『シュトヘル 4』

シュトヘル 4 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
伊藤 悠
4091838669


借りて読了。

13世紀モンゴルの侵攻が始まった大陸を舞台に、執拗に西夏文字を排斥するチンギス・ハーンから文字を守ろうとするハーンの息子と、西夏の女兵士シュトヘルの身体にトリップしてきた現代日本少年の逃避行を、殺伐とした戦乱の中に描く歴史スペクタクル。シリーズ第四巻。

あれ、ユルールってハーンの息子だったよね、違ったっけ?(汗
でもツォグのハラバルはユルールの兄ちゃんだった? あれ、あれあれ?(汗

例によって人間関係を忘れかけておりますが、それでもワクワクドキドキで読めました。

あいかわらずのとびぬけた画力とそれが描き出すシビアーで肉体的な痛みを伴う暴力的なシーンに、心の中で悲鳴が止まりません。

こういう、手足や首が飛んだり顔が潰されたり、という残虐なありさまを、よく「人とも思えぬ所業」などと書きますが、ちがうと思います。むしろ人間しかしない行為じゃないかと、読んでいてそう思いました。自分のアイデンティティを守るためとか、自分の快楽のためとか、社会規範を破るためとか、そんなことのために他人を殺せるのは人間だけだと思います。異常な精神状態に陥っての虐殺行為だって人間しかしないんじゃないかと思ったり。

……横道に逸れましたが、とにかく、極限状態におかれた人間たちのなかにぽんと投げ込まれた現代少年の存在の意味は、そのことを際だたせるためなのかなとか思ったり思わなかったりして読みました。

精神的タイムトリップ? という話の大枠の意味はぜんぜんわからないんですが、十三世紀の大陸の荒れ狂う時代の波にとにかく圧倒されます。

殺し殺され、愛し憎んで血を流し、涙をこぼし、絶叫しながら駆けぬけていく登場人物達の姿が熱いです。

この巻でチンギス・ハーンがなぜ西夏文字を滅ぼそうとするのかがわかりました。
なるほどねえ……。

主人公のシュトヘルになっちゃったスドー少年が、鈴木さんだった(?)ユルールくんに感じる性別逆転に微妙さとかを楽しみつつ、つづきをお待ちしています。

巻末のおまけになごみましたw


シリーズ開幕編はこちら。
シュトヘル1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
伊藤 悠
409182529X

『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』

アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)
神林長平
4150310246


[Amazon]

借りて読了。

謎の異星体ジャムとの戦いを、人間と機械との関わりなどとともに描くSFシリーズ、第三弾。
『グッドラック 戦闘妖精・雪風』のつづき。

う、は、あ。

前巻でジャムと戦うために雪風とともに飛び立っていった深井零大尉。
本格的なジャムとの抗戦が開始されるのか、と思っていたところ、本作はジャムによる地球人への宣戦布告から始まります。それも、思いもよらない形での。

ロンバート大佐が代筆する?ジャム宣戦布告を受けとったジャーナリスト、リン・ジャクスン視点の話に、少しの違和感を覚えたわたしは、それからつぎつぎに現れる登場人物視点の物語に驚きました。

これまでのこのシリーズで、ここまで登場人物の個人情報に踏み込んだことはなかったから。

その後、視点はフォス大尉、ブッカー少佐、桂城少尉……とめぐっていきますが、いままでメタルカラーだった話がいきなり人間の話になってとまどっているあいだ、話の内容はえらく形而上的になっていて、意識は言葉によって生ずるとか、人の見ている世界はそれぞれ別の世界だが、それとは異なる真の世界があるとか、哲学論議のような会話がつづくので、ちょっと……いやかなりわたしには苦労する展開でした。

ロンバート大佐のいうジャムの世界ってイデアの世界かなあ……とぼんやりと思う程度;

あと、法則性の見えないままに時間が交錯したり、空間移動したりして、それも疑問の山を築きます。

この世界、どうなってるの。明らかにヘンなんだけど、それってジャムのせいなの。これがすでにジャムの攻撃なの。

と混乱しているうちにいきなり啓示のように悟る人物が現れて、驚愕の現実があきらかに……!

そのとたん、『敵は海賊』シリーズを思い出してしまったのですが、えーーと、よくは思い出せないので断言は出来ないのですが、あちらもそういうテーマじゃなかったでしたっけ?

『雪風』シリーズが個性的なのは、機械をあくまでも機械として扱ってけして人間的な疑似人格を与えたりしない、ようするに擬人化しないってところかなーと思います。

人間とはまったく異なる存在である機械とジャムの異質さと分けの分からなさ加減は、わたしにはひどく異界的に思えます。
でも、ファンタジーではなくSFであるこの話は、異質なかれらのもつ独自のルールを推測し、検証していく過程を知的に楽しむ話ですね。情動とは関わりなのない、純粋に頭で読み、考えてゆく話だなあと感じました。

面白いけど、好みかと問われるとむむむ。
わたしとしては今となってはむしろ、第一作の暗く孤独でひねくれた世界のほうに趣を感じます。
そして知的な遊びとしては「敵は海賊」シリーズのほうが突き抜けてて読んでて楽しかったような。あちらにはアプロがいるからかもしれませんがw

