『火星ダーク・バラード』

火星ダーク・バラード
上田 早夕里
4758410216


読了。

同僚殺人の罪に問われた火星の捜査官によってあばかれていく大きな背後関係を持つ謎、未来の人類を生み出そうとする計画を描く、未来SF。

第四回小松左京賞受賞作品。


人類が火星に移住するようになった未来。火星治安管理局の捜査官PDとして凶悪犯の護送任務に当たっていた水島烈は、乗車していた列車が急停止したのち、異様な怪物に襲われる恐怖と痛みの伴う悪夢とともに意識を失った。気がつくと犯人は逃走し、同僚のひとりは重傷、バディーを組んでいた神月璃奈は死んでいた。身柄を拘束された水島は、自分が同僚殺人の容疑者になっていることを知って愕然とする。いったい、あのとき何が起きたのか、自分は本当に璃奈を殺したのか。解放されたものの、真相を突き止めるために単独行動を始めた水島は、真相隠ぺいに上層部が関与していることを知る。いっぽう、管理保護されて育てられた少女アデリーンは、自分の能力の不安定さに悩んでいた。彼女は友人シャーミアンとともに繰り出した街で、覚えのある感情波をとらえた。それは、彼女の内面を大きく掻き乱し、能力の暴発を誘発して列車事故の原因となったひとりの男の感情波だった。



面白かったです。
安定して読める、わりと一般人向けのSF小説、という印象を受けました。

現実として火星が植民地となりえたときに起きるかもしれない出来事を、今の技術の延長でリアルにシミュレートして描き出していて、しかも小説としての完成度が高い。

新しい技術と新しい環境の元に、新しい事態に直面した人間たちの、それでもなお変わらない愚かさやあやまち、こころざしや優しさつよさのドラマです。

この小説の面白さは、一般小説の面白さですね。
SFとしてもしっかりと考証されていると思うけど、既出のアイデアが多く、斬新とか目を奪われるとか、そういう新鮮さはあまり感じられませんでした。

そのかわり、登場人物たちの背景がしっかりとかきこまれていて、地に足がついていて、あらためて考えると未来を舞台にしたハードボイルドものといってもいいかもしれません。

主人公が三十路の熱血漢で、ヒロインが十代の美しい少女ですからねー。

そして、話が進むにつれて舞台が大掛かりになっていくのは、とても映画的な気がしました。
アクションSFとして映画にしてもよさそうです。

初めて読んだのですが、小松左京賞、ってこういう賞だったんですね。
一部のマニアだけではなくひろく一般に受け入れられる、娯楽として楽しめてなおかつ、人間の行く末を問うような、そんな作品でした。

個人的に、火星が舞台だというのに思い入れがあります。
ブラッドベリではなく、萩尾望都ですがw
なんか勝手にいろいろと彷彿とさせられるシーンがあって、感慨にふけってしまいました。


単行本で読みましたが、例によってすでに文庫化されています。
火星ダーク・バラード (ハルキ文庫)
上田 早夕里
4758433720

『ロシア異界幻想』

ロシア異界幻想 (岩波新書)
栗原 成郎
4004307724


[Amazon]

読了。

ロシア人の精神世界についての概略本。
内容は以下の目次にて。



 世紀のはざまにて/幻視と啓示/「真に幻想的なるもの」を求めて/日常性の中の異界現象

第一章 「この世」と「あの世」のしきい
 ロシアの農民の死に方/死の予告/帰ってくる死者/亡霊防御法/《忘却の川》のかなたへ/過度の哀悼の禁止

第二章 家の霊域に棲むもの
 宇宙のモデルとしての家/聖所としてのペーチ/“赤ん坊の焼き直し”/母親としてのペーチ/家神ドモヴォイ/家族の成員の不幸を予告する/ドモヴォイの外貌/変身能力/ドモヴォイを見るのは危険/夢魔/青痣/好色/家畜の守護神/氏族神/かまどの火の神/家と人生/呪術師大工とキキーモラ

第三章 ロシア・フォークロアにおける「死」の概念
 フォークロア的に「死ぬ」とは/「生」と「死」の闘い/無敵戦士アニカの最期/死神幻想/死の天使/霊は風か火か/旅立ち/幾山河越え去りゆかば/爪の威力/「あの世」での生活

