『赤い星』

赤い星 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
高野 史緒
4152089504


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読了。

ネットの発達した時代、帝政ロシア支配下の江戸の人びとがペテルブルグを夢見る、歴史改変SFファンタジー。


ネット技術のみが発達した時代。帝政ロシア支配下の江戸でハッカーをして生計を立てている娘おきみは、ピアニストになるべく旅立った幼なじみ龍太郎に想いを寄せて、かれがいるはずのペテルブルグのネットゲームの偽物に夜な夜な入り浸っていた。そんなある日、おきみは、友人の花魁・真理奈太夫から不審な頼みを受ける。秋葉原に出没するロシア皇子ドミトリーを名乗る若者を調べて欲しいというのだ。真理奈太夫は自分が公方の御落胤であると信じており、ドミトリーをつかって賭けに出ようとしていた。おきみは幕府の家老シュイスキー公爵から偽ドミトリーにかかわるなと警告を受ける。




猥雑で胡散臭くていきいきとした江戸の喧噪と、絢爛豪華で陰鬱で寒々しいペテルブルクのコントラストが印象的な、不思議な雰囲気のお話でした。

下敷きにあるのは「ボリス・ゴドゥノフ」なのかなーと思いましたが、無念なことに未読なので、いまいちそのあたりのおもしろさはわからずじまい。

それと、シャッフルされてるのか、リピートされてるのか、よくわからないロシアの歴史と、天人(あまんと)がロシアに代入された『銀魂』みたいな江戸の街が、不協和音寸前の興味深さでわたしを惹きつけました。

シベリア横断ウルトラクイズの苛酷さに笑い、龍太郎のバレエ団での仕事に興を覚え、ニジンスキーの登場には『ヴァスラフ』を思い出そうとして失敗し、しかし、物語はその場の雰囲気を描く文章以上にはならなかったような気がします。

つまり、「この世界はいったいどうしてこうなってるの?」という疑問がこの本の最大の面白さだった。

ペテルブルクへの憧憬が最後まで他人事だったわたしには、その理由はちょっと肩透かしだったかも。

いろんな要素がぎゅうぎゅうに詰め込まれた力作なだけに、もう少し遠回しでなく直接に踏み込んで骨格部分もがんと書いてしまってもよかったんじゃないかなーと思いました。

余談。
上にも書きましたが、『ヴァスラフ』はこの作品と関係あるのかなーと気になっております。読んだのがずいぶん前なのでもう全然思い出せないのです。たしか、ニジンスキーとネットが出てきたように思うんだけど。

それと『ボリス・ゴドゥノフ』の内容を知りたい、かもしれない(なに、この煮え切らない態度;)。

ヴァスラフ
高野 史緒
4120028410


ボリス・ゴドゥノフ (岩波文庫)
プーシキン Пушкин
4003260457

『金星特急 1』

金星特急 1 (新書館ウィングス文庫)
嬉野 君 高山 しのぶ
4403541488


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読了。

“金星”の花婿を募集する謎の列車に乗りあわせた男たちの道行きをサスペンスフルに描く、近未来SFファンタジー? シリーズ開幕編。

お試し購入企画の一冊。

これはとても面白かったです。

「銀河鉄道999」なのかと思いきや、列車の辿るレールの行き先が意外性に満ちてたり、陰謀劇満載でアクションもありで冒険小説ぽかったり、さんざんに人死にが出てるみたい(←確証はない)だったりで、展開はスピーディーなのにストーリーの先が全然見えないので、ドキドキする。

舞台が近未来みたいなんだけど、どういう近未来なのか、かなりぶっとんでる近未来のように思えて、そのあたりが小出しにわかってくるのが非常に興味深かったり。

登場人物も個性的で、なかなかしょってる背景がわからないけどそれを匂わせる描写が面白い。

と、ここまで書いてきて、「まだ全体がよくわからないんだけど、それをほのめかすディテールがいちいち面白そうで興味をそそる」のが楽しいお話なんだなーと気がつきました。

これはつづきを読みたい。
図書館にあればすぐさま予約を入れます。……ないんですけどね。

しかたないのでつぎの機会を待って潜伏いたします。ぶくぶくぶく……


金星特急2 (新書館ウィングス文庫)
嬉野 君 高山 しのぶ
4403541534

『大祭の夜に 神々の迷宮』

大祭の夜に 神々の迷宮 (講談社X文庫―ホワイトハート)
西東 行 睦月 ムンク
4062866684


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読了。

理知的な魔法が異色の異世界ファンタジー。『神々の夢は迷宮』のつづき。


ひとり生き残った海人の少年ワツレンは、フィリグラーナ王国の迷宮管理庁に身を寄せていた。十九年に一度冬至と新月の重なる大祭を控え、ワツレンの年の近い義父で軍人のルーザ=ルーザは、祭りの火神役に推薦されて祭りの火神役に推薦された。そのころ、ワツレンは管理官エトとともに地下迷宮の探索の最中に地底湖でふしぎな剣を発見した。その剣はかつて王国の救世王が隣国ティンブクトゥとの和睦の証としたふたふりの剣の片割れだった。若きフィリグラーナ王はティンブクトゥの和平を進めるため、大祭までに残されたもうひとつの剣を発掘するようにと命じる。




たいへんに面白うございました。

冬至の大祭の忘れられてしまった本来の意義とか、地底湖に封じられていた悪意の謎とかの、神話伝説の時代からつづく世界の理にかかわることと、現在の王国が置かれている世界状況や国内の権力闘争がうまくからみあって、なおかつコンパクトにまとまってるところが素晴らしい。

