとむき出しにされない感情描写がすてき。
ちょっと大人向けです。


『犬夜叉 47』

犬夜叉 (47) (少年サンデーコミックス)
高橋 留美子
4091206808



読了。


戦国時代にトリップした女子中学生日暮かごめが、半妖の少年犬夜叉と出会い、仲間たちとともに四魂の玉の欠片をもとめて旅をする、伝奇アクションコミック。シリーズ第四十七巻。


前巻を入手してすぐに入れた予約がめぐってくるのに三ヶ月かかりました。
ようやく続きが読めた……。

ストーリーは全編におけるクライマックスに入っていて、もう一気に読んでしまいたいという流れなのにもかかわらずのこのお預け状態は、かなり厳しかったです。
話が頭の中で間延びしちゃって、物語に感情移入するのが難しくなってる。

この巻は桔梗と奈落の、そして桔梗と犬夜叉との決着がつく巻なのに、なんとなくぼーっと読み流してしまったわたしがいる……。

気をとりなおします。
最後の最後で、桔梗のひととなりがよくあらわれた展開だったと思います。
奈落を倒すためには手段を選ばないと冷酷に宣言しつづけていた桔梗ですが、けっきょくのところ、自分以外のなにものをも手駒として利用することはなかった。

そして奈落の復讐も彼女の心を折ることはできなかった。

悲運を一身にうけながら、最後まで自分のつとめをまっとうした桔梗の姿は潔く、そのすがたを見送ったもののこころに美しいものを残していったと思います。

桔梗の顔がさいごにとても愛らしく見えて、それがとてもせつなかったです。
ようやく思いを遂げたんだねと思いました。

しかし、奈落との戦いはまだつづきます。

いきなり出てきた殺生丸の母上のSなありさまに、うわはははと笑ってしまいましたw

さて、つづきは何ヶ月後に読めるでしょうかw


犬夜叉 48 (少年サンデーコミックス)
高橋 留美子
409120810X

『魔法の使徒 下 最後の魔法使者 第一部』

魔法の使徒下 (最後の魔法使者第1部) (創元推理文庫)
マーセデス・ラッキー 細美 瑤子
448857713X


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読了。

異世界のヴァルデマール王国を中心にした歴史ファンタジーシリーズ。「最後の魔法使徒」三部作の第一部下巻。

上巻のネタバレになるのであらすじは書きません。あしからず。

幸福の頂点からどん底へと急転直下のダイビング。
ヴァニエルの不幸の連鎖は留まることを知らないようです。

ドラマティックな展開を、とどこおることなくするすると読ませるラッキー節。
読み手はただひたすらキャラクターたちの喜怒哀楽に身を委ねていればいい。
なんにも考えずにドキドキわくわくしていればいいので、とってもらくちんな読書でした。

わたしが心をときめかせたのは、ク=トレヴァの〈鷹の兄弟〉の登場です。
絶体絶命のピンチで助けを求めたヴァニエルの伯母であり使者でもあるサヴィルの要請に応えてあらわれたかれらの、なんと頼もしいこと。

かれらの施す癒しの色彩豊かで音楽的な描写に感動しました。
このシーンが今回一番のお気に入りになりました。

個人的な好みからいうと、お喋りがいささかうるさく、キャラクターとの距離が近すぎ、空間があまり感じられず、まずストーリーありきでキャラクターの掘り下げがいまひとつな感じですが、これはおそらく私の嗜好が変化したせい。

いろとりどりで饒舌な文章と、軽快な台詞の応酬。
波瀾万丈でありながらラストはハッピーな物語を、気楽に読みたいときにむいた本だなあと感じた次第です。

つまりわたしは今、そういう気分じゃなかったということですね。

上巻はこちらです。

魔法の使徒上 (最後の魔法使者第1部) (創元推理文庫)
マーセデス・ラッキー 細美 瑤子
4488577121

20100609の購入

図書館の予約本を受けとるついでに本屋襲撃。

晏子〈第4巻〉 (新潮文庫)
宮城谷 昌光
4101444242


スフィンクス (flowers comicsシリーズここではない・どこか 2)
萩尾 望都
4091670393


以上、購入しました。

今月はいろいろ予定外な購入がつづいています。来月は予定がぎっしりみたいなので自重すべきだったかとすこし後悔中。

『晏子』はさっそく読み始めています。

『晏子 3』

晏子〈第3巻〉 (新潮文庫)
宮城谷 昌光
4101444234


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読了。


古代中国春秋時代の斉において活躍した晏子親子を中心に、国同士の策略や戦いを描く歴史小説。シリーズ第三巻。


晏弱亡き後、息子の晏瑛は古代どおりの喪に服す。智将を失った後も斉の霊公は大国晋への野望を持ちつづけたが魯を征服することもかなわなかった。太子光の資質に失望した霊公は光を廃太子し、愛妾・戎子の推す公子・牙を後継に据えようと考えはじめる。太子光の後見・崔杼と公子牙の背後にいる宦官・夙沙衛の暗闘が始まった。




