『ゴーストハント 3』
いなだ 詩穂 小野 不由美

借りて読了。
といっても買ったのはわたしであげた姪っ子から借りた、のですが(苦笑。
小野不由美作のティーンズ向けホラー小説「悪霊シリーズ」のコミカライズ三巻目。
収録作品は「禁じられた遊び」と原作にはない短編「サイレント・クリスマス」の二作。
原作は読んだけどわたしの記憶からは消え失せているのでほぼ初読。
面白かったです!
一、二巻はまあ、こんなものかなーと読んでいたのですが、ここで一気にわくわく気分になりました。
そして「禁じられた遊び」で登場した安原くんがレギュラー陣の最後のひとりだった模様です。
そんなことも忘れていたのでたいそう新鮮味がありました。
肝の据わった高校三年生ですねえ……。
麻衣の憑依体質にも磨きがかかってきたようで、こちらは「サイレント・クリスマス」でとっても笑える状況を作り出してくれてます。
リンさんと一緒にw
それから今回、ナルのとっても貴重な表情が見られます。
ええっと思ってよく見てみれば、ナルの眼って普段からそんなにきつくはないですね。
ただ無表情なだけです。
そこのあたりの事情だけ覚えているわたしは、まあしょうがないよねと思いました。
というわけでとっても面白かったので、機会があったらまた姪っ子につづきを買ってやろうと思います。
そういえば、原作小説が改題改稿されて再刊行されるそうですね。
シリーズタイトルは『ゴーストハント』で、2010年11月より刊行予定だそうです。
くわしくはこちら。
WEB 幽-「ゴーストハント」シリーズ刊行予定
ゴーストハント (4)
いなだ 詩穂 小野 不由美

『夜の虹 灰色の幽霊』
毛利 志生子 増田 メグミ

[Amazon]
読了。
十九世紀帝政ロシア末期を舞台に、変わり者と呼ばれる女の子が出会う事件を当時の世情とともに描くミステリシリーズ、第二巻。
十五歳のオリガは実業家の伯父ラズモフスキー公爵の家に身を寄せている少女。オリガはしばらく疎遠になっていたカール・ハインツ・エルツベルガー男爵の招きを受けた。男爵はオリガの父親の友人だったが、八年前にオリガの父親が行方不明になった事件に少なからず関わっていた。後悔の念から遠離っていたのだという男爵に、あらためて父親の消息を聞かれたが、オリガに返す言葉はなかった。表向き行方不明だが、彼女は不思議な力で父親が死んでいることを知っているのだ。エルツベルガー男爵はすばらしい猟犬三頭と犬の世話をしている青年ヤコフをオリガに紹介した。犬の絵を描くことになったオリガは男爵の屋敷に通うようになった。訪問はとても楽しいひとときだった。ところがある日、オリガがいつもどおり男爵邸を訪ねると、エルツベルガー男爵が殺され、容疑者としてヤコフが逮捕されたと聞かれる。
少女向け歴史ミステリなんですが、社会派ミステリと呼びたいような雰囲気も持った作品に仕上がってるシリーズです。
前巻でとりあげられたのは搾取される労働者階級が主でしたが、今回はユダヤ人差別と女性の人権問題。
ロシア帝国の裁判に陪審員制度があったとはしりませんでした。
アヘン中毒がでてきたところで、ああ、十九世紀だわーとしみじみしてしまいました。
それにワイマール犬とオリガの父親の事件がからみあって、かなり複雑な設定となってます。
ですが、すべて少女オリガの視点から描かれていくので、とても馴染みやすくわかりやすいです。
十九世紀当時のロシアの日常風景や社会風俗にかんして、物語の妨げにならないさりげなさで説明がはいるので、散漫にもなってません。
文章の端々から革命前夜のモスクワの暮らしが伝わってくるのが気に入ってます。
とくに食べ物関係の描写が大変に充実していますね。
読みながら知らない食べ物をネットでいろいろと検索してしまいました。
おかげで読むのに時間がかかってしまいました(汗。
いったん読み終えたところでもう一度前巻から読み直したりもしてしまいました。
それだけロシアについての興味をかきたててくれる作品です。
オリガをとりまく三人の男性陣も健在w
今回は裁判ということでようやく有能さを発揮する婚約者のイギリス人弁護士アーサー氏。
本人は自分の都合で動いているのだろうけどなぜかオリガに丁度いいところに現れて、本人にその気はないだろうけどいろいろと情報をくれるネスチェロフ少佐。
番犬のようにいつのまにか寄り添っている水猟犬に似ているという副署長のロジオン。
表面上、というかオリガの心も、ヒーローはロジオンになりつつありますが、さて、どんなものだろうとわたしは思うわけですw
やっぱりね、この三人の中で一番オリガの側にいるのが不自然なのはロジオンだと思うんですよね。動機が見えない。必然性が感じられない。
食べ物に食いつく無邪気な姿にだまされちゃいかんよ。君はいったいなにゆえオリガの側にいるの? だれかの指図を受けてるの?
問い詰めたくなりますw
むしろネスチェロフ少佐の存在のほうが自然に感じられるのですが、それはわたしだけでしょうか。
とはいえ、ふたりともまだ愛だの恋だのより食い気のほうが勝っているので、この方面が進展するのはまだ先か、あるいは事件のほうがメインになるんじゃないかと推測。
正体不明といえば、サブタイトル。
読み始めた途端にこれは犬のことだねと確信したのですが、実際犬のことでもあったのですが、これってあのいやらしげで冷酷な雰囲気を持つ男のことも指しているんだろうなと思いました。
シリーズ通しての軸は、どうやらオリガの父親に関する謎であるようです。
こうなると、保養地で療養したまま、まったく出演される気配のないオリガの母親の存在が気になりますねえ。
つづきが読みたいなあ。まだ出ていないけど。
ちょっと文章がそっけないので、ときどき突き放されるような心地になりますが、理性的でわかりやすくはあります。少女向けとしては損をしているかなと思うことはある。
とにかく、シリーズが中断したりしないでちゃんと最後まで読めるようにとお祈りをしておきます。つぎが出たら買うべきか……。
シリーズ開幕編はこちら。
夜の虹 (夜の虹シリーズ) (コバルト文庫)
毛利 志生子 増田 メグミ