前作の続きということで、キャラクター的にも面白みが出てきたように思います。おもにルーザ=ルーザとかですがw
名前を見るだけでちょっと笑ってしまう美貌の若き戦士は、どうやら思っていたより青臭いのかもしれません。だんだん可愛いくなってきましたw

迷宮管理庁の管理長の存在感も素敵です。

そしてあいかわらずの蒼い衣の吟遊詩人です。
今回はすこし出過ぎのような気がしましたが(ワタシ的にはちょこっと出てすべてをさらっていくようなのが好きw)、かれの正体というのがかなり具体的に説明されてて、興味深かったです。
これも、説明しないままでもよかったような気がしましたが、あったほうがより親切というものでしょうね。

降臨された火神の猛々しさに痺れましたw
おりおりに披露される海人の文化も面白いw

祭りの話には決着がつきましたがまだつづきがあるようなので、楽しみにしています。


シリーズ開幕編はこちら。
神々の夢は迷宮 (講談社X文庫―ホワイトハート)
西東 行 睦月 ムンク
406286617X

20110323の購入

本を返却しに行って、本屋によりました。

ここではない★どこか 春の小川 (Flowersコミックス)
萩尾 望都
4091670458


W100 シンガー・ソングライター ~今という時代を探る~ (シンコーミュージックMOOK)
W100プロジェクト
4401770323


以上、購入。

『W100 シンガー・ソングライター』は尾崎亜美さんのインタビューが目当てですが、100人の女性シンガー・ソングライターへのアンケートがメインのムックです。

100人も載ってるのにまだいないひとがいるような気もする(いやほんとにビッグネームが結構もれてる)のもすごいな。

大御所がいないのは若手にページを割きたかったからなのかなーと、ちょこちょこ拾い読みしながら思いました。

『クシエルの使徒 2 白鳥の女王』

クシエルの使徒〈2〉白鳥の女王 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
4150205108


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読了。

中世ヨーロッパを模した異世界で、高級娼婦兼スパイとして育ったヒロインが使命感から政権争いに積極的に関わっていく、波瀾万丈な宮廷陰謀ロマン。シリーズ第二部の第二巻。

うはーー、なんというジェットコースター展開!

前巻でテールダンジュ宮廷でのスパイ活動を開始したフェードルは、今度ははるばるラ・セレニッシマでの調査に乗りだし、そこでまた当地での権力闘争に巻き込まれます。

ラ・セレニッシマのモデルはヴェネツィア共和国でしょうね。
ここに食い込んでいくために、テールダンジュで出会ったラ・セレニッシマ頭領の息子でテールダンジュ王子の息子セヴェリオがとっかかりになります。

このセヴェリオとかれの取り巻きたちのなんとラテンなこと。
未婚の娘と母親を賛美する(しかし妻は虐げる)、陽気なラテン気質全開でフェードルにつきまとい、ジョスランの神経を逆撫でしつづけます(苦笑。

表では陽気なのに裏では駆け引きと裏切りばかりという、なんとも感情的で濃密でしつこい社会の雰囲気を読んでいて、「ロミオとジュリエット」ってこんなところが舞台のはなしなんだなー。それならなんでも衝動的にやっちゃうのも無理ないかも、と思いましたw

ラ・セレニッシマでは現頭領が死に瀕していて、次期の座をめぐっての争いが激化しています。

そんななかでメリザンドの消息を追うフェードルたちは腹を探られ、不信感をもたれて遠ざけられ、となかなか目的にたどりつけません。

しかも、旅の前から険悪だったジョスランとの仲はこじれにこじれて、フェードルのあたまも飽和寸前。

忠実な騎士“フェードルの野郎ども”の献身に支えられてなんとか責務を遂行しようとするところ、さまざまなアクシデントが彼女たちを見舞います。

そして……!

ネタバレになってしまうので自重自重。

とにかく緊張のつづく展開で、どこに落とし穴があるかわからない。というのはわかってたんですけど、なんど心の中で悲鳴をあげたことか。息も絶え絶えになりながら、どこにいくのかわからない物語に押し流されていく読書体験です。

この波瀾万丈状態、ちょっと「流血女神伝」を彷彿とするなー。

でもカリエのお伴だったエドのゆるぎなさに比べ、フェードルを守る誓いを立てたはずのジョスランのグラグラっぷりときたら。
愛すべきぐらぐらなんだけど、ぜんぜん任務を果たしてないし頼りになってないw
むしろフェードルの心痛のタネというw

このあたりに少女向けとの違いがあるのかなあと感じました。

さらにラ・セレニッシマの信仰とか日常生活とか社会とかがしっかりと物語に絡んできて、その土地ならではの雰囲気を醸し出しているところも読みどころです。

しまいにはセレニッシマ以外にも世界が広がり、このつぎはエルを信仰するひとびとが出てこないなーと期待がひろがりました。

(もしかして、それがムスリムだったりするとすごく面白いんだけどとは、個人的な期待です)

二巻もまた「ええええっ! このあとどうなるの!?」というところで終わってしまったので、三巻を手にするのがとても待ち遠しいです。

余談。
前巻のアレはやっぱりフラグだったw

さらに余談。
サブタイトルの御方の近況を知りたいですw

クシエルの使徒〈3〉罪人たちの迷宮 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
4150205132

