『白い月の丘で』

白い月の丘で (カドカワ銀のさじシリーズ)
濱野 京子 丹地 陽子
4048741640


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読了。

心の機微を丹念に描く少女むけ異世界歴史ロマン。


強国アインスに滅ぼされたトール国では、その武骨な支配のあいだに独自の豊かな歌舞音曲が禁止され、ひとびとは虐げられて生活を送っていた。かつて王の離宮のあったションヤンの丘で両親と暮らす靴屋の娘マーリィも、大好きな笛を奏でることが出来なくなっていた。そしてアインス支配から十年後、思いがけない人物が靴屋を訪れた。王とともに死んだとされていたトールの王子、ハジュンはひそかに逃れたシーハン公国で平民として暮らしていたのだ。師匠の依頼で故国を視察に来たハジュンを案内するマーリィは幼なじみのすっかり大人になった姿に心が揺れ動く。だが、彼女の笛に魅せられて稽古に通いつづける若者カリオルがアインス王の世継ぎと判明し、ハジュンはアインス抵抗勢力の旗頭へと祭りあげられてゆく。



これはよい胸キュン……。

『碧空の果てに』の作者さんの、おなじ物語世界の別の国を舞台にしたお話です。
時系列では続編といってもよいのではないかと思いますが、主要登場人物が異なります。
前作のヒロインについては物語の始めから何度も言及されますが、ごくさりげなくなので読んでなくても大丈夫、読んでいればニヤリとできる、というかんじ。

今回のヒロイン、マーリィは笛の名手ということなので、音楽が重要な役割を果たしています。
澄み渡った宵の丘の上で奏でられる笛と琴の響きが、心のうごきをあらわしたり、凝っていた心を解放したりするさまがなんとも素敵ですし、話の展開にもいろいろと関わってきて、このあたりたいそうわたし好みでした。

元王子と現王子のあいだでゆれうごく乙女心がきゅんきゅん。
そして元王子と現王子のこころもきゅんきゅんなのでした。

きゅんきゅんしながらもきちんと進んでいくお話は、目先の障害をとりのぞくだけではだめで、その先の自分たちが暮らす国をどのようにしたいのかをみすえて、そのために行動する必要性をうったえる、夢物語で終わらない地に足のついたところがすてきです。

けっこうドラマティックな展開なのに、テンション急上昇で激情がほとばしったりしないあたりがラノベとはちがう味わいなのかな。
たんたんとした文章が描き出す叙情的な情景を、しみじみとかみしめたくなるようなシーンが多いです。

昔ならこういう作品も少女向けラノベレーベルで出ただろうになあ、とか思ったりしました。
たしかに少し地味にみえるけど、突き抜けたり萌えだったりな余剰部分が少ないけど、こういうお話の需要はあると思うんだけどなー。

ちょっとクラシカルロマンに似てる……かな?
あちらよりも地味な気がするけど……w

というわけで、昔の少女小説読みにお勧めです。

わたしはソンボ一押し!
かれはたぶんこの作品の中での一番の萌え人物かとw
第二王子のエクサルも可愛いですー。

シリーズの一作目はこちら。
碧空の果てに (カドカワ銀のさじシリーズ)
濱野 京子 丹地 陽子
404873945X


こちらもたぶんおなじ物語世界のお話だとおもう。
紅に輝く河 (カドカワ銀のさじシリーズ)
濱野 京子
4041101018

『北の舞姫 芙蓉千里II』

北の舞姫 芙蓉千里II
須賀 しのぶ
4048740687


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読了。

明治時代、列強のせめぎ合う大陸へ進出する日本を背景に、哈爾浜で芸妓となったひとりの娘の恋と冒険をドラマティックに描く歴史ロマン。シリーズ第二巻。


哈爾浜の女郎屋〈水芙蓉〉最初で最後の芸妓となったフミは、二月革命により混乱状態になったロシアへの進出への足がかりをつかもうと列強諸国が必死な中、日本軍の接待に駆り出され、無理な要求にも応じていた。それというのも、革命による暴力から脱出した大量の芸術家たちが哈爾浜にやってきたからだ。日本の粋だけでは生き残れないとさまざまな舞に取り組むフミだったが、黒谷の誘いで赴いたバレエのプリマドンナ、エリアナの舞台に衝撃を受ける。そんなおり、黒谷の弟・武臣が訪れて兄と別れろと要求する。大げんかをする二人だったが、武臣の残したフミの舞に対する一言がそれまでの違和感を決定的にした。フミは舞えなくなってしまったのだ。