第四章 「聖なるロシア」の啓示――民衆宗教詩『鳩の書』
 民衆の中の宗教詩/民衆宗教詩『鳩の書』とは/『鳩の書』の成立と解釈/「正義」と「不正」の闘い

第五章 ロシア的終末論
 地の嘆き/終末期待/小終末と大終末/終わりの時の徴/中世の反キリスト伝説/クバン・コサックの終末伝説/反キリストは東方より

第六章 天国と地獄の幻景
 死者の国はどこにあるのか/宇宙卵と世界樹/「ブヤーンの島」/「楽園」への旅/地上の楽園/地獄の位置/地獄の責め苦

付録 『鳩の書』
あとがき
参考文献



なんでこの本を借りたのかというと、はじまりはE.L.&P.の『展覧会の絵』でした。
曲名にロシアの魔女ばあさんバーバ・ヤガとかあるでしょう。
そういえば、ロシアの民話とか神話とかはよく知らないなあと思い至り、それがちょうどリアル図書館で本を物色していたときだった、というわけです。

民話や神話そのものを借りなかったのは、たまたま書架にそのものずばりのタイトルが見当たらなかったから。

予約すれば取り寄せられるのだけど、予約枠を使い切っていたからリアルに行ったので、そこはどうしようもないところでした。

結論からいうと、それでよかった点も悪かった点もありました。

よかったのは、上から俯瞰するような視点からの解説が読めたこと。
ディテールを知る前にその意味する所からはいっていくという感じになりました。

具体的にいうと、ロシア人の死生観を読んでからその実際例をしるパターン。
ロシア人は死そのものではなく、死に当たって準備が出来ないことを恐れるそうです。
立つ鳥跡を濁さず、というやつでしょうか。

故に突然死は忌み嫌われて、突然死した人への気持ちは良いものになりません。
本人にも家族にも不幸をもたらすものになるそうな。

失敗したなーと思ったのは、抽象概念を解説するので専門用語が多いこと。
基礎知識がないと理解しにくい所が多々ありました。
それが足りないと実感したのは、キリスト教関連のとくにロシア正教関連。
カトリックとの比較ではカトリックへの理解の浅さも実感しまして、ああううと思いながら読みました。

聖書の外典てなに?
それって禁書になるの?

みたいな(汗。

なんとなく想像したところでは、二次創作みたいなものかな、外典って。
それが妄想逞しすぎて道を踏み外したら、公式としては認めたくないですもんね。

それはさておき、印象に残ったのはロシア人の終末思想好きと、ロシア神聖視史観でしょうか。
とくに聖書に出てくる土地はみんな現実にあるのに、すべてロシア国内に置き換えてしまうあたり、びっくりしました;

ロシアにはいろんな民族がいるはずなので、それをまとめるには多少強引な手法が必要だったのかな。

キリスト教が広まる過程で土着の信仰と混じっていくのはどの土地でも起きていることで、だいたい純粋なキリスト教ってどんなのかも、わたしにはよくわからないわけですが、確かにロシアにはかなり独特なキリスト教を作り上げてしまう精神世界があるわあ、と感じました。

残念なのは、この本に提示してある異教は、キリスト教が入ったあとの名残でしかないところです。
かつての祖先神やかまどの神、豊穰神などなどたくさんの神がまとめられてしまい、それらのいろんな性格を残しながらもひとつ、ふたつの呼び名しか持たないような、そんな単純化されてしまった状態です。

しかも、ソ連時代に宗教が否定された結果、キリスト教に結びつけられて維持されてきた部分まで引きはがされて、細かな部分が伝わっていないらしい。

うーん。なかなか大変ですねえ。
ロシアの精神世界についての文献がとても少ないのはそういう事情のせいもあるのかも。

とにかく、よくわからなくて読み流してしまった部分とか、期限に迫られてきちんと考えられなかった部分とか、たくさん心残りがあるので、ロシア関連はしばらく心に留めておこうと思います。

