『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーV』

アバタールチューナーⅤ (クォンタムデビルサーガ)
五代 ゆう 前田浩孝
4150310483


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読了。

文明が崩壊していく中、自我を持ったAIたちが悩み苦しみ怒り悲しみながら、たがいを思いやり、滅びにあらがい戦う姿を臨場感あふれるスケールの大きな筆致で描く、壮大な近未来SFアクション。シリーズ完結編。

凄い物語を読んでしまいました。

読み終えてしばし放心状態に身を任せました。

そもそも、描写力がものすごいのです。
登場人物の動きが感情が、その作用によって周囲の受ける影響が、目に見え、肌で感じられるように、波状攻撃を仕掛けてくるような文章なのです。

その描写はたんなる描写ではありません、きちんとストーリー上の意味をもって書かれていて、きちんと読むほどにのちの状況も腑に落ちるという、伏線の一部分であるのです。

そんな濃密な文章で描かれるのは人類文明の崩壊していく過程です。

滅びに瀕し、あえいでいる人類にあらわれた救い主は、悪魔(ASURA)でした。

この物語は自我を持った戦闘AIの物語として進んできましたが、ここにきてもっと壮大な、地球的な規模の進化の物語であることが判明します。

読みながら視界がいきなりひらけて、さらにそれによって深くなっていく絶望感にぼう然としました。

SFだ、これはSFだー、と思いました。
同時に、やっぱりSFだった、SFだからこうなるんだよねーとも、思いました。

しかし、この話の真骨頂はここからだったのです。

これから先はもうわたしには書けることがありません。
読んでいて光瀬龍を思い出し、『百億の昼と千億の夜』を読み直したくなりました。
また、アニメ『魔法少女まどかマギカ』も思い出しました。
……これだけ書けば十分、というかすでに書きすぎな気がしないでもないですが(汗。

読み終えて、うわーと押し寄せてくるおおきななにかをただ受け止めました。
怒濤のクライマックスのあとで、淡々とつづくシーンひとつひとつに胸が熱くなってしかたなかった。
〈エンブリオン〉のメンバー、ひとりひとりがとても愛おしい。
作者さんが「登場人物たちが納得しておわるハッピーエンド」と書かれた、まさにそのとおりのラストでした。
よいものを読ませてもらったなあと、思います。

それと、本文中に挿入される引用には、いろいろと考えさせられました。
哲学関係は、わたしには文章の意味をとるのも難しいのがたくさんありましたが、興味をひかれます。

そして、最後にでてくる教授、なんか見たことのある名前……と思ったら、野阿梓『兇天使』にも登場されたかただったんですね。この方の考えもたいそう興味深かったです。

まだ、きちんと読み切れてない気がするので、また読み返したいです。というか、読み返します。
そして、『百億の昼と千億の夜』を読みなおしたい。『兇天使』も読みなおしたい。と、思いました。

鏡明氏が解説で日本SFの到達点のひとつと書かれているのは、そういうことも含んでのことなのではないかしら。

ところで、セラが水無瀬眞をみつけてきた理由は、あれですよね。きっと、たぶん。


シリーズ開幕編はこちら。
クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーⅠ (ハヤカワ文庫JA)
五代ゆう 前田浩孝
415031022X

20111029の購入

予約本を受け取りに行って、ついで寄った本屋で発見しました。

カナシカナシカ (ウィングス・コミックス)
紺野 キタ
4403621260


以上、購入。

一冊で完結するマンガってめずらしいわあ、と思って。

最近一冊完結にとても魅力を感じるようになってきました。
きっちり感というか潔さ感というかコンパクト感というか。

元々、すみずみまで構成された物語が結構好きなんです。
だらだらと細部が細かいのも好きなんですけどね。それはわたしがそうだからというのがあって、つまり親近感。
きっちり感はわたしが絶対持てそうもないものという憧れが混じってる、ような気がするw

『高慢と偏見とゾンビ』

高慢と偏見とゾンビ(二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
ジェイン・オースティン セス・グレアム=スミス 安原 和見
4576100076


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読了。

十八世紀イギリスのロマンスコメディーの古典『高慢と偏見』を、原文の八十パーセントを使用したままゾンビの跋扈する世界に書き換えた、とんでも設定のパロディー小説。


十八世紀末、原因不明の疫病によりゾンビの跋扈する世界となったイギリス。上流の紳士階級に属するロングボーンのベネット家では娘の結婚を生き甲斐とする母親ベネット夫人をよそに、父親ベネット氏は五人の娘たちを最強の戦士として育て上げ、彼女たちもゾンビ退治に修業にと余念が無かった。そんなある日、近所のネザフィールド・パークに資産家で独身の若者ビングリーが姉妹たちと引っ越してきた。なんとか娘たちを縁づかせようというベネット夫人の働きかけにより、ビングリーと長女のジェインはおたがいに好意を持ち始める。しかし、次女のエリザベスはビングリーの友人ダーシーの高慢な態度に憤慨し、すぐに首を刎ねてやりたいというのだった。




読みながら、あぜんぼう然。
原作とほぼ同じ文章を用いながら、なぜここまでぶっ飛んだ話が展開されるのか。
いや、舞台設定からしてぶっ飛んでいるのだから当然なんですが、それでも八十パーセントが原文のままっていうのが驚きです。
たしかにそこここに読み覚えのある文章があって、しかしそのことに全く違和感がない。
むしろ、原作の冗長だったところが解消されて、読みやすくなってるような気がするのがなんともはや。

しかしこれはもはやロマンスコメディーではありません。
ロマンスギャグ? しかもテイストはかなりブラックです。なんとなれば人がどんどんゾンビになるし、殺される。
ヒロインはゾンビと戦うために鍛え上げられた戦士なので、ゾンビはもちろん殺しますが(ゾンビを倒すことが殺すことなら)敵対する人間も殺します。あまつさえ、気にくわない相手の首をすぐに刎ねてやりたいなどと口走るのです。

そんななので、女性相手の口げんかがいつのまにか一対一の果たし合いになっていたりします。
このアクションの描き方はまさに格闘ゲーム。

ようするに、ロマンチックなムードはかけらもありません。
そういうのを期待するとがっかりします。

しかし、わたしはこういうのが嫌いではなかったりします。
なんといえばいいのかな、物語世界を丸ごと皮肉な冗談として楽しむという感覚でしょうか。

ゾンビの存在が原作のドタバタ要素を強調して、ハイテンションなお馬鹿ギャグコメディーになってるなーと思います。

なぜなのか理由はさっぱりわかりませんが、ゾンビー退治の戦士になるためには東洋の武術を習い覚える必要があるらしいです。
貴族は館にドージョーをもってるなどの、珍妙な日本文化と中国文化とかが満載、もう小ネタが笑えてたまりません。
なぜかレディ・キャサリン・ド・バーグが日本びいきで護衛がニンジャだったりね。
ベネット家の娘たちは中国の少林寺で修業したらしいです。でも愛用のマスケット銃も持ってるのよね。

エリザベスの親友だったシャーロットのエピソードはさらにブラックな有り様になってるし、ウィカムとリディアのエピソードもそんなアホウなな展開になってるし、いや、ちょ、それ違うでしょ、いいの? それでいいの? なにかが違うんじゃなーいと、読みながら目が点になりっぱなしでした。

悪ふざけが嫌いな人にはお勧めしませんが、こういうものに寛容な方は楽しめるのではないかと思います。

はい、わたしはたいそう楽しかったですw

これを読んでから原作を読むとわかりやすいかも、などと論外なことを思ったりしました(苦笑。

『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーIV』

アバタールチューナーⅣ (クォンタムデビルサーガ)
五代 ゆう 前田浩孝
4150310440


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読了。

文明崩壊中の地球を舞台に滅びの運命から逃れようとあがく人間たちと自立意志を持ち肉体を持つに至ったAIたちの戦いを描く、近未来SFシリーズ第四巻。
同名ゲームのノベライズ。


捕われたセラを追ううちに黒い空に黄色い太陽の輝く世界にやってきたエンブリオンのリーダー・サーフは、自分が人によってつくられたAIで仮想世界で生きてきたこと、現実世界は疫病によって滅びようとしていること、セラがテクノシャーマンという人類救済のために重要な存在であることを知る。再会したメンバーのアルジラやシエロとともに、セラを握っているというカルマ協会と敵対する地下抵抗組織のロアルドによって保護されたサーフだったが、かれらを人ではなく、アートマの力を無限にひきだすことを可能とする無敵の兵器であるとみなして利用しようとする意図を厭った。サーフはセラと他のメンバーの行方を求めて、アルジラと二人、かつてニューヨークと呼ばれた都市へと向かう。



三巻の人間臭くてどろどろして閉鎖的で濃密な展開から一転、サーフたちの物語に戻った話はアクション満載の視界の開けた動的映像的シーンの連続になりました。

冒頭からスピード感と臨場感ある迫力の戦闘シーンの連続。
アートマ全開で大立ち回りを演ずるサーフがたいそうかっこよいです。
物理的な衝撃や肉体的な痛みをも読み手に感じさせる描写力が圧巻。

仮想空間でよりも現実世界の方が戦闘のスケールが大きくなる設定に、唸ってしまいました。
ASURAのボディーがどこからエネルギーを得ているかの説明はわたしにはよくわかりませんでしたが、テクノシャーマンが繋がってる神と呼ばれる存在と似ているものなんでしょうか、あいかわらず、章の冒頭に掲げられている引用の意味がわかっていない読者です;

わたしが圧倒されたのは、厳しい現実から眼を背けて他人任せで生きている人間の欺瞞と愚かさとどうしようもない無力さがこれでもかと描かれてるあたり。
リアリティーがありすぎて、気持ち悪くなってしまいました。

カルマ協会もローカパーラもエゴに満ちた組織だけれども、まだ現実に立ち向かっている分、生きている気がします。

とはいえ、カルマ協会のしていることはあまりにも酷すぎて、もう笑いしか出てこないんですけどね。内部の人間もすっかり感受性がマヒしてるんだろうな。

そんな地獄のような現実世界に召喚されたサーフたちエンブリオンのメンバーは、目覚めたばかりの自我で義を目指そうと決意表明したばかり。

かれらがASURA――阿修羅として存在する意味がなんとなくわかりかけてきたような気がします。

それにしても水無瀬眞には失望したわw
そしてわたしにとってのゲイル株が急上昇中!
マダムの丹念なネイルケアに感心しつつ、本当のところはヒートの謎だらけの行動の意味をはやく知りたいです。

というわけで続きを読みます!

アバタールチューナーⅤ (クォンタムデビルサーガ)
五代 ゆう 前田浩孝
4150310483

「銀色と黄金宮」

ろくさん作「銀色と黄金宮」読了。

和風異世界ファンタジー長編完結済み。
古代かと思ったら近現代で和風でオーバーテクノロジーでどちらかというとSFっぽい設定ですが、登場するキャラクターはラノベ風で読みやすかった。

影もあるのに元気で明るい雰囲気が好ましかったです。
食べ物がとてもおいしそうvv

『恋のドレスと陽のあたる階段 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』

恋のドレスと陽のあたる階段 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)
青木 祐子 あき
4086015153


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読了。

ヴィクトリア朝のイギリスを舞台に、仕立て屋と公爵の跡取り息子の身分差恋愛を、繊細な心理描写で丁寧に描く、ときどきサスペンスな少女向け時代ロマンス小説。シリーズ本編十九冊目。


スコットランドでひとときを過ごした後、クリスとシャーロックはハクニール公爵家の本領ランベスのガイアスタイン城にやってきた。シャーロックの家族との対面を前に緊張するふたりだったが、公爵はクリスを屋敷に入れる許可を出さず、使用人は彼女を離れに連れてゆくよう命じられていた。離れで友人のパメラやリルと再会してすこし落ち着いたクリスだが、公爵は大勢の知人を屋敷に招いており、クリスは大勢の上流の人々の好奇と敵意の眼に晒されることとになった。なかでも行き遅れの娘クレアの母親マーシャル夫人はクリスにさまざまないやがらせをしかけてくるが――




ついにハクニール公爵家と敵本陣でのご対面編です。

自分たちのことでいっぱいいっぱいのふたりを迎え撃つハクニール公爵家当主アルフレイドの冷静かつ周到かつ老獪な戦術に、まず足下をすくわれてはじまる、はらはらドキドキな展開にわくわくです。

シャーロックは自分が戦うのは父親だと思い込んでいたのが、あっちからもこっちからも伏兵が現れて、慌てて途方に暮れてる姿がすごくたのしいです。
障害が高くなるせいで余計につのるクリスへの恋心というあたりも、かーわいいww

むしろクリスの方がシャーロックよりも冷静で、それは彼女が厳しい現実を生き抜いてきたからからだと思われます。
そして彼女には、その過程で培ってきた人脈があります。これがあなどれない。
パメラやリルやアントニーはもちろん、ジャレッドも、オブシディアンズの執事クラウドさんも、コーネリア嬢も、みな、クリス自身の魅力によって彼女に味方するようになったひとたちで、窮地にあって心強い援軍です。

もちろん敵は多いし、社交の場で絶え間なくしかけられる意地悪い罠を耐えてゆくのはクリスなのですが、彼女は一人ではないというのが、この話がどろどろにならない理由かなと思いました。

しかも、クリスはハクニール家でもどんどんシンパを増やしていくのですよ。
シャーロックよりクリスの方が強いよなあ、どうみても。

ハクニール家は今まで申し分のない社交界の地位をもち財産家で、国に多大な貢献をしている由緒正しき公爵家と書かれてきましたが、かれらの家庭内の実態がけっこう外面と違うことがわかってきて面白いです。
といっても、深刻な家庭内不和とかがあるわけではないのですが、お高くとりすましたお上品な一家ではないらしい……これ笑う。笑ってしまう。

公爵と奥方の過去話とか読んでみたくなりましたww

予想外だったのは、闇のドレス残党がからんできたことか。
えー、まだ出てくるのと思わないでもなかったですが、どうやらこれからも出てきそうな気配です。
これで、いままでわからなかった所が解明されるような展開になるのなら、それはそれで歓迎ですが。

しかし、クリスの母親って、なんだかよくわからないひとだなあ。

今回、一番いそがしくて大変だったのはアントニーくんだった気がします。
こんなに気働きの出来る従僕に育てたのがシャーロックだなんて、いや、あの朴念仁シャーロックについてたからこそ、ここまで優秀になったのかもしれないけど。
いろいろと、ほんとうにいろいろとお疲れさまでございます。
クラウドさんに愚痴を聞いてもらえたかしら、いや、どうかな、そういうときはこうしなさいとか指導されてそう。

さて、つづき、つづき。

恋のドレスと翡翠の森 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)
青木 祐子 あき
4086015404

20111022の購入

前日手に入らなかった新刊、無事にゲットできました。

アバタールチューナーⅤ (クォンタムデビルサーガ)
五代 ゆう 前田浩孝
4150310483


以上、購入。

しみじみと、この辺の本屋は発売日から一日遅れなんだなーと思い知りました。
マンガは当日入荷するので、ちょっと希望的な幻想を抱いていたかなあ。

それから、買ったのはわたしではないですが、こんなものもわが家の財産(!w)のひとつになりました。

Apple iPad2 ブラック 64GB Wi-Fiモデル MC916J/A 国内版
B004YBZM7W


わたしのものではないけど、管理するのはわたしになりそうな予感がひしひしと……。
初日に窓機にiTunesをインストールする時点でトラブルが発生し、今後の行く末がたいそう危ぶまれます。

20111021の購入

久しぶりに発売日に本屋に突撃しました。

聖☆おにいさん(7) (モーニングKC)
中村 光
406387026X


以上、購入。

本命はほかの本だったけど、どうしても見つからず。
いままで一度も行ったことのないところまで、妹情報を頼りに遠征してみましたが、結局手に入りませんでした。

その本はこちら。
アバタールチューナーⅤ (クォンタムデビルサーガ)
五代 ゆう 前田浩孝
4150310483


たくさん売ってる本屋だよーと言われて期待して行ったところ、たしかに売り場面積は広くて在庫もたくさんありましたが、棚がめちゃくちゃ。著者名別に並んでないところがたくさんあったりして、きっと店員数が足りてないんだろうなーと想像しました。

目的本のシリーズ四巻は信じられないくらいたくさんあったので、きっとしばらくしたら新刊もたくさん入荷するんじゃないかと思います。

すこしばかり遠いから暇なときでないと行けないけどね。

『恋のドレスと湖の恋人 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』

ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスと湖の恋人 (コバルト文庫)
青木 祐子 あき
4086014645


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読了。

ヴィクトリア朝のイギリスを舞台に、仕立て屋と公爵家の跡取り息子の身分差のある恋を描く、少女向けロマンス時代小説。シリーズ二十一冊目、本編十九冊目。


クリスの母親とその愛人クライン卿以下、闇のドレスの関係者との対決を終え、騒ぎの中からようやく逃れ出たクリスとシャーロックは、スコットランドの宿屋でふたりきりとなる。いっぽう、シャーロックの依頼で闇のドレスを調査していたジャレッドはクライン卿の奥方コルベールとその娘リコを解放することを条件にコルネールの連れ子アイリスの身柄をとどめ、ある部屋に軟禁していた。



再読です。ちょっとシリーズを追うのに疲れて放置してたのですが、ここにきてむくむくと読みたい気分が増してきまして、一気にではないですがつづきを買い集めてしまいました。

それならば新たに買ったところから読めばいいのですが、いかんせん鳥頭は以前の記憶をきれいさっぱりと失っておりまして、でもそんなに遡っていると続きが読めないわ、じゃあ一冊前からにしましょうね、ということでこういうことに。

思い出しました。
シャーロックがひとりでものすごく盛り上がっていたことをw

クリスに振られたり、振られたり、振られたり、パメラを筆頭に女性陣にビシビシお説教されたり、他人の恋愛をみたりといろんなことがあって、世界はほかの人のものでもあることに(遅まきながらも)気がつき、クリスにも自分の届かない彼女だけの世界があるのだということを、なんとか受け止めて、それでもなおかつ、自分はクリスを諦められないのだと思い知って、ついに行動に出て、すっかり開放された気分になって、これだけしたのだからこれでもうクリスは自分のものだ――、

と、思い込んでいるシャーロックの姿が、やっぱり自分勝手だなあと思いつつも、やけにほほ笑ましく感じられる巻でした。

シャーロックはクリスを怯えさせてまた振られないようにと一生懸命に頑張ってるけど、強固な固定観念と経験値の不足と想像力の低レベルさのため、結局的外れなことばかりしてて、クリスは困ってばかりです。
馬鹿だなあw

シャーロックのからまわりを理解できないクリスが、彼の予想外の方向からぐさぐさと突き刺すような言葉を返すのが非常に笑えます。
天然クリス、最強www

これに追い討ちをかけるのが、シャーロックの従僕アントニー君がするクリスへのお願い。
このセリフには吹き出さずにはいられませんwww

クリスは闇のドレス関係でとても疲れていて、しかもシャーロックとふたりきりの状況で、不安と混乱とドキドキでいろいろと普通ではないのに、シャーロックのためにいろいろしてあげたいと心を砕いて、それが彼女の愛情の示し方なのです。

ところが、シャーロックは愛情ゆえにクリスを働かせたくない。働かせないことが愛情だと思ってる。それは上流階級の考え方です。

これが階級の差なんですね。
人を人たらしめている、根本のルールがすでに違うのです。

そのルールを変えたい、溝を埋めたいと今のふたりは思っているけれども、まだお互いにお互いのルールをよくわかっていないあたりが、これから超えていかねばならないハードルなんだなあと思わされました。

というわけで、主役二人のロマンスはいろいろと楽しいです、はい!

いっぽう、ジャレッドと闇のドレス関係ですね。
この巻ではコルベールの娘でメイドとして闇のドレスを貴族に仲介していたアイリスの独白がかなりの部分を占めてますが、うーん、この話、つじつまが合わなくないですか。
貴族の娘としてひきとられたリコがなぜメイドをしてたのかとか、状況が不自然な所が多いし、アイリスのゆがんだ愛情がなにか話をまとめあげるために無理やりつけ足されたもののように感じられて、ちと興ざめでした。

少々わからない所が残っても、ここまで説明っぽいエピソードを入れなくてもよかったんじゃないかとか、思ってしまった。

そうか、それでいったん止めてたんだな。

でも、つづきを読んだ(『陽の当たる階段』を読んでしまいました;)いまでは、不自然なところは伏線だったのかもと思ってます。

説明臭さはいまでも気になりますが、この伏線がこのあとどう生きてくるのかが楽しみです。
あと、パメラちゃんとイアン先生が気になるーw

というわけで、つづきはこちら。

恋のドレスと陽のあたる階段 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)
青木 祐子 あき
4086015153

『アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う 英国パラソル奇譚』

アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う (英国パラソル奇譚)
ゲイル・キャリガー sime
4150205345


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読了。

吸血鬼や人狼が人間と共存するヴィクトリア朝を舞台に、魂なきレディ・アレクシア女史が大活躍する、パラノーマルロマンスファンタジー時代小説。シリーズ第二巻。


堂々とした態度と旺盛な好奇心を持ち、ロンドンの社交界では異端だったアレクシアは、人狼団を掌握するアルファであり、BURの幹部でもある伯爵・マコン卿と結婚してしあわせな新婚生活を送っていた。ある夕方、夫の大声で目覚めたアレクシアは、ゴーストの報告にあわてて出かけていく姿を見送った後、館の前庭にインドへ遠征していた人狼軍が野営のテントを張っている現場に出くわした。BURの議長の職務を果たすために出勤しようとするアレクシアが、いけすかない人狼団第三位のガンマとの不愉快なやりとりと親友のびっくり仰天な婚約話に足止めされている間に、ロンドンの町中ではある範囲で人狼と吸血鬼が人間に戻り、ゴーストが除霊されてしまうという大事件が起きていた。




色黒で、大柄でふくよかで、世間的には美人とは絶対に呼ばれない、しかし頭の回転は速く合理的論理的で、好奇心がたいそう旺盛な女性、アレクシア・タラボッティ現在はアレクシア・マコンの活躍を描く、ロマンスコメディーです。

本書の特徴は、時代はロマンス小説の王道?なヴィクトリア朝を舞台にしておきながら、その設定がぶっ飛んでること。

まず、人間の魂が科学的に解明されていて、人狼や吸血鬼などが魂をひとつ犠牲にした上で変容し、時間を停止した者たちであるとして市民権を得ていること。軍隊はかなりの割合で人狼に依存しているらしいです。

科学技術の中にエーテルなどの錬金術的な要素が含まれていること。

人間の中には魂を持っていないものがおり、その人間に触れると人外は人間に戻ってしまうこと。ゴーストは除霊されてしまうこと。

などなど。

ヒロインのアレクシアは、この魂なきひと=ソウルレスでして、人外には魂吸い(ソウルサッカー)とかよばれて忌まれています。彼女に触れるとマコン卿は人間に戻り、歳をとり始めるわけです。

というわけで、今回の事件は、このソウルレスの能力が拡大版でいずこからともわからず発現したために大騒ぎになる、というものです。

アレクシアの能力、といっては語弊があるかもしれませんが、その影響力が話そのものにからんで大きく展開していくあたりは、前作と同様に読みごたえがあります。

人狼がすでに死んでいる人たちである、という設定も、吸血鬼は当然としてちょっと驚きました。というわけで人間の吸血鬼志願者がドローンとして吸血鬼に仕えてるのはふんふんと思ってたけど、人狼に仕えている人間も人狼志願者だったというのにびっくり。人狼って人がなれるものなのか、先天的に人狼なんじゃないんだ……!!

そんな大枠の驚きも新鮮でしたが、この話の端々にあふれるユーモアたっぷりのどたばたロマンス小説ディティールにも大受け。

アレクシアの親友アイヴィーの恋愛と、アレクシアの妹フェリシティーの軍人かぶれの理解には、先日読んだ『高慢と偏見』が確実に糧になりました。

アレクシアのパラソルによる大立ち回りはあいかわらず迫力で笑えて、マコン卿のプレゼントのおかげでますます磨きがかかってるw

謎の男装の麗人マダム・ルフォーや、人狼団のガンマのチャニング・チャニング少佐、優雅なベータのライオール教授、しゃれっ気たっぷりな最長老吸血鬼のアケルダマ卿もいちいち個性的です。

前回はあまり出てこなかったゴーストも、大切な役割を持って登場。その呼び名もふるってますねー。なるほどー。

それと、マコン卿がかつて率いていたスコットランドの人狼団が登場し、イングランド人がスコットランド人を野蛮扱いする理由がわたしの推測にほぼ沿っていたので、個人的に大受けしてましたwww

最初から最後まで、とっても楽しく読みました。
胸キュン要素はないけど、大人の女性が楽しめるざっくばらんでおおらかなロマンスファンタジーです。

いや、この巻のラストはちょっと胸キュンかもしれません。
衝撃のつづきを読むのが待ち遠しいです。

シリーズ開幕編はこちら。
アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)
ゲイル・キャリガー sime
4150205329

20111019の購入

病院帰りに本屋に寄りました。

ちぐはぐな部品 (角川文庫)
星 新一
4041303214


以上、あわただしく購入。

姪っ子がですね、先日渡した星新一を「すぐに読めた、面白かった」とのたまったので、オバ馬鹿なわたしはいそいそとつぎを手に入れたのでした。

ちょっと時間が遅くなってたので、もう一冊目をつけていたのはすっかり忘れて、帰宅してから気がついた。

ま、いーか。
このところ自制心のたがが外れてちょっと危なくなってるので;

余談。
偶然以外の何ものでもないですが、病院で診察待ちしてたら隣に座ってた人が星新一を読んでいた。

20111018の購入(追記あり)

注文していた本が届きました。

恋のドレスと陽のあたる階段 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)
青木 祐子 あき
4086015153


以上、購入。

ふと気づいたのですが、このヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズは、つぎの巻で完結なのですね
十一月の一日、発売予定だそうです。
うわ、すごいタイミングだ!


追記。
すみません、誤解してました。三ヶ月連続刊行、完結直前フェア中なのだそうです。
本編は次では完結しません。
それからまだあと一冊あるそうで、つまり完結まであと二冊ってことです……でいいんですよね?
とにかく、つぎの発売は十一月一日です。


聖者は薔薇を抱きしめて ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ)
青木 祐子 あき
4086015773

『高慢と偏見 下』

高慢と偏見 下 ちくま文庫 お 42-2
ジェイン オースティン Jane Austen
4480038647


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読了。

十八世紀末イングランドのジェントリー階級を舞台に、ひとりの機知に富んだ女性と堅物な男性とのロマンスを登場人物の緻密な性格描写とともに描く、ロマンスコメディーの下巻。

まずもっておわぴを申し上げます。
上巻のあらすじに、ベネット家を中流の下の階級と書きましたが、間違いでした。ジェントリーは上流の下です。
この時代のイングランドではまず、上流階級のひとびとは働いてはいけないという不文律があって、働かずに暮らしていくことがことが至上命題である、ということが前提となっているストーリーなんですね。

というわけで、上巻でとんでもないヒキを持って終わった話の続きです。

ダーシー氏の本当の姿を次第に知っていくにつれ、どんどん惹かれていくエリザベスの姿が楽しいです。

すでに自分から断ち切ったつながりであるという矜持と、ベネット家がダーシー氏におよそ釣りあわないであろうという劣等感で、なかなか自分の未来と向き合うことが出来ません。

さらには姉妹と母親のフォローに忙殺されているうちに、ダーシー氏との距離は開く一方。

そんなおり、ロンドンに住む叔父夫婦とダーシー氏の所領を訪れる機会があり、そのおもむき深く美しい庭の風情や、品と格調のある館のたたずまいに大いに惹かれ、再会したダーシー氏にさらにときめいてしまいます。

ウィッカム氏に植え付けられた偏見がどんどん解かれていって、会えば会うほどダーシー氏の美点がみえてくるところ、期待と不安と羞恥でいっぱいの女心の描写がこまやかで、いろいろとキャッキャ、うふふでたまりません。

そのあと起きる事件も、これまでに張られた伏線を利用してのじつに巧妙なもので、それがさらにエリザベスの苦悩を深めると同時に裏でダーシー氏の株をあげていく効果が素晴らしいです。

あちこちに既視感のあるネタはおそらくこの話が大本で、のちの書かれたロマンス小説がそれをどんどん踏襲していった結果なのかもしれないわーと思いました。

スコットランドへの駆け落ち秘密結婚て、シークレット・マリッジというやつかしら、とか。

ペンバリー屋敷の美しさがそれまでの簡単な描写からすると驚くほど情緒的に描かれてるあたりが、とてもスキーとか。

困ったちゃんなベネット家母と血が繋がってるとは思えないくらい出来た弟、ガーディナー氏とその妻の、あたたかな人柄とエリザベスへの心遣いがいいなあとか。

エリザベスの父親の、ひねくれた現実逃避者具合が、すごく面白いわーとか。

いろいろと読みどころ満載で、たいへん楽しかったです。

しかし、なんといってもロマンス小説かくあれかしなのは、ダーシー氏が犬属性であるってところでしょう!

どこまでもどこまでもエリザベスに忠誠を尽くすダーシー氏に、あり得ないと思いつつも中古乙女はうっとりとさせていただきましたw
現実にないからこそのドリーム、それがロマンス小説の存在意義であります。

しかし、ドリームだけではドリームにならない、きちんと描かれた現実とドリームの配分がとても大事です。
そのバランスがじつに巧妙にとれた、すばらしいロマンス小説でした。
面白かったです!!!

と、力説した所で、これで『高慢と偏見とゾンビ』が読めますよー。
いつ読めるかわからないけど、すごく楽しみです。

高慢と偏見とゾンビ(二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
ジェイン・オースティン セス・グレアム=スミス 安原 和見
4576100076

『ルート350』

ルート350
古川 日出男
4062133911


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読了。

現代日本における社会秩序と規範の崩壊のなかで生きていく若者たちを描く、スタイリッシュな短編集。読みは「ルートサンゴーマル」です。

収録作品は以下の通り。


お前のことは忘れていないよバッハ
カノン
ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター
飲み物はいるかい
物語卵
一九九一年、埋め立て地がお台場になる前
メロウ
ルート350

補記




久しぶりに読んだ古川日出男は、移動図書館でみつけた短編集でした。

この作者さんは文体に非常な美意識というか、技巧を感じる方なのですが、短編ということでほかにもいろんな試みをたくさんされている感じがします。

読んでいて、うわあ、巧いなあ、かっこいいなあ、という印象がとても強く残ります。

内容はかなりぶっ飛んだ設定なうえに殺伐としているんだけど、その技巧でうまく物語につれてゆかれたなと思わされるところがありました。

どれもどこが着地点になるのかわからない話で、いちばんキュートだったのが「お前のことはわすれていないよバッハ」。

この話も話そのものは、うわー酷いなーなにこの状況ありえないしー、と言わざるを得ないんですけど、バッハという名の小動物をメインに据えているためとても救われてます。
世界中を駆け巡るハムスターの冒険を、家族の崩壊をベースにして描く話なんて、いままで読んだことないです。

家族という社会の最小単位の崩壊から始まる短編集は、どれもこれも常識が通用しなくなった世界の物語で編まれています。

思い返して見ると、もともと、そういう話を書く作者さんだったんですねえ。

社会のルールがなくなった混沌とした中でのサバイバル。
突拍子もないけど、どこかにこんな現実があるかもしれないとかすかに不安を抱きながら読んでいた物語。

それを今は、架空のこととして流してしまえない自分の状況に愕然とします。

クールに距離を置いて描かれてるけど、すごくこわい短編集でした。


すでに文庫化されてます。
ルート350 (講談社文庫)
古川 日出男
4062763389

20111014の購入

予約本を受け取りがてら、本屋をはしごしました。

アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う (英国パラソル奇譚)
ゲイル・キャリガー sime
4150205345


恋のドレスと翡翠の森 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)
青木 祐子 あき
4086015404


キスよりも遠く、触れるには近すぎて ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)
青木 祐子 あき
4086015587


恋のドレスと花ひらく淑女 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)
青木 祐子 あき
4086015676


以上、購入。

カッとなりました;
現在本の整理中で、いろいろと処分したり譲ったりというのの仕分けをしているわけですが、その作業をしているうちになんだかストレスが溜まったようです。

気がついたらシリーズを一冊二冊と、買いあさっているではありませんか!

手元にないものをすべて揃えることは出来なかったので、当分この本たちを読むのはお預けとなります。
しかし、持ってない一番最初の本はネットでぽちりしましたので、ずっと積ん読にはなりませんのでご安心を←ダレに向かって言ってる;

ぽちりしたブツ。
恋のドレスと陽のあたる階段 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)
青木 祐子 あき
4086015153

『勇敢なアズムーン アムール地方のむかし話』

勇敢なアズムーン―アムール地方のむかし話
D. ナギーシキン G. パヴリーシン 大橋 千明
4845706466


読了。

現在はロシア領のアムール川周辺地域に伝わる民話集。
うつくしいカラーの挿画が何枚もついてます。


勇敢なアズムーン
クマとシマリスはどうして仲が悪くなったか
大きな災難
チョリリとチョリチナイ
七つの恐怖
ニカンの花嫁
意地の悪いラド
小さなエリガー
ふたりの弱いものとひとりの強いもの
男の子チョクチョー
みなしごのマムブ

訳者あとがき




移動図書館で目に付いたので借りてきたもの。
そういえば、ロシアの民話はあんまり読んだことがないかもーと思いまして。

勇壮なタイトルから英雄物を想像していたのですが、どちらかというと昔話ぽいものが多かったです。

表題作は、川から流れてきた赤ん坊アズムーンが恩返しに鬼退治……じゃない、飢餓の原因の海の主を説得しにいくお話。なんですが、拾って家につれ帰る間の超展開に目を白黒させてしまいました。これでもこんな恩返ししてくれるんだ……目が点。

欲深さや傲慢を戒める教訓話は、わりと普通のたたずまいでしたが、狩猟民族らしく、動物の話や狩りの話がからんでくることが多いのが印象的。

民話なので信仰などはあまり触れられていないのですが、それでもはしばしにさまざまなルールがあることが推察される記述になるほどーと思わされました。

たとえば、狩りをするときは標的にこれからあなたを狩りますよと意思表示をそれも二回しなくてはならないとか。それ以外の動物を狩ってしまうのはタブーであるとか。

なんとなくアイヌの文化を彷彿とさせられます。
周辺地図を見るとそれもむべなるかな。
アムール川流域ってロシアの極東。オホーツク海がすぐそこです。
話の中に日本もなんとなく出てきたように思います。

さらに目をひくのが部族間抗争の多いこと。
そしてモンゴル侵攻の話や、漁師と商人との確執など、現実絡みでの遺恨を晴らすような話もありました。

その晴らし方が、また狩猟民族らしいというか。農耕民族からすると目をむくような過激さです。たぶん、かれらにとっては狩猟の延長でごく普通の当然のことなんだろうけど。

それから固有名詞が新鮮でした。
チョリリとチョリチナイてなんかかわいい響きだわー。
チョクチョーは、ちょっと待て、と思いましたがw

この本の原本は、ロシア共和国出身の作家ドミートリー・ドミートリエヴィチ・ナギーシキンが、少数民族の民話を元に創作したものだそうです。当時はまだソ連邦でした。この本に収録されてるのは全三十一作中からの十一作。半分以上割愛されてるのか……。

民族文化を豊かにあらわした美しい挿画を描いているのがゲンナジー・ドミートリエヴィチ・パヴリーシン。書影がないのが残念です。

『凍りのくじら』

凍りのくじら (講談社ノベルス)
辻村 深月
4061824589


[Amazon]


読了。

現代日本を舞台に、辛い現実から眼を背けて時をやり過ごそうとしている少女の葛藤を鮮烈に描く、すこし・不思議なミステリ。



高校二年生の芦沢理帆子は、藤子・F・不二雄の作品になぞらえ周囲の人々を「すこし・○○」となづけて分類していた。女手ひとつで自分を育ててくれた母親は、すこし・不幸。かりそめの関わりをつくるのは得意だが現実から乖離気味の自分は、すこし・不在。死を目前にした母親の見舞いに病院に通いながらも、そのことをだれにも明かさず、内心見下している友人たちと刹那的に時間を過ごしている。そんな理帆子の前に、司法試験を言い訳に別れた元カレの若尾が舞い戻ってきた。試験に落ちた若尾は、以前の若尾とは違っていた。いや、以前からその兆候はあったのだ。強引な若尾と距離を置こうとつとめるがうまくいかない理帆子は、ある日、すこし・フラットな三年生・別所あきらと知り合う。




先頃読んだ『光待つ場所へ』収録の短編「樹氷の街」と登場人物が重なっていたので読んでみました。
青春は痛々しいものだけど、こんなに設定から痛々しい話だとは。

冒頭の流氷の中に沈んでいくくじらたちのエピソードの悲痛が、作品全体を覆っています。
その痛々しさをあるところでは救い、あるところではより切なくさせるのが『ドラえもん』へのオマージュ。

主人公・理帆子の父親との思い出が『ドラえもん』に凝縮されていて、楽しかった過去と失われてしまった存在の大きさを幾度も幾度もくりかえし提示してくる展開に、気分的には半泣きで読みつづけておりました。

話の展開はサイコサスペンスだけど、書かれているのは理帆子が長い間逃避していた現実を苦しみながらも受け入れて、哀しみを乗り越えてゆく成長物語でした。

悲劇的な設定がちょっと大掛かりすぎるように思いますし、漂う死のにおいに陶酔してるような雰囲気も気になりますが、それが最後の最後の驚きに転化するところで、ああ、やられた、と思いました。

もっと若いときに読んでいたら、どっぷりとはまったんじゃないかと感じます。

ちょっと皮肉っぽくてスカしててクールな文章とか、傲慢で繊細な主人公とか、反発を覚えつつもすごく惹かれたんじゃないかなー。

と、そんなことを思う自分はかなりくたびれてるなーと、苦笑いしてしまいますw

しかしです。
このつぎはどれを読もうかなと思ってる当たり、いまのわたしもけっこうこの作者さんが気になるようです。

できればこの話と登場人物が繋がってる話がいいな。把握するのがラクだからw


読んだのは新書判ですが、文庫化されてます。
凍りのくじら (講談社文庫)
辻村 深月
4062762005

20111011の購入

予約していたかつくら、ようやく届きました!

活字倶楽部 Vol.62 2011 夏秋
桜雲社
4775309714


以上、購入。

九月の上旬に最寄り本屋に予約してあったのですが、二十八日の発売日を過ぎてもまったく音沙汰がなく、訊ねても「まだです」の一点張りで、もう届かないんじゃないか、諦めようかと思って最後に「ネットで頼んでいいですか」と打診したら「ダブったら困るから待ってくれ」といわれて翌日到着。

隠居気分満々ですよ、あの店。全然商売してない……orz

とはいうものの、届いてくれたのは素直に嬉しいのでこれから少しずつ楽しみたいと思います。
雑誌を買うなんて(書籍扱いだけど)何年ぶりだろー。

『高慢と偏見 上』

高慢と偏見 上 ちくま文庫 お 42-1
ジェイン オースティン Jane Austen
4480038639


[Amazon]

読了。

十八世紀イギリスで書かれたラブコメディー。


上流の下のジェントリー階級であるロングボーン村のベネット家には年ごろの娘が五人。しかし、ロングボーンの家屋敷は男子限定の相続となっているため、父親の財産はなにひとつ娘たちには残されない。母親のベネット夫人はなんとかして娘たちを縁づかせようと懸命だ。そんなある日、近所のネザーフィールド屋敷を人の善い独身青年ビングリー氏が借りたことで、ベネット夫人は舞い上がった。姉妹と友人をつれてやってきたビングリー氏は舞踏会で長女のジェインと恋に落ちる。同じ席で次女のエリザベスはビングリー氏の友人ダーシー氏の高慢な態度に気分を害した。姉の恋の応援をするうちにたびたびダーシー氏とやりあうことになるエリザベス。魅力的な将校ウィッカムにダーシー氏の仕打ちを聞かされた彼女は、すっかりダーシー氏を悪者と決めつけてしまう。



超有名なジェイン・オースティンの古典です。

面白いです!
これ、本当に十八世紀に書かれたものなのですか。
たしかにすこしセリフが冗長ですが、タイトルが硬いですが、時代物ロマンスコメディーとして違和感なく読めました。

皮肉っぽいユーモアの漂う人物描写は後の時代のモンゴメリに通じる物があって、ステレオタイプな割にキャラが立ってます。

どこまでも性善説の長女ジェインと、一歩引いて辛辣にひとを眺めているエリザベス。
自分の思うようにことが運ばないとひとのせいにして大騒ぎするベネット夫人。
皮肉なユーモアで人を煙に巻くベネット氏。

善良で視野の狭いビングリー氏とかれの計算高い姉妹たち。
階級差にしばられた堅苦しい価値観を持ちつつも、じつはそれを不自由に感じている節のあるダーシー氏。

あくまでも現実的に人生設計をするシャーロットと、思い込みの世界を強引に邁進するコリンズ牧師。

それぞれが、それぞれの立場で最大限に個性を花咲かせて大活躍です。

さらに描写がさらりとしてる。
その時代に書かれたから当然のこととして省かれたんだろうなと思うわけですが、おかげで翻訳物特有のまわりくどさがなくて、すいすいと読めます。

読み手にはエリザベスとダーシー氏のロマンスがメインなんだとわかってるのですが、あくまでエリザベス視点で話が進むので、ダーシー氏はなかなかイイ男になりませんw

ぎこちない態度や言葉から、しだいに「あ、このひと、エリザベスが好きなんじゃ」とわかってくるのですが、非常に遠回しで回りくどいのですw

そのあいだにもエリザベスは姉が恋に落ちたり、親友が結婚したり、姉が失恋したり、合間に母親とのいやんなやりとりやら母親のフォローやらで大忙し。

おかげで、ダーシー氏のささやかな努力は消し飛んだり、スルーされたり、誤解されたりと、散々です。

読んでいて、ロマンスものの常套手段がふんだんに、巧妙に、かろやかに駆使されてるなあと思いました。

美貌のライバル出現とか。吹き込まれる悪意ある噂とか。情報隠しとか。

というか、ロマンスコメディーっていつごろからあったものなんでしょう。
もしかしたら、今の分野はジェイン・オースティンを好んだ人たちがつくりあげてきたものなのかもしれないですね。

じつは、この本を読んだのは『高慢と偏見とゾンビ』を読もうと思ったからなのですが、いままで何で読まなかったのわたし、もったいないことしてた! と思いました。

いまははやく下巻が読みたいです。上巻のラストといったら。あれは、エレイン姫遊びをしてたアンがギルバートに助けられたエピソードに匹敵する衝撃でしたw

高慢と偏見 下 ちくま文庫 お 42-2
ジェイン オースティン Jane Austen
4480038647


高慢と偏見とゾンビ(二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
ジェイン・オースティン セス・グレアム=スミス 安原 和見
4576100076

『カラクリ荘の異人たち 4 ~春来るあやかし~』

カラクリ荘の異人たち 4 ~春来るあやかし~ (GA文庫)
霜島 ケイ ミギー
4797358947


[Amazon]

読了。

人間の住むこちらと妖怪の住むあちらの境目にある賽河原町で、感情をなくした少年があやかしとの事件に遭遇して次第に心を解きほぐされてゆく、叙情的なほのぼの町内妖怪談シリーズ。完結編。


この世と異界の境目・賽河原町で境界守を務める時国柊二郎の住まう空栗荘。高校生の阿川太一は父親の再婚を機にここに下宿している。あいかわらず他人と付き合うのは苦手だが、なにかと話しかけてくる和泉采奈とはだいぶ普通でいられるようになってきた。二月のある日、太一はクラスメートの高坂に幽霊が見えるのかと話しかけられた。スポーツマンで成績も優秀だという高坂だが、采奈によると一年前に恋人を無くしてから性格が変わったらしい。折しも空栗荘では春の訪れを前に不慮の事態に備えての準備がすすめられているところだった。




「封殺鬼」の作者さんの、日常テイストほのぼのしんみり妖怪話のシリーズです。
日本の四季折々の風景とともに、ていねいにひとの心をすくいあげてゆく、しっとりとした叙情的な描写がとても好きです。

個性的な空栗荘の住人たちは現代テイストで、人情味があるのが妖怪たちだというのもほんわかします。
けど、妖怪は妖怪で人間との一線がしっかりと引かれているのも高感度高し。

せつなかったり、ぬくぬくしたり、しんみりしたり、ほんわかしたり。
そんな心の機微がこまやかに伝わってくるお話たちに、ゆるゆると癒されました。

太一くんの心の変遷もゆっくりと着実に描かれていて、納得のいく終わり方でした。

十遠見氏の焼くジンジャークッキー食べたいとか、お露さんの手料理がいいなあとか、白にゃんこのミーちゃん撫でたいとか、いろいろと欲望を刺激されるお話でもありました。

どれも訳ありなほかの住人たちの話ももっと読みたかったです。
けど、これくらい心残りのあるほうが、シリーズの結末としてはちょうどよいのかもしれませんね。


シリーズ開幕編はこちら。
カラクリ荘の異人たち~もしくは賽河原町奇談~ (GA文庫 し 3-1)
霜島 ケイ ミギー
4797342986

『光待つ場所へ』

光待つ場所へ
辻村 深月
4062162512


[Amazon]

読了。

現代青春小説短編集。
収録作品は以下の通りです。


しあわせのみち
チハラトーコの物語
樹氷の街




散歩中に移動図書館に出会い、ちょうど図書館カードを持ってたので何かないかなと探してちょっと興味が湧いて借りてきたものです。

この作者さん、凄い!

繊細で傷つきやすいけど自意識はとてつもなく強い若者たちの、いまだ何者になれるかわからない状態での不安と葛藤を、鋭く繊細に描き出してて鮮やか。

自分は特別であるはずと思いつつ、本当に特別になれるのかという不安に揺れ動いている若い心の、臆病だけど頑固な存在感にたいへん親近感が湧きました。

多分、本を好んで読むような人にはみな覚えがあるんじゃないかな。
特に、何かを自分で作り出そうとしたことのある人には痛烈に響くと思う。

持って生まれた才能の違いとか、自分の行けるレベルが見えてくるときの失望感とか、それでも諦めきれずにしがみついていたい心とか。

困難の果てに成功を手にする人も、ついに手に入れられない人も、苦しむのはみな同じなんだなと思いました。苦しむところは違ってもね。

そんなわけで、けっしてほのぼのやふうわりとした作品ではなく、ささくれ立つような空気を抱えている作品ばかりなのですが、救われるのは登場人物たちが若者で、最終的にはみな育ち盛りの貴重な時間を割いて何かを得る、成長物語だからでしょう。

一度なにかを諦めたとしても、世界はまだ広いということが認識できるというか。うん。
ひとつの終わりはまたなにかの始まりなのですよね。

というわけで、たいへん興味深い読書体験をさせていただきました。

いま、葛藤しているひとたちに読んでもらいたいお話たちです。
面白かった!

『プリンセス・トヨトミ』

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
万城目 学
4167788020


[Amazon]

借りて読了。

大阪人による、大阪人のための、大阪人の物語?

設定がとんでもなくて、その設定が明らかになるまでがとっても興味深かったです。
大阪の町がたくさん出てくるし、大阪人の気質が深くかかわってくる展開みたいなので、大阪を知ってる人ほど楽しめるんじゃないかと思いました。

わたしは大阪には三度くらいしか行ったことないので、そのへん理解度が低いんじゃないかしらん。

とりあえず、冒頭から出てくる会計検査院のでこぼこ三人組が楽しいです。
アイスを食べ続ける副長「鬼の松平」。
長身モデル体形美女エリートの旭・ゲーンズブール。
童顔ぽっこり体形の一見お荷物・ときどきミラクルな鳥居。

そして、大阪は空堀商店街のお好み焼き屋の息子で自身のアイデンティティーに深く苦悩する中学生・真田大輔。
かれの無鉄砲な幼なじみの少女・茶子。
ふたりの周りの中学生と大人たち多数が出演者。

物語は会計検査院三人組の大阪出張から始まります。
それが、どうして一中学生の個人的な悩みに結びつくのかは読んでのお楽しみ。
奇想天外な設定を支えるディテールの書き込みがすごいです。
だんだん話のスケールが大きくなっていくあたりはわくわくしました。

それにしては、ちょっとクライマックスがあれ? だったような気もしますが、そこを抜けてしまうとちょっとしんみりしてしまう結末がやってきます。

これって、父親と息子の、母親と娘の、人間のつながりが歴史をつくっていくお話しだったのですねえ。

大阪人でない部外者からいわせれば税金の無駄遣いはやめて欲しいのですけど、これはフィクションなので許しますw

ところで疑問がひとつ。蜂須賀父は大坂城に行ったのでしょうか。