『犬夜叉 56』

犬夜叉 56 (少年サンデーコミックス)
高橋 留美子
4091215807


読了。

女子中学生日暮かごめが戦国時代へトリップ。半妖の少年犬夜叉や仲間たちとともに、四魂の玉をめぐって奈落と戦う、伝奇アクションファンタジー。シリーズ完結編。


……終わった。終わりました。
長かった……。

吃驚仰天とか衝撃のとかいう形容はしがたいけれども、これで終わったんだなという感慨に浸れるラストでした。

ちょっと疑問を感じる部分もあるんですが、こんなに長い話はこんなふうに終わってくれないと困りますよね。

読み終えて、この話は「炎トリッパー」と「忘れて眠れ」の発展形だったんだなーと思い出しました。

時間トリップ物の名作「炎トリッパー」は、かごめちゃんと犬夜叉の関係に。
伝奇的な男女の愛憎物語「忘れて眠れ」は、桔梗と犬夜叉と奈落の関係に。

それぞれ見てとれるような気がします。

あと、「忘れて眠れ」の犬使い要素が犬妖怪になったのかな?w

戦いの後、その後の物語の構成がすばらしくて、ああ、そうなったんだ、みんな、よしよしって感じでしみじみしてしまった。

途中、かなり中だるみもしましたが、最後まで読んで後悔しなくてすんだのがなによりよかったです。

ワタシ的には最後の殺生丸とかごめちゃんのシーンがお気に入りですw


「炎トリッパー」と「忘れて眠れ」収録本。
高橋留美子傑作短編集―〈保存版〉るーみっくわーるど (2)
高橋 留美子
4091218571

『ミストクローク 霧の羽衣 1 新たな救い手』

ミストクローク ―霧の羽衣― 1 新たな救い手 (ハヤカワ文庫 FT サ 1-9)
ブランドン・サンダースン 竹井
4150205213


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読了。

合理的な魔術がユニークな異世界波瀾万丈アクションファンタジーシリーズ、『ミストボーン』から始まる三部作の第三部開幕編。


支配王を打倒し〈終の帝国〉崩壊後の試練を乗り越えたものの、〈即位の泉〉から悪意を持つ巨大な悪しき力が解放されて世界は終末を迎えつつあった。降灰はつづき、作物は育たない。コロス軍は村々を襲い、霧は直接ひとびとを殺すようになった。新皇帝となったエレンドは民を保護し救うため、支配王の貯蔵庫を求めて、帝国全土を旅していた。貯蔵庫には支配王の蓄え残した物資と終末に対抗するためのなにかが残されているというのが、かれらの見解だ。先の見えない不安の中、帝国内では革命を指揮し、死によって先鞭をつけた盗賊ケルシャーを崇める“生き残り教団”がじわじわと広がりはじめていた。




個性的な登場人物たちによるドラマティックな展開に、システマティックな合金術の面白さと、それによって生み出される切れ味のよいアクション。

緻密に設定された物語世界の激動の歴史的転換点をえがく、壮大なエピックファンタジーです。

面白いです!!!

片時も停滞していないスピーディーな展開なのに、浅はかさを少しも感じさせない、作り込まれた設定がすべて物語と人物に生きているのがすごい。

ヒロインのヴィンも、ヒーローのエレンドも、ものすごい勢いで変化し成長してる。
第一部のかれらを思い出すと、遠くへ来たなあと思います。

第三部では、第二部でヴィンが解き放ってしまった巨大な悪しき力との戦いと、終末へ向かいつつある世界での生き残りを模索するヴィンをふくめた仲間たちの姿が描かれます。

ここでかれらが打倒した支配王がその支配期間に実は何を意図し何をしていたのかがあきらかになります。
そして支配王の遺産に現状打開の鍵を求めることになる。皮肉です。

破壊神と深き闇、霧の正体、カンドラの秘密、霧の落とし子の存在意味、スプークの出会った声の正体。
世界の謎はいまだすべてあきらかにはならず、意味深にすこしずつ提示される断片に身もだえしました。すっかり作者の思うつぼです。

謎解きだけでなく、単身敵地に乗り込んだスプークのスリルとサスペンスとか、信ずるものを失ったセイズドの孤独と苦悩とか、変わり身族カンドラで掟を破ったテン・スーンの精神的な変革とか、読みどころは満載w

中軸であるエレンドとヴィンの物語を支える脇筋の豊かさが、物語世界を幾層にも深め、視野を広げ、壮大な世界を実感させてくれます。

第一部は抑圧的な支配者を倒す、理想に燃える革命の物語。
第二部は崩壊した秩序を回復するために、現実と向かいあう物語でした。

第三部は、先の見えない状況で現実的な判断を下しつつ、なお理想を求める物語、になるのかなー。

かつてのヴェンチャー家の領土ウルトーのまるで共産主義な全体主義的状況が面白い。
合金術にもあらたな展開が出てきたし、不気味な鋼の尋問官たちの血金術とやらの詳細も知りたいです。

とにかく、はやくつづきを読みたい、読ませてください、とお願いしたくなる。
……はやく予約しよう(汗

ミストクローク―霧の羽衣― 2古からの声 (ハヤカワ文庫FT)
ブランドン・サンダースン 竹井
4150205248

20110318の購入

予約本を受け取りに出たついでに本屋に行きました。

ヴォイス 西のはての年代記Ⅱ (河出文庫)
アーシュラ・K・ル=グウィン 谷垣 暁美
4309463533


以上、購入。


以下、近況。
生きてます。

当県東部は震度五弱と報じられましたが、うちの近辺は震度四でした。きっと臨海部じゃないから地盤が固いのね。

本震はさすがに大きくて長くてたいそうびびりましたが怪我ひとつせず、帰宅してからの本雪崩にはちょっとショックでしたが、被害といえばそれくらいですみました。(あ、液体芳香剤が倒れ流れ出たせいで、我が家のトイレは今ものすごい香りになってます;)