ところで、このシリーズ。なんだかまだ続きそうなんですが。
つづきそう、ということはわかるけど、どうなるかという方向にはまるきり想像力が働かないのが凄い。

新作を読む度にびっくりするという点ではやっぱり凄いSFだよなーと思いましたです、はい。


というわけで、一作目はこれです。
戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)
神林 長平
4150306923

20110527の購入

予約本を受けとった帰りに寄った本屋で発見。

竜の学校は山の上 九井諒子作品集
九井 諒子
4781605451


以上、購入。

この本が読みたいとあちこちをうろついていたのはひとつきくらい前のことだったのに、もういいやと諦めた途端に目の前に現れるの、何かの法則でしょうか。
諦めたはずなのに、気がついたらレジに直行していました;

今月はまだ買う予定があるのになーと思いつつ、口元はゆるむのでありました。

20110525の購入

発売日なので本屋に突撃しました。
この行為をするのもかなり久しぶりのような。

夢の上3 - 光輝晶・闇輝晶 (C・NovelsFantasia た 3-8)
多崎 礼 天野 英
4125011524


妖姫ダルシベラ - グウィノール年代記2 (C・NovelsFantasia し 3-3 グウィノール年代記 2)
縞田 理理 春乃壱
4125011540


以上、購入。

『夢の上』はこれで完結なのかな。なるべくはやめに読みたいものです。
最近、といってももう二ヶ月くらい経つのか、しばらく人に借りた本(大量のマンガ含む)を読んでいたので、わたしにしてはめずらしく積ん読がたまってます。

合間に図書館から借りた本も読んでるし、それでなくとも読書スピードがのろのろなので。
文庫本一冊に何日かけてるんだろう。昔は一晩で読みきったものなのになあ。

おもな原因は老化による集中力の欠如ですよ;

『黒き翼の王 上 エリアナンの魔女3』

エリアナンの魔女3 黒き翼の王(上) (エリアナンの魔女 3)
ケイト・フォーサイス 井辻 朱美
4198631204


[Amazon]

読了。

古代ケルト風異世界を舞台に異種族間の争いを魔法を軸に描く、生と死、愛と憎しみのコントラストの印象的なファンタジー三部作の第二作、上巻。


移住者である〈十大氏族〉によって長らく支配されてきたエリアナンの地。現王ジャスパーの妃〈妖術師〉マヤによる魔女排斥政策により、魔法を持つものはすべて抹殺されてきた。魔女メガンはひそかに育んできた養い子イサボーと別れた後、ドラゴンとの会見の末にイサボーの双子の姉イズールトと出会う。また、イサボーによって救われた鳥の翼とかぎ爪を持つ若者バケーシュと合流した。いっぽう、〈見者〉ジョーグは癒しの手を持つ少年トーマスと、二人を救ってくれた浮浪児たちと行動をともにする。



第一部を読んだ時は主人公はイサボーと思ってたんだけど、どうやらこの話は群像劇のようです。
視点人物がどんどん変化し、つぎからつぎへと新しい人物が新しい舞台と一緒に現れるため混乱しますが、辛抱して読んでいると次第にエリアナン全体の状況がわかってくる一冊です。

まず、エリアナンの王ジャスパーの妃マヤ。
じつは、移住者である十大氏族にエリアナンの支配権を奪われた異形の先住者フェアジーンの先兵。
彼女は人間とフェアジーンの間に生まれて、強力な幻術と魅了の力を持っていて、人間を滅ぼすためにまず厄介な魔女を取り除くため、それを大々的に実行しているところ。
そしてフェアジーンはいまにも人間側に攻撃を仕掛けようとしているところ。

魔女達はマヤによって壊滅的な打撃を受けたけれどもまだしぶとく生きのびて、潜伏し、旅芸人などの姿で勢力回復のための機会を待ちつつ、体勢をととのえなおしているところ。

さらにエリアナンの他の十大氏族には、マヤに対抗する手段を整えているアランの女藩公マルグリッドや、身内を人質に取られてマヤの命令を聞かざるを得ない状況に陥っているルラッハとシアンタンの藩公がいる。

というところでしょうか。

状況はつかみにくいのですが、描かれる世界の大気密度の濃さ、暴力と死の冷たさ恐ろしさ、愛とともに描かれる生の生々しさ、温かさ、異形をふくめた生き物たちの存在感などがそこここにみちあふれていてすばらしく、すみずみまでしみこんだ魔法の気配にうっとりとしたかと思うと、残酷なシーンに身の毛がよだったりと、アップダウンの激しい物語展開に翻弄されて、いつのまにかぐぐっとひきこまれてしまうのでした。

残酷シーンはほんとうにここまで書くかと思うほどエグいので、苦手なかたは気をつけて、読まないほうがいいかもしれません。

この巻のそれは、第一部でのイサボーのシーンより酷かったです。

いっぽう、イズールトのエピソードには反対方向に驚かされました。

作者さん、愛と死、エロスとタナトス、反対のものを強調してそのコントラストの強さを印象づけたいのかな。

すこし、マリオン・ジマー・ブラッドリーを思い出す雰囲気です。

状況把握はすこし面倒くさいけど、わたしにとってはその面倒くささが面白さに繋がってるという面倒くささですね。

しかしここまでひろがった物語が三部作できれいに終わるのだろうか。もう半分は来てるはずなのに。ちと不安ですが、急加速してる気もするので案外大丈夫なのか。

読んでいて楽しいのは見者ジョーグと子どもたちのシーン。
それと、メガン婆さんの御年にはべっくらしましたw

つづきは予約中です。

エリアナンの魔女4 黒き翼の王(下) (エリアナンの魔女 4)
ケイト・フォーサイス 井辻朱美
4198631441

『宮廷神官物語 選ばれし瞳の少年』

宮廷神官物語―選ばれし瞳の少年 (角川ビーンズ文庫)
榎田 ユウリ カトーナオ
4044491046


[Amazon]

