『ロスト・グレイの静かな夜明け』

ロスト・グレイの静かな夜明け (コバルト文庫)
野村 行央 竹岡 美穂
4086016591


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読了。

一度死んだ少女が“霧の壁の向こう側”で目覚めたのちの生活を描く、夢のような距離感のある不思議な物語。

2011年度ノベル大賞受賞作家の文庫デビュー作品。


両親に愛されて育った少女アズサは事故によって十五歳のときに死んだ。霧の壁の向こう側には死者の甦る国があるといううわさを信じて、アズサの両親は彼女を水葬にする。小舟に乗って霧の壁を越えたアズサが目覚めたとき、かたわらにはカーゴと名乗る少年がいた。少年は近くの町ライオールのそばまでアズサをつれていったが、中に同行しようとはしなかった。ライオールは武器商人マニージの支配する町であり、カーゴはマニージと敵対していたのだ。アズサは孤児たちをひきとっている教会に身を寄せて暮らすことになった。



ふしぎなお話です。

霧の壁によって隔てられた世界、というところから不思議感が漂います。
死者だけが越えられる霧の壁。
そのむこうで目覚めたアズサはたしかに一度は死んだ少女です。

しかし、その世界は死者たちだけの世界ではないようです。
そこで生まれて、死んでいくものたちもちゃんといるのです。
そして、そこにも武器や戦争がありました。
他人を利用して使い捨てていく権力者もいます。

ひとびとは神に祈ります。
けして答えてはくれない神に問いつづけ、すがりつづけます。

死者が生き返る、という以外には現実となにもかわらない世界。
いったい、この世界はどういう世界なのだろう。

読みながら考えていたのはこのことばかりでした。

距離を置いた起伏の少ない文章で淡々とつづられる出来事は、まるで夢をみているように思えます。

娯楽小説にはめずらしい、結末の予想できない物語でした。
ただ、結末のつけかたは娯楽小説のものでしたが。

説明の少なさや抑制された感情表現は文学的だったので、最後は正直、あら、と思いました。

物語全体の雰囲気はとても好きです。

世界設定はちょっとアニメの『灰羽連盟』に似てるような気がしましたが、『灰羽連盟』に比べるとこぢんまりとしてしているかな。

万人受けはしないような気がするお話でした。
コバルトで出たことが不思議です。
レーベル的には角川書店の銀の匙シリーズのほうが似合っていると思います。

『よろづ春夏冬(あきない)中』

よろづ春夏冬中
長野 まゆみ
4163234500


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読了。

現代日本を舞台にした、端正な文章でつづられる怪談風味の日常的短編集。

収録作品は以下の通りです。


希いはひとつ
タビノソラ
最低の一日
海辺の休日
飛ぶ男
待ちきれない
花の下にて
アパートの鍵
雨過天青
ウリバタケ
獅子座生まれ
雨師
空耳
猫にご飯



基本はおとこどうし。

『カルトローレ』『デカルコマニア』で作者さんの作品にふたたび目覚めたわたしですが、読みはじめて、あう、となりました。

初期の綺羅綺羅した浮世離れした作品が、舞台が日常にシフトし文章にも装飾的なところが減ってきたころ、おとこどうしを描く筆がだんだん直接的になってきて、わたしは長野作品から離れたのですが、この短編集はそのころの雰囲気に近かったのです。

とはいえ、ちょっと違うのがお話がたんなるおとこどうしの情事だけはない、どちらかというとメインが怪奇現象ぽいというところ。

怪談といってしまっていいのかどうか迷うところですが、夢で時空を超えたり、異形のものがでてきたり、時間がループしたりと、不可思議な出来事に巻き込まれる話の連続で、おとこどうしを意識しなければ、たいそう面白いお話ばかりでした。

文章は淡々として無駄がなく、どちらかというと無機質で、物語より目だつようなところはありません。話の中にすっと入っていけるさりげなさ。日本の四季がそこかしこに折り込まれているのが印象的。

しかし、完全に視野から追いだすには濃密なおとこどうしなので、読むペースは滞りがち。
文章の色気も少ないのに、ふしぎとそういう場面はにおいたつんですよねえ;
短編集なので、手を変え品を変えという感じになったのも腰が引けた原因かも。

惹句に「長野まゆみの新境地」と書いてありましたが、これ、恋愛対象のことではなかったのですね。うん。

というわけで、面白かったのです。
そのいっぽうで、わたしはおとこどうしは苦手だと再確認させてもらった本となりました。

これからはもっとちゃんと確認してから借りることにします。

単行本を読みましたが、例によってとうに文庫化されてます。
よろづ春夏冬(あきない)中 (文春文庫)
長野 まゆみ
4167717468

『白い花の舞い散る時間 ガールズレビュー』

白い花の舞い散る時間 (コバルト文庫)
友桐 夏 水上 カオリ
4086006472


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読了。

2005年度ロマン大賞佳作受賞作品「ガールズレビューステイ」を改題、改稿したもの。
繊細で緻密な青春ミステリ小説。


ミズキは女子高生。進学塾のチャットで知り合ったハンドル名と女子高生であることしかわからない仲間四人と、夏休みにオフ会を合宿として行うことになった。ただし、ハンドルも本名も明かさず、あらかじめ提示された仮名を振り分けて、匿名性を保つことが条件。呼びかけ人のアイリスが提供したのは人里離れたところにある寂れた洋館だった。「ムラサキカン」と表札の出ていたそこで、少女たちの濃密なときがはじまった。



ネットで見かけた本に興味を持って、でも図書館では予約待ちが長そうだったので、同著者の過去の作品を読んでみました。

こんなミステリがコバルトで出てたのか、というのがまず最初の感想。
なんちゃって平安朝ミステリロマンスではなく、現代を舞台にしたロマンス要素のないひたすら心理劇的なミステリです。

そしてこれが、とても面白いのです。

陸の孤島で起きる非日常を描きながら、謎解きに深く心理劇が絡み合っていて理屈っぽくなく、繊細かつ緻密。センシティヴな少女たちにひりひりとするような作品でした。

いわゆるハッピーエンドではないし、救いがないわけではないけど読後感はどちらかというとダーク。

うーーん。
これは、いまのコバルトの読者層には合わなかったかもしれないなー。
と思いました。

作者さんがふたたび発表の場を得られてよかったです。

というわけで。こちらが今回読めなかった本です。
星を撃ち落とす (ミステリ・フロンティア)
友桐 夏
4488017703


余談。

ミステリで謎ときをメインに据えた作品はフィクション性がきわまるのだなーと、読んでいて思いました。
視野が開けなくて世界が狭くて、箱庭みたい。
閉塞感がずしりとのしかかりますね。

いまのわたしはもっと解き放たれるような話のほうが楽だなー。
あ、だからファンタジーが好きなのかもしれないです。

20121027の購入

リアル書店にて。

ロスト・グレイの静かな夜明け (コバルト文庫)
野村 行央 竹岡 美穂
4086016591


以上、購入。

ネットで評判を見てたのが目の前にあったので、つい衝動買いです。
ラノベは図書館で借りようとするとかなり時間がかかるので……。

この厚みでごひゃくえんするんだー、と感慨深かったです。
わたしがもっとも頻繁にコバルトを買ってた頃だったら、さんびゃくえんだいだったろうな、という厚みです。

ところで、今月はたくさん買った気がしてたけど、じつは本はまだあまり買ってなかった。
miniたんとDVDドライブと増設メモリでがーんと散財したので気がつかなかったんですね。

しかし、これから怒濤の新刊ラッシュなのです。
こんどこそ、気を引き締めなければ;

外付けDVDドライブ買った

Mac miniはドライブを内蔵してないので外付けDVDドライブを買いました。
USBバスパワーならコンセントに空きが無くても大丈夫です。
USBポートに差し込めばすぐに使えます。

DVDドライブ


この機種を選んだのは店頭で見たときの価格と、最安値の機種がデザイン的にいまいちだったのが理由。つまり二番めに安かった。

使ってみて、CDのリッピング時には多少うるさいかなと思いましたが、DVDビデオを見るぶんにはほとんど気になりませんでした。

小さいので机に載せてもそれほど場所は取りませんが、使わないときは取り外して引き出しの中に仕舞っております。

ただ、USBケーブルがとても短いので、タワー型などのマシンには不向きでしょう。
ノートやミニノート用ですね。

でも携帯して使うとなると電源はUSBで間に合うのかなあ。
ふと疑問が浮かびましたが、わたしはそういう使いかたはしないので無問題としておきます。

I-O DATA バスパワー対応ポータブルDVDドライブ「カクうすDVD」ピアノブラック DVRP-U8CK
B004JPHV72


色もこれしか残ってなかったんだけど、ちょっと埃が目立ちますな。

『ヴァインヒルの宝石姫 見習いプリンセスポーリーン』

ヴァインヒルの宝石姫―見習いプリンセスポーリーン
円山 夢久 ひだか あみ
433710402X


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読了。

児童向け中世西欧風異世界ファンタジー。シリーズ二作目。

叔母の嫁いだファルコンヒルで行儀見習いをする女の子ポーリーンを主人公としたお話です。
今回は一作目の登場人物の結婚式に招かれての途中、ポーリーン憧れの女性騎士レディ・オラベルの統べるヴァインヒルにまつわる呪いに巻き込まれるお話。

この呪いは欲に負けての契約違反のパターンかな。

レディ・オラベルの妹ナディーンの屈折具合がリアルで、前作のポーリーンの従姉妹コーネリアといい勝負でした。そしてこのふたりったら……ww

お話としてはやや小粒に感じましたが、子供たちがわいわいがやがややってる様子が楽しそうです。

中世の貴族の日常描写が丁寧で、今回は小姓のお仕事がなんとなくわかりました。

前作に引き続きの出演となるグリフェンのシリーズ的な役割が気になるところです。

シリーズ一作目はこちら。
ローゼンヒルのばら姫―見習いプリンセスポーリーン
円山 夢久 ひだか あみ
4337104011

『魔女とほうきの正しい使い方』

魔女とほうきの正しい使い方 (創元推理文庫)
サラ・ムリノフスキ 今泉 敦子
4488551025


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読了。

現代アメリカを舞台にしたハイテンションなハイスクールコメディー小説、魔法風味。


レイチェルは14歳。ハイスクールの新入生(フレッシュマン)で、両親は離婚していて、学校中のゴージャスなメンバーが集うAリストに憧れる女の子だ。親友ジュエルがAリストに入ってから捨てられた恋人のように惨めだったレイチェルは、ある日、母親から妹のミリが魔女であると告げられる。なんと、母親自身、魔女の血を受け継ぐ魔女だったのだ。ところが、落胆させられたことに自分は魔女ではないらしい。レイチェルはミリに自分がAリストになるための手助けをさせようとするが、母親の教えを守るミリはなかなか言うことを聞かない。そこでミリを悪の道に引きずり込むために、レイチェルはふたりが大嫌いな父親の婚約者ジェニファーへの敵対心をあおることにした。目指すは父親とジェニファーの結婚式の阻止。そして、自分のAリスト入り、あわよくばボーイフレンドゲットだ。



めちゃくちゃ自己中で調子のよいヒロインの、テンションの高い一人称で描かれる、テンポのよいコメディーです。

正直、最初はついていけないような気がしましたが、慣れるにつれて、なんてお馬鹿な子なのー!www と苦笑交じりに引き込まれてしまいました。

魔法がやっかいな道具の域を出ないことでファンタジー色はほとんどありませんが、『プリンセス・ダイアリー』ぽいふんいきのドタバタが楽しかったです。

レイチェルの上昇志向にはミーハーすぎてドン引きましたが、レイチェルとミリの姉妹関係には共感できるところが多々ありましたし、パパとその婚約者ジェニファーの造形、ママと娘たちの関係、レイチェルとタミーの友人関係など、それぞれに丁寧に書かれてあって好感が持てました。

この作品はシリーズ化されていて、日本でも続きが出ている模様です。
クールにみられてるけどじつは違うっぽい少年、ラフとの今後が注目されますw

カエルにちゃんとキスをする (創元推理文庫)
サラ・ムリノフスキ 今泉 敦子
4488551033

『アレクシア女史、埃及で木乃伊と踊る 英国パラソル奇譚』

アレクシア女史、埃及(エジプト)で木乃伊(ミイラ)と踊る (英国パラソル奇譚)
ゲイル・キャリガー sime
4150205485


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読了。

ヴィクトリア朝時代の地中海世界を舞台にした、強い女子が主人公のスチームパンクでロマンティックなドタバタコメディーファンタジー。シリーズ完結編。


娘プルーデンスが吸血鬼アケルダマ卿を後見人とすることになったアレクシアは、ロンドンのアケルダマ卿屋敷の隣人として夫の人狼・マコン卿とその支配下にある人狼団とともに暮らすことになった。〈反異界族〉と人狼の間に生まれた超異界族のプルーデンスはやんちゃがひどく、アケルダマ屋敷は毎日がにぎやかだ。その日もお風呂でひと騒ぎの後、友人アイヴィの劇団の公演に出かけたアレクシアとマコン卿は、吸血鬼ドローンとなったマダム・ルフォーからウールジー吸血鬼群の女王ナダスティ伯爵夫人からの伝言を受けとる。さらに夫妻の元に来訪したキングエア人狼団のアルファ・シドヒーグは、エジプトで音信不通となったベータを探して欲しいという。ウールジー群を訪問したアレクシアを待っていたのは、最高齢の吸血鬼女王マタカラの、アレクシアとプルーデンスのエジプトへの召喚命令だった。




アレクシア女史、エジプトへ行くの巻です。

やー、面白かった。
巻を追うごとにコメディー度が増してきてましたが、この巻はそれがまたいちだんとドタバタに。

それというのも、登場人物に幼児が三人も増えたおかげでハプニングが絶えなくなったのです。
アレクシアとマコン卿の娘、プルーデンスのやんちゃっぷりがかなりひどくて手に負えなくて、まだ言葉による意志疎通のできない彼女を取り押さえるのに大人たちが大騒ぎするのが楽しくてたまりません。

さらに、ふわふわボンネットののアイヴィはなんとふたごのお母さんに!
ふたごはアレクシアによるとおりこうさんで憎らしいほどということですが、それでも幼児なので要所要所でいろいろとやっちゃってくれてます。

個人的にはパーシーが絶妙のタイミングでげぼっとやるところがツボwww

しかも、プルーデンスの後見人となったアケルダマ卿が幼子を愛でる姿が見物、いや読み物です。
アケルダマ卿屋敷の伊達男達がそろって二歳の女の子にかしずいているなんて……だれが想像したでしょうか。

プルーデンスの特異な力の効果も相まって、もうもうもう、笑いが止まらない!

そして我らがアレクシアは母となっても相変わらずで、減らず口でマコン卿を言い負かし、プルーデンスを抱きかかえ、紅茶をたしなみながらパラソル保護領の秘密結社のたくらみを考案し、粗暴なロンドン人狼団ときてれつなタンステル劇団を指揮して八面六臂の大活躍です。

そうして大所帯をひきつれてアレクシアはエジプトへ。

阿鼻叫喚の船旅ののち、エジプトのアレキサンドリアに着いてからも波乱万丈はつづきますが、この異国情緒あふれる都市の描写も素敵でした。

同時進行のロンドンでの不穏な動きは、ビフィと意外な人物の急接近をもたらして、こちらも目が離せないw

後半の見どころは熱気球での旅でしょうか。
砂漠の遊牧民ならぬ気球遊牧民との空の旅にはわくわくしくしました。

って、ちょっと書きすぎたかしら;

とにかく、最後までドタバタながらもしっかりとした冒険小説になってて、もはやロマンス小説とは言えないながらも、これまでさんざん役立たずでこの巻でも醜態を晒しつづけてきた愛すべきお方の、すばらしく貴重な見せ場もあるし、完結編にふさわしく大きな喜怒哀楽に彩られたドラマティックなお話になってました!

ああ、なんだか支離滅裂です……;

タンステル劇団のキテレツ演劇に、ムシュー・トルーヴェの醜いパラソルにとツッコミネタは満載w

また、ビフィ視点の独白がいちいち気が利いてて、かれのアルファに対する親愛に満ちた思いにはくすくすと笑いが漏れました。

マダム・ルフォーの謎めいた存在感も、アレクシア妹のいけすかなさも、目立たず有能なベータであるライオール教授も、タイを完璧に結べるチャニング・チャニング少佐も、おどろくべき執事フルーテも健在。

アレクシアとマコン卿の絆はおたがいをやさしくつつんでいるような感じで素敵でした。

ほんとうにすみずみまで娯楽に満ちた、楽しいシリーズだったなあ。

訳者あとがきによると、本国ではマダム・ルフォーのシリーズが刊行されているそうです。
ぜひ日本語で読んでみたいですね。

シリーズ開幕編はこちら。
アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)
ゲイル・キャリガー sime
4150205329

『遠まわりする雛』

遠まわりする雛 (角川文庫)
米澤 穂信
4044271046


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読了。
端正な文章で叙情的に描かれる青春ミステリ。「古典部」シリーズの四冊目。


やるべきことなら手短に
大罪を犯す
正体見たり
心当たりのある者は
あきましておめでとう
手作りチョコレート事件
遠まわりする雛

あとがき



今までは一冊でひとつの事件を解決するものでしたが、今回は短編集。
高校一年生の四季おりおりの小さな謎を古典部四人の変化とともに描いた、とても青春してる作品群でした。

ミステリとしては小粒だけど、その分叙情的というか心理描写がこまやかでとても楽しかった。
ふたつの恋未満の関係と、ふたりの少年のモラトリアムが絡み合うさまがラノベの恋愛ものとは色合いが違ってて、なんとなく昔の少女小説というか、先日読んだばかりだからか昔の氷室冴子を思い出したり、しました。とくに「恋する女たち」かな。

「やるべきことなら手短に」
は、古典部で三人が出会ったばかりの頃のお話。
ホータローの千反田さんへの苦手意識と、でも彼女が嫌いなわけではないという、逃げ腰な態度が嗤えるお話。

「大罪を犯す」
は、古典部に摩耶花ちゃんが加わった後、四人はどんなときにどんなふうに怒るかというお話。
摩耶花ちゃんのホータロー評と、千反田さんに叱られたというホータローに笑った。
ホータローが千反田さんに好感を持ちはじめていることがうかがえます。

「正体見たり」
夏休み、まだ入須先輩から依頼が来る前に摩耶花ちゃんの親戚の民宿で合宿をするお話。
ホータローがいろいろとへたれなのが可愛いですw

「心当たりのあるものは」
たぶん文化祭後のお話。
古典部の部室でホータローと千反田さんがふたり。
ホータローの推理力を褒める千反田さんに自分は運がいいだけだと反論するホータローが、校内放送をテーマにそれを立証しようとするお話。

「あきましておめでとう」
初詣でのお話。
千反田さんの和服姿に見とれるホータローw
途中からホータローと千反田さんサイド、摩耶花ちゃんと里志くんサイドに分かれてます。
摩耶花ちゃんたちのホータロー評はいつも散々ですねえww

「手作りチョコレート事件」
この話がこの本のメインかな。
バレンタインで摩耶花ちゃんが里志くんのためにつくったチョコレートが盗まれるお話。
あるいは、試行錯誤の末にゆきついたポリシーが恋愛と並び立たないことに悩みつづける少年の話。
里志くんはとても真面目な子なんだなあと思いました。
摩耶花ちゃんのことを大切に思ってるんだなあ。

悩める親友の姿に自分も無関係ではないようだと気づきはじめるホータローに、読んでるわたしはフフフフww と笑うばかりです。

そして「遠まわりする雛」
生き雛の役を務める千反田さんに傘持ちとして随行することになったホータローが、しまった、これはよくない、とうろたえつづけるお話。

ホータローの省エネ主義には、お姉さんの存在が大きいのかなと推測します。
折木家には、母親の存在がすっぽりと抜け落ちてまして、言及されてるのは父親と姉だけ。
父親は学者のようですが、ホータローの話にちょくちょく出てくるのはお姉さんだけです。
そして、お姉さんはたいそう強烈な個性の持ち主で、なおかつ、なんでもよくできるらしい。
ホータローは「姉貴にはかなう気がしない」とまで言っています。

幼い頃から優秀なお姉さんの姿を目の当たりにしていたホータローは、お姉さんには何をしても勝てない、張り合うのは無駄である、自分が何もしなければお姉さんに負けないし傷つくこともない、というふうになってしまったのではないかなー。

ホータローは千反田さんと出会って、すこし自信を取り戻したのかもしれません。
プライドをくすぐられたともいえますね。

だがしかし、これから千反田さんと向かい合っていくためには、なにもしない無気力な自分のままではいられない、ということにうすうす気がついてもいる。
なにしろ千反田さんは何かをする自分を気にかけてくれているのですから。

そしていまにも発見しそうになってるのに、まだ目をそらそうとあがく様が、「これはよくない」という言葉に表れてるのだと思われて。

もう、笑えて笑えてしかたがありませんでした←笑うところか!w

千反田さんが自分の故郷と将来を語るシーンは、ホータローならずとも胸が熱くなりました。……これってもう○○じゃない?

というわけで、たいへんに楽しゅうございました。
隅々まで堪能して未だに読み返してはニヤニヤしております。

二年生になった四人はどうなっていくのかなあ。
わたし、気になります!

ふたりの距離の概算 (角川文庫)
米澤 穂信
4041003253

『風の王国 山の上の賢者』

風の王国 山の上の賢者 (風の王国シリーズ) (コバルト文庫)
毛利 志生子 増田 メグミ
4086015390


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読了。

吐蕃王に嫁いだ唐の公主の、波乱万丈の人生を描く歴史ロマン。シリーズ二十三冊目。


吐蕃王ソンツェン・ガムポの妃となった翠蘭は、王太子ラセルの花嫁を選定した後ヤルルンから帰還した。ソンツェン・ガムポの病を隠しつつ次代への準備をつづける中枢部の緊張は高まるばかりだ。翠蘭は離れて暮らす娘イェルカとの距離を縮めるまもなく、前夫リジムの葬儀を行うための寺院建立の責任者に任命され、ラサへと赴くことになった。旅路の半ばではシャンシュンに赴任中の婚約者に嫁ぐ親友・朱瓔との別れが待っていた。



あいかわらずの面白さでした。
少女向けの歴史ロマンス小説として開幕したシリーズですが、もはや完璧に歴史大河小説になりましたね。

ラセルの花嫁選定がおわり、今回はまたあらたなエピソードの序章といった趣です。
話はゆるやかにはじまりますが、とても濃密。
状況説明、古参のひとびとと新たな登場人物との関係整理のなかに、吐蕃の文化が自然に理解されるような展開になっていて、異世界もの好きのわたしにはたいそう興味深かったです。

具体的にいうと、吐蕃の葬送文化ということになりますか。
共生の扱われかたとか、墓の建てられかたとか、なるほどー、でした。
このシリーズは舞台が書き割りでなく物語に重要な役割を果たしてくれるところが大好きです。

そして寺院建設に翠蘭が関わることになり、仏教に光が当たるようになりました。
ようやく今に伝わる文成公主の伝説のはじまりでしょうか。

唐から派遣された坊さんたちとの間がなかなかたいへんで、娘であるイェルカとの間もぎこちないままなのに翠蘭も苦労が絶えないですね。
実の娘との距離の取り方に苦労して、リジムとラセルの関係に思い当たったりする翠蘭の姿に、じんわりしてしまいました。
今になって理解できる夫の態度……泣けまする。

そのかわりといってはなんですが、ラセルの成長には目を見張るばかりです。
ラセルに助けられてるな、翠蘭。
ラセルの犬たちもしばらくぶりに大活躍しています。わーい!

サブタイトルの山の賢者ですが、ガルの言葉から想像していたのは世捨て人のようなお年寄りでしたが、ははは。

またしてもくせ者の登場ですなー。
つづきを読むのが楽しみです。

風の王国