世界は卵設定とか、世界樹設定とか、魅力的な題材がたくさんあるようなのです。

20120221の購入

ネットで予約していたCDアルバムが届きました。

soup(DVD付)
尾崎亜美
B006JUEM4A


尾崎亜美三年ぶりのオリジナルアルバムは、デビュー35周年記念。
DVD付を購入しました。

と、密林を見たらちとお安いですね。
でもいまは品切れ状態だわ。

myu:に提供した曲のオリジナルカバーや、NHKラジオ深夜便の今月の歌が収録されています。
この「愛のはじまり」は聴いてると胸がきゅーんとせつなくなる。赤ちゃんが傍らにいた頃を思い出してしまいます。いまは生意気娘になっちゃってますが姪っ子ww

『ザ・ロープメイカー 伝説を継ぐ者』

ザ・ロープメイカー―伝説を継ぐ者 (ポプラ・ウイング・ブックス)
ピーター ディッキンソン Peter Dickinson
4591092895


[Amazon]

読了。

力を持たずに生まれた少女が故郷を守るために祖母と旅に出る、引き渡すものと受け継いでいくもの、流れていく時間を感じる異世界冒険ファンタジー。


十八世代もの間、万年雪と魔法の森によって隔てられ、歴史のない時を過ごしていた谷。しかしその年、雪はなかなか降り出さなかった。歌を捧げに森に入ったまま戻らない母親を探すため、後を追った少女ティルヤは、一族につたわるヒマラヤスギの声を聴く力は妹が受け継ぎ、自分は故郷を離れなければならないことを知って衝撃を受ける。悲嘆に暮れるティルヤを、祖母ミーナは冬の集会につれていった。そこで川に歌を捧げる一族の老人アルノーとその孫タールに出会い、谷を守護する魔法が弱まりはじめていることがはっきりとした。森と川の防御を失えば、谷は再び帝国と騎馬民族との争いの場となるだろう。谷の民もほとんど信じていない言い伝え・魔法使いアサーテの物語にしたがい、ミーナとアルノーは谷を旅立つことを決意し、ティルヤもタールとともに同行することになった。



ものすごく、面白かったです!

故郷を救うための方法を求める旅という探求譚であると同時に、ひとりの女の子が自分自身を認めるまでの、自己確認と自己肯定のお話。

しかし、なんといっても楽しいのは、旅の道連れがおばあさんとおじいさんであること。

むしろヒロイン役はティルヤの祖母ですといっても通りそうなくらいミーナが大活躍しています。盲目のアルノーも孫のタールをこき使ってます。

このふたりが活躍するだけでなくこのふたりにふりかかる事件もまた、主人公クラスの大イベントwww

人懐こく、考える頭を持った少年タールの存在は、ふつうの話なら老人たちが果たしそうなクッション役ですねwww

いっぽう、途中までのティルヤは、頑固な馬(これもわたしの萌えポイントだw)のキャリコの世話に忙殺されてるか、ミーナのテンションの高い言動にハラハラしてるばかりで、魔法の力を持たないこともあり、一緒に旅をしていながら傍観しているシーンが多いです。

でも、そのすべてが、のちの展開に生きてくる。
そもそも話の冒頭でティルヤは自分に絶望しているので、しばらくは準備期間ということなんでしょうね。
ティルヤが目覚めていくにつれ、話が核心に近づいてどんどんおおきくふくれあがっていくあたり、興奮しました。もうページを繰る手を止めたくないという感じ。

帝国の制度には大変あきれましたが、どれもこの世界の魔法的には理にかなってる。
魔法の仕組みの設定は幻想譚よりもSFに近い理屈っぽいもので、作者がミステリ作家でもあるからかなーとおもいましたが、魔法の分類にはうなずけるものがありました。

それでこの物語世界が、すみずみまで作者によってつくりだされたものなんだなーという、だれかが作ったものを拝借したものではない、世界の創造からはじめたというじつにファンタジーの根本というか、王道な物語なんだなと思いました。

そんな様々な要素を詰め合わせながらまったく窮屈にならず、流れるように進んでいくストーリーは、起伏が大きく、多彩で、なのに若い層向けであることを怠らないまっすぐでシンプルな語り口。

波乱万丈、驚天動地な物語に、読み終えてしばらく余韻に浸り、感慨にため息をつきました。
面白かった、たのしかった、ドキドキした、わくわくした。
そして、しみじみしました。

