『宮廷神官物語 ふたりの慧眼児』

宮廷神官物語 ふたりの慧眼児 (角川ビーンズ文庫)
榎田 ユウリ カトーナオ
4044491070


[Amazon]

読了。

朝鮮王朝風異世界宮廷陰謀ファンタジー、シリーズ第四巻。


人の心を見抜く力のある慧眼児であるやんちゃな少年・天青は、宮廷神官の鶏冠に見いだされ、いまは神官見習いの書生として日々を送っていた。慧眼児の存在は町でもうわさとなりはじめ、慧眼児を名乗る偽物が多数現れる始末。これを政敵による陰謀と観た王太子・藍晶王子は、偽物たちの検分をする事を提案する。




安定感のある筆致とツボを押さえた展開と細部まで行き届いた描写、安心クオリティーでキャラクターの活躍を楽しめるシリーズです。

今回は、王の側室・蝶衣麗人とその親族たちという敵の布陣があきらかになりつつあり、宮廷の勢力図がしだいにあきらかになってまいりました。かれらが王太子藍晶を次期王の座から追い落とそうとしているため、藍晶が庇護する天青も標的になっているわけですね。

こんなときのお約束で、当代の王は側室にまんまとだまくらかされています。
からだが弱い消極的な善人で、おまけになんとなく鈍感っぽい王様は、尊敬はうけてますがあまり頼りにはならない模様。

敵側の手段を選ばぬ人を人とも思わない企みを、面と向かって糾弾する事もできず、じりじりとする展開ですが、蝶衣麗人の悪役っぷりが爽快なのと、心ならずも片棒を担がされた者たちの悲哀や苦しみがきちんと描かれており、天青の無邪気さと純粋さが相まって、ストレスはそれほどたまりません。
さらに、あらたな展開として、天青の兄貴分・曹鉄は王の母親・賢母様の部屋の護衛に配置転換されまして、その身にも変化と危機が訪れます。賢母様の人間を超えた美女っぷりに驚いてる場合ではありません。いや、十分に驚きましたが;

そういうわけで、あいかわらず天青の行動にハラハラし通しの鶏冠に、もうひとつ頭痛の種が加わります。楽しいですw←おい

鶏冠をやさしくフォローしてくれる苑遊さんがなんとなーく怪しいのが、また興味をそそります。

今後は、苦悩する男性陣をよそに凛々しい姫君・櫻嵐さまが活躍なさりそう?
非常に楽しみなので、すでに予約を申し込みました。

はやく届かないかなーっとw

宮廷神官物語 慧眼は主を試す (角川ビーンズ文庫)
榎田 ユウリ カトーナオ
4044491089

『Landreaall 17』

Landreaall 17巻 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)
おがき ちか
4758055610


借りて読了。

竜のいる異世界を舞台に不思議な存在感の若き公子DXと仲間たちの活躍を、センスある台詞回しで描く、ファンタジーシリーズ第十七巻。

お久しぶりの「ランドリ」です。
世間ではすでに18巻が発売中ですが、つねに時流に遅れているわたしは17巻をありがたく拝読いたしました。

……えーと。
前巻は、スピンドルとかいう化け物襲来後の学院の夏休みだったんでしたっけ?
ということは、この巻は夏休み明けのあらたな学院生活開始編で、新エピソードの開幕編なのかな?

学院ではスピンドルの繊維使用新制服がお披露目されたり、あらたな講義がはじまったり、そこですてきな先生にDXがビシバシ鍛えられたり、イオンちゃんがかたつむり収集を始めたり、六甲がゴーグルをとって騒がれたり、王城の研究室でDXが静かに怒ったり、といろいろ種を蒔いてますな感じです。

いつものように、おおざっぱなようで柔軟なDXの姿勢が周囲に斬新な衝撃をもたらすのが快感w
普段はフレンドリーなDXだけど、公の場における高位貴族としてのふるまいが下手なわけではなく、むしろ結構上手いのにどっきりしますw
そういう態度を取るときは内心で怒髪天状態なのが透けて見えるからかもしれませんが、その冷たさ加減がじつにカッコイイのもDXならではかw

何を考えているのかちょっと推測不能で、包容力と高い能力をもつ魅力的な若者DX。
そんなかれが、次第に「王とは何か」と考えるようになっているさまが、DXを王に推す玉階のアンちゃんとわたしに今後への期待を抱かせます。

仕込みたっぷり日常感たっぷりな異世界描写も楽しいですw
そしてキャラクター同士の含みたっぷりな会話のキャッチボールが楽しいw

だいたいにおいて会話によって話を進める展開なので、忘れっぽいわたしにはキツい部分もあるのですが、それがこの作者さんの持ち味であると思うので、忘れた部分はなんとか想像で補って読んでおります(汗。

ところで、この巻もですが最新刊にも限定版というのが存在して、限定版と普及版ではおまけ短編「Tail Piece」の内容が異なるというのを知り、ぎゃーっとなりました。

わたし、おまけが大好きなんですよねっ!!!(泣

人様から借りているのでどうしようもないのですが、別バージョンも読みたいです……

Landreaall 18巻 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)
おがき ちか
4758056080

20110624の購入

梅雨はまだあけてないはずなのに真夏のような暑さです。
息も絶え絶えになりながら本屋に参りました。


クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーⅢ (ハヤカワ文庫 JA コ 5-3 クォンタムデビルサーガ)
五代ゆう 前田浩孝
4150310386