そういえばロジオンの形容詞に必ず出てくる水猟犬って、レトリーバーのことかなー。
『大奥 6』
よしなが ふみ

借りて読了。
男女の役割が逆転した江戸時代を徳川将軍家の系譜を軸にえがく、歴史SFコミック。シリーズ第六巻。
五巻でつぎは吉宗に行くのか、と思ったのは先走りでした。すみません。
今回は綱吉の晩年。
跡継ぎ問題にうずまく思惑とかけひきがコワイです。
様々な立場の人間のゆれうごく心と妄念を描いて冴えわたる筆さばき。
どこまでも甘えを許さないシビアな展開に、心の中で何度も悲鳴をあげました。
綱吉の政治は責められるべきですが、彼女の支払った大きな犠牲を思うとやるせないです。
人間には向き不向きがあるけれど、世襲でつないでいく政権には資質を忖度する自由度がない場合がある。
綱吉は将軍の器ではなかったけれど、彼女なりに将軍としての人生をまっとうしたとはおもいます。
人としての魅力は十分すぎるほど備えた人でしたねえ。
側用人の吉保の秘めた思いにはふるえが来ましたでございます。
みな
上様に
恋をして
いるので
ござりまする…
綱吉の跡を継いだ家宣公はとてもできた方でいらしたのに、身体の弱さは治世者においては致命的な欠点なんだなと思いました。
三年間しかない家宣の治世ですが、後年の出来事のタネがいろいろとまかれている模様ですね。
わたしは大奥には無知なので「江島生島事件」といわれてもぽかーんですが、わかる方にはゾクゾクする展開なのかしら。
このシリーズ、こうやってずっと時代を下っていくのかなあ。
明治までやってくれちゃうのかなあ。
それはすごく大変なことだろうなあ。
そんなことになったら大河ドラマよりもスケール大きくなりますよ。
でもそこまで妄想できちゃうところが、この作者さんへの期待値の高さだなーと思います。
シリーズ開幕編はこちらです。
大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))
よしなが ふみ

『大奥 5』
よしなが ふみ

借りて読了。
江戸時代、もし男女の役割が逆転して江戸幕府の将軍が女性だったとしたら、というもしもの世界を突き詰めてするどく描く歴史コミック、シリーズ第五巻。
映画化されるというので存在を思い出し、そういえば途中までしか読んでなかったわと所持者に打診してみたところ貸してもらえました。
三巻までは持ってて、四巻までは読んでいたのに、気づいたら既刊すべてを貸してもらってた……。
おかげで最初から話をおさらいできました(汗。
物語は第七代将軍吉宗が登場して、逼迫した幕府の財政を立て直すために大奥の改革をも目論むところからはじまってました。
その時代は女将軍があたりまえ。ほぼすべての日本の家が女を当主として存続し、すべての労働は女がし、男は子孫を残すための種馬として大切にされるようになっていた。
なのに当主が公式には男名を名乗り記録にも男名しか残さないという異常な状況に疑問を抱いた吉宗が、疑問の解決のために大奥の記録をひもとき、男女逆転というシステムがいかなる状況によって生み出されたのかを知る、という導入部から第三代将軍家光の物語へと移行します。
平和を守るためにできあがった社会システムをむりに維持しようとしてゆがんでいく人びとの人生が、どこまでもシビアに生々しく繊細に描かれていく、迫力満点の歴史もの。
男女の立場が逆転して浮き彫りになるのは、いままで常識の中に見過ごされてきた矛盾と理不尽、構成員のひととしての尊厳をないがしろにして保持される組織の非道さです。
社会システムというのは状況に合わせて出来あがった物なのに、いったんシステムの形が決まってしまうと形の維持が目的になってしまう。状況に対する柔軟性がなくなってしまって状況を形に合わせようとさえするんですね。
いま、激動する社会状況に後手後手に回って対応できない現実を見ていると、そのことを切実に感じてしまう。
昔も今も、人間はかわらないんだなあと。
この五巻は犬公方と呼ばれて暗愚の象徴のようにいわれる第五代将軍綱吉の時代が描かれています。
家光がシステムを作るために犠牲になった将軍ならば、綱吉はシステムを維持するために犠牲にされた将軍です。
彼女の生活は苛酷きわまりないものですが、将軍という地位しか眼に入らない周囲の人間にとっては、恵まれた華やかな人生としか映らないのです。
彼女は将軍であって人ではない。
父親からすら、人として扱ってもらえない。
そのことをすでにあきらめ、しかたないと受け入れてもなお、ひととしての感情が彼女を傷つけつづける。
そんな彼女のまわりには、彼女を利用してのしあがろうとする者たちが汲々と権力争いを繰り広げている。
読んでいて痛ましくてなりませんでした。
この作者さん、ほんとうに人間関係の機微を描くのがうまいなあ。
綱吉の真意があきらかになっていくあたりなどは凄みを感じましたよ。
鳥肌がたちそうだった。
女性が主人公なので際だちますが、これが男性であったとしてもしあわせな人生とは言いがたいと思われます。
つまり、将軍として送る人生はあまりしあわせなものではなかった、時に苛酷で悲惨なものだった。ということなのでしょう。
赤穂浪士の事件の解釈にも唸らされました。
現実の歴史的な事件よりもワタシ的には納得しやすかったくらいです。
なるほどねえ。
赤穂浪士は今で言うならジャニーズや韓流スターみたいなもんだったのね……。
この作品がジェンダー問題に敏感なジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞を受賞したのも、当然のことだと思います。
もしもの世界でこれだけスケールの大きな、説得力のある物語を作りあげていく力量に感嘆です。
巻の最後に綱吉と吉宗が出会いました。
これから話は冒頭の吉宗の時代になっていくのかな。
つづきも借りてあるのですみやかに読みたいと思います。
シリーズ開幕編はこちら。
大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))
よしなが ふみ