読了。

朝鮮王朝風異世界ファンタジーシリーズの開幕編。


虎の神を崇める麗虎国。若くして宮廷神官となった鶏冠は、王命によりひとの悪しき心を見抜くという慧眼児を求めて旅をしていた。悪路に苦闘しながらようやく目的地ハシバミの村にたどり着こうかというところ、鶏冠は空から降ってきた肥柄杓にぶつかった。肥柄杓の持ち主は十二、三歳の額に布を巻いた貧しそうな、身なりも口も汚い少年だった。鶏冠は少年のとある言葉に激昂し、締めあげようとしたが、そこに現れた景曹鉄という青年に護衛官をいなされてしまう。曹鉄によりハシバミの村に案内された鶏冠は、さきほどの少年・天青が当の慧眼児だったとしらされる。




元気のよい男の子に、腕っ節の強いだけでなく結構思慮深い青年、そして苦労人の美形神官の活躍する、異世界陰謀ファンタジーです。

作者さんの本を読むのは榎田尤利名義のSF以来ですが、やっぱり、読みやすいだけでなく心地よい、小説らしい文章を書かれる方だなあと思いました。(余談ですが、この即品から榎田尤利名義はBL、榎田ユウリは一般向けの筆名とされたそうです)

「フェンリル」はシリアスハードセンシティヴでしたが、こちらはより娯楽要素が強く、しかもきちんと重みをそなえた物語で、雰囲気はなんとなく「宮廷女官チャングムの誓い」に男の子たちの爽やかさと賑やかさを加えたような感じです。

登場人物の配置を見るとBLみたいですが、そんな色合いはないので苦手な人も安心して読めますよー。

人物がみな生き生きとして、物語も地に足がついた話運びで、意外な展開やお約束の楽しみもあるので、とても面白かったです。
「チャングム」で覚えた朝鮮王朝の文化風俗があちこちに出てくるのも楽しかった。

そして、ワタシ的には鶏冠というキャラクターが一番たのしめました。
生真面目なのかと思うと、人とはズレたところに欲望を持っていて意外に簡単に道を外してしまったり(笑)、意外な特技をたくさん持っていたり、なのにさんざんひとに弄ばれているようなのが、アハハハハハ、ですwwww

とても楽しかったのでつづきも借りたいと思います。

宮廷神官物語―少年は学舎を翔ける (角川ビーンズ文庫)
榎田 ユウリ カトーナオ
4044491054

『グッドラック 戦闘妖精・雪風』

グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)
神林 長平
4150306834


[Amazon]

借りて読了。

未知の異性体との戦いのなかで、変容していく機械と人間の関係を描く近未来(?)SF。
『戦闘妖精・雪風』の続編。

前巻のネタバレはしてもいいのか、いやダメなのか、判断つかないのでとりあえず。

雪風の機体はシルフィードからメイヴへと移行。
ジャムとの交戦中に雪風から機外へ射出された深井零は意識不明中。
FAFは未だにジャムの正体と目的がつかめないが、コンピュータ群は独自にジャムと交戦中。
地球の人間達は国家紛争に明け暮れてジャムの存在を認識しなくなっている。

あたりは覚えておいたほうがいいのかな。

この巻は、ジャムとは何かという疑問を掘り下げていくうちに、ジャムと戦っているのはだれなのかという問題につきあたり、さらに機械が意識を持ちだしていること、その機械と人間の間に認識の差が生まれていることが発覚。

次第に人間は機械とどのようにつきあうべきか、みたいな話に発展していっている……ような気がします。

物語というより、議論の記録や思考過程みたいな理屈っぽい文章が続くので、視覚的・感覚的に小説を読むくせのあるわたしにはちと辛かったです。

知的な興奮はあります。
が、同じことを繰り返されているように感じる時もあり、登場人物がみなおなじような口調で話すため区別するのも面倒で(スミマセン)、もっとタイトに展開して欲しいとかんじることもしばしば。

雪風に新任フライトオフィサの桂城少尉が配属されたあたりから、ようやくスピード感が出てくる感じです。

桂城少尉の登場で深井零の意識の変化もあらわになるし。マイワールド以外のワールドも認識できるようになって、自分で驚く深井零に苦笑しますw

読み終えて、そっかこの世界では人間は電脳化されてないんだな、と気がつきました。
ここで機械はあくまでも機械であって、ロボットでもないのですね。
つまり、疑似人格も与えられていない機械に意識が芽生えたという、とんでもないお話なわけですよ。

そしてゆえに人間もすべて生身なわけで、その生身で曖昧な部分こそが生きのびるのに必要ということなんだ。

これって生物多様性の話だったのか←たぶん、違います。

ふっと、最近読んだSFのラストが浮かびましたが、ネタバレになるのでここにタイトルが書けません。

さらに、この話のラストは思いっきりつづく、というかこれからが本番だぜ、みたいなところで終わるので、ぎゃーでした。
これはもう、読まなきゃダメじゃないですか、つづき。


アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)
神林長平
4150310246


余談。

読みながら、偵察機や惑星につけられた固有名詞で妄想にふけりました。
フェアリイ星は異界で、シルフィードやメイヴは人間に友好的な異形で、ジャムは異界からの脅威。
そして深井零は、セカンドサイトを持った妖精博士の見習いという。
これなら、ジャムが神でもおかしくないと思う(笑。

『戦闘妖精・雪風』

戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫 JA 183)
神林 長平
4150301832


[Amazon]

読了。

近未来。突如襲ってきた異星体ジャムとの戦いのために組織された軍隊FAFで、戦闘機・雪風に搭乗する深井零中尉を中心に、高度に発達した電子機器=コンピュータと人間の関わりを描く、SF連作短篇集。

1984年刊行の旧版です。
続編を借りたけれども前作を思い出せないという情けない理由のために再読しました。

再読してよかったです。
ほんとうにまるきり話を覚えてなかったし、それだけ覚えていないということは読んだ時にたいした感想を抱けなかったからだと思われるし、今読んでみたらちょっと驚いてしまったほどの世界がここにあって、感応できなかったままの自分でつづきを読んでいたらとてももったいないことだったと思われるので。

つまり、以前のわたしはこの作品の何を読んでいたのかと、今のわたしは思うわけですが、まあ、いいや。わたしも成長したんだということにしておきます。二十数年かけてね……。

そう、二十数年経ってるわけですよ、初読時からは。
最近読んだゼロ年代SFの作品から、この作品の影響がどわーっとあふれるように感じられるのも不思議ではないです。

いまは常識になっている設定が、二十数年前にすでにあった。
しかも、今読んでもほとんど古びていない作品として出来上がっていた。
このことに当時気づいていたら、そりゃあ、衝撃だったでしょうねえ……。

つまり、わたしはSF感度のひくーい人間だってことなんでしょうね。
あと、わたしが惹かれるのはまず文章と雰囲気だということも原因だったかも。や、言い訳ですね;

短編の連作として掲載された作品をまとめたものなので、それぞれに独立した話として読めます。
以下、目次。


FAF・特殊戦隊
Ⅰ 妖精の舞う空
Ⅱ 騎士の価値を問うな
Ⅲ 不可知戦域
Ⅳ インディアン・サマー
Ⅴ フェアリイ・冬
Ⅵ 全系統異常なし
Ⅶ 戦闘妖精
Ⅷ スーパーフェニックス

〈雪風〉概説

解説/野田昌宏



読んでいるうちに、敵の正体とか敵が相対しているのが誰かとかの事実が明らかになってきて、あらたな、そして衝撃的な世界が目の前にひらけてきます。

機械は自我を持ちうるのか。
持ったとしたら人間をどう認識するのか。
人間は機械に置き去りにされるのか。

社会性のない、機械に依存する主人公という設定が、このテーマを鮮明に浮きあがらせているなあと思いました。

機械の自我というテーマは、いまのSFでは人間の自我そのものの問題とも相まって繰り返し出てくるテーマになってます。その点がすごい、と思うのです。

とはいうものの、再読してみても主人公にはあまり共感できなかったですが。

というより、登場人物全員に共感できなかった;

あー、そうか。
初読時のわたしにはこの話が絵空事にしか感じられなかったんだわ。

今回も、わたしは「フェアリイ・冬」にもっとも説得力を感じました。なぜかというと、たぶん肌感覚が描かれているのがこの話だけだからです。おそらく、作者さんの実体験が物を言っているのだと思われます。

小説だから絵空事を書いてるのは当たり前なんだけど、その絵空事を実感させるのが小説なんだとわたしは思っているらしいです。

ということは、わたしは今になってようやくこの世界を実感できるようになったてことなのか。
二十数年前、コンピュータはまだ一般人の日常ではありませんでした。
しかしいまやパソコンはどこにでもあふれていて、ネットに簡単に接続することも出来ます。

わたしにとって読むべき時が来た、今が旬、てこと?(笑。

それと、小説という形態で作られたものは、けっこう古びないんだなと感じました。
この作品はディテールの描写が少ないからよけいに鮮度が落ちないのかも。
これがもし映像作品なら、あっというまに時代遅れになってると思います。

というわけで、つづけて続編を読みたいと思います。

つづきはこちら。
グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)
神林 長平
4150306834


ところで、今回は家にあった旧版を読みましたが、今は改版が流通しています。
こちら。
戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)
神林 長平
4150306923

『ボヘミアの不思議(ワンダー)キャビネット』

ボヘミアの不思議キャビネット (創元推理文庫)
マリー・ルツコスキ 圷 香織
4488556027


[Amazon]

読了。

魔法の盛んな十七世紀のボヘミアを舞台に十二歳の女の子の冒険を描く、ファンタジーシリーズ第一作。


人びとが日常的に魔法の才をもつ十七世紀ボヘミア。天才時計職人のミカルは、ボヘミアを治めるハプスブルク家の王子のもとで仕掛け時計を作りあげた後、両目をくりぬかれて帰宅した。王子は金属をあつかうミカルの才能に惚れ込み、ミカルの力の源泉を我がものにしようとしたのだ。ミカルの娘ペトラは、父親の両目を取り戻すため、友人でブリキのクモのアストフェルとともに無断で王子のいるサラマンダー城のある都プラハへと向かう。そこでペトラはジプシーと呼ばれるロマの少年に財布をすられてしまう。