以上、購入。

もう一冊の目当てであるこちらはいまだに手に入れる事かなわず。

星を帯びし者 (イルスの竪琴1) (創元推理文庫)
パトリシア・A・マキリップ 脇 明子
4488520154


一度も入荷した形跡がないので、ひと月後くらいに一軒くらいには入るかもしれません。
半年くらい後に入りそうな本屋もあります。確実にとは言えませんが;

『乙嫁語り 3』

乙嫁語り(3) (ビームコミックス)
森 薫
4047273287


借りて読了。

中央アジアの遊牧民の日常とロマンスを描く時代シリーズ。

発売日に買いにいかなかったらリアル本屋から消えてしまいまして、うわあんと泣いていたら貸してくれる人がいたので読めましたw

カルククとアミルちゃんたちの天幕を離れたスミスさん視点で進む第三巻。

私財でアジアを巡り文化風俗を調査する、たぶんお坊ちゃん育ちだけど放浪者のスミス青年。

異なる風習と文化風俗との出会いに好奇心だけをもっていた読み手とスミスさんが、どうしようもない理不尽さと憤りにわなわなと震えるエピソード。

ここで、わたしはこれまでであったアミルちゃんたちの家族はとても恵まれて幸せな例だったのだなと思い知らされることになります。

旅の途中で出会った、若く美しい遊牧の後家さんタラスさんの幸薄さがあまりにもひどい、ひどすぎます。どのくらいひどすぎるのかは読んでください。きっと「ふざけんな!」と叫びたくなる事うけあいです。

とはいえ、これも法治でない治安の悪い土地の、力が無いと生きていけない、力のないものは力あるものを頼らないと生きていけない、いたしかたない現実です。

スミスさんと読み手のわたしはタラスさんの境遇に憤りますが、社会環境の作った風習には必然性もあるのですよね。

この作品の時代なら、ヨーロッパでも日本でも状況はそう違わないと想像します。

しかし、力あるものの個人的な資質でその下のものの幸不幸が定まってしまうということへのやるせなさはどうしようもなく、無力感にうちひしがれつつ涙をのんで耐えるしか無いので、哀しいです。

その哀しさをすこしでもへらすべく、いろんな制度は整備されてきたのですよね。

そんな暗くなりがちななかでのオアシスは、スミスさんの窮地に駆けつけたカルクク君たち。
アミルちゃんはともかく、なぜパリヤちゃんまでいるのでしょうね。
市場ではしゃぐ一行のほほえましさにほほが緩みました。
相変わらず天然のアミルちゃん。いきなりキジをさばいてしまうアミルちゃん。
そんなアミルちゃんに引きずられるかのように次第にほぐれていくパリヤちゃんがまたかわいいw

さらにさらに、市場ででてくる食べ物の美味そうな事! これは反則だ!
絵の細やかな美しさはもはやいうまでもないといった感じ。

このあとスミス氏はアンカラに向かうそうです。
……オスマン帝国?w

シリーズ開幕編はこちら。
乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)
森 薫
4047260762

『宮廷神官物語 渇きの王都は雨を待つ』

宮廷神官物語 渇きの王都は雨を待つ (角川ビーンズ文庫)
榎田 ユウリ カトーナオ
4044491062


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読了。

朝鮮王朝風異世界宮廷陰謀ファンタジー。シリーズ三作目。


虎を始祖にもつ王国・麗虎国。ひとの真意を見抜く慧眼児・その実態は野生児の少年・天青は、神官見習いの学び舎での生活にもなじみ、同級の少年たちと悪ふざけもするようになっていた。その夏、麗虎国は旱魃に見舞われていた。水を大切に使うように説く鶏冠の言葉も、王宮暮らしの少年たちの心には届かない。夏休み、友人となった宮廷高官の息子の家に迎えられた天青だったが、町でかどわかしにあってしまう。町では水不足の余波を被った隷民たちが渇きに苦しんでいた。




特殊な存在でありながらも本人は至って天真爛漫な、やんちゃ少年の体当たりな活躍と成長と、彼を見守る青年たちのハラハラが微笑ましいシリーズです。

やっぱり、鶏冠がいいなあ。
鶏冠が被保護者の天青を思ってとるあれやこれやの、不器用な行動がたいそう興味深いwです。
行方不明になった天青を倒れそうになって案ずる様はまるでお母さんw
鶏冠がお母さんなら、曹鉄はというとお父さんにはならずやっぱりお兄さんですね。
この三人の疑似家族的な関係がわたしにはとっても楽しいです。

かれらを巻き込んでいく王宮の陰謀劇は、後宮やなにやらの勢力図があきらかになり、さらに込み入った人物関係が描かれるようになってきます。
このあたり、やはり「チャングムの誓い」を彷彿とさせるところです。

雨乞いのシーンの鶏冠には圧倒されました。

民のために国や王がいるのか。
王と国のために民がいるのか。

相反する信念の対立を予感させる言葉が、たんなる権力闘争劇ではない物語の今後を示唆するようで、楽しみが広がります。

あと、子白虎・ハクのそれとない大活躍も嬉しい。
ネコ科じゃないんじゃない、犬なんじゃない、という疑惑がわたしの胸にきざした事は内緒ですw

つづきも予約しました。

宮廷神官物語 ふたりの慧眼児 (角川ビーンズ文庫)
榎田 ユウリ カトーナオ
4044491070

「最強の黒、至高の白」

麻国さん作「最強の黒、至高の白」読了。

異世界ファンタジー短編。
皮肉と悲哀に満ちた魔術師のおはなし。

『黒き翼の王 下 エリアナンの魔女4』

エリアナンの魔女4 黒き翼の王(下) (エリアナンの魔女 4)
ケイト・フォーサイス 井辻朱美
4198631441


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読了。

敵味方入り乱れての重厚なケルト風異世界戦乱ファンタジー、三部作の第二部完結編。

故郷アルバから星船にのってやってきたエリアナンで、すべての種族を統べる王となったリオナガン。
しかしリオナガンの下につく事をよしとしない海の種族フェアジーンから送り込まれた〈妖術師〉の女マヤに洗脳された王ジャスパーはマヤを妃にし、王国の守り手だった魔女を一掃する政策をとるようになる。
マヤの政策によってエリアナンは混乱し、ほかの勢力もリオナガンに反旗を翻すために画策していた。