『ACONY 3』
冬目 景

借りて読了。
古すぎて奇妙な場所になったアパートで歳をとらない女の子と出会った少年の、奇妙な住人達との変な日常のおはなし。完結編。
ノスタルジックなお話を書かせると天下一品な作者さんの、ノスタルジーあふれつつもときどきブラックなコメディーマンガです。
楽しかった!
寂しく切ないあるいはやるせない幕切れになることが多い冬目作品ですが、これはかなり展開がぶっ飛んでて、よい方向に明るい感じに落ち着いたと思います。
ぶっ飛ぶ方向は、SF方面が多かったような。
巻の前半でアコニーの秘密が明かされて、そのあたりまではストーリー物でシリアスもありだったのが、最後はエンドレスでつづいてもおかしくないような短篇集の雰囲気になっていたのが、アコニーの存在を肯定しているような気がします。
少年はアコニーと共に歩いてはいけないけれど、彼女の思い出は大切なところにしまってあり、アコニーもいなくなったりしない。
ただ、ちょっとだけさよならするだけだよ。
だからまた、いつかね。
……うっ、我に返るとやっぱり寂しいような気がしてきた。
ここではあえて現実を忘れていたいと思います。
あのアパートはきっとずっとあそこにあって、アコニーたちは楽しくもおかしな日々を送っているのです。
ACONY(1) (アフタヌーンKC)
冬目 景

『夜の虹』
毛利 志生子 増田 メグミ

[Amazon]
いただいて読了。
帝政ロシア末期のモスクワを舞台に、忌まわしい力を持った少女が巻き込まれる事件を描く、少女向け歴史ミステリシリーズ、開幕編。
十九世紀の帝政ロシア。父親の死後、伯父のラズモフスキー公爵家に身を寄せている十五歳の少女オリガは、スケッチのために訪れた公園で楽しげなひとりの少年の姿を見かける。だが、その少年はオリガの目の前でおそらく死んだ。いや、少年はすでに死んでいたのだ。オリガには死者の死ぬ間際の姿を繰り返し見るという、忌まわしい力があった。放置することが出来ずに赴いた警察で、オリガは新たに赴任した若い副署長と出会う。近衛連隊を問題の末に追い出されたという噂のロジオンは、意外にもオリガの絵心を刺激する魅力を持っていた。捜索の末、少年の遺体が発見されたが、連れ立っていたはずの少年の兄が行方不明になっていた。
『風の王国』の作者さんの新作は、帝政ロシア末期が舞台のミステリです。
いまのところミステリですが、時代考証がしっかりとしてるので、そのうち歴史の激動も描かれるのかもしれない、シリーズがつづいていくと……という期待感のある作品になってました。
ヒロインは、ドイツ系ロシア人の父親とロシア貴族の母親の間に生まれた少女オリガ。
父親が借金まみれの末に行方不明になり、母親は心労の末に倒れて療養中です。
しかし、オリガだけは知っているのです。父親が死んでいることを。
それは彼女のもつ秘密の力のせいでした。
おかげでオリガは変わり者と認識されつつ、親切な伯父のおかげで伯父の一家とともにモスクワで暮らしています。
というところから始まるお話です。
異能がきっかけとなってかかわることになった少年の行方不明事件が、とある人物との出会いを演出し、さらに別の事件へとつながっていきます。
事件の背景がこの時代のロシアの状況をよく反映したものになっていて、なるほどなーと思いました。この辺りに革命まで書いてくれるかもという期待が湧いてきます。
その伏線のように、オリガの周辺にはさまざまな人物が配されてまして、軍部に見切りをつけたやり手の商人=開かれた視野を持つ伯父とか、その仲間とか、昔ながらの習慣を頑なに守るロシア商人とか、経営者に反感を持つ労働者たちとか。
まるで逆ハーレムのようにオリガの下に集う(?)三人の若い男たちも、三者三様。
元近衛連隊で今は警察副署長のロジオン。
憲兵将校でオリガの父親を革命家と繋がっているのではと疑っているレオニード。
イギリス人弁護士でオリガの婚約者アーサー。
どの人物もこれからの展開を考えるとさまざまに妄想が膨らむという点でたいそう面白いです。
冷徹で疑い深いレオニードとはのっけから対立してますが、かれには一本筋の通ったところがあって任務に忠実だという点で好感があり。
アーサーはいまのところなにかお義理の婚約者のようですが、たぶんなにか思惑があるのだろうし、もし亡命なんて事になったらいろいろとお役立ちだろうなと思われ。
ロジオンはいちばんヒーローっぽいですが、けっこう苛酷な過去の持ち主で得体の知れないところがあり、やばいんじゃない?という予感があったり。
オリガがどうなるかよりも、この三人がどう変貌していくのかのほうに興味が湧いてしまいました。
なのでぜひとも、革命までつづいていただきたいと思います。
さいわい二巻目は刊行されていて手元にもあるので、すみやかに読みたいと思います。
ところで、あちこちに出てくるロシア料理が興味深いです。
とくに屋台のB級グルメみたいなヤツ。
これをまたオリガが美味しそうに食べてるんですよねー。
ものを食べるシーンがあると一気に日常感が演出されますね。
さらに余談。
タイトルの「夜の虹」てどういう意味なのか、どこかに書いてあったでしょうか。
読み飛ばしちゃったのか……?
夜の虹 灰色の幽霊 (コバルト文庫)
毛利 志生子 増田 メグミ