面白かったです。

冒頭の父親帰還エピソードで度肝を抜かれましたが、童話のように生々しさがないのでそれ以降は児童文学といっていいくらいの雰囲気のお話でした。

十七世紀のプラハの魅力的なこと。
ジプシーと呼ばれて蔑視されるロマの人びとの生活の興味深いこと(たぶん厳密な事実ではないでしょうけれど)。
ロマの昔話の面白いこと。
十二歳のペトラの圧倒的な(笑)行動力と、彼女に文字通りくっついている思索的なブリキのクモ・アストフェルのチャーミングなこと。
みんなの嫌われ者の〈染織工房〉の主・アイリスのいじわるばあさんぶりw

さりげなく印象的な象←ポイント高しw

万能ではなく、個人がもてる特技の範囲を出ないささやかな魔法の、さまざまな個性的な作用が興味深いです。

児童ものっぽいと感じるのは、それらがそつなくまとめられて、きちんとひとつの物語に仕上げられているためかなと思います。

過剰なところがなく、けれど深読みすればいろいろと楽しめる、そういう小説だと思います。

とても楽しかったので、つづきもはやく読みたいですw

天球儀とイングランドの魔法使い (創元推理文庫)
マリー・ルツコスキ 圷 香織
4488556035



余談。
この本、著者のプロフィールが載ってないのが残念です。
著者あとがきにチェコ系のアメリカ人なのかなと推測される文章はあるけど、それだけ。
訳者あとがきにも何も触れていない。
本の仕様により翻訳者のプロフィールはいつもどおりに載ってるのにな。

『ゼロ年代SF傑作選』

ゼロ年代SF傑作選 (ハヤカワ文庫 JA エ 2-1) (ハヤカワ文庫JA)
S-Fマガジン編集部
4150309868


[Amazon]

借りて読了。

ゼロ年代に主に「S-Fマガジン」に掲載された若手作家のアンソロジー。

このアンソロジーは、ライトノベルでSFを書いている作家達をきちんとSF作家として評価しよう、したいという意図から編まれたものなのかなーと解説から推測しました。

「リアルフィクション」と銘打たれているのはおもに営業の都合で、言葉そのものにはあまり意味はない模様。

わたしとしては、SF自体をちゃんと読んでいない自覚があるので、今のSFはこんな感じなのかというふうに受けとりました。

収録作品は以下の通り。


マルドゥック・スクランブル“1・0・4(ワン・オー・フォー)”冲方丁
アンジー・クレーマーにさよならを 新城カズマ
エキストラ・ラウンド 桜坂洋
デイ、ドリーム、鳥のように 元長柾木
Atmosphere 西島大介
アリスの心臓 海猫沢めろん
地には豊穣 長谷敏司
おれはミサイル 秋山瑞人

各篇・巻末解説 藤田直哉



読んで最も「おおお、これはすごい!」と思ったのは「おれはミサイル」。
星雲賞受賞作品だそうで、それもうなずけます。
人間がまったく出てこないのに、なんでこんなに面白いんだ、それがSFだ、って感じ?w

「地には豊穣」も興味深かった。今のSFでは電脳化はもはやスタンダードなんだなー、でそのあと人間はどうなるのかという方向が新鮮でした。文章がいまいち好みじゃなかったのが残念。

「デイドリーム、鳥のように」はSFと関係ないところで驚きましたw
着想はちょっとファンタジーぽいかなと思ったのですが、それともまったく関係ないところでいやはやw

「エキストラ・ラウンド」と「マルドゥック…」は長編の完全な番外編。
前者は未読ですが、後者は長編のほうが面白かった。試し読み作品みたいな、たしかに雰囲気は伝わってきますが。

言及しなかったものはわたしの手に負えなかった作品、ということでw

これを読んで、東京創元社のゼロ年代ベストを読んでみたくなりました。

ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成<S> (創元SF文庫)
大森 望
448873801X


逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成<F> (創元SF文庫)
大森 望
4488738028

『魔使いの犠牲』

魔使いの犠牲 (創元ブックランド)
ジョゼフ・ディレイニー 田中 亜希子
4488019811


[Amazon]

読了。

近世イギリス?で魔使い見習いの少年が、魔のもの関連の危機と取り組み成長していく冒険ファンタジーシリーズ。第六作。


七番目の息子の七番目の息子であるトムは、魔に対抗する力を生まれつきもっていて、魔使いグレゴリーの弟子となった。修行を始めて三年目、魔使いとしての役目が次第にわかってきたトムだが、その間に世界は魔王が目覚めるという危機的な状況に直面していた。そんなおり、故郷のギリシアで魔のものとの戦いに従事していたトムの母親が帰還した。トムの母親は人間ではない。おそらくラミア魔女なのだろうと推測していたが、ほんとうのところは聞けずにいた。母親と会うために実家に戻ったトムは、ペンドルの魔女達と同盟するという母親に驚く。母親の敵はギリシアの邪悪な女神オーディーンで、オーディーンを打倒しなければ世界の破滅は加速する。母親はトムとグレゴリーにも加勢を頼むが、グレゴリーは魔王をめざめさせたペンドルの魔女とは共闘できないと立ち去ってしまった。