あーおもしろかった。

豊かな大国なのだから大人しくしていれば安泰のはずの斉なのに、君主の抱く野心のためにくりひろげられる他国との政治のかけひきや戦争。

斉国内における権力争いからひきおこされる後継者をめぐる暗闘。

激動の歴史を扱っておりながらも格調高く、粛々とつづられる骨太の文章で、人と人との関わりから生まれる空気、感情、行動を描いていく、絶妙の距離感を堪能しました。

今回、面白かったのはやっぱり崔杼関連ですねー。
初めは霊公に絶大な信頼を寄せられていたのに、愛妾と彼女のとりまきによっていつのまにか距離ができ、後見している太子がぱっとしないせいで未来があやうくなっていく。そんな状況を指をくわえて黙ってみている人物ではないかれは、いろんな策を弄し、汚いこともあざといことも果断に成し遂げていきます。

ほかの敵対人物が無能だったり、礼を失していたり、人格に欠けるところがあったりとかなり悪し様に描かれることが多いのに、崔著だけは矜持の高さと美学を感じさせるあたりも、最大悪役としての存在感を際だたせます。

主人公が喪に服すためにおこもりしてほとんど出てこない間、完全に主役は崔杼だったような。

そして主人公が再登場しても、人間的な格はともかく、ドラマ的面白さのほうでは崔著が上のような気がします。

たしかに晏瑛は徳に優れた、すばらしい人物なのでしょう。
でも人間的な経験値や幅が感じられないので、わたしには生硬な人物に見えてしまうんですね。
まだたいして出番もないので、これからに期待というところでしょうか。

というわけで崔杼のもくろみの成否はいかに、てところでつづく、です。

つづきを早く読みたいです。
いや、買えばいいんですが。うん、買います。買いますとも。


晏子〈第4巻〉 (新潮文庫)
宮城谷 昌光
4101444242

『魔法の使徒 上 最後の魔法使者 第一部』

魔法の使徒上 (最後の魔法使者第1部) (創元推理文庫)
マーセデス・ラッキー 細美 瑤子
4488577121


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読了。

西欧中世風異世界の国ヴァルデマールを舞台にした歴史ファンタジーの新シリーズ。三部作の開幕編。



地方領主の跡継ぎとして生まれ育った少年ヴァニエル。かれは頑固な父親の理想と自分の資質の違いに強烈な劣等感と失望と反発をいだいて日々を送っていた。横暴な剣術師範の悪意の言葉を鵜呑みにする父親、その態度に同調してかれをあざける弟や従兄弟たち。母親はヴァニエルの容姿ばかりをいつくしみ、性的な放蕩をそそのかす。音楽を孤独な日々の唯一の生きがいとしていたヴァニエルだったが、剣術師範にぶちのめされて竪琴を弾くための手に負傷をした。そしてただひとりの理解者・姉のリサが家を出た後、ヴァニエルの味方はだれもいなくなった。ますます意固地になるヴァニエルを父親は偏向した司祭との相談の結果、ヴァルデマールで〈魔法使者〉をつとめる伯母サヴィルのもとに送り出すことにした。厳格で冷淡だった伯母との一度きりの対面を思い出し、絶望するヴァニエルだったが――。




過去、シリーズで幾度か伝説の存在として言及されてきた魔法使者ヴァニエルの物語、開幕編です。

しかし伝説の存在も当人が生きて生身であるときにはまだ伝説ではないのでありまして。
資質に見合わない鋳型を押しつけられて困難な家庭生活を送る孤独な少年として、伝説は登場します。

ラッキーは家族の無理解と疎外に苦しむ子供というモチーフが好きなのかもしれませんね。
タリアがどこまでも健気だったのに対し、ヴァニエルは自分の容姿を利用することを知ってる鼻持ちならない少年である、という点がちと異なりますが。

孔雀のように着飾って女の子たちをタラしまくり、武一辺倒のおとこたちを侮蔑する、というかれにしてみれば当然ですが、傍から見るとしようもない防御姿勢のために、ヴァニエルはさんざんな目に逢いつづけます。