「君のために――戦国恋話」
日本戦国時代風異世界恋愛長編少女向け。完結済み。
苛酷な状況に負けたくないと必死にあがく主人公に好感触。
叙情的な心理描写と状況説明とのバランスがよくて、いっきに読みました。
それぞれの象徴として扱われている色がとても印象的。
『百鬼夜行抄 19』
今 市子

読了。
人ならぬものが見える大学生飯嶋律。好むと好まざるとに関わらずその手の事件に関わってしまうかれとその家族の波乱の日常を軽妙なテンポで描く、怪奇譚。シリーズ第十九巻。
収録作品は以下の通り。
寒蛍
嘘つき地蔵
石段の底
赤将軍到来
名前のない子供
読み始めて、「アレ?」と思いました。
そういえば、青嵐は律の護法神じゃなくなったんでしたっけ。
縛りの無くなった青嵐は家を空けることが多くなり、飯嶋家は物の怪の巣窟と化してってますが、それでもそんなには動じなくなったところは、律も成長したって事なんでしょうね。
しかし、あわよくば律を手に入れようと目論んでくるけっこう力のある物の怪には、やっぱり、逃げ回るしか出来ない模様で。
そのうえにいろいろと他人の事件にまで巻き込まれてしまう律は、貧乏性というのでしょうかw
青嵐が飯嶋家を「いい食事場所」と最後には戻ってきてくれるのは、ホッとすることでした。
だけど、長期不在中でもお母さんには連絡入れてたというのには……(笑。
律のお母さんにはなにか不思議な存在感がありますね。
最近、失われつつあったシリーズの緊張感が戻ってきたようで、楽しかったです。
これから律はどうなるのかに、目が離せなくなりました。
律のおじいさんとおばあさんの過去編にもようやくひとつの節目が訪れた模様。
飯嶋蝸牛はやむを得なくなってしまったツンデレかもしれないと今回思いました。
八重子さんの天然パワー、おそるべしです。
飯嶋蝸牛の作品を読んでみたいなあと、ときどき思います。すぐに忘れるけどw
そして猫のアカにそんな秘密があったとはしらなんだ。
さりげなくあちこちで繋がっていくエピソードがいいなあと思いました。
今回はそれほど混乱せずに読むことが出来ました。
面白く、楽しかったです。
絵も中身は一時期よりは持ち直したかなと……持ち直したあとでまたレベルが落ちてきてる気はしますが(汗。
しかし何といってもショックだったのはカラー絵の繊細さが失われていたことです。
お忙しくて大変なのだとは思いますが、作者さんのカラー絵が大好きなのですごく残念。
シリーズ開幕編はこちら。
百鬼夜行抄 1 新版 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
今 市子

『失はれる物語』
乙一

[Amazon]
読了。
日常にひそむ死の匂いが印象的な不思議っぽいミステリ短篇集。
久しぶりに読んだ乙一です。
収録作品は以下の通り。
Calling You
失はれる物語
傷
手を握る泥棒の物語
しあわせは子猫のかたち
ボクの賢いパンツくん
マリアの指
あとがきにかえて――書き下ろし小説 ウソカノ
SFやホラーの要素もあるのだけど、ジャンル分けするとミステリに入れたいなあと思うのは、この作品群のとても現代的に現実なたたずまいのせいかなと感じます。
そしてちょっとグロで残酷で孤独と死の濃厚なにおいが漂っている。
この本は乙一の作品の中でも比較的あとあじのよいものを選んであるかなと思うけど、それでもやっぱり死に至る傷があちこちに刻まれてます。
でも、ファンタジーじゃない。
不思議要素があってもぜったいに現実から離れていかないのです。
綺麗な救いも訪れない。
だからわたしはとても落ち着かない。
ぐるぐると思いを巡らせてしまい、微妙な気持ちで読み終えることになるんですよね。
登場人物たちがあらたな道を自分で見つけて歩いていくことで前向きな終わり方になるのは、じつはファンタジーの救いもそういうものの象徴なのですが、現実的に書くととってもささやかなものにしかならず、そのあたりが疲れたオバサンにはもどかしい模様です。
で、この悶々とする読後感、何かに似ているよなーと考えていたら、思いいたったのが新聞の社会面やワイドショーなのでした。
……うーん。
わたしはそれで乙一から遠離っていたんだなきっと。
というわけで、ちょっと読んでいてつかれたのですが、作品の出来映えはすばらしく。
とくに再読だった「しあわせは子猫のカタチ」はまたしてもじんわりとしてしまいました。
表題作がもっともこの短篇集を象徴しているかも。
この作品、ものすごい自己犠牲の話なんですが、わたしは主人公の置かれた状況がつらくて、想像するだけで怖くて涙が出そうでした。こんな状態でこんな選択を出来る人が本当にいるのだろうか。わたしなら最初の一日で発作を起こしてますわ。なんという話。
「傷」はすさんだ人間社会の暗部に暗澹とさせられる話。
大人に虐待される子どもの話は痛ましくて目を背けてしまいたい。
けど、現実にごろごろ転がってる話なんだろうなー。
少年たちの孤独な魂を象徴するかのような傷だらけの話でしたが、前向きに終わってくれたのが救いです。
「手を握る泥棒の物語」は一番ほっとできました。
「マリアの指」……グロい。
一番ミステリしていて読み応えもありましたが、なんというかかんというか。
犠牲者の特異なキャラクターの所以がわかればもっとすっきりしたかもしれません。
「ウソカノ」は「パンツくん」についで可愛い話でした。とはいえ、残酷さもきちんとあわせもっているのがこの作者の可愛い話です。
「Calling You」も既読。
ところが全然覚えてなかった……orz
このはなしが標題になってるジュニア新書をみつけたのがこの本を買ったきっかけです。
たしか携帯電話の話だったよねと思ったのですが、ちょっと古い携帯電話の話になってました。
いまの携帯電話はメールが主体のような気がするので。
で、姪っ子にどうかなとおもったのだけど、これはピンと来ないかもしれないなと思いました。
話はもっともSF色が濃くて、でもやっぱりミステリでした。
そして……涙の出る話です。
ひさしぶりの乙一を堪能しました。
「Calling You」を改題したジュニア新書。「傷」と「ウソカノ」も収録されてます……たしか(汗。
角川つばさ文庫版 きみにしか聞こえない
乙 一 SHEL