装画の若者を見て、え、これトム? と驚きました。
読んでみたらもうすぐ十五歳だそうで……それにしては大人っぽくないか? いやこれくらいが十五歳標準なのかな、といろいろ悩んでみたりw

トムが大人に近づきつつあることを象徴するかのように、これまではタイトル魔使いがほぼ師匠を差していたのに、今回はトムの比重のほうが重くなっていた模様。

だんだん師匠に相談できないことが増えてきて、独り立ちのときが迫っているのかもしれませんねえ。感慨深い。

物語そのものは舞台が一時的にギリシアに移り、邪悪な女神オーディーンとの命がけの戦いをメインに描かれます。

面白かったです。

出てきた食事を食べてはいけないよとか、ダンジョン攻略とか、いろいろと伝統を踏まえた展開ですが、ギリシアの魔使いには失笑してしまいました。敗戦分析とかしたことなかったんだろうなあ……。

あと、女神オーディーン。ド迫力なんですが、なにがモデルなのかなと悩んでます。
活火山か何かかかな?
いずれにしろ、この物語世界は地中海文化圏なんだなあという思いを新たにいたしました。
ラミア魔女の起源もギリシア神話だったしね。

そこで魔王がイギリスに封じられている意味はなんなのかなー。
巻頭のウォードストーンに関する文章に、ふとあることを思いつきましたが、まさかそんなことはないですよねw と焦りました。

前作にひきつづき登場のグリマルキンがちょーカッコイイ!

それと、アリスとの微妙な関係が次第に熱を帯びてきて、でも色っぽさを微塵も感じさせないところが、とても興味深いです。

だんだん佳境になってきました。
これからの展開に目が離せません。


魔使いの弟子 (sogen bookland)
ジョゼフ ディレイニー 佐竹 美保
4488019528

『竜が最後に帰る場所』

竜が最後に帰る場所
恒川 光太郎
4062165104


[Amazon]

読了。

幻想短篇集。


風を放つ
迷走のオルネラ
夜行の冬
鸚鵡幻想曲
ゴロンド



『夜市』や『草祭』の作者さんの現代日本を主な舞台とした不思議な風合いの短篇集です。

ファンタジーという言葉のイメージよりも暗くて不穏な、浄化作用を目的としていない、夢であるなら醒めて欲しい系の話が多いです。

この特有な雰囲気、なにかに似ているなあとずっと思ってきたのですが、誤解を受けるかもしれないけど、新聞の社会面の記事に似ていないでしょうか。

現実に存在していると知識では理解しているけれど、自分が直面したらいやだなという事件です。

とくに「迷走のオルネラ」。
これを読むと、事件というのは現実であっても当事者にとっては夢のように計りがたく、制御不能で、物事を支配するルールの理解できないままに命の危険にさらされるものなのだなと感じます。

もしかして、不思議な出来事というのももとを正せば現実なのではと思ったりしました。
理解できないことは現実ではないと、感じた恐怖と不安を落ち着かせ、納得するための装置が幻想だったのかなとか。

これまではあっちに行きっぱなしの話が多い印象でしたが、今回、現実に着地する話が多かったのでよりいっそうそんな空気が濃厚だったのかもしれません。

そんなわけで、読んでいる間の気分はすごく不安で、居心地が悪く、ときに悪夢を見ているようでしたが、読後感はけっこうよかったです。

“あるべき”日常が戻ってきた時の安堵感といったら、なんともいえません。

幻想の部分が独創的なのも好きです。とくに「鸚鵡幻想曲」。薄気味悪いことこのうえないので好きというのは語弊があるかもしれませんが;

多分わたしは、この作家さんの現実と幻想が地続きの雰囲気が好きなんだろうなーと思います。

なかで異色だったのは、最後の「ゴロンド」。
竜の視点で世界を描く佳品です。

『ハーモニー』

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
伊藤 計劃
415031019X


[Amazon]

借りて読了。

現代と地続きのリアリティーを持つロジカルで閉塞感に満ちた近未来SF。
アメリカのP.K.ディック賞特別賞受賞作品。


二十一世紀後半。核戦争と大虐殺を伴う〈大災禍〉後の世界は、生命主義のもと人びとを社会的リソースとして管理する高福祉社会となっていた。メディケアと呼ばれるシステムに繋がれることによりほぼすべての病気が駆逐され、寿命以外では死すら遠いものとなった社会は、いつのまにか個人のプライバシーを形骸化させてしまった。そんな社会に倦んでいた霧慧トァンは、苛立ちや敵意を臆さずに表明する少女・御冷ミァハと出会い、導かれて、もうひとりのクラスメート零下堂キァンと三人でとある選択をした。




これはすごいSF!
前作『虐殺器官』の現代リアリティーと血なまぐささが取り除かれて、思考実験の要素が強く前に出ている分、いっそうSFらしさの明確な話になってます。

だからといって現実離れした荒唐無稽な話というわけではなく、『虐殺器官』がいまにもこうなりそうな世界だとしたら、こちらはそのうちこうなってもおかしくない世界を描いていると思います。

むしろ実感としては、意識的にはこの世界は実現しつつあるような気がします。
命の大切さを訴える声がこころに響かない人間が多くなっているのは、それだけ現代人と死の心的距離が離れているからではないかと思うのです。