これ、ヴァニエル視点で読んでるから同情の余地があるけども、他人からしたらいやなガキだろうなあ……(苦笑。

で、父親に故郷から放逐されてヴァルデマールの厳格な伯母のもとへと連行されるヴァニエルの心情も、使者の実態やなにやらを了解済みの読み手からすると「なんだよこれ、甘やかすなよ」と思えてしまう。

予想が当たって学院ではやたらに理解者に恵まれてしまうし、父親がかれに辛く当たった原因もぜんぜん深刻に描かれないし、ラッキーの話はほんとうに楽観的であるなあと感心。

あちらこちらに不穏な兆しがちりばめられてはいますが、全体的にあかるく暢気で庶民的な雰囲気にゆるゆるしてしまう。

おかげでラストの急転直下に驚愕してしまいました。

えーっ、この展開でいきなりそう来るの!?

なんとなく私の嗜好がラッキーの書く話と合わなくなってきていて(魔法とか使者とかの神秘性というか特別性が全然感じられず道具と化しているあたりですが)、もうこの話読むの止めようかなと思っていたのですが、つづきが知りたいので予約しました。


魔法の使徒下 (最後の魔法使者第1部) (創元推理文庫)
マーセデス・ラッキー 細美 瑤子
448857713X

『駅神』

駅神 (ハヤカワ文庫 JA ス 2-2)
図子 慧 こさ ささこ
4150309345


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読了。

東京の下町を舞台に謎の老人のたてる易をもとめる人々の日常的な事件をえがく、人情ミステリの連作短篇集。


気まぐれにあらわれ駅のホームで易をたてる老人、通称“ヨンバンセン”。ある事故を予告したことで助言を求めるものが絶えないのだが、なかなか遭遇できない謎の老人だ。大学生の相沢章平は噂は知っていたが占いを信じる性格ではなく、それほど興味は持っていなかった。かれの身に突然災難がふってかかるまでは。幸運にも老人に出会うことがかなったがその助言を理解できず、もっとくわしく聞きたいと老人を探し続けていた章平に、見知らぬ女が声をかけてきた。易学学院の理事長だという女は章平が老人にもらった卦を見せてもらいたいという。




ものすごく久しぶりに読んだ図子慧は、なんと日常ミステリユーモア風味でした。

駅で易をたてる謎の老人と、老人の出した卦を解釈する易学学院のひとびと、というのがユニークです。

易のことはまったく知らない、したがってここに書かれている専門的なこともほとんど理解できないわたしが読んでもちゃんと面白いお話でした。
易を知っていればもっと楽しめるんでしょうが、それ抜きでも事件自体は成り立っているからでしょうね。
事件の中身を他者が知る手段として易が使われていて、さらにその事件を解決する糸口を与えてくれるのも易なんですね。

事件はかなり物騒な話も含まれますが、それほど深刻にならないのは出来事との間に易による適度な距離感があるからと思われます。

他人事だからといって不謹慎な雰囲気もなく、きちんと自分と他人との線引きができている、大人な関係の話だなあと、狂言回しの章平君はべつとして、そう感じました。

そしてすべて現実の話かと思えば第三話の「八卦仙」のようなファンタジーがあったり、幽霊のことを占ったりと、そこはかとなく現実ではない話もあって、楽しかったです。

そして、図子慧なのにエロくない!
こんなにエロくない図子慧は、わたし初めてですw
これは身体性ある描写がすくないからかな。たぶんこの話には必要ないと思われたのだと思います。

そして登場人物における老人率の高さも特筆すべきかと。
章平君のすんでるアパートの雰囲気が、大家のミヤコさんはじめ、高齢化の現実を如実に反映してるのに明るく楽しげなのがいいなあと思います。
そして、先達たちにたいする章平君とその友人たちの態度も、日常的な気安さに満ちていて素敵でした。