『とめはねっ! 鈴里高校書道部 7』
河合 克敏

借りて読了。
高校の書道部を舞台に、書道のお勉強をしつつ楽しめる体育会系文化部ラブコメコミック。シリーズ七巻目。
前回、かなの書の師を求めて訪れた笠置亜紀子先生にぶっとんだ理由で断られてしまった鈴里高校書道部。
かれらが次のターゲットに選んだのは部員で主人公(しかし影の薄い)縁君のおばあさまでした。
孫を人質に取られた英子さんはしかたなくかれらにかなを教えることを承諾……
↑大嘘です。信じないでくださいw
どうやら縁君のおばあちゃんは学生時代そうとうやんちゃだったらしいですね。
のほほん顔は孫とそっくりなのにw
かなに関する英子さんの知識と話術は卓越していて、書道部は最適な先生を得た模様です。
このかなの講義がとっても面白い。
万葉仮名とかは古文とかを習ってれば教わることもあると思うけど、かなの書では連綿と書くためにすべてを下に流すようにして書いていくのだとかは目から鱗。
いやあ、ためになるなあ。
そして鈴里高校書道部は、自分たちを袖にした笠置先生が指導を引き受けたという鵠沼高校書道部をまたしてもライバルとして対抗意識を燃やすのでありました。
東都文化大学オープンキャンバスでの書道講座に参加して火花を散らしております。
オープンキャンパスでは以前、書の甲子園でであった京都の大槻さんと再会。
今は大分にいる結希ちゃんの幼なじみ一条くんともニアミス中。
一条くんといえば、かれと結希ちゃんの文通エピソードがおかしい。
なんで自分の写真を同封するんだ~www
結希ちゃんからの返事を受けとった時の表情は、かれのお母さんの感想とまったくおなじでしたv
結希ちゃんといえば、ヘタレな縁君の代わりに体育会系主人公として、周囲の感情に鈍感なゴーイングマイウェイぶりを遺憾なく発揮しています。
書道部のあいまに柔道の大会に出て簡単に優勝しちゃう姿なんて、『帯ギュ』の登場人物から見たら許し難いのでは(汗。
加茂ちゃんたちの会話、
あの子、
顔はそこそこ
かわいいけど、
中身はゴリラよね
まあ、
人間じゃ
ねえよ
には吹きだしました。
鈍感で真っ直ぐで単純で元気な結希ちゃんが、わたしは大好きですv
つづきが楽しみです。
シリーズ開幕編はこちら。
とめはねっ! 鈴里高校書道部 1 (1) (ヤングサンデーコミックス)
河合 克敏

『町でうわさの天狗の子 7』
岩本 ナオ
読了。
天狗の父親を持つ女の子の、ちょっと変わってるけど普段はごく普通の日常生活と恋愛模様を描く、ほのぼのきゅんきゅんなコミックシリーズ。第七巻。
とっても力持ちであること以外はふつうの女の子(いまのところ)の秋姫ちゃんの高校生ライフは、今回もほのぼのまったりときどき胸キュンでした。
この巻ではヴァレンタインデー&ホワイトデーと一年生の終わりから二年生へのクラス替えが描かれています。
あいかわらず瞬ちゃんとの距離がつかめていない秋姫ちゃんですが、このエピソードを読むともうしっかりと方向性が見えてますよね。
幼なじみの瞬ちゃんは秋姫ちゃんにとってあまりにも日常なので、それ以外の別の視点で見ることをなかなか思いつけないのかもしれません。
でも瞬ちゃんは瞬ちゃんでけっこう頑張ってるのにな。
ほら、あのあっと驚くシーンとかさ。
わたしも驚いたけど、秋姫ちゃんはもっと驚いたはず。
なのに彼女、心と身体(髪の毛?)は反応しているのに頭が追いついていない感じです。
そして新しいクラスメイトの女の子に惚れまくったりしてるw
と、ラブ面は順調?のようですが、天狗方面で秋姫ちゃんに異変が!
いったい、彼女の正体ってなんだろう?
謎を残して次巻に続くです。
うがー、つづき知りたいーっ。
ところでお山の眷属にあたらしいメンバー追加。
九郎坊はちょっと抜け作な鹿さんの模様です。
シリーズ開幕編はこちら。
町でうわさの天狗の子 1 (フラワーコミックス)
岩本 ナオ