歴史を受け継いでいくことの大切さと大変さに。

しかし、やっぱり、ばばさまとじじさまと馬! ですよ、この話は。うんwww

20120213の購入

発売日なので本屋に突撃しました。

最果てアーケード(1) (KCデラックス)
有永 イネ 小川 洋子
4063761827


以上、購入。

発売日凸もしばらくぶりな気がします。
マイ書店が閉店してこれから苦労しそうだなと思ってたら、さっそく苦労しました。
メジャー出版社のメジャーレーベルでも、原作がビッグネームでも、売れるとわかってない本は入荷しないんですね……。

とりあえずゲットできたのでよしとする。

20120210の購入

リアル図書館に行った帰り、バス待ちの空き時間に寄った本屋で発見しました。

六花の勇者 (集英社スーパーダッシュ文庫)
山形 石雄 宮城
4086306336


以上、購入。

図書館には入らないし、本屋でも出会わないし、もう縁がないのかなーと諦めかけていたところでした。
めったに行かない本屋さんだけど、一番身近な一軒がなくなってしまったので、これからもうすこし頻繁にのぞいてみようかなー。
行くのが少し面倒な場所だけどwww

『アレクシア女史、欧羅巴で騎士団と遭う 英国パラソル奇譚』

アレクシア女史、欧羅巴(ヨーロッパ)で騎士団と遭う (英国パラソル奇譚)
ゲイル・キャリガー sime
415020540X


[Amazon]

読了。

異形がふつうに暮らしている十九世紀イングランドを中心とした西洋を舞台に、はみだし淑女アレクシアの活躍を描く、スチームパンク・ファンタジー・冒険パラノーマルロマンス。シリーズ三作目。


異界族の力を無効にしてしまう反異界族のアレクシアと、夫である人狼のマコン卿との不貞を理由にした喧嘩別れはゴシップとなってロンドンを席巻した。物見高いひとびとの視線のなか、吸血鬼族が自分の命を狙っていることに気づいたアレクシアは、友人のはぐれ吸血鬼アケルダマ卿の失踪を知り、男装の麗人マダム・ルフォーの手を借りて、ヨーロッパ大陸へ逃避行の旅に出る。行く先にアレクシアに宿った生命の謎をときあかす鍵があることを願いながら。



図書館本を優先していたら感想を書くのを忘れかけてました;

大柄でグラマーで好奇心旺盛な、つまりヴィクトリア朝の淑女らしからぬアレクシアの、開き直った行動がたのしい、スチームパンクパラノーマルファンタジーです。

今回は前回のラストで判明した仰天の事実をめぐって、異界族と人間が大騒ぎする展開。
とくに異界族の中の吸血鬼はアレクシアを亡き者とするために殺到してきます。

たったひとり、真相を知り助力をしてくれるものと期待していたアケルダマ卿が失踪し、アレクシアは世間では帽子屋でじつは科学者のマダム・ルフォーのつてにより、ヨーロッパ大陸へと渡ります。

そこで出会うのがマダム・ルフォーの知り合いのマッドなサイエンティスト、もしくはいかれたエンジニア、さらには狂信的な騎士団の面々。

アレクシアの文字どおりやぶれかぶれの逃走劇は、男装の麗人と忠実な元執事との二人三脚、登場するスチームパンクなカラクリたちに彩られています。

そして次第に明らかになってくる、反異界族の性質がまた面白い。
やはり反異界族だったアレクシアの父親の過去や、反異界族のミイラの真実が判明し、異界族の力を無効にする反異界族の力とはそもそもどういうものなのか、これまでそういうものだとしてしか語られてこなかった真相に迫る推理にへえええと唸りました。

このあたりはただのパラノーマル・ロマンスとは一味違いますね。
というか、もうすでにロマンス物とは言えなくなってる気がしますがwww

アレクシアが去ったあと、自尊心と後悔に責めさいなまれて荒れ狂うマコン卿の姿には大笑いしました。
おかげでウールジー人狼団のベータ、ライオール教授がたいそう気の毒でしたが、ライオール教授の苦労するお姿にわたしはちょっとよろめいてしまいしたww