易学学院の面々も個性的。
ほんのちょっとしか出番がないのにそれぞれ明確な印象が残るのがすごいな。
とくに大滝カスミさんの存在感はハンパないですw

とても楽しかったのでつづきも借りようと思います。


駅神ふたたび
図子 慧 こさ ささこ
4152089660

『葛野盛衰記』

葛野盛衰記
森谷 明子
4062158469


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読了。


平安京の盛衰を、女性たちと土地とのかかわりから生まれた部族間の対立をふまえて描く、幻想的な歴史小説。



保延元年、きらびやかな甲冑姿の平氏の武士たちが平安京に凱旋する。かれらを率いる棟梁の忠盛の心には、桓武天皇の親王だった祖先からの悲願――平安の都に勝て――が刻まれていた。遡って平安に未だ都のつくられぬころ、多治比の一族は葛野川の上流にある渡来の氏族・泰氏と古き氏族・賀茂氏とのあいだに隔てをおいて暮らしていた。ある日、廃れ皇子を父に持つひとりの皇子が訪れた。皇子は多治比の一族にまれびととしてむかえいれられ、大刀自の流れを汲む娘・伽耶の夫となった。狩りを好むたくましくおおらかな皇子は伽耶よりはるかに年上だったが、伽耶は皇子にまるで母親のような気持ちを抱いていた。そのうち変転する運命により皇子は陽の光を浴びることになり、ついには皇位につくことになる。桓武と号されることになる帝は伽耶の里に都を移すと宣言し、おびただしい数の者たちが造営のために集められてきたが――




女性と彼女たちの根づいた土地の盛衰をベースに描かれる、平安京の盛衰です。

と、書いてもどんなだか想像がつかないかもしれませんが、土地神をいただいたある一族が、他氏族に仕掛けた陰湿な争いと陰謀との成果が平安京であった、という裏歴史が、しらないうちに追い落とされてしまった多治比の民、のちに平氏一門の視点から描かれる、幻想的な歴史小説といえばいいのかなと思います。

幻想的なといっても超常現象が直接書かれるわけではなく、被害者・体験者と相対する別人の視点、あるいは伝聞により話は進むので、そこになにかがあったのではないか、いやあったはずなのに、というどことなくミステリめいた雰囲気の話です。

個人的に日本史には疎いので……とくに平安朝はかなり苦手なので、しらないことが多かったですが、第一部はその無知を吹き飛ばすほどに興味深く、わくわくしながら読みました。

男性視点、鳥視点で語られることの多い歴史の転換点を、女性視点の土地視点で語られることでみえてくるあらたな局面がたいそう面白かったです。

藤原氏ばかりが隆盛を極めていたようにみえる時期の他氏族の動向って、歴史のお勉強では習わないところですよね。でもかれらは滅亡したわけではなかったんですね。

宮中に残された宴の松原とか、そこを根城にする怪鳥とか、賀茂の齋院の由来とか、わたしの知ってる歴史の断片を総動員して読みましたが、第一部はほんとうに楽しかった。

どことなく、著者の『七姫幻想』につうじる味わいをたもちつつ、話をスケールアップしてブラッシュアップしたような感じでした。

第二部は、いまや隆盛を極める武士の一門として凱旋したかつての多治比氏をつぐ平氏の、というか平氏と、葛野と契約を交わした皇家の裔である上皇たちによる、無意識の葛野への反抗がまねく平安京の衰亡が描かれています。

この第二部には、多治比氏の女性視点がなく、もしかしたら後の池禅尼がその流れを継いでいるのかもしれませんが、とにかく葛野についての記述が極端に減って、途中から平氏の頼盛視点に変わってしまうためか、あまりのめりこめませんでしたが、藤原氏の専横に対抗してつくられた院政とそのよりどころになっていた武力=平氏のかかわりのありさまが、目の前でおきている出来事のように感じられたのが興味深かったです。

個人的には、ぬきんでて頭がよく機をみるに敏なのに、気分に極端に波があって、こころに底知れない闇を抱えた清盛の内心をもうすこし知りたかったなと思います。

かれと後白河の関わりには、頼盛にはよみとれなかった何かがあるに違いないと感じるのです。

それに多治比氏とは無関係な清盛がなにをおもって平安京と対していたのかも知りたいし。

そういえば、六波羅は鳥辺野だったという記述に、そうかここには河原者が、と膝を打ちました。いや、いまひとりで非人ブームなのでw

頼盛の内緒の愛人・内野さんの存在も、その正体含めてツボでした。
そうなのよ、院は非人たちを集めてまわりに侍らせていたのよ、握り拳!

総じて、第二部はそれほど目から鱗にはならず、追体験の部分が多かったので、ちょっとだれてしまいました。
平氏滅亡という史実はさんざん二次創作されきっているからか、その枠を粉砕するほどのパワーはこの遠回しで上品な書き方では生まれなかったのかなと感じました。

あ、最後の、平安期の武力によらない平和はいかにして実現されていたのか、という部分は、現代的にいうと冷戦とか某国の脅威論とか、そういうのと似ているよなあと、目鱗でしたが。

第二部はもうすこし史実路線から離れてくれた方がよかったのではと思いますが、読み終えてみるととてもきれいにまとめられているし、これはこれでよかったのかなあと余韻に浸りました。


七姫幻想 (双葉文庫)
森谷 明子
4575512540
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