親類縁者もみな無事が確認とれました。

それからは計画停電にそなえ、節電に励み、ラジオとネットで情報収集し、ときどき買い出しに出かけてます。

近隣の小売店・スーパーとも聞きしにまさる状況ですが、一過性のものだと思うので心配はしてません。

病院はちゃんと開いてますし、薬局もそう。
バスも動いてます。図書館の予約本を受け取りに駅まで行きましたが、ふつうにたどりつけました。

というわけで、わたしはだいたいふつうに暮らしております。

わたしのできることは、たくさんの失われた命を悼み、いまも困難な思いをされている方々、直接現地で日常を取り戻すために頑張っている方々に届くようにとささやかなことをするくらい。

ここで足手まといを増やさないように体調管理だけはしっかりとしていこうと思います。

『クシエルの使徒 1 深紅の衣』

クシエルの使徒〈1〉深紅の衣 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
415020506X


[Amazon]

読了。

西洋中世風異世界宮廷陰謀ファンタジー、『クシエルの矢』のつづきで第二部の開幕編。



閨房スパイとして育てられた娘フェードル。波乱の試練を乗り越えた末にテールダンジュ王国の危機を救い、貴族の称号を得て、山国ショヴァールの所領で恋人ジョスランとともに平穏な日々を送っていた彼女の元に、深紅のマントが贈られてきた。それはクシエルの矢を受けた彼女のアングィセットたることを象徴するものであり、反逆者メリザンド・シャーリゼによって奪われたものだった。逃亡したメリザンドの行方は杳としてしれない。マントはメリザンドから自分への挑戦であり、メリザンドの逃亡を手引きした者が女王のそばにいると確信したフェードルは、ジョスランの反対を押し切って宮廷へ戻り、ナーマーの奉仕によって真実を探り出す決意をする。




あー、面白かった!!

波乱の第一部で大団円をぶちこわしたメリザンドからの贈り物。
そこから第二部ははじまります。

アングィセットと呼ばれる真性のマゾヒストであるフェードルは、クシエルの家系で真性のサディストであるメリザンドを心ならずも愛しており、手ひどく裏切られた故に憎さ百倍。

恩師と友人の仇であり、王家に徒なす逃亡死刑犯でもあるメリザンドが、潜伏先から優雅に(?)送りつけてきた自分のマントに、ひどく心を掻き乱されます。

メリザンドは自分に勝負をしかけている、と確信したフェードルはそれを受けて立つことを決意。

ふたたび、不穏な政治の駆け引きの中に身を投じることになるのでした。

メインは、平和を取り戻したと見えるテールダンジュの華やかな宮廷のかげで繰り広げられる陰惨なドラマ。
誰もが怪しく信用できない、そんななかでフェードルが幾人もの客へのナーマーの奉仕によってたぐり寄せていく情報の断片と人びとの立ち位置。

浮かびあがるチェルディッカ共和国ラ・セレニッシマの影。

そんなサスペンスフルな展開にあって、フェードルが宮廷再デビューのためのドレスを注文した白薔薇館のファブリールとのエピソードがとてもたのしかったですw

反対に陰謀サスペンスにさらに深い影を落とすのが、ジョスランとの関係。

フェードルが危険を冒すたびに心痛に苦しむジョスランは、ヒアシンスを救出する手がかりを得るために繋がりを持ったイェシュト人の教えに急速に傾いていきます。

イェシュトはひとびとを救済するためにすべての原罪を背負って死んだとされる救世主。
つまり、現実でいうならキリスト。
イェシュトに帰依すればすべての過ちが許されるといわれて、ふらふらしてしまうのですね。

そして、ナーマーのしもべであるフェードルは、イェシュトの民からすると大罪人。
フェードルとジョスランとの間にイェシュト人が入りこみ、どんどん距離がひろがり、フェードルはかれとどう接すればいいのかもわからなくなっていきます。

このあたりの心理劇が、ワタシ的に一番の読みどころだったかな。

フェードルとジョスランの関係は絶妙だなあと思います。
真性マゾヒストの彼女は、たぶん危険にさらされるのが大好きなんです。
その彼女を護る誓いを立てたかれは、彼女が好きこのんで危険なことをするのが理解できないし、ゆるせない、自分の誓いをなんと思っているのかと憤ってしまう。でも、彼女を護らねばならないかれは、彼女の意に添わないことはさせられない。護る誓いのために離れることも出来ない。
堂々巡りです。

フェードルはマゾヒストなのに、ジョスランに対してはこれでもかとサド的な行動を重ねます。
それってかれをまったく客としては見ていない、対等な心許せるパートナーとして認識しているためじゃないかな。

ジョスランはもとから守護誓願という受け身の立場なので、みずから行動を仕掛けるということができない、というか苦手なので、よけいにこじれるんだろう。

このふたり、このあとどうなるんだろうなーーー。

ところで、イェシュト人は、第一部を読んでいるかぎりではユダヤ人かなと思ってたんですが、その教義はどうみてもキリスト教でした。では、ユダヤの教えを信じる人びとはここにはいないのかな。