『女魔法使いと白鳥のひな』
パトリシア・A・マキリップ 大友 香奈子

[Amazon]
読了。
幻想の紡ぎ手マキリップの、異界とうつつと伝説と今を縦横に行き来する、象徴に満ちた夢のような物語。
トウモロコシ畑で出会った〈乗り手〉と曾祖母との血を受けついだ若者コールは、黒髪ばかりの〈道の民〉でひとり月色の髪をして昔語りばかりをする、いつも異質な存在だった。あるとき、つねとは異なる目的地〈デルタ〉をめざして旅立つことになった〈道の民〉はいつのまにか沼地の中で彷徨いつづけていた。まるで夢の中の迷路のような道行きにだれも疑問を持たない。皆の見えないものが見えるコールは、恋いこがれていたティラナと心を通わせながらもひとり焦燥し、脱出するための扉を探した。そしてかれは突然落ちてきた家の扉をくぐった。黒い小さな家には昔語りにあるとおり、〈ハンター領〉の〈象徴〉太陽の黄金の戦士を閉じこめた七つの星があった。
昔語りの星座の象徴する力の存在と、現実の権力図がかさなりあい、からみあい、干渉し合うなか、力ある存在にひとつの駒として否応なしに引き入れられた若者の混乱と、興味本位でかれに助力することになった女魔法使い、さらに彼女の親戚筋を巻き込んでの大きな陰謀の物語です。
第一部はコール視点の話。
第二部は世界を支配するロウ王国王家の親戚筋であるメグウェット視点の話。
第三部でふたつのながれがひとつとなり、昔語りの中に忘れられていた存在の姿が浮かびあがります。
まずもって謎ばかりで始まる物語です。
コールの曾祖父は何者なのか。
コールしか見えないものはなんなのか。
コールだけべつの場所に行ってしまうのはなぜなのか。
なぜ〈道の民〉は迷っていることを自覚しないのか。
鋳掛け屋はコールを使ってなにを目論んでいるのか。
とにかく、第一部はわからないことだらけで読み進むのに大変苦労しました。
第二部でようやく視界がひらけてきて、メグウェットと王家の関係で話の全体像がわかるようになり、門番さんとのからみなど別の楽しみもできて、ようやく落ち着いて読めるようになった。
そして第三部は怒濤の展開です。めくるめく幻想の中でつづれおりのように紡がれていく、ささやかなように書かれているけれど実はスケールの大きな物語!
あちこちにちりばめられた隠喩暗喩、さまざまなモチーフに胸がドキドキしました。
最後はまるくおさまってくれてよかったー。
あ、これって二部作の第一部でした。
ということはまだこれでめでたしというわけにはならないのか。うーむ。
と唸るのには理由があります。
この本、謎ばかりだからというばかりでなく、たいそう読みにくかったんです。
ページを開いて読もうとするのに、文字のうえを目が滑ってなかなか頭の中に入ってきてくれない。
文章がとても難解というか、ときどきこれって何が書いてあるの、意味ワカンナイと思うこともありました。
マキリップの原文が難解なのか、それを日本語に移植する時点で生じた齟齬なのかはわたしにはわかりかねますが、いままで読んできたマキリップ作品の中でまちがいなく一番読みにくかったです。
話がわかってみるとうわあ、そうだったのか、素晴らしい! と言えるけど、だから皆さん読んでくださいとはとても言えない……。
マキリップの本が次々刊行されるのは嬉しいけど、どうもどんどん読みにくくなってるような気がします。わたしの頭が悪いからかもしれないけど、これでは売れないのも仕方がないかなあと感じてしまった一冊でした。
でも、続きも読みますけどねv
第二部はこちら。
白鳥のひなと火の鳥 (創元推理文庫)
パトリシア・A・マキリップ 大友 香奈子

20101008の購入
町でうわさの天狗の子 7 (フラワーコミックスアルファ)
岩本 ナオ

以上、購入。
帯に、今をときめく『君に届け』の作者さんもファンですー、みたいなことが書いてありました。
あれ? 出版社違うけどいいの?
ところで今月はあと何が出るのかな←なんにも把握していない人。
以前はマンガを手に入れたら即座に読んでいたのに、最近じゃそこでひといき、手元にあるだけで満足しちゃう。もしかして手に入れたところでエネルギーが尽きているのでしょうか。
本を一冊読むのにも時間がものすごくかかるようになってしまいました。
なのに本屋に行くとあれもこれも読みたくなってしまうw
『犬夜叉 51』
高橋 留美子

読了。
女子中学生日暮かごめが戦国時代へトリップ。四魂の玉を巡って宿敵奈落と対決するため旅をする、伝奇アクションコミック。シリーズ第五十一巻。
おもに、殺生丸対犬夜叉の兄弟げんかの巻でした。
いつもクールな殺生丸ですが、父親の形見である刀に関しては並々ならぬ執着をいだいています。
鉄砕牙が弟に残され、自分に与えられた天生牙すら鉄砕牙のための存在だったと知らされて、胸のうちは煮えくりかえっているのでしょう。
ついに奈落の計略に乗って犬夜叉との対決を選んでしまいます。
とはいうものの、殺生丸はどこかで犬夜叉を認めたいという気持ちも持ってるんだろうなー。
半妖のくせにと詰りながらも父親が認めた資質というものを肯定したいとも思っているのかなと思います。
そして天生牙の冥道残月波をついに手中に収めた犬夜叉が後一歩のところまできたという、自分の刀とはいったい?
というシリアス展開の後で、七宝ちゃんのラヴリーなエピソードがv
昇級試験に懸命なキツネ妖怪たちがとってもかわいいです。
けらけら笑った後で、巫女・瞳子とかごめちゃんのシリアス展開のはじまりでこの巻は終わり。
楽しかったです。
個人的に困ったのは、アニメの完結編(再放送!)と同時進行で読んでしまったことです。アニメはエピソードの前後が入れかわってたり途中ではしょったりしてるんですよね。で、混乱。
再放送でついこのまえ神楽が死んだのに、先日見たのはもうキツネ妖怪編なんですよ。キツネ妖怪編はアニメを先に見ちゃったんですよ。
原作では神楽の話を読んだのはずいぶん前の事じゃないですか。
あれあれあれ~?
と話の順番を整理しようとしましたが、鳥頭ではとうてい無理でした。がくり。
とにかく、はやく続きが読みたいものです。
これ以上頭の中が混乱する前に(汗。
犬夜叉 52 (少年サンデーコミックス)
高橋 留美子

20101006の購入
眠れぬ夜の奇妙な話コミックス 百鬼夜行抄(19)
今 市子

以上、購入。
この本屋、『百鬼夜行抄』だけ入荷が早いんですよねー。
ほかのマンガは発売日当日で、ラノベは大半は入らなくて入る少数のものは翌日で、創元推理文庫は日本人作家のみしか入らなくておまけに発売日はいつですかで、新書はぜんぜん入らないのに。
どういう本屋なんだろう……?
『コップクラフト 2 Dragnet Mirage Reloaded』
賀東 招二 村田蓮爾