この話の世界では、死だけではなく病気による肉体の痛みや苦しみまでが人間から切りはなされ、その状態を維持するためにすべての個人データがシステムの中で管理されています。ひとは人類という集合体の一部として扱われており、個人の所有できるものはほぼその体だけになっているにもかかわらず、すみやかな治療のおかげで痛みすら感じさせてもらえないのですね。

こんなに息苦しい社会がなぜ出来上がってしまったのか。

話は社会に違和感を覚えた少女達の生命主義に対する抗議行動から始まります。
始めのうちは苛立ちや孤独や嫌悪に彩られつつも静かだった物語が、とある事件を境に劇的な展開を見せる様に、固唾を呑みました。

ああ、これ以上書くとネタばれだ……(汗。

終着点が驚天動地なのは『虐殺器官』と同等くらい、いやそれ以上かも。
違和感を覚える書式の理由も「うわ、そうだったのか!」。

読み終えていろいろと、それはもういろいろと考えさせられてしまいました。
そのことをたくさんたくさん書いてみたいのですが、そうするとネタバレ以外の何物でもないので、書けません。

思うのは、作品を書かれた当時の作者さんが文字通り死の淵にいたということ。
あくまでも推測ですが、もしかすると痛みそのものが生きていることだったかもしれない病床で、こんな世界を冷徹に考えて積みあげていかれたそのすさまじさに、言葉を失います。

P.K.ディック賞の特別賞を受賞されたというのもうなずける、SF魂にあふれながらもすぐれて現代的な作品だと感じ入りました。

ところで、この作品は『虐殺器官』とおなじ世界を舞台にしています。
どちらから先に読んでも大丈夫と思いますが、時系列的には『虐殺器官』→『ハーモニー』。
この順序で読んだほうが、メディケアシステム成立の背景が心情的に納得しやすいかもしれません。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
伊藤 計劃
4150309841

『メキト・ベス漂流記 背中の紅い星』

メキト・ベス漂流記 背中の紅い星 (カドカワ銀のさじシリーズ)
西魚 リツコ 橋 賢亀
4048741713


[Amazon]

読了。

「暁と黄昏の間」の著者の躍動感あふれる少年少女の海洋冒険ファンタジー。


南海に浮かぶ孤島ダルキースは貧しい土地で生き抜くために厳しい掟が支配している。ダルキースで生まれ育った少年ナオは、外の世界に憧れていた。親たちの住む家船から離れ、島主ダルキースの下屋敷で優等生のエマを始めとした他の子どもたちと寝起きをともにしていたある日、ナオ達は不思議な姿をした青年が浜に打ち上げられているのを発見する。月色の瞳をした青年がただひとつ口にする言葉からメキト・ベスと名づけた子どもたちは、こっそりとかれをかくまいはじめた。



現実とは異なる物語世界を創造し、命を吹き込むこと。
鮮やかに描き出された世界の出来事をストイックに追いかけて、波瀾万丈の出来事を物語ること。

「暁と黄昏の間」シリーズを読んでそうしたことが得意な書き手さんだなあという印象を受けていましたが、この新作もまた、登場人物のいる世界が目の前に広がっているような心地にさせてくれるお話です。

今回の舞台は海。
タイトルからもわかりますが、十代半ばの主人公の少年少女は生まれ育った小島から広い世界へ、大海原へと放り出されて、目標も目的も考える間もなく、厳しい現実に翻弄されていきます。

設定の厳しさもハードな展開も、前作そのままで、じつにストイックでタイト。
物語にすべてを奉仕していく文章が、それでもすこしずつ明らかにしていく登場人物達の背景や性格がじつに地に着いていて、緊張感たっぷりな物語でした。

話の中心は、少年少女が「メキト・ベス」と名づけた青年。
一見子どもとしか思えない行動をするけれど、じつは不思議な力を持つかれの存在と行為が、物語にきな臭い風を運んできます。

大海原を舞台にそこに棲息する生き物たちの彩り豊かな生態と、大自然の中で生きていくことの厳しさのみに囲まれて育った子どもたちが、人間社会の複雑さ・理不尽さに出会い、試行錯誤していく様は、成長物語の王道を予感させます。

……つまり、この話、この巻で終わってません;
しかし「つづく」とも書かれていません。

このはっきりしない仕様は、もしかしてつづきがあるのかないのかまだ決まってないよということなのでしょうか。
ものすごく気になるので絶対につづきを出して欲しいです。


個人的には、叩き上げのニール・ゴー船長がお気に入りですv


暁と黄昏の狭間〈1〉竜魚の書 (トクマ・ノベルズedge)
西魚 リツコ D-SUZUKI
4198507740

20110506の購入

半年に一回の大都市への通院でした。
ついでに寄った本屋でお買い物。

パワー 上 西のはての年代記Ⅲ (河出文庫)
アーシュラ・K・ル=グウィン 谷垣 暁美
4309463541


パワー 下 西のはての年代記Ⅲ (河出文庫)
アーシュラ・K・ル=グウィン 谷垣 暁美
430946355X


以上、購入。

近場でまったく発見できなかった『パワー』をゲット。さすがに大都市の本屋は違うわね、と思いきやここはデパートの一角にある中規模書店。
前回探したマンガはなかったです。そもそもたいしてマンガは置いてないんです。