よく見てみると、この世界では帝国はキリスト教化されてなかったんですね。
それでイェシュト人たちは故郷なき放浪の民になってるわけで。

そのいっぽう、スカルディアでは普通に北欧神話がでてくるし、アルバではケルト風だし、チェルディッカはローマ神話なの? ギリシャ神話なの? いったいこの世界の精神世界はどうなってるの? とかなり混乱してしまいましたが。

解説で石堂藍さんがお書きになってる「パロディー」というのを読んで、そうか、と思いました。
エルーア様とナーマー様だけがユニーク設定で、あとは既視感びしばしというのもそういうことならうなずけます。

テールダンジュ人がテールダンジュ至上主義者なのとか、ラ・セレニッシマがテールダンジュの技術によって建築中だとか、イェシュト人のあいだにシオニズムみたいな運動が流行ってて分裂しそうになっているのとか、とてもディテールが皮肉っぽいのもそういうことか。

作者さんはいろんな歴史や伝説や現実を物語のために好きなように再構成しておられるのですね。

物語のすべてにオリジナリティーを求めない。
表現するためには既存のイメージも何でも使う。
そういう姿勢は「グイン・サーガ」でも見てきたものですし、なっとくすればなるほどです。

つづく二巻はどうやらラ・セレニッシマへ舞台を移しての陰謀捜索劇になりそうです。
ラ・セレニッシマはどうみてもヴェネツィアですねw
途中の海路で遠くより眺めた監獄島の存在がとても気になりました。これってフラグ?


クシエルの使徒〈2〉白鳥の女王 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
4150205108

『天涯のパシュルーナ 1』

天涯のパシュルーナ (1) (ウィングス文庫)
前田 栄 THORES 柴本
4403541372


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読了。

山賊団の頭目の少年が、行方不明の王子の身代わりをすることになる、異世界陰謀物語コメディー風味。シリーズ開幕編。



山間の小国パシュクルムは、高度な技術による特産品で有名な王国。ひとびとはパシュルーナ神への信仰に生き、十四の時に神託を受けて一生を定められる。だが、飛行技術を持つ帝国の圧力を受けて、次第に国内は不安定になっていた。孤児トゥルラクは山賊団の頭目に育てられ、義父の死後にその跡目を継いだ十六歳。帝国に恨みを持つ部下の敵討ちを防げなかったために、アジトを突き止められてしまう。部下を人質にされたトゥルラクが出会ったのは、国内でもやり手で知られる若手貴族ヒルクイット卿だった。




お試し購入してみた中の一冊です。

チベットみたいな雰囲気の気候風土の山国で、穏健な山賊団の頭目に育てられた少年が主人公。
突然の義父の死を受けて跡目を継いだのはいいけれど、部下になめられていまだ完全に団を掌握できずに苦闘中。団のひとりが絶対に手を出してはいけないと命じていた帝国人を手にかけてしまったという出来事から、とんでもない方向に自体が転がっていく……

というお話です。

帝国に搾取される小国で、圧力に屈してながされていく王家。
秩序が破壊されたために貶められていく信仰やしきたり。
精神的に荒んでいく社会では弱いものが虐げられていく。

というような問題をちりばめつつ、お話は明るく進んでいく模様です。

そして基本的にはキャラクター小説なのかな。

トゥルラクは社会の底辺をみてきたわりに、筋の通った少年。たぶん育ての親がよかったからでしょう。

かれをとんでもないことにかり出すヒルクイット卿はいまのところ美形悪役ですが、たぶん信念を持って動いているこころざしある若者。

その他にも、ヒルクイット卿の元気な許嫁や、ヒルクイット卿に脅されてるらしい巫子や、そのおつきやらと、目新しくはないけれどもそれぞれに存在感のあるキャラクターが配されています。

「王道」をめざしているらしいです。

ただ、どうにもテンポが悪い。最近怒濤の勢いで進む大河ものを読んでたせいかもしれないけど、一冊読んでまだまだまだはじまったばかりという感じです。他人のことは言えないんだけどももう少しはやく進んで欲しい。

つまらないわけではなく、むしろ興味をひかれる部分が多いので、図書館にあるなら絶対につづきを借りるんですけども。うーむ。

もし機会が出来たら、つづきを買いたいと思います(汗。

天涯のパシュルーナ 2 (新書館ウィングス文庫)
前田 栄 THORES 柴本
4403541461

『レプリカ・ガーデン 廃園の姫君と金銀の騎士』

レプリカ・ガーデン 廃園の姫君と金銀の騎士 (B’s‐LOG文庫)
栗原 ちひろ 明咲 トウル
4757749465


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いただいて読了。

科学文明崩壊後の世界を舞台に、恋をすると人間になる人形と人間たちの恋を描く、ロマンティックファンタジー。シリーズ二冊目。


クリステルは十五歳。生まれた時から美しい青年ヴィリと二人きり、おおきな館の中だけで暮らしてきた。クリステルのお気に入りは図書室とそこにあるたくさんの蔵書を読みふけること。とくに紫色の絵本は彼女の宝物だ。クリステルは外の世界を知らないが、その絵本を声に出して読んでいると世界が広がっていくような気がするのだ。ある日、ヴィリが買い物に出たあとで、館に見知らぬ青年が訪ねてきた。墓守のルカと名乗る青年はクリステルの存在に驚き、円環都市の領主の娘だという彼女の主張にまた驚く。円環都市は死滅し、いまは廃園都市と呼ばれている、それはもう三十年も前のことだと聞かされて混乱するクリステル。そこに帰還したヴィリは、ルカのもった人形を破壊する「滅びの鍵」によってくずおれる。ヴィリはかつての技術の生みだした精巧な人形だったのだ。クリステルはルカを護衛として雇い、ヴィリを修理できるという人形師のいる街、水葬都市をめざして旅立つことにする。