面白かったですー。

アグレッシヴなヒロイン。
激動の世界情勢が深く関わってくるシビアな物語展開。
周囲の人物との濃密な関係。

舞えなくなったフミの取る行動が、衝動的なうえに大胆で、それだけ舞に懸けていたのだなとつたわりました。それから自分の舞をまっさらにして始めから作りあげていく過程も、これぞ芸人魂みたいな命がけのもので面白かった。ここらへんはお約束な展開だけど、だからってつまらないわけじゃなくてむしろものすごく安心して楽しめた部分でした。

だって、その他は面白いことは折り紙付きだけど手に汗握ってハラハラドキドキなシーンばかりが疾風怒涛なんですもの……。

歴史的な事実を容赦なく組み込んであるので、つねに暴力と貧困と死と隣り合わせの過酷な状況がひしひしとつたわってきます。
日本人もこんな修羅場を生きのびてきたんだな……。そして、社会はいつこんなふうに危険で不安定なものになるかわからないんだな……。

ひとつの社会システムがくずれさり、あらたにどんな社会が構築されていくのかもわからない、なにもかもが不確かな混乱期に、フミは自分で考えて自分の足で歩み、自分の行動の責任は自分で取る。ひとによりかからない。その覚悟をもつ潔さ、強さにしびれました。

共産党革命前後のロシアについての史実を知らなくても、お話はそれだけで面白いですが、すこしかじったあとで読んだら、とても深いところで物語と直結してるのがわかるのでなおいっそう楽しめました。

フミのお相手としては、黒谷さんと山村さんのふたりも健在です。
紳士的なパトロンと野性の荒々しさをもつ馬賊と対称的な魅力のふたりだけど、どちらもどこかでヘタレなんだよね。
この話の登場人物は、どのひともきちんと役割を果たしてそのうえで生きているのがいいなあと思います。

わたしはウメさんが好きです。
そして、黒谷氏の弟・武臣くんには笑笑笑でした。
面白すぎるよ、君。

シリーズはもうじき三巻が出るそうです。
これで完結なんだそうで。
ええええ、終わるの? という感じ。
読むのがとても楽しみです。

永遠の曠野 芙蓉千里III
須賀 しのぶ
4041102278

『図説 金枝篇』

図説 金枝篇
サー ジェームズ ジョージ フレーザー メアリー ダグラス
4487761581


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読了。

フレーザーの著した『金枝篇』がほぼ決定稿となった第三版全十二巻に補遺を加えたものを元に編集を施し、多くの証拠の補完としてふんだんに挿絵を挿入した「図説版」。

先日挫折した『初版 金枝篇』ですが、中身を知りたい欲求が満たされなかったので、読みやすいらしいという評判に釣られて借りてみました。

結論。
ほんとうに読みやすかったです!

これはフレーザーが、“古代ローマのネミの森の祭司が、トネリコの枝を武器とした男に殺されて、その地位を奪われるのはなぜか”、を、古代人の世界を理解する方法によって理屈づけられた、大切な意味を持つイベントだったことを、世界中の民族に伝えられたさまざまな伝統儀式や言い伝えを証拠として読み解いていくものです。

つまり、学術論文だったわけで、だから難解だったのだなーといまになって思い至るわけですが、その難解な原因の半分ぐらいを占めていた、膨大な量の多種多様な証拠が整理され、ひろがりつづけた枝葉部分がそぎ落とされてるおかげで、この本はかなりわかりやすくなっていました。

ある程度神話に関して知識のある方向けとは思いますが、興味があれば読めるレベルだと思います。

以下は目次です。


口絵キャプション
メアリー・ダグラスの序文
J.G.フレーザーによる一九一一年版への序文
編者まえがき
編集ノート

第一部 呪術と王の成り立ち
 第一章 森の王
 ・ディアナとウィルビウス ・アルテミスとヒッポリュトス ・要約
 第二章 祭司たる王
 第三章 共感呪術
 ・呪術の原理 ・類感呪術または模倣呪術 ・感染呪術 ・呪術師の変遷
 第四章 呪術による天候の支配
 ・呪術による降雨の支配 ・王としての呪術師
 第五章 神格をもつ王
 ・神の化身としての人間神 ・自然界を構成する部門の王
 第六章 樹木崇拝
 ・木の精霊 ・樹木の精霊の恵みをもたらす力 ・近代ヨーロッパにおける樹木崇拝の名残
 第七章 植物の生育と性の関係
 第八章 聖なる結婚
 ・神々の結婚 ・ローマの王
 第九章 オーク崇拝