[Amazon]
いただいて読了。
妖精や魔物の暮らす異世界とゲートで繋がった地球を舞台に、刑事と騎士のコンビの活躍を描く、SFアクションファンタジー。シリーズ第二巻。
面白かったー。
一冊を通してひとつのストーリーが展開された一巻から一転。
第二巻は中編二編という構成です。
収録されたのは以下の通り。
EP.02 忙しい夜
EP.03 10万ドルの恋人
BONUS TRACK ●スベシャル・インタビュー
イリーナ・フュージィ(ティラナ役) 来日特別インタビュー
あとがき
エピソード2は、異世界レト・セマーニからの密輸品取引の現場から押収した商品から、とんでもないものが飛び出してきたというお話。
なんと、吸血鬼ものです。
アクションサスペンスホラーなテイストでした。
レト・セマーニ世界の歴史や風俗も垣間見られて面白かったです。
エピソード3は、マトバの恋人がティラナのおかげでとんでもない災難に遭う話。
恋人といっても車ですけどね。
でもこの車、登場時から私も心を惹かれていたので正直哀しかったです。
なぜかというと、ミニクーパーだったから。
車には興味ないんですけど、ミニだけは『女には向かない職業』からずっとなんとなくな憧れの対象だったのです。映画の『ミニミニ大作戦』も好きでした。
こちらはドタバタコメディーです。
なんども描かれるカーチェイスは、ぜひ映像としてみてみたい。
同時に描かれるマトバとティラナの喧嘩交流も楽しかった。
特別風紀班のメンバーの新しいボスも含めての個性も描かれるようになってきて、職場が生き生きとしてきました。
そのなかでのマトバの位置なども興味深い。かれは鬼軍曹なのですね。
マトバの元恋人、検死官のセシルがティラナのお姉さん役として頼もしいです。
そして、マトバはティラナを妹としてみてるのか。ふむふむ。
既刊のリメイクはここまで。
でもつづきはまだ刊行されていません。
刑事物のお約束の枠の中で、ミリタリーものの派手さと異世界ものの特異な設定をあわせもち、それをきちんと娯楽として消化しきっているこのシリーズ、つづきがとっても楽しみです。
コップクラフト (ガガガ文庫)
賀東 招二 村田 蓮爾

『コップクラフト Dragnet Mirage Reloaded』
賀東 招二 村田 蓮爾

[Amazon]
いただいて読了。
魔法の支配する異世界とゲートで繋がってしまった地球を舞台に、兵士あがりの刑事と少女騎士の活躍を描く、SF刑事アクションファンタジー。シリーズ開幕編。
竹書房ゼータ文庫から出ていた『ドラグネットミラージュ』のリニューアル版だそうです。
ベトナム帰還兵みたいな日系刑事ケイ・マトバ(けどまだ若い)と、成人していると言い張るけどどう見ても子どもな少女騎士ティラナ・エグゼティリカの、差別と偏見に満ちた出会い編です。
最初の印象が最悪なのはお約束w
事件を捜査するうちに、喧嘩をしつつ相互理解が深まっていき、相手の技量に感心したり、信念に共感したり、いろいろしたすえに最後は異文化への認識の深まりとともに互いに尊敬の念を抱くようになる……。
王道を行くストーリー展開がたいそうここちよい、上質の娯楽小説です。
また、この異世界と繋がってしまった地球、という設定が面白いです。
この物語の異世界は死後の世界ではなく、外国的なもの。
非常に異なる精神文化との接触によってひきおこされる摩擦や軋轢、それにともなって起きる犯罪や戦争等々が、じつにリアリティーをもって語られるあたり、設定作るの好きなんだろうなあと感じました。
それと、主人公が兵士あがりなので兵器の描写や戦闘のアクション展開に迫力があって、刑事物とはちと雰囲気が違いますね。きっと軍事関係が好きなんだろうなあ。
その軍事アクションに妖精や魔物の住む平ら異世界の設定が絡み合う。
まだ地球がたいらだったと信じていたころの人類の世界観を具現化したようなこのレト・セマーニは、思うに住人達の意志によってかなりの部分の物質が支配されている世界なのではないでしょうか。
ちょっと具体例を本文から抜き出してくる余裕がないのだけど、そんな印象を随所に受けました。
そして、フルメタのアルの存在が思い出されたw
妖精が強力な麻薬になるとかは、物質文明を極めた地球を象徴しているような。
そういえばフルメタの完結編を読んでから『虐殺器官』を読んで、おなじ軍事ものでものすごい落差を味わったのですが、この作者の楽天的な作風は読んで楽しい娯楽作品にたいそう相応しいものだと今回も思いました。
理屈抜きに面白かったです。
アクションにキレがあって、異文化接触が丁寧に描かれてて、さらにツンデレ少女もかわいいしv
雰囲気には外国ドラマなのかなー。あんまりそちら方面には詳しくないんですが、風紀係にバイスとルビがうってあると「マイアミ・バイス」を思い浮かべる世代ではあります。(それも見てたのは私じゃなくて家族でしたが)
個人的に難だったのは、マトバと読むと自動的に的場浩司氏を思い浮かべてしまうところでしょうか。
そこまで強面じゃない気がするんですけど……w
つづきもあるので読みたいと思います。
ところでタイトルにはどういう意味があるのかな。
ウィッチクラフトのクラフトから来てるのかな。
コップクラフト2 (ガガガ文庫)
賀東 招二 村田蓮爾