人形の設定がなければ十分にSFな物語世界で描かれる、ラヴなファンタジーシリーズの二冊目です。

今回は視点人物が人間の女の子だったせいか、すんなりと感情移入して読むことが出来ました。
面白かったですw

大切に大切にかこわれてそだてられたクリステルが、籠の中から飛び出してであう外の広い世界。
純粋な好奇心の眼に映る世界の鮮やかさと、多様さ、複雑さ。
様々な人物に出会い、困難に陥りながらも、みずからの力で脱していこうとする前向きな精神。

命令を遂行することが存在意義ゆえに、そこに生まれようとする自分の意志を抑え込もうとするほどに混乱していく、ヴィリの葛藤。

後ろ向きな世界に失望しつつも見捨てられない、希望を見いだしたいと願うルカ。

円環都市の死滅の謎や、そこに眠る宝をめぐる陰謀を描きながらも、あたたかくすがすがしい気持ちになれるお話でした。

前巻「水葬王と銀朱の乙女」の登場人物もちらりと登場して、物語世界の視界がひらけてきた感じです。

「オペラ・シリーズ」に少し似ている、爛熟の末に滅びゆく世界の退廃した雰囲気を描く硬質で華麗な筆さばきが素敵。
食べ物やドレスや建物の内装の描写がひじょうに細やかで、書き手のこだわりを感じました。

表現に常套句が多いのが気になってきましたが、これだけたくさんの本を書かれているのでしかたないのかもしれない。

わたしには当たり外れの多い作家さんですが、今回は当たり。
どこで見極めればいいのかは、まだわかりませんw

シリーズはつぎも出ている模様です。

レプリカ・ガーデン 時無しの人形師と人形の女王 (B’s‐LOG文庫)
栗原ちひろ 明咲トウル
4047261939

『クシエルの矢 3 森と狼の凍土』

クシエルの矢〈3〉森と狼の凍土 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
4150205035


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読了。

中世ヨーロッパ風異世界で、高級娼婦兼間諜として育てられた娘が、国の存亡に関わる使命を帯びて苛酷な旅をする、愛と憎悪と戦乱のファンタジー。三部作の第一部完結編。

面白かった……!

女王となったイサンドルの命を受け、テールダンジュからツィンガンの道を辿って海へと至り、さらにアルバへとつづく遥かな旅路。

天使の末裔という設定だけで魔法はないと思っていた物語世界に、ふいに訪れる超自然の出来事。
ツィンガンの不吉な予言に、異民族の王権争いと戦いのなかで出会う象徴。それらは、エルーア様への信仰とはべつの信仰を持つひとびとの世界にやってきたという証なのかもしれません。

旅はフェードルにも彼女の同行者にも、身をひき裂かれるような試練と決断をせまります。

この一冊の中で、これだけの紆余曲折、波瀾万丈、疾風怒濤、阿鼻叫喚を味わうことになろうとは。
読み終えるまで幾度呼吸が止まるかというような修羅場をくぐり抜けたことでしょう。

ハードでシビアな状況における苛酷な展開の中でくじけそうになる登場人物を支えたのは、それぞれがいだく深い愛だったのでしょうか。

どの登場人物もそれぞれの信念と愛と目的に動かされて、おのれの道をたどっていきます。
行き着く先がどうであろうと、それはすべてみずからの選択の果てなのです。

なによりもこの物語の肝は、エルーア様の愛の宗教だったなあと思いました。
キリスト教をモデルにしながらもさらに一歩進んで、精神だけでなく肉体の愛も尊ぶこの信仰は、すべての愛を肯定し、推奨する。

だから、天使カシエルに誓願した修道士たちをべつにして、かれらは愛の行為を蔑視したりしません。同性愛もサドもマゾも、両者の同意があれば異端とはみなされない。

その愛の先鋭的な実践者が、エルーア様に使えた八天使の長姉ナーマーだったんだな。

一般的には娼婦たちの守護者の扱いを受けている天使ナーマーですが、実際のところ、エルーア様の一行で果たしていたナーマーの役割は先陣であり、危険な敵地に身体ごと踏み込んで足がかりをつくるという、とても重要で厳しいものだった。

身を投げ出してエルーア様の歩む道を拓いていったナーマーの旅を、神娼であるフェードルは身を持って体験していくことになります。

託された重責を命がけで果たしていくだけでも大変な波瀾万丈なのに、精神的な旅まで同時進行とは……溜息です。

アングィセットと呼ばれる真性のマゾヒストであるフェードルは、ナーマーの旅を実践させるために生み出されたキャラクターなんだろうな。

自分から責め苦を受けるために飛びこんでいく、こんなフェードルを護ると誓ったキャシリーヌ修道士ジョスランの苦労を思うと非常に哀れになりますが(苦笑)、それもかれの誓願をささげた天使カシエルの選択の再現になってるんだから、これはもうどうしようもありません←褒め言葉ですw

ふたりだけでなく、この巻はたくさん出てくる登場人物たちがみなそれぞれに生き生きとして存在感があり、読んでいて非常に楽しかったです。

ヒアシンスの悲劇の王子っぷり。
テールダンジュ海軍提督クインティリウス・ルッスの豪快さ。
二人のダルリアダ王グレーンとイーモン・コンビのバランスの絶妙さ。
アルバ王ドラスタンの真摯さ誠実さ。
スカルディアの侵攻に耐えつづけていたテールダンジュ戦士貴族たちの有能さ。
カムラクのイシドール・デーグルモールの勇猛さ。
ヴァルデマール・セリグの狡猾な残忍さ。