第二部 タブーと霊魂の危難
 第一章 王者の重荷
 第二章 霊魂の危難
 第三章 タブーとされる行動と人物
 第四章 未開人への感謝

第三部 死にゆく神
 第一章 神々の死
 第二章 聖なる王を殺すこと
 ・力が衰えると殺される王 ・一定の期間が終わると殺される王
 第三章 王殺しに代わる慣習
 ・仮の王 ・王の息子をいけにえにする
 第四章 樹木の霊を殺す
 ・聖霊降誕祭の仮装劇 ・人間のいけにえの真似事 ・謝肉祭の葬式、死の追放、夏の迎え入れ

第四部 アドニス
 第一章 アドニス神話
 第二章 シリアにおけるアドニス
 第三章 古今のアドニス
 ・アドニスを祀る儀式 ・アドニスの園

第五部 穀物霊
 第一章 デメテルとペルセポネ
 第二章 ヨーロッパその他における「穀物の母」と「穀物の娘」
 ・ヨーロッパにおける「穀物の母」 ・各地における「穀物の母」
 第三章 リテュエルセス
 第四章 神を食う儀式
 ・初物の聖餐 ・神を食う儀式 ・アリチアに多くのマニイあり

第六部 身代わり
 第一章 災厄の転嫁
 第二章 身代わりについて
 第三章 古代における人間のいけにえ
 ・古代ローマの場合 ・古代ギリシアにおける人間のいけにえ
 第四章 メキシコにおける神殺し
 第五章 サトゥルナリア祭とそれに類する農神祭

第七部 麗しき神バルデル
 第一章 天と地のあいだ
 ・地に触れてはならず、太陽を見てはならぬ ・思春期の娘を隔離すること
 第二章 バルデル神話
 第三章 ヨーロッパの火祭り
 第四章 火祭りの意味
 第五章 人間を焼き殺すこと
 第六章 夏至前夜に摘む魔法の花
 第七章 バルデルとヤドリギ
 第八章 体から離れた霊魂
 ・民族慣習にみられる体を離れた霊魂
 第九章 金枝
 第一〇章 ネミよさらば

 訳者あとがき
 索引




じつをいうと、そぎ落とされた部分も読んでると面白いんですよね。
とくにファンタジー好きなひとにはいろんな形の物語が浮かんできて楽しいんじゃないかと思われます。
共感呪術とか王殺しとか偽王とかオークとか夏至の火祭りとか……!

しかし、そうやってたくさん読んでるとあちこちに妄想が飛んでしまうので、本来の幹が茂った葉の影に隠されてしまい、あれ、なんでこの話がでてきてるんだっけ? みたいなことになってしまうのが、この本の欠点であり、魅力だなと思うのでした。

それにしても、第一版は二巻本だったのが、最終的には全十二巻プラス補遺にまで膨らんでいたとは。
それじゃ、わたしが挫折した初版本なんて、ただのプロローグじゃないですか;

完訳版があるのかどうか知らないけど、読み通すのではなく、気が向いた時にぱらぱらとつまみ読みするのが楽しそうな本ですね。

書かれた時代(十九世紀終わりから二十世紀初頭)から例として挙げられているのはだいたい地中海文化圏のものですが、いろんな土地でいろんな文化を持つ人々がおこなってきた古代の儀式が、じつはほとんど同じ考えのもとにうまれてきたのかと思うと、やはりひとの考えることって似てるんだなと感慨深かったです。

この読後感は、『銃・病原菌・鉄』のとちと似ているような気がしました。

特に第十章に書かれていることには唸らされました。
なるほど、科学も客観的に立証されたことのみを信じる宗教のひとつかもしれない。
立証されないことをどう扱うかは、おおきな問題だものなー。
その部分は結局、個人が信じるか信じないかで決められてしまうわけですから。

全然違うかもしれませんが、これって、決闘裁判が法定裁判になったのと似てるような?
疑わしきは罰せずになるあたりとか。

たくさんそえられているイラストや写真を眺めているのも楽しかったです。
手元に置いてみたい本でした。

『仮面の貴族 3 道化の使命』

仮面の貴族3 (道化の使命) (創元推理文庫)
ロビン・ホブ 鍛治 靖子
4488562124


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読了。

かつてドラゴンの舞っていた世界を舞台にひとの人生がからまりあって歴史となっていく過程をドラマティックに描く、壮大なスケールの異世界ファンタジー。「道化の使命」三部作の第二部完結編。