そして、迫害の中で身を潜めていた魔女たちも、ジャスパーの死期が近いことを知り、リオナガンの未来を憂えて一斉蜂起の準備を整えつつあった。

……という物語世界の中で、駆け出し魔女のイサボーが師匠である大魔女メガンの命を受けて過酷な道を歩んでいく、というのがまず大筋のストーリーです。

実際はヒロインにべったりという展開ではなく、イサボーの双子の姉イズールトや王弟ラクラン、老見者ジョーグとかれが保護し、かれを守ることになった子供たち、大魔女メガン、海の妖フェアジーンであることを隠して女王となるマヤ、密かにリオナガンに対抗するアランの女藩公の息子イアン、などなど、たくさんの登場人物の視点で進む群像劇として、複数のストーリーが同時進行する重厚で複雑な物語になっています。

なにより特徴的なのはそのシビアーな描写。
血が流れ肉が潰され首が飛ばされ、というグロテスクなシーンも正面から描いていますので、苦手な方はご注意を。

さらに翻訳物とは思えない展開の速さにも驚かされました。
これまでならもっとディテールと時間を費やしそうなシーンが、ざくざくと省かれている感じでして、けれども端折った感じを受けないのは、登場人物の内面が客観的にではありますが深く描かれているからかと思われます。

わたしなどはストーリーよりもイサボーやイズールトの感情的な起伏の大きさに振り回された感がありました(苦笑。

劇的なストーリーと魔法描写のリアリティー、そして個性豊かな動物たちがすてきです。

ただ、内容のわりにコンパクトなのはいいけれど状況説明がちとすくないので、個々の陣営がどういう関係にあるのかを把握するのが少々難しかったです。

とくに、表も裏も敵対している女王マヤと魔女たちはぱっとわかるのですが、アランのマルグリッドは表向きは友好関係にあるのと、彼女とつながってるらしいティルソワレーとリオナガンとの関係が曖昧なので、「???」なことになりやすかった(汗。

エリアナンにたくさんいるらしい人外の存在って、つまりは先住民ってことなんでしょうかねえ。

リオナガン王家に伝わるロードスターと、十二公家の存在がケルトっぽいので、ぼうっとしてるとケルト風ファンタジーを読んでると思いがちですが、そういえばこの話って設定的にはSFに近かったような?

といろいろと謎ときみたいな読み方をして楽しんでいます。
ちょっと面倒なところもありますが、わたしは好きです。

いったい、つづきはどうなるのかなー。興味津々。

第三部はすでに上巻が刊行済みです。

エリアナンの魔女5 薔薇と茨の塔(上) (エリアナンの魔女 5)
ケイト・フォーサイス 井辻朱美
4198631468

『ミストクローク 霧の羽衣 3 永遠の大地』

ミストクローク―霧の羽衣〈3〉永遠(とわ)の大地 (ハヤカワ文庫FT)
ブランドン サンダースン Brandon Sanderson
4150205272


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読了。

壮大な物語世界の存亡をかけた神との戦いを、独特な合金使いのスピード感あふれるアクションと個性豊かなキャラクターのドラマで描き出す、怒濤の異世界ファンタジー三部作完結編。

あらすじを書くと盛大にネタバレするのでやめておきますw

破壊神と保存神の代理戦争をさせられていた人間たちが、ついに自らの意思で神と相対することになるクライマックスです。

狡猾な破壊神とヴィンの駆け引きや、破壊神に操られていたひとびとの顛末。
保存神の意を受けていたはずのカンドラたちの混乱。
何度も絶体絶命に陥りながらも立ち上がり前進を決意するエレンドがたくましく。
迷いながらも目の前の事に力を尽くすセイズドの誠実さにうるうる。

つぎからつぎへと明らかになる新事実に驚愕しながらもスピード感は落ちず、さらに新たな局面があらわれてさらに窮地が訪れて、緊迫感をたもったまま雪崩のごとくラストへ突き進んでいくおそろしいまでの怒濤感。

読みながらうわーうわーと心の中で叫び続けていましたが、それが最後の最後までつづいてしまったことに感嘆します。
クライマックスだと思われたところからのさらなる大きな飛躍にどれだけ驚いた事か。

最後の最後まで、みじんも弛緩する事のないままにエンディング。
ここまで驚きが続く物語は初めてです。

すごい物語でした。
第一部を読んだときにはこんなところまでやってくるとは想像もしてなかった。

第一部は革命の物語。
第二部はあらたな秩序を打ち立てる困難の物語。
だと思っていましたが。

合金使いのユニークな設定と人間ドラマだと思ってた第一部にも、ふりかえればすでにそこからラストに至るまでのいろんな種がまかれていたんだなあ。

世界の再生の物語である第三部はスケールが大きくなった分、個々の人間たちのエピソードが少なくなりましたが、それでもなおかつ、かれらの存在感が薄れる事はなく、最後まで動向に興味を持たせてくれたのもすばらしかったです。

読み終えてしばらく驚愕にひたってました。
余韻、なんてものじゃないです。
興奮にわなわなしそうだったです。

これだけ広げまくった風呂敷がこんなにきちんと折り畳まれて、すべての伏線がすっきりと回収されていく。
すべての設定が有機的に機能して、物語に深く絡み合い、ラストへの怒濤のひきにつながっていく。
その快感に酔っぱらい、でるのはため息ばかりでした。

すごいなー、この構成力……。

忘れてしまった伏線を味わうためにまた最初から読み返したいような気分です。

とっても面白かった!!!