そしてテールダンジュ女王イサンドル・ド・ラ・クールセルの、凛として芯の強い、女傑になりそうな器の大きさと、垣間見える乙女心のアンバランスw

終盤へ向かって加速していく戦のなかで展開する人間たちのドラマは縛られるような緊迫感があり、たいそう読み応えがありました。

そしてカタルシス……で終わらない物語のエピローグ。
わたしが始終恐れていた人物からの挑戦状に悲鳴をあげたのは秘密でもなんでもありません(苦笑。

まだまだつづきがありまっせw
としたり顔で告げられたようないけずな終わりに完敗しました。

読みたいです、はやく読みたいっ。

余談。
ジョスランの家族が意外にフランクで愛嬌があって楽しかった。
かれらの存在にもエルーア様の宗教の寛容さが推し量れました。

さらに余談。
神の子は認めても神の孫はみとめないひとびとというのはこの世界にはいないのかな。つまり、現実でいうならキリスト教徒ですが。


クシエルの使徒〈1〉深紅の衣 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
415020506X

20110304の購入

発売日に気がついたので本屋でゲットしてきました。

夏目友人帳 11 (花とゆめCOMICS)
緑川 ゆき
459219361X


以上、購入。


もう十一巻か、はやいなあ。
レジ横にたくさん積んであったのでびっくり。
新刊平積みコーナーには一冊もなかったのでまたびっくりでしたw


ところで、一緒にプレゼント絵本用の包装紙を買ってきたのはいいけど、わたし底なしの不器用だった。
本と包装紙を目の前にして途方に暮れたよ……。
紙は三枚あったけどどれも無駄にするのが嫌だったので、最後には家族にお助けを頼みました。

プレゼントはその家族の手によって姪の家に運ばれました。
反応はまだ知りません。

20110303の購入

皆様のおかげで密林ギフト券をいただきました。ありがとうございます。
悩んで迷って四冊注文しました。

大祭の夜に 神々の迷宮 (講談社X文庫―ホワイトハート)
西東 行 睦月 ムンク
4062866684


天涯のパシュルーナ (1) (ウィングス文庫)
前田 栄 THORES 柴本
4403541372


金星特急 1 (新書館ウィングス文庫)
嬉野 君 高山 しのぶ
4403541488


ギフト 西のはての年代記Ⅰ (河出文庫)
アーシュラ・K・ル=グウィン 谷垣 暁美
4309463509


以上、購入。

今回は、図書館になくて自分でもあまり買いそうもないあたりの興味を持ったものを選んでみました。
これでまた好みのものが発見されるといいなーと思ってのことです。ふだん冒険できないのでこういう機会にやってみようと。

一冊だけ既読が混じってますが、これはすごく気に入って手元に置きたいと思っていた本が文庫化されたので、つい。

日本全国にお礼をしつつ、ありがたく読ませていただきますですv

『この世のおわり』

この世のおわり
ラウラ・ガジェゴ・ガルシア 松下 直弘
403540490X


[Amazon]

読了。

中世ヨーロッパを舞台に、この世の終末を回避しようと頑張る少年修道士と道連れの吟遊詩人の努力を物語性豊かにえがく、歴史ファンタジー。


西暦997年フランス。少年修道士ミシェルは、マジャール人の襲撃により所属していたクリュニー会の聖パウロ修道院を焼き払われた。ただひとつ持ちだした写本をたずさえたかれは、そこに記された予言に考えを支配されていた。この世は老いている。老いたこの世はもうじき終わる。それはキリストが処刑されてから千年経った時に訪れる。とはいえ、終末を回避する手段も写本に示唆されていた。だが、そのためには謎を解いて遠くまで旅をしなければならない。手がかりを得るために、ミシェルは旅の吟遊詩人マティアスに声をかけた。



キリスト教の終末論をテーマにしたお話です。
異民族の襲撃や教会の分裂騒動、政情不安などで暗く不穏な空気に覆われたヨーロッパを、終末を阻止する使命を負った若き修道士と、修道士の友人となった吟遊詩人が旅をしていく、ロードノベルでもあります。というか、ファンタジー的には旅物語は王道なんでしたね。

修道士ミシェルは幼い頃から修道院で育った世間知らず。終末論には懐疑的ながら、そのあまりの浮世離れした姿を見かねた吟遊詩人のマティアスは、保護者めいた気分で探索の旅に同行することになります。

ミシェルが探し求めるのは、この世の終わりを延期することが出来るという三つの胸飾り。過去、現在、未来の時間軸を支配することの出来る宝物です。

その時間軸のありかは、謎めいた言葉によって記されているため、隠された意図を読み解いて目的地を探さなければなりません。

まずは〈黄金の都市〉をめざすことになったふたりは、マティアスが見当をつけたアーヘンを目的地に選びます。

それから始まる旅のようすが、わたしにはとても楽しかったw
吟遊詩人の日常や、中世の村のまつりの様子や、騎士の実態、教会権力のありようなどが、解説書を読んでいた時よりもリアルに想像できるようになりました。小説の美点だなーと思います。

長旅なのでさまざまな土地のさまざまなひとびとが登場しますが、吟遊詩人マティアスの交友関係がその行程に大きな恩恵をもたらしてくれるのも、わたしの興味を駆り立ててくれました。