それでは、と乗換駅の穴場本屋に行ってみたけれど……なかった。
こんなにマニアックな品揃えなのになあ。がっかりーorz

『ましろのおと』1~3

ましろのおと(1) (月刊マガジンコミックス)
羅川 真里茂
4063712613


借りて読了。

青春音楽コミック。津軽三味線版。


澤村雪は十六歳。青森で知る人ぞ知る津軽三味線の名手である祖父によって兄と二人育てられ、物心ついた時から三味線を弾いてきた。他人には興味を示さず、祖父の音に近づくことだけが目標だった雪の世界は、しかし祖父の死によって断絶する。死に際の祖父に自分のマネをするならもう弾くなと言われ途方に暮れた雪は、さまよい歩いていた東京でタレントを目指す若い女性・ユナに拾われた。



面白かった! とても面白かった!!

津軽三味線の天賦の才を持った少年が、祖父の死を機に広い社会と出会い、成長し、自分の音楽を作りあげていくさまを、かれの出会う人びととのかかわりともに描く、音楽コミックシリーズです。

音楽といっても津軽三味線をテーマにした物語は西洋音楽とはかけはなれた伝統芸能の世界。
日本の風土に根づいて育まれてきた芸は、西洋音楽にどうしても感じてしまう距離感が無く、これまでになかった骨肉にしみいるような世界を描き出すことが可能なのだなーと、ちょっとした衝撃を感じる作品です。

三味線を弾くシーンの、絵だけとは思えない迫力に酔いました。
三味線をほとんど聴いたことないのに、なんなんでしょうか、この体に響いてくる震動は。

ストーリーの骨格だけを取り出してみればわりと常套な話ですが、津軽三味線というテーマへの真摯な姿勢がつたわってくる、とても熱いお話です。

それと、主人公の雪君がすごく好みだーw
作者さんの作品を読むのは初めてなんですが、男の子を魅力的に描かれる方なんですねえ。
ていねいでありながらシャープな、ちょっと色気のある描線がとても好きです。
ユナさんとかの女性も魅力的です。
女の子はちょっと眼の大きさにひきましたが(汗。

登場人物もそれぞれきちんと造形されていて、雪君のおにいさん・老け顔の十九歳若菜ちゃん(なぜ「ちゃん」づけ;)をはじめとして、それぞれに地に足をつけて立ってるふうなのも素敵です。

他人との競い合いどころか他人の音にも興味のない雪君が、これからどのように目をひらかれていくのか、かれを世に出そうとするひとびととの戦い(?)はどう展開するのか、ゴージャス母ちゃん・梅子さんはいったい何者で雪君の父親は誰なのか。

たぶん読み手に専門知識を解説するために儲けられたんだろうなーと思う、高校の津軽三味線同好会の行方は、そして故郷青森のライバル達(といっても雪君は無関心だけど;)の動向は。

つづきがすごく楽しみです!

ましろのおと(2) (月刊マガジンコミックス)
羅川 真里茂
4063712664


ましろのおと(3) (月刊マガジンコミックス)
羅川 真里茂
4063712818

『君と僕のアシアト~タイムトラベル春日研究所~』1~3

君と僕のアシアト~タイムトラベル春日研究所~ 1 (ジャンプコミックスデラックス)
よしづき くみち
4088598164


借りて読了。

美人所長がとりしきる、場所と時間範囲を限定した脳内タイムトラベルを行う春日研究所で起きる出来事を、人情味豊かに描く、時間SF短編シリーズ、です。

絵が好みと違うので自分では手に取らなかったと思う作品。
じっさい読んでていちいち違和感を覚えていたりしたのですが、とにかくお話が面白い!

二十年前までの春日市限定でだけできるという条件付きですが、脳内タイムトラベルを商業ベースで提供しているという前提にまず興味をひかれ、時代が2021年という近未来であり、さらにその十年前に首都圏が直下型地震で壊滅しているという設定に衝撃を受けました。

お話は依頼者ひとりにお話ひとつという短編仕立て。
そのひとつひとつも、時間SFらしいときに切なく、ときにこころ温まる人間ドラマになってます。

タイムトラベルですが、脳内なのでタイムパラドックスは起きない、というところがなるほどー、だったのですが、それだけではことは終わらないようで。

そこに、ヒロインの過去がちらりちらりとからんできて、それがどんどんひとつの流れとなって大きなSF骨格が見えてくるところに「おおおおお」と俄然ひきこまれてしまいました。

いや、ほんと、面白いです。

でも、はた、と絵柄に気づいて正気に返ってしまうんですけどね;
たぶん、この絵は好まれる方のほうが多いと思います。かわいいし、丁寧に描いてあるし、うまいです。
自分でも、なぜ微妙に感じるのか説明がしにくいんですが、こればかりは好みなのでしようがない。

それでもこのつづきは非常に気になります。
ものすごおく、先が知りたいです。どういうからくりになってるのか、どういう結末になるのか、知らずにすまさでおくものか、って感じです。

というわけで、つづきが出たらまた借りようw

君と僕のアシアト~タイムトラベル春日研究所~ 2 (ジャンプコミックスデラックス)
よしづき くみち
4088598628


君と僕のアシアト~タイムトラベル春日研究所~ 3 (ジャンプコミックスデラックス)
よしづき くみち
4088598741