神呪字諸島とビングタウンの使節団が帰国した後、迫害されてきた〈気〉を持つ人々との和解を探る六公国の王妃ケトリッケン。だが、ファーシーア一族の復讐と権力からの追い落としを求めるパイボルド一派の残虐な所業により、事態は混迷を深めていた。フィッツの存在もすでに知られており、ファーシーアへの脅迫材料のひとつとなっていたのだ。偶然から内部情報の流出経路を突き止めたフィッツは、バックの街へと向かう途中、血相を変えて馬を走らせるシヴィル・ブレジンガに追い抜かれた。〈気〉を持つシヴィルは王子の友人だが幾度かパイボルトの手先として王子を危機に陥れていた。フィッツは異変を察知し、バックの街でパイボルドの拠点を探しまわる。




面白かったです……!!

二巻での神呪字諸島、ビングタウンとの外交から一転、今回は国内での〈気〉をもつひとびと=古き血族との交渉が描かれます。
パイボルド一派は古き血族代表を自称してますが、実態はまったく異なることがあきらかになります。その過程でフィッツが見舞われる災難がこの巻の大きなウエイトを占めているわけですが。

これはむごい。

政治的な支障のために身動きのとれないまま、しばらく放置されることになってしまったフィッツは、事態を理解はしても見捨てられたと感じることを止められず、身体も心も病み疲れ、孤独なままに死を迎えようとします。

そのフィッツを救おうとするひとびとがそれぞれにあらわす動揺のさまが、不謹慎ですがたいそうおもしろい見物でした。
とくに気も狂わんばかりになった某師匠には、普段のつれない態度に隠されていた本心についニヤニヤ。

そこで思わぬ事態が起きてみんなが驚愕することになるのですが、これはネタバレ;

その後、フィッツにはいろいろなことが明かされて、自分の過去をことなる視点で眺めることができるようになります。

じわじわと心が熱くなるシーンの連続でした。

これまでフィッツは自分がどれだけひとに大切に思われているのかに無自覚だったのですね。

忌まわしい私生児という周囲の評価を単純に受け入れていたため、極端に自己評価が低い人間になっており、他人は自分を傷つけるからめったに心を開かない、ゆえに他人の気持ちにも鈍感という悪循環だったんだな。

”バックキープの秘密は秘密でもなんでもなく、たずねる勇気がもてずにそのままになってしまった事々にすぎないのだ。”という悟りの言葉が、深く染み入りました。

亡き人にはもうたずねられないけれど、フィッツがペイシェンスやブリッチと思い出話が出来るようになればいいのに。

いまは無理だけど、古き血族との交渉がうまくいっていつかはそんな日がくるようにと願わずにはいられません。この件ではデューティフル王子が頼もしそうです。さすが、ケトリッケンの息子ですね。

古き血族に伝わる原初の物語は、とても興味深いものでした。

今後の物語はついに道化の真実と、ドラゴンの真実に迫っていくものになりそうです。
白い人、白の予言者の伝説。
蒼白の女と道化の因縁。
フィッツに徴をつけたものの正体。
などなど。
族姫たちと蒼白の女のしがらみもまだわかりません。
神呪字諸島の文化風俗にも興味津々です。

知りたいことが依然てんこもり状態なので、はやく第三部が読みたい! とここで叫んでおきます。

それから、ビングタウンを舞台にしているというシリーズも読んでみたいですねー。
無邪気にフィッツを混乱の泥沼にたたき込んだジェクの背景を知りたいですww


「道化の使命」三部作の開幕編はこちら。
黄金の狩人1 (道化の使命) (創元推理文庫)
ロビン・ホブ 鍛治 靖子
4488562078

20120615の購入

買い物ついでによった本屋でなんとなく。

空の都の神々は (ハヤカワ文庫FT)
N・K・ジェミシン 佐田 千織
415020537X


以上、購入。

最近ネットでよい評判を読んだばかりで記憶に残ってたのが、本屋に行ったら現物があった。
――これは運命なのかもしれない←大げさ。

発売日に必死に探しても出会えない本があり、偶然のように出会える本もある。

面白いといいなあwww

『仮面の貴族 2 道化の使命』

仮面の貴族2 (道化の使命) (創元推理文庫)
ロビン・ホブ 鍛治 靖子
4488562116


[Amazon]

読了。

国家権力の物語と血肉と感情をそなえた人間たちのドラマが絡みあう、壮大なスケールの異世界ファンタジー、道化の使命三部作の第二部の第二巻。


素性を偽り、ゴールデン卿の従僕として働きながら、顧問官のシェイドとともに諜報活動、デューティフル王子に〈技〉の指導と、養い子ハップの問題にわずらさわれながら多くの事柄を手がけはじめたフィッツ。さらにかれはシェイドの下男シックの〈技〉を訓練することをしぶしぶ承知した。いっぽう、六公国と神呪字諸島の和平のため、族姫と王子の婚約がなされようとしているバックキープに、ビングタウンからの使者が訪れた。古くから続くカルセドの襲撃に決着をつけるために軍事同盟を請いにきたかれらはは、そうすれば最後のドラゴン、ティンタリアの加護が得られるようになると告げる。いっぽう、神呪字諸島のものたちはビングタウンの訪問者に気分を害したようだった。それまでにデューティフル王子の軽率なふるまいに誇りを傷つけられていた族姫エリアニアは、婚約式の場でおのれの価値を証明せよと王子に伝説のドラゴン、アイスファイアの退治を要求する。



面白くて、やめられない!

表の出来事だけをとっても波乱万丈なのに、フィッツの私生活はもっと複雑で心理的なアップダウンも激しいです。いや、アップはそれほどないんだけどね。とにかく不安と葛藤と苦悶と怒りと絶望のあいだで揺れ動いてます、それだけでかなりしんどいですが、それがまた面白い要因なのです←サド?w

まず、養い子ハップとのいきちがい。
人間は庇護する存在を持ってはじめて気づくことがこんなにあるのですねえ。
子供はひとにべつの見方をあたえ、さらに成長するためのきっかけをくれるんだなあとしみじみしました。
しかし、ハップったらここまでフィッツの足あとをなぞらなくてもとは思った。
相手の女の子はどうも困ったちゃんのように思えるしね。

それから、かつての師であるシェイドとの関係。
ずっと師であり続けると無意識に思い込んでいたシェイドの老いと、かれが万能ではなかったことに気づいたフィッツの複雑な思いには、深く共感してしまいました。

そして最後に道化=ゴールデン卿との関係。
道化がさまざまな顔を持っていることは承知しながらも、道化のビングタウン時代を知る妄想女のことばに動揺するフィッツ。余裕がないのだろうけど、これはもう、全面的にフィッツが無神経だとしか思えないわけですが。
ふたりの意地の張り合いがどこまでも延々と……始めはうわあ、と不安になってたけど途中からおもしろくなってきてしまった。
フィッツは道化にあまえてたけど、道化もフィッツのまえでは取り繕えないのだなあと思ってwww

そのほかにもフィッツのさまざまな人とのさまざまなつきあいがもたらすさまざまな思いが、とても豊かに描かれていて、フィッツの性格上ちと辛気臭いところもあるけど、フィッツと苦楽をともにすることがこの物語を読むことなのだなと感じました。

今回、婚約式のシーンがどきどきで楽しかったです。
ペオットレさんがとても苦労してそうで、同情。

吟遊詩人のスターリング、まじない師のジンナ、ビングタウンの漁師の娘ジェクと女性陣はやたらと強力で強烈。
とくにジェクとスターリングの腐女子力には笑ってしまった。

ケトリッケンはあいかわらず素敵でした。
いいひとだなあ、ケトリッケン。このお話の良心を凝縮したような存在ですね。

そして感想を書き終わるのを待ちきれずに三巻を読みはじめたのはわたしです↓。

仮面の貴族3 (道化の使命) (創元推理文庫)
ロビン・ホブ 鍛治 靖子
4488562124

20120612の購入

リアル書店で対面できずに一ヶ月過ぎたので、ネットでぽちりました。

アトリックス・ウルフの呪文書 (創元推理文庫)
パトリシア・A・マキリップ 原島 文世
4488520189


以上、購入。

今度のマキリップはあたりかなー、はずれかなー。
ちょっとドキドキ不安と期待が交錯中です。

『仮面の貴族 1 道化の使命』

仮面の貴族1 (道化の使命) (創元推理文庫)
ロビン・ホブ 鍛治 靖子
4488562108


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読了。

ゆたかな世界設定と複雑な人間関係を背景に、王家の私生児として生まれた男のドラマティックな人生を描く、スケールの大きな異世界ファンタジー。「道化の使命」シリーズの第二部。『黄金の狩人』のつづき。


ヴェリティ王がドラゴンとともに外島人の襲来を退けてから十五年。〈気〉を汚れたものとして虐げたファーシーア一族を恨み、六公国の権力を奪おうと画策するパイボルド一味に誘拐された世継ぎのデューティフル王子を救い出したフィッツは、道化=ゴールデン卿の従僕トム・バジャロックとしてバックキープにとどまることになった。和平のため王子と外島人の族姫との婚約を控え複雑な思惑の交差する城でかつての師シェイドと再会し、ふたたび間諜兼暗殺者とならねばならないことを自覚するフィッツ。王子には王家の失われた〈技〉と隠されるべき〈気〉の素質を導く師となることをつよく期待され、さらに養い子ハップの素行問題にふりまわされたフィッツは、〈俗〉のまじない師ジンナとの関係をずるずるとつづけてしまう。そんなおのれに自己嫌悪を覚えているフィッツの前に、秘密を知るパイボルド一味が忽然と姿をあらわした。



面白かった!

ファンタジーとしての設定が深く物語世界とそこに住むひとびとの存在と、さらには動いていく物語そのものに大きく絡み合っている、スケールの大きな異世界ファンタジーです。

具体的にいうと、〈技〉〈気〉〈俗〉などのさまざまな魔法のありよう。
どうやらそれらは力そのものの一部分みたいですが、その大きな設定がこの世界の人々の歴史、そして現在進行形の物語に深く影を落としていくさまがとても興味深いです。

ファンタジー的な興味もつきないお話ですが、人間たちのドラマも権力争いと陰謀に満ちていてとても泥臭く殺伐としてますがたいそう面白いです。

王子の私生児として生まれ、暗殺者として育ったフィッツももう三十五歳。

かれの幾分ななめな視点から描き出される、宮廷や王家を取り巻く状況は確かに憂鬱で、それと関わらねばならない責務があるといいつつ実態は逃げ腰なフィッツの優柔不断さは歯がゆいものがありますが、かれはそもそも受け身な性格なんだろうなあ。

そんなかれを見守る道化の存在にはフィッツも読み手もたいそう救われます。

それと、夫亡きあと六公国を統べてきた王妃ケトリッケンが素晴らしい。
為政者としての視野の広さ、平衡感覚、現実感覚をきちんともちあわせながらも、芯の通った気高さと善良さ、ゆたかな感情を持ちつづけてる。

ケトリッケンとのシーンではほんとうにしみじみと癒されました。
なんといっても、この話にはもうかれがいないのですよ。
フィッツがふらふらしてるのも、それを考えると致し方ないかと思えます。

そうしてフィッツが足踏みしてるあいだに、物事はどんどん進んでいる模様。

傷心のデューティフル王子は導きを欲し、ハップは見習いを脱落寸前。

外島人の族姫エリアニアとその父親と叔父との関係が謎だし、パイボルトたちは暗躍しているし、王子に猫を渡したレディ・ブレジンガの立ち位置も不明のままで。

シェイドの下僕シックがぶつけてきた力に驚いたかと思うと、フィッツとモリーとの間に生まれたネトルが意外な形で登場。

どうやらフィッツの苦労は当分の間途切れることがなさそうです。

この話のわたしの癒しは、いまのところケトリッケンと〈俗〉のまじない師ジンナの猫です。
猫はフィッツの事情にはまったく関心がなくどこまでも自分勝手なのでとても楽しいですw

よし、感想書いたからつづきを読みますよー。

仮面の貴族2 (道化の使命) (創元推理文庫)
ロビン・ホブ 鍛治 靖子
4488562116

『初版 金枝篇 上』

初版 金枝篇〈上〉 (ちくま学芸文庫)
ジェイムズ・ジョージ フレイザー James George Frazer
4480087370


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読了。

1890年に刊行された「未開社会の神話・呪術・信仰に関する集成的研究書」初版の全訳を二分冊した上巻。

内容は以下の目次で。


 序

第一章 森の王
 第一節 アリキアの木立
 第二節 太古の人間と超自然的なるもの
 第三節 人の姿を取った神々
 第四節 樹木崇拝
 第五節 古代の樹木崇拝

第二章 魂の危機
 第一節 王と祭司のタブー
 第二節 魂の本質
 第三節 王と祭司のタブー(承前)

第三章 神殺し
 第一節 聖なる王を殺すこと
 第二節 樹木霊を殺すこと
 第三節 死神を追放すること
 第四節 アドニス
 第五節 アッティス
 第六節 オシリス
 第七節 ディオニュソス
 第八節 デメテルとプロセルピナ
 第九節 リテュエルセス



……疲れました。
上巻だけを読むのにほぼ一年を費やしてしまいましたよ。

内容は、宗教的なるものの原初を、刊行された当時認識しうる全世界において類似例を抽出して検証しつつ明らかにしていくもの。

自然信仰から発生した儀式は、ほとんどが共感呪術による儀礼であり、そこには神頼みというような要素はなかったとか。

それが受け継がれていくにつれ多くの複雑な意味が失われ、多様な意味を含んだ自然霊がシンプルに合理的に人格化された神となり、それにあわせて理屈が後付けされていったことなどが、論じられている模様です。

とても興味深い題材で退屈なわけではないのですが、俎上に上げられる具体例が大量な上に煩雑すぎて(ヨーロッパはもちろんアジアやアメリカやアフリカの例も一緒くた)、読んでいくうちにだんだん本題がわからなくなってしまいまして(具体例が面白すぎて)、たぶんわたしの脳のキャパシティが小さいせいなんだと思うのですが、それがたいそう難儀で困りました。

この巻の内容をわたしがだいたい理解したところでは、農民の祭りは豊饒を期待する共感呪術から発していて、種まきの時と収穫の時にそれを模した儀式を行っていたものが、いつのまにか豊饒という現象に人格がつけられて神となり、その死と再生を象徴する儀式となったものが、その後キリスト教に否定されて神の部分がなくなって儀式だけが残ったものである……でいいのだろうか。

いまいち自信がないのですが、とにかく読むのが大変だったので、読み終えただけでほっとしています←(汗。

というわけで、下巻に手を出すことには躊躇いが。
興味はあるんだけどこのままの文章が延々続くのかと思うとちとコワイ;

今は読みやすいダイジェストで図版もたくさんついているという情報の図説版を借りて読んでみようかと、思っているところです。

初版金枝篇(下) ちくま学芸文庫 フ 18-2
ジェイムズ・ジョージ フレイザー James George Frazer
4480087389


図説 金枝篇
サー ジェームズ ジョージ フレーザー メアリー ダグラス
4487761581

『終着の浜辺』

終着の浜辺 (創元SF文庫)
J・G バラード J.G. Ballard
4488629113


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読了。

世界の終わりを描く作品を多く収録したSF短編集。


ゲームの終わり
識閾下の人間像
ゴダード氏最後の世界
時間の墓標
甦る海
ヴィーナスの狩人
マイナス 1
ある日の午後、突然に
終着の午後

訳者あとがき




先日読んだ『山尾悠子初期作品選』つながりで借りてみました。
1960年代に発表された作品群なのですが、暗い。とにかく暗いです。

著者自らの資質と核への恐怖が高まっていた時代背景が相まっているらしいですが、読んでしあわせになれる作品集とはけして言えない。

だけど、わたしには強烈に惹かれるものがあるのも事実です。
それは終末へむかう情景のなんともいえない、うつくしいといってもいいような雰囲気と、滅んだもの失われゆくものへの哀切とかに反応しているのかなと思われます。

文章は理性的で情におぼれるようなところはまったくないのに、そのようにつたわってくるのですね、わたしには。

だからわたしの好きなのは「時間の墓標」と「甦る海」なのです。
わかりやすいわー;

その他、まるで現代をそのまま予見したかのような作品。
コマーシャル社会を痛切に皮肉る「識閾下の人間像」、事なかれ主義から事実をねじ曲げてしまうまるでどこかの国みたいな「マイナス 1」、現代の預言者の側近の悲劇を描く「ヴィーナスの狩人」などはどれも心乱されずには読み切れませんでした。

最後の「終着の浜辺」は、もうわたしの理解を越えてましたが、なんというか、途中で止めたいとは思えなかった。読後感はやはり複雑でしたけど。

ディテールにはやはり古くなっているところが多々ありますが、この作家のうみだすヴィジョンには独特のものがあるなあと思いました。
若い頃読んだら、憑かれていたかもしれない。

『アバタールチューナー』関連で『結晶世界』も読んでみたいです。

しかしこの本、最近改題されてカヴァーも新しくなってるので、中身もそうかとの予想は大外れでして、文字が小さい旧版のままだったのでちと読みづらかったです。

昔はもっと活字ぎゅう詰めの本でも平気で読んでたんですけども。歳ですねえ;

結晶世界 (創元SF文庫)
J・G・バラード 中村 保男
4488629024

20120607の購入

通院帰りに寄り道をして本屋に突撃しました。

眠れぬ夜の奇妙な話コミックス 百鬼夜行抄(21) (ソノラマコミックス)
今 市子
4022131748


以上、購入。

もう二十一巻なんですねえ。

律も大学生になってずいぶん経つし、おばあちゃんのこととかいろいろと時を感じる場面がありましたが。
なつかしくてコワイ箱庭の話がまたあったり、おばあちゃんとおじいちゃんの話が楽しかったりと、もりだくさんの巻でした。

野良妖魔と座敷妖魔という用語に笑ったw

「春は遠く 夜は長く」

西東行さん作「春は遠く 夜は長く」読了。

異世界ファンタジー短編。完結済み。

商業本から続く一連のシリーズの最新作「炎は甦る」の幕間編。

オレクタンテから見たルーザ=ルーザの横顔です。
ニヤニヤしながら読みましたv

『RDG5 レッドデータガール 学園の一番長い日』

RDG5 レッドデータガール 学園の一番長い日 (カドカワ銀のさじシリーズ)
荻原 規子 酒井 駒子
4041100399


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読了。

〈姫神〉という大きな存在の器として生まれてきた内気な少女と彼女をとりまく普通でない友人たちの青春を描く、学園ファンタジーシリーズ。第五巻。


戦国時代の史実を取り入れた鳳城学園の〈戦国学園祭〉が始まった。学園はいつもと違う空気に支配されており、敵対する陰陽師の末裔・高柳の仕掛ける策のせいかと不安がよぎる。執行委員として裏方に徹し余計なことに関わるなといわれた泉水子だったが、幽霊屋敷で生まれて初めて亡霊を眼にして取り乱してしまう。泉水子を落ち着かせたのは深行の存在だったが、その後ささいなことで仲たがいをしてしまった。二日目、最大の山場である八王子城の戦いに見立てた合戦ゲームの最中に、奇妙な気球を追ううちに泉水子は高柳の罠に落ちてしまった。意志を操られ、深行の存在を忘れさせられたと気づいた泉水子は怒りのあまり力をふるってしまう。



学園祭編完結。

やー、面白いですねー、ほんと、面白い。
何度か感想を書くために読み返してたんですが、何度読んでも楽しいです。

五巻は深行くんを堪能する巻と言いきってもいいですかw
今まで取りつく島もないほどツンツンだった深行くんが、姫神と出会ってから泉水子とのギャップにときどきぽろっと本音が出てくるのが面白いなあと思ってたんですが、せっぱ詰まって取り繕う余裕がなくなると、でてくるでてくる本音がでてくる、わははははw

深行くんの愛読書?とか、深行くんは犬が好きとか、泉水子の携帯をずっと保管してたとか、泉水子の髪形に大受けする姿とか、男の子に声をかけられた泉水子ちゃんにいらだつ姿とか、思ってたよりずっといいやつだと評されたり、いちいち可笑しくて楽しくて可愛くて、いやー、面白かったわあー。

それと付随して高柳君くんもすごく面白かったです。
かれ、悪役だけど姿勢が一貫してますよね、思いの強さではどうやら他の追随を許さない模様。
視野が狭いのが難ですが、そのKYな個性が生み出すなんともいえない場の雰囲気。くうき。微妙さ。なんとも憎めません。とくに、後半はストーリーのシビアさ悲痛さを高柳くんひとりできれいにぬぐい去ってくれて、もう傑作でした。笑いがとまらない。笑いは破邪の力を持つというから、意図せずとはいえ自分で仕掛けた罠を自分の存在が無効にしてるんですよねwww

最後までちゃっかりしたその存在がこの話最大のチャームポイントだった気がするのですが、どうでしょう。

お話は、陰陽師と忍者が争った結果、意図しなかった方向、泉水子にとってはあまり歓迎されない方向に進んでるみたいなんですが、全校生徒に知れ渡ったお姫さま姿の泉水子ちゃんの美しさに、なんともいえずほわーとした心地になる締めくくりでした。

そういえば、泉水子ちゃんのお母さんと深行くんのお父さんて、そういう関係だったのか……。

つづきを楽しみに待ちたいと思います。

シリーズ開幕編はこちら。
RDGレッドデータガール はじめてのお使い (角川文庫)
荻原 規子
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