困難な旅のたすけにユダヤ人があらわれるのって、『クシエルの矢』でもあったので、ほほう、と思いました。(もちろん『クシエル…』ではユダヤ人という名ではないんですけど)

旅は、フランスからドイツのアーヘン、巡礼の道を通ってのサンチャゴ・デ・コンポステーラ行き、そして海を渡ってブリタニアへと、まるで世界遺産巡りのようにつづきます。

古き自然信仰や、アンチキリスト結社、ノルマン人のブリテン侵攻、イスラームのスペイン侵攻など、さまざまな歴史的要素が絡み合い、影響し合う展開に、ハラハラドキドキ。とても面白かったです。

途中で道連れに加わる魔女の孫ルチアの存在が女性から見た中世の実情などの要素を引き込み、さらに波乱を呼び込んでくるので、ますます盛りあがる!

霧の中で迎えるクライマックスまで一気に読んでしまいました。
とても面白かったです。

生真面目で思索的で理想を求める少年修道士ミシェルと、世慣れしてるせいで現状をよくいえばそのまま受けとめ、わるくいえば諦めている、しかし自分の仕事にはプライドと情熱を持っている吟遊詩人マティアス。

ふたりの登場人物のバランスも、かれらを迎える脇役たちのあたたかな人柄も魅力的。

ひとつだけ、世界中をキリスト生誕からの千年で区切ってしまうあたりに違和感を覚えなくもないのですが、これはこういうお話として受け入れて、すみずみまで楽しみました。

それにしても、これが作者さん二十歳のデビュー作とは……すごいな!
他の作品もぜひぜひ翻訳刊行していただきたいと思います。

漂泊の王の伝説
ラウラ・ガジェゴ ガルシア Laura Gallego Garc´ia
4035404802

20110302の購入

ネットで注文していた本が届きました。

バムとケロのもりのこや
島田 ゆか
4894237075


以上、購入。

絵本「バムケロ」シリーズの最新刊ですv
前の巻からかなり間が空きましたねえ。
幼かった姪っ子ももう中学生になってしまいましたが、誕生日のプレゼントとして買いました。

プレゼント包装仕様のないところで買ったので、これから自分で包みます。
そのまえに一足先に愛でてしまおうという魂胆ですw

『クシエルの矢 2 蜘蛛たちの宮廷』

クシエルの矢〈2〉蜘蛛たちの宮廷 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
4150205019


[Amazon]

読了。

中世西洋風異世界を舞台に、天使の末裔の国家で神娼として奉仕しながら諜報活動をする娘フェードルの波瀾万丈な運命を描く、宮廷・国家陰謀劇。シリーズ第一部の二巻。

すんごく面白かった!
はやくつづきを読みたい!

内容について書くとネタバレになるのでこれで終わろうかと思ってしまうほど、劇的に変化していくフェードルたちの境遇に翻弄されていく一冊です。

舞台もどんどん変わるし、登場人物もどんどん入れかわっていく。
フェードルたちの立場も激変。いのちの危険に何度も晒されることになります。

ああ、これ以上書くとネタバレ……(汗。

読みながら考えたのは、誓いについてです。

テールダンジュの人びとは、まだ若い時分に、みずからの人生を懸けてなすことをそれぞれの分野を司る天使に対し誓願します。
フェードルは神娼としての奉仕をナーマーに、ジョスランは守護奉仕を(スミマセン誰だか忘れました)誓っています。

それから彼女たちは人生を奉仕のために捧げていきます。
何の疑問も持たずに奉仕をしていればよかった時、それはたんなる人生の目的・目標だったのでしょう。

しかし、その奉仕を遂行することが困難な状況になったり、自分が苦痛を感じるような局面に立たされた時、誓いは呪いや枷のようにかれらを縛るものにもなるのだと、気づかされます。

誓いを破ってしまったことに人生が台無しになったと絶望を感じ、命を絶ちたいと思いつめる姿や、それでも歯を食いしばって奉仕をつづけようとする姿を読んでいて、かれらの誓いはかれらの存在意義であり、人生の拠り所なのだと、わたしが気づかされました。

かれらが天使とかわした誓約は、命を懸けての真摯なもの。
自分の存在を肯定するための、もっとも根本的な……うーんなんというのかなあ、自分がここにいると、自分は生きている、生きていていいのだと確認する手段なのかもしれないなあと思ったのでした。

もしかすると、一神教というのがそういう構造を持ったものなのかもしれない。
一神教は、神と自分との契約で成り立つ宗教ですが、その契約と訳されている部分は現代で使われているドライなニュアンスの言葉ではなく、もっと身を投げ出して希うような言葉なのかもしれないと思わされました。

そんな誓願を捧げられる神は、見返りは期待されていないのかも。
絶対に滅びることなく、ただ見守りつづけることで、人間ひとりひとりの存在を確認させてくれればそれだけでいいような、そんな存在なのかも。

それで、この話の神様はエルーア様を見守ることを怠ったために天使たちに背かれたのか。なるほど、と。

日本人が神に祈るのは現世の利益を期待しての願い事が多いような気がしますが、一神教の信者の礼拝は根本的に違うんだなと、なんとなく腑に落ちたのでした。

閑話休題。
舞台は激動の展開のすえにようやくテールダンジュに戻ってきました。
フェードルたちは陰謀を阻止できるのか、テールダンジュの未来はどうなるのか。

つづき、はやくつづきが読みたいですー!!!

クシエルの矢〈3〉森と狼の凍土 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
4150205035