『銃姫 10 ~Little Recurring circle~』
高殿 円 エナミ カツミ

[Amazon]
読了。
魔法と科学技術が混在する近代風異世界戦乱ファンタジー、シリーズ第十巻。
版図を強引に拡大しようとするスラファトに対抗するチャンドラースの勢力は、圧倒的な武力の前に潰え去っていった。チャンドラースの息子ホラスとともに生きのびたセドリックも、闇のアルティメットであるかれを葬り去ろうとするスラファトの執念に追い詰められる。五万の兵士に取り囲まれて進退窮まったセドリックは、スラファトの竜王と彼に捕らえられたアンブローシアの見守る前で、ついにデスパニックの危険を冒してじぶんの力を解放した。
うーん……熱い物語ですねえ……。
久しぶりに読んだので固有名詞がかなり記憶の彼方で、人物関係もおぼろでしたが、テンションの高い文章の勢いにまきこまれるように読み切りました。
ものすごいクライマックスでものすごく人死にが出た巻ですが、とっても前向きな気分になってしまって、いいのかなこれで。文字通り芥子粒のように潰されてったスラファト兵士の皆さんに申し訳ないような気持ちになりました。
死があるから生が輝く。すべてはひとつに繋がっている輪。
生きる目的は自分が見いだす神。そのために努力しそのために死のうとも、悔いのないようにつとめるのが生きること。
ひとつひとつが決めゼリフのような言葉たちに、そういやこういう作風だったわねえと思いましたが、しばらくぶりだったので新鮮でした。
調べてみたら九巻を読んでからほぼ一年が経ってました。
常套句の多使用とほんのときたま不安を感じる文章が気になりますが、それを補ってあまりある情熱が吹きだすようにつたわってきて、ふるえました。
契機は、そもそもセドリックの旅の発端となったオリヴァントとの邂逅でしょうか。このふたりのシーンはとてもとても感動的だったです。
設定のあれこれの種明かしが矢継ぎ早におこなわれるのと同時進行で、セドリックの成長が描かれていく後半は、怒濤の前半とはうってかわったしみじみとした味わい。
シリーズ全体の謎である銃姫についてはなんだかよくわからない(=判明してもそこに意味があるのかな)気持ちなのだけど、物語の結末はとっても気になります。
完結編はこの十巻に引きつづいて刊行されたようで、購入なさったかたはすぐさま読まれたのでしょうが、わたしはそういうわけにはいかないので悶えつつまたつづきを待つことにいたします。
早い到着を切に望む。
つづきの完結編。
銃姫 11 (MF文庫J た)
高殿 円 エナミ カツミ

『嘘つきは姫君のはじまり 寵愛の終焉』
松田 志乃ぶ 四位 広猫

[Amazon]
いただいて読了。
平安朝の京の都を舞台に、身代わり姫となった女の子が巻き込まれる事件と恋の物語。シリーズ八冊目。
東宮妃に絡んだ兄弟内の争いが飛んだ事件に発展した後、藤壺の中宮が倒れた。さいわい命に別状はなかったものの、からだをいたわるために中宮は一時里下がりすることになった。身代わり姫の宮子は別れの理由を問い詰める東宮から逃れるために中宮と行動をともにしようとする。
今回、新たなミステリはありませんでした。
その分、身分詐称の秘密と東宮への想いに苦悩する宮子の姿が丁寧に描かれてました。
とくに次郎君とのツーショットシーンは完全に拷問。次郎君の攻勢が強すぎて宮子は青息吐息です。この辺りを読むと、作者さんは結構色っぽいシーンがお好きなのねと思わせられます。前巻ほどではないにしろ、かなりきわどいです。ドキドキハラハラです。ラブがお好きな方はたまらないでしょうな……!
骨抜きにされそうなところで懸命に踏みとどまる宮子の意志の力が凄いです。でも疲れるだろうなあ。
そんな宮子をあかるく後押ししてくれる馨子さまが素敵ですv
この話、宮子の恋の苦悩がメインストーリーなんですが、ヒロインが視野狭窄に陥らないところがいいなと思います。他の帝の妃たちや姫君たち、東宮の兄妹たちだけでなく、もり立ててくれる女房たちへの気配りをも描いているところ、いままで読んだ後宮ラブものにはなかった現実的な感覚が新鮮。
そして身代わり姫になった後にのこされた幼なじみの真幸君が、宮子を黙って待ってるだけじゃなく自分の道を歩いているところもいいな。
かれは源氏の末席につらなるもののようですが、かれとついこの間出てきた源氏の若君文殊丸がこれからの展開の鍵なのかしら……?
馨子姫の兄上・兼通と文殊丸の対面シーンが興味深かったです。
今をときめく九条家の当主が、裏の道にまったく通じていないというのはちょっとあれでしたが、そういえば藤原氏よりも皇統のながれのほうがそちらにはつてがあるのかもですね。だから源氏や平氏は武士になったのかとひとりで勝手に納得しました。
あとがきの「史実と物語の流れ」というのに、えっ、これって史実を踏まえた話なんだといまさら気がつきました。そうか、藤原家の家系図とかみると時代がわかるのね。ということはこれは時代ミステリではなくて歴史ミステリなの? 興味はありますが調べはしないだろうな、多分。結末がわかったら面白くないし。
そういえば、途中で蛍の宮の副臥としていきなり名前の挙がる五節の君ですが、どうやら同時収録の短編「甘姫さまがやってきた!」が最初の登場のようです。混乱しないためにはそちらを先に読むべきかもしれません。
この短編でも馨子さまの豪快なお人柄がしのばれます。はははw
そしてふたりの老尼君さまがおつよくてすばらしい。カッコイイおばあさん大好きです。
さらに、東宮の弟君は七の宮。三歳児のあどけなさは最強でしたv
さて、これで既刊はすべて読み終えました。
たいそうなサブタイトルに何事かと思ったけど、ちゃんとつづくようです。
つづきは一体どうなるのでしょうね。
わたしは有子姫の今後に注目しています。多分メインとは大きくかけ離れた関心事(苦笑。
シリーズ開幕編はこちら。
嘘つきは姫君のはじまり ひみつの乳姉妹 平安ロマンティック・ミステリー (嘘つきは姫君のはじまりシリーズ) (コバルト文庫)
松田 志乃ぶ 四位 広猫

| HOME |