途中まで読んだ方はぜひ最後まで行きましょう。
第三部はこちらから。

ミストクローク ―霧の羽衣― 1 新たな救い手 (ハヤカワ文庫 FT サ 1-9)
ブランドン・サンダースン 竹井
4150205213


シリーズ未読の方も興味を持たれたらぜひぜひ。
開幕編はこちら。

ミストボーン―霧の落とし子〈1〉灰色の帝国 (ハヤカワ文庫FT)
ブランドン サンダースン Brandon Sanderson
4150204950

『夢の上 3 光輝晶・闇輝晶』

夢の上3 - 光輝晶・闇輝晶 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼 天野 英
4125011524


[Amazon]

読了。

神に抑圧された国に生きるひとびとの語りがかさなりあい、からみあって次第に反乱の全貌が明らかになっていく、異世界ファンタジー完結編。

最後の巻の語り手は、やはり光神王の二人の王子でした。
光輝晶はアライス。闇輝晶はツェドカ。

己の信ずるところに向かってひたむきに進んでいくアライス。
雌伏しながら情報を集め、機会を待ち続けるツェドカ。

対照的な二人の、出会いと別れ、そして再会。

急速に結末へ向かって進んでいく物語の興奮と、隠されていた光神と光神王の事実が明らかになっていく謎解きのカタルシスに酔いました。

断片がつなぎあわされてジグソーパズルのように全体像があらわれてくるところが、すてきでした。

欲を言えばツェドカに一巻から登場してほしかったなー。
そして、最大の驚きはもう少しあとのほうで味わわせてほしかったと思います。

一巻を読んだときに予想した枠物語はそれはもう悲劇的なものでしたので、それもすこし肩透かしだったかな。
大部分の読み手の方に歓迎される、すっきりとした後味だと思いますが、たぶんわたしはひねくれ者なのですな。ものたりないと感じてしまうのは(汗。

あと、一人称の語り形式だからか、なんとなく最後まで箱庭を見ているような心地が拭えなかったのが気になりました。
でも、それが風通しの良い雰囲気につながっているのかもしれません。

しかしです。個人的な最大の不満は、イズガータ様とエシトーファ視点の話が読めなかった事ですよ。
たしかに物語的には必要ないかもしれないけどー、イズガータ様はともかくエシトーファは重要なのに出番が少なすぎですよう。しくしく。

閑話休題。

いろいろ書いてしまいましたが、面白かったです。
一人分読むたびに前に戻って再読ということを幾度かしたのですが、するといろいろと気づくところがあって、また楽しめました。

物語らしい物語だったなあと思います。

夢の上〈1〉翠輝晶・蒼輝晶 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼 天野 英
4125011230


夢の上〈2〉紅輝晶・黄輝晶 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼 天野 英
4125011389

『町でうわさの天狗の子 8』

町でうわさの天狗の子 8 (フラワーコミックス)
岩本 ナオ
4091338232


読了。

お山の天狗を父親にもつ女子高生のちょっと不思議だけど普通な日常を描く、ほのぼの胸キュンなシリーズ。第八巻。

購入してから毎日一回は読み返しておりました。
しみじみと、わたしはこのシリーズが好きなんだなあ、と思います。

田舎町の普通の日常に天狗やその眷属やなにやらがまじっていて、それを見ても騒いだり咎めたりしない、それが普通だから。
ひととひとならぬものが何の違和感もなく共存している風景、というのがツボなんですね。

その顕著な例が、ヒロイン秋姫ちゃんの同級生赤沢ちゃんとお山で修行中のキツネ三郎坊の関係かと。
キツネに言い寄られて、それは最初はヒトガタになってたために気を惹かれたんではあるんだけど、つねにキツネだとわかっていながらつづいていく、会話やふれあいやあれやこれやで、赤沢ちゃんの心がゆれうごくさまが実にキュートv なのでありますよ。

おまけに周囲の人たちも、みんなキツネだってわかってて、それでいいじゃないっていう。
無責任なのかルーズなのか、とにかくすべてを肯定してくれる。
この不思議に包容力のある、ゆるい雰囲気のほのぼの感、たまりませんv

秋姫ちゃんのほうには天狗関係でいろいろと不安があるようですが、同時に瞬くんとの距離を意識しだしたりして、こちらもドキドキきゅんきゅんでございます。

瞬くんの肩幅を測るシーンには、ちょっと艶かしさすら感じたりして、うはあ、でしたw

瞬くんもひそかに変化しているなあw

この先、天狗としての秋姫ちゃんがどうなるのかが不安ですが、ちょこちょこ出てくる小さい奴らがなにか吉報をもってきてくれないかなと期待したりしてもいます。

はやく続きが読みたいシリーズです。

余談。
各回の扉絵がかわいくて好きです。
とくにお菓子がたくさんあるのが(笑。


シリーズ開幕編はこちら。

町でうわさの天狗の子 1 (フラワーコミックス)
岩本 ナオ
4091313930

『宮廷神官物語 少年は学舎を翔ける』

宮廷神官物語―少年は学舎を翔ける (角川ビーンズ文庫)
榎田 ユウリ カトーナオ
4044491054


[Amazon]

読了。

朝鮮王朝風異世界宮廷陰謀ファンタジー。シリーズ第二巻。

奇跡の能力を持つ慧眼児だった少年・天青は、宮廷神官の鶏冠につれられて宮廷で王に目通り、神官修行をすることになった。ところが卑しい身分の天青を快く思わぬものは多く、学舎でかれは父親が高官の桑笙玲をはじめたとする同級生に嫌がらせを受けることになる。頼りの鶏冠の教官だからという冷たい態度にくじけそうになる天青だったが。



安定した文章とつぼを心得た展開、適度に性格を誇張されたキャラクターのやりとりが楽しいシリーズです。
今回は学び舎で社会の理不尽さをあじわう天青に、過去の陰謀事件がからんでくる、という話。

学校の校外学習で出会った野性的な美少年の正体にひっくりかえりましたw

粗暴だけど純粋な少年・天青の気づかぬところで、敵からかれを守ろうとする保護者たちの姿に心があたたまります。

とくに不器用な鶏冠w
苦労性で貧乏性で、さらに肉食への欲望に身を焦がしている姿がほほえましくも笑えてなりませんw

気持ちよくするりと読める娯楽作品ですね。

つづきも読みたいと思います。

宮廷神官物語 渇きの王都は雨を待つ (角川ビーンズ文庫)
榎田 ユウリ カトーナオ
4044491062

『夢の上 2 紅輝晶・黄輝晶』

夢の上〈2〉紅輝晶・黄輝晶 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼 天野 英
4125011389


[Amazon]

読了。

王の前で披露されるひとびとの夢の物語が、次第にひとつの国の動乱を描き出していく。異世界ファンタジーシリーズ、第二巻。


光神サマーアを崇め、その天罰を恐れる大国サマーア神聖教国。国土の空を覆い尽くす輝晶のために作物が育たないうえに、聖教会と神聖騎士団による搾取のため、ひとびとは貧困に喘いでいた。ただひとつの特産物である彩輝晶の採掘には死影に襲われる危険が伴った。死影にとりつかれたひとびとは死ぬか、生き延びても闇神ズイールの使徒とみなされ排斥される。疲弊しきったひとびとは生き延びるために、サマーアを統べる光神王の打倒へと動き出す。



面白かったー!

一巻の感想で書き忘れてましたが、翠輝晶では地方領主の娘アイナ。
蒼輝晶では、ケナファ騎士団の女団長イズガータの副官・アーディン。

の物語が語られました。

二巻は紅輝晶で光神王の妃となるイズガータの家庭教師ハウファ。
黄輝晶ではケナファ騎士団のイズガータの従者ダカール。

の視点で話が描かれます。

おなじ事件を描いていてもこれまでとは異なる角度から光が当てられ、あらたな情報があきらかにされて、しだいに事の全容に近づいていく展開がたまりません。

視点人物はわざと中心を避けて、すこしずつずらした位置におかれているようです。

かれらの時空がときにかさなり、ときにすれちがい、ときに補完しあうのにどきどきわくわくしています。

一巻ではおもに庶民や影使いの生活、二巻は貴族と王宮の周辺と次第に物事の核心に近づいてる気配。

三巻では、ふたりの王子の時空が描かれるのかな。
イズガータ様視点というのも面白そうなんですけどw
でもふたりの男性視点でさんざんかっこよく描かれてるイズガータ様なので、中身は見なくても十分かもしれないわw

というわけで、つづきがとっても楽しみです。
ちゃんと手元にありますのですみやかに読むつもりです。

夢の上3 - 光輝晶・闇輝晶 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼 天野 英
4125011524

20110610の購入

発売日だったので以下略。

町でうわさの天狗の子 8 (フラワーコミックス)
岩本 ナオ
4091338232


以上、購入。


ついでにこまごまとした用事をしてきたんですが、ずっと行ってなかった銀行で通帳に記帳するという案件もありました。
見てみたら、最後の記録が平成十五年。
しかも通帳は、前の前の前の銀行名のときのです。
まだ使えるのかなーと不安を覚えつつATMに入れましたが、何の問題もなく記帳してくれました。

印字された記録を見て、利子の暴落度にあぜんとしました。
前年度の五分の一ってなんなんだ(汗。

『野生動物の生きかた シートン動物記3』

野生動物の生きかた シートン動物記 (3) (シートン動物記)
アーネスト・T・シートン 藤原 英司
4081330034


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読了。

途中で長い間放置してましたが、このたびようやく読み終えました。

収録作品は以下の通り。


野生動物の生きかた
 まえがき
 黒いくり毛――ある荒れ馬の物語
 あぶく坊や――あるイノシシの生涯と冒険
 ウェイ・アッチャー――キルダー川のあらいぐま
 ビリー――りっぱになった犬
 アタラファ――翼をもった妖精(ブラウニー)
 ウィンディゴールの雁
 ジニー――暴れザルをならす

銀ギツネの伝記
 覚え書き
 第一部 幼年時代
 第二部 二倍の力
 第三部 試練と勝利



中断が長かったので前半部分はうろ覚えになってしまいました。
この巻は人間との関わりが不幸だった動物が結構あったような気がします。
荒れ馬とか、イノシシとか。

なかでも「ウィンディゴールの雁」の人間はひどかった。
「わたし」の一人称で書かれてるんだけど、雁の鳴き声を聞きたいからとしたことが、こんな出来事を引き起こしているのに、何の反省も後悔も書かれてないとは。いまならバッシングされるんじゃなかろうか。

個人的な憤りはともかく。

シートンって基本的にドキュメンタリー作家じゃなくて物語作家なんですね。
ある動物の物語を書くのに、同じ種族のいろんな個体のエピソードを繋ぎ合わせて劇的にまとめています。

最後の「銀ギツネの伝記」はクライマックスが講談調になってて驚きました。

この「語ってる」やり方が科学者にはいい印象を持たれないんだろうな、きっと。
でも、動物に何の関心も持たないひとからすれば、ただの記録よりも物語の方が面白いに決まってます。

動物を脚色しないのならば人間の話をしなければ物語にはならないわけで、動物を紹介したいシートンからすれば当然の選択だったんだろうなと思います。

立て続けに読むと退屈になるのは、動物の一生を書くというフォーマットが決まってるからでしょう。

四巻は気が向いたら読もうと思います。

『夢の上 1 翠輝晶・蒼輝晶』

夢の上〈1〉翠輝晶・蒼輝晶 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼 天野 英
4125011230


[Amazon]

読了。

夜の王の前で披露される人の夢の物語。異世界ファンタジーシリーズ、開幕編。


暗く謎めいた夜の宮殿。そこに住まう王の前に夢売りの男が現れた。男は懐に忍ばせた『彩輝晶』と呼ばれる宝玉をとりだし、そこには人の夢が秘められているという。その夢をたしなむ夢利きをしないかと誘う夢売りは、代価に『夜明け』を所望する。王は了承し、男は六つの彩輝晶からひとつをとりあげた。若緑色の翠輝晶を。




『煌夜祭』の作者さんの新作。
デビュー作に戻ったように枠物語になっています。

ユニークなのは人の夢の結晶化だという彩輝晶。蓮のつぼみのようなかたちをして、夢利きの手によって花びらが開かれるとひとひとりの人生が目の当たりに再現されるという設定です。

ひとつひとつの彩輝晶に秘められたひとの生涯=時空が、舞台を同じくしたそれぞれの一人称による連作短編としてつづきます。

彩輝晶は、物語の人の人生にも深く関わっているので、枠の話が単なる枠ではないことはすぐに察せられます。

夢のひとつひとつが読み応えのある物語で、それだけでも十分に面白いですが、夢を利いている夜の王が、話のどのあたりにいる存在なのかを推測するのも楽しいです。

最初、本を見たときに「分厚いな」と思いましたが、あっというまに、というのは言い過ぎですが一息に読んでしまいました。

とても面白かったです。

一人称の文章が、物語としてのたたずまいを際立たせているのが好印象。

夢がまた別の夢と少しずつ重なり合って、次第に世界の姿が明らかにされていくのかなあ。とてもわくわくどきどきしています。

キャラクターがわりとラノベしているのにもかかわらずちぐはぐにはならず、むしろ重くなりがちな雰囲気を軽やかにしているよう。

先日読んだ社会派SFの空気がとても淀んでいたのに対し、こちらは風通しの良い、さわやかな雰囲気。
シリアスなんだけれど安心して読んでいられるのは、ファンタジーだからなのかラノベだからなのか、ちょっと考えてしまいました。

さて、感想を書いたので続きを読もうv
つぎはだれが主人公なのかなーvvv

夢の上〈2〉紅輝晶・黄輝晶 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼 天野 英
4125011389


煌夜祭 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼 山本 ヤマト
4125009481

『魚舟・獣舟』

魚舟・獣舟 (光文社文庫)
上田 早夕里
433474530X


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借りて読了。

骨太かつ現代的なSF中短編集。

評判がいいようなので気にかけていたら持ってる人がいたので借りてみました。

これはすごい!

まぎれもなくSF。なのに血肉をそなえた人間の体臭すら漂ってきそうな濃厚な身体感覚と社会の猥雑さが味わえます。

先日とても形而上学的なSFを読んだばかりなので、よけいに違いを感じました。
ひとくちにSFといっても、いろんな作品があるよなあ。

収録作品は以下の通り。


魚舟・獣舟
くさびらの道
饗応
真朱の街
ブルーグラス
小鳥の墓

解説 山岸真



タイトル作はスケールの大きな近未来短編。長編『華竜の宮』とおなじ世界が舞台です。
次第に明らかになる人類の未来がグロテスクでした。

「くさびらの道」はバイオハザードを描いたホラーSF。

「饗応」はとちゅうでくるりと世界がひっくり返る未来SFショートショート。

「真朱の街」は妖怪の出てくるホラーSF。人ならぬものの捉え方がとてもSF的でした。

「ブルーグラス」は環境破壊の進む近未来を舞台にしたダイビングSF。

そして圧巻だったのが中編の「小鳥の墓」。

この話に関してわたしは語る言葉を持ちません。
SFであると同時にサイコホラーでもあるように思います。
規制されたクリーンな社会のゆがみと猥雑な外の世界の広さとの対比が強烈。
こんなに生々しい話がSFになるとはねえ。
雰囲気はSFよりもハードボイルドとか社会派ミステリに近かった。
もう、気力体力両方なくしたヘタレなおばさんにはきつかったです。
でも、二十年くらい昔に読んでたらものすごくはまったろうなーとも思う。

読み終えて、なんという後味かと思いましたが、解説に長編『火星ダーク・バラード』のスピンオフとあって、それでかーと納得しました。

社会問題をストレートに反映したシビアな世界を読みたいSFファンにお勧めです。
小松左京賞でデビューされたそうですが、たしかにそうだなと納得。

しかし、ハッピーになりたいひとには、お勧めいたしません;


華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
上田 早夕里 山本ゆり繪
4152091630


火星ダーク・バラード (ハルキ文庫)
上田 早夕里
4758433720


『夏至の森』

夏至の森 (創元推理文庫)
パトリシア・A・マキリップ 原島 文世
4488520146


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読了。

古いしきたりを守る一族から距離を置こうとしていた女性が、故郷に戻って出自と向かい合う、現代ファンタジー。



都会でひとり書店を営む女性シルヴィアに祖父リアムの訃報が届いた。葬儀のために七年ぶりに故郷に戻ったシルヴィアは森にかこまれた古くからのリン屋敷を守る祖母と、子どもの頃、祖母から与えられた、人ならぬものとの邂逅をつづった曾曾曾祖母ロイズの手記に再会する。シルヴィアの母は若くして亡くなり、父親は不明。シルヴィアは自分が父親から受けついだものを恐れ、故郷から逃げていたのだ。祖父の葬儀が終わり、アイリスは屋敷をシルヴィアにという遺言を披露した。なんとか受け入れまいとするシルヴィアだが、そんなおり、従弟のタイラーが森に飲まれ、替わりに取り替えっ子が屋敷のなかに入りこんできた。




マキリップの現代ファンタジーは、初めて読みました。
といっても、この作品は『冬至の薔薇』の続編。話は単独でも読めますが、できれば前作を知っていた方が物語の背景や登場人物たちの心情がよりわかりやすくなるのではと、思われます。

本を見失って前作の記憶がすっとんだまま読んだわたしが言うので確かです;

舞台はたぶんアメリカ。
異界とこの世の狭間で結界を張ってきたリン屋敷の女主人アイリスとその孫シルことシルヴィアの関係を軸に、決壊のほころびから勢力を伸ばしてきた異界のものと人間たちの接近遭遇が、幻想的に描かれています。

ほのめかしや隠喩によってひそやかに進んでいく物語は、地下を流れる伏流水のようでなかなか表に現れず、ときおり吹き出す泉やささやかなしぶきが登場人物の目を通して描写されていく。

詩的な言葉遣いにはハッとさせられることしばしば。
とてもまわりくどいのだけど、秘め事を描くにはふさわしい描き方なのかなと思います。

季節が夏だからなのか、『冬至の薔薇』と違いとても色彩がゆたかで、空気が香ばしく、世界がたおやかに感じられることに驚きました。

田舎の女性たちの針の会は、どことなくシャーロット・マクラウドのコージーミステリが思い出されました。
女性たちはいつも表立たないところで重要な役割を担っている気がしますw

前半、ものごとが水面下でうごめいているあたりがかなり長かったので、わりとあっけない収束にやや拍子抜けしましたが、夏の女王様のうるわしいお姿にはうっとり。

アメリカなのにスコットランドの伝承で全部を説明しちゃうの? とかいう疑問はうっちゃっておくことにいたします。

余談。
しばらくマキリップの翻訳が読みにくくて辛い思いをしましたが、この本はわりとするりと読むことができました。

前作はこちら。
冬の薔薇 (創元推理文庫)
パトリシア・A・マキリップ 原島 文世
4488520103

『マルドゥック・フラグメンツ』

マルドゥック・フラグメンツ (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-11)
冲方 丁 寺田 克也
4150310319


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借りて読了。

金色のネズミと少女が生きる意味を求めて巨悪と戦う、未来アクションSF。マルドゥックシリーズの短篇集。

『マルドゥック・スクランブル』映画化を受けて編まれた番外小説と予告編と著者インタビュー。
収録作品は以下の通りです。


マルドゥック・スクランブル“104”
マルドゥック・スクランブル“-200”
Preface of マルドゥック・スクランブル
マルドゥック・ヴェロシティ Prologue & Epilogue
マルドゥック・アノニマス “ウォーバード”
Preface of マルドゥック・アノニマス

冲方丁インタビュウ 古典化を阻止するための試み

抜粋収録 事件屋稼業




「“104”」のみ既読でした。

二作目までは「スクランブル」の前日譚で、ウフコックとボイルドがパートナーだった頃の話。
「スクランブル」予告編をはさんで「ヴェロシティ」のプロローグとエピローグ。
未だ刊行されていない続編「アノニマス」を舞台にした他者視点のスピンアウト。
そして「アノニマス」予告編。

読んでいて純粋に話を楽しめたのは、冒頭二作です。
ウフコックとボイルドの関係が、不穏の兆しはあれどもまだ安定していて、一話完結の事件ものとして読めるからでしょうか。
このふたり主人公の短編シリーズなんかあればいいのになと思わせる楽しさです。

しかし、それはすでに過去の出来事なのですよね。あのころは幸せだったという懐古の念が、ただの読み手であるわたしにすら湧いてくる、せつないシリーズだなあと思います。

中身はアクションにグロテスクなバイオレンスなんですけどねえ;

懐かしさのあとには、あれからかれらはどうなったのか、という未来への興味をひかれる短編と予告編が載っています。

成長したバロットの姿や、イースター事務所のあらたなメンバーが新鮮です。
ウフコックは、ウフコックは、ウフコックが……ああ……

それから著者インタビュー。
『マルドゥック・スクランブル』映画化と、完全版執筆の経緯と必然性、書き直しによってどれだけ品質が向上したかを書いた本人の言葉で読むと、すでに読んだ話と思ってスルーしていたのに、やっぱり読みたいかも~という気持ちになるのでやばいです。

しかも、この本を読んでマルドゥック・シティの設定がようやく頭の中に描かれてきたというわたしは、どんだけ鈍いんだろう。
「シュピーゲル」シリーズを読んでなかったら、まだ理解してなかったかもしれないと思ったり。
この作家の頭の中にある未来都市の姿が、やっとつかめたような実感があります。それがわたしにとってのこの本の収穫。

巻末には「スクランブル」の初稿原稿の冒頭抜粋が掲載されてます。
話はほぼおなじなのに、視点人物や構成の変化で雰囲気ががらりと違う。
これだけでも、作家・冲方丁の進化がよくわかります。
完全版はいったいどうなってるんでしょうねえ。

結論。
『マルドゥック・アノニマス』とっても読みたいです。ウフコックが気になるのです。
けどわたしは、『テスタメント・シュピーゲル』のつづきがもっと読みたいのです!

この本は「マルドゥック」だからしかたないけど、「ヴェロシティ」の改訂版の話まで出てて、あわわと焦りました。書くなとは言えないけど、『テスタメント』を出してからにしていただきたいものです。


シリーズ開幕編はこちら。
マルドゥック・スクランブル The 1st Compression 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)
冲方 丁
4150310149

『インカースロン 囚われの魔窟』

インカースロン ~囚われの魔窟
キャサリン・フィッシャー 井辻朱美
456204683X


[Amazon]

読了。

悲惨な現実に生きる者の星を見ることのできる外への渇望を描く、遠未来風地下監獄ファンタジー。


星の見えぬ世界〈監獄〉に暮らす少年フィンは、ならず者の集団〈兵団〉の中で〈義兄弟〉ケイロとともに明日をも知れぬ日々を送っていた。フィンには〈外〉の断片的な記憶があるが、思い出すと恐ろしい発作に襲われてしまう。皆が否定する〈小房生まれ〉の記憶を伝説の逃亡者サフィークに繋がる鍵と考える〈知者〉ギルダスは、フィンの見るヴィジョンを渇望する。隊長ジョーマンリックの命令で〈市民団〉を罠に陥れたフィンは、〈市民団〉の人質マエストラが、自分の手首の鳥の刺青に反応したことで情報を得るために彼女を救おうとする。いっぽう、外の世界では科学技術に制限が設けられ、ひとびとは〈アンジュー朝〉の生活様式を日常としていた。〈監獄〉の〈管理人〉のひとり娘クローディアは、父親に女王の第二王子カスパーとの婚儀を告げられる。粗暴なカスパーを嫌うクローディアは、死んだ第一王子ジャイルズが〈監獄〉にいるのではと疑っていた。父親がひたかくしにする〈監獄〉の秘密を、クローディアは家庭教師の〈知者〉ジェアドとともに探ろうとする。





閉塞感に満ちた貧しく劣悪で暴力のはびこる〈監獄〉世界と、明るく開けて豊かだけれど制限や規則にきつく縛られている〈外〉の対比が鮮烈なファンタジー。

面白かった……!
洞窟のような暗く閉じられた空間に魅せられる傾向のあるわたしには、たいへん楽しい本でした。

〈監獄〉の、陰気で暗い世界がどこまでもつづくような不気味さ(雲まである!)や、そこに様々な工夫や社会を築いて生きのびている人びとや、そこかしこに見られるかつての高度な技術などが、混じりあい、霧の中に見え隠れするようにあらわれる。

フィンの記憶の謎。
伝説の逃亡者の謎。
第一王子の死の謎。
〈監獄〉と〈外〉の関係の謎。

数々の謎を伏線に、〈監獄〉の少年達は“星の見える”世界を渇望し、進み続けます。

フィンをとりまく旅の一行がとても魅力的です。
フィンを〈星見人〉と期待する知者ギルダス。
ジョーマンリックの毒味犬だったアッティア。
とくにフィンの義兄弟のケイロの個性が強烈。ふだんその手の関係を思いつかないわたしですら、これは……と思ってしまった色気があります。

しかしわたしの一番のお気に入りは〈外〉側のクローディアに仕える病弱な知者ジェアドなのでしたw

クローディア側の話は政略結婚がメインかと思わせてじつは、てところで吃驚しました。

伝説のサフィークっていったいどういう人物だったんだろう……すごく知りたい。

と思ったら本書には続編があるそうで、そのタイトルは『サフィーク』だそうです。
うわ、これは読みたい、読まなくては。

ぜひぜひ、続編も翻訳刊行してもらいたいです。

ところで、あちこちに誤植が見うけられたのが残念でした。表紙カバーと標題紙の翻訳者名が間違ってる(井辻朱美が朱実になってる;)。表紙自体はカバーがとれないので(図書館の本なので)わからないんだけど、これは言語道断だと思う。ほかに本文にもいろいろと「あれ?」な個所がありました。素敵な本なのにな~。


同著者の別シリーズ。こちらにも地下がたくさん出てきます。
サソリの神〈1〉オラクル―巫女ミラニィの冒険 (サソリの神 (1))
キャサリン フィッシャー Catherine Fisher
4562038519

サソリの神〈2〉アルコン―神の化身アレクソスの“歌の泉”への旅 (サソリの神 (2))
キャサリン フィッシャー Catherine Fisher
4562038659

サソリの神〈3〉スカラベ―最後の戦いと大いなる秘密の力 (サソリの神 (3))
キャサリン フィッシャー Catherine Fisher
4562038667

20110531の購入

発売日だったので以下略。

彩雲国物語 紫闇の玉座(上) (角川ビーンズ文庫 46-21)
雪乃 紗衣 由羅 カイリ
4044499217


以上、購入。

七月一日発売予定の下巻でシリーズが完結するそうです。
ええっ、と驚きましたが、それもそうかと納得も。
ただ、一巻の終わりに書かれてた出来事がどう実現するのかが、非常に不安、もとい興味津々です。

下巻が出るまで封印しておこう。
……もったいつけなくても意図せずそうしてる本は他にもたくさんありますが;