不穏なロンドンでの、アケルダマ卿の愛するドローン(吸血鬼志願者)のエピソードは涙なしでは読めません。

アレクシアの親友で奇抜な帽子の愛好者アイヴィの意外な素顔に驚いたり。

逃走中にずたぼろに汚れていくアレクシアが、なぜか飛沫ひとつあびず身ぎれいなままでついてくる元執事フルーテに嫉妬するシーンに笑ったりw

ファンタジー的な仕掛けを軸に、ドタバタ冒険活劇的な物語がテンポよく進んでいくのを、とても
楽しく読みました。

さて、異界族と反異界族と人間の関係はいったいどうなるのか。
はたまた、アレクシアの体調に変化はあるのか。

さまざまなその後を期待させたまま、シリーズは四巻へとつづきます。
あとがきに本国アメリカでは昨年七月に出たらしいです。
ああ、はやく読みたいー。
アケルダマ卿とライオール教授の活躍が読みたいーwww

シリーズ開幕編はこちら。
アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)
ゲイル・キャリガー sime
4150205329

「文芸図書第三出版部騒動始末」

袋小路はまるさん作「文芸図書第三出版部騒動始末」読了。

現代職場コメディー長編、第一部完結済み。

方言からはじまった男同士の友情物語、BL未満。
個性的なキャラクターたちを支えるしっかりとした密度の高い文章とディテールに凝った描写がたのしい。
働くひとの日常と美味しそうな料理がてんこもりです。

『トワイライト・ミュージアム』

トワイライト・ミュージアム (講談社ノベルス)
初野 晴
4061826506


[Amazon]

読了。


天涯孤独な少年・勇介は、十四歳の時、ひき逃げ事件の犯人逮捕に貢献したことをきっかけに見つかった大伯父に引き取られることになった。養護施設のお別れ会で夢見ていた平凡な一生が叶うことに安堵していた勇介は、仲の良かった六歳児のナナから「うらぎりもの」とののしられた。ところが、大学教授だった大伯父の如月は勇介と養子縁組みする前に急逝してしまう。かれに残されたのは大学に行けるくらいの資産と、収集物が豊富なのが取り柄の博物館だった。そこで如月を中心としてとあるプロジェクトが秘密裏に行われていたとしったとき、勇介に会うためにひとりで外出したナナが交通事故に遭ったという報せがとどいた。



読み終えてほわあ、と思いました。

SFのように仕立ててありますが、ミステリで、ミステリなんだけどリアルな中世イングランドの歴史物にもなってて。

でも中心は、孤独な魂の持ち主たちの切実な結びつきと絆、信頼関係のものがたりだったなーと。

主人公の勇介・十四歳と、ナナ・六歳の孤児ふたり。
そして、勇介に心を開くはかなげな雰囲気を持つ女性・枇杷の痛々しいほどの存在感。

そして、社会的な弱者が虐げられるというデビュー作からつづくテーマと、めくるめくイリュージョンの世界が、今回は中世イングランドで展開されます。

本の裏カバーに書いてあるので書いてしまいますが、この本、タイムトラベルミステリなのですよ。

そのタイムトラベルの仕方が独特です。
こういうやり方を初めて読んだわけではありませんが、“命綱”という存在がユニークだなと感じました。

さらに、勇介と枇杷のふたりで立ち向かう困難がそれはそれはハードなので、手に汗握り息を殺して悲鳴を上げつつ読みつづけました。

とくに枇杷にしいられる肉体的な苦痛が……。痛いのが苦手なひとには辛いかもです。

でも、わたしにはたいそうおもしろかったです。
とくに中世イングランドの風俗や光景がリアルに感じられるシーンにわくわくしました。

ちょっと残念なのは、ラストに向けてが駆け足気味だったところ。
短編を加筆修正したものだそうですが、それでもまだ、知りたい所というか書いて欲しかった所というか、つまり物足りない部分が残りました。

もしかして、シリーズ化を視野に置いた終わりだったのかしら。

それならつづきが読みたいところですが、ふたたび枇杷が辛い目に遭うかと思うと、それもためらわれるような。うーむ。

とりあえず、これでしばらくつづけてきた「初野晴」一気読み(わたし的には)はいったん休止します。図書館での予約待ち数が、だんだん多くなってきてすぐには届かなくなってきたのです。
現在一冊予約中ですが、読めるのはいつになるかなあ。

ノーマジーン
初野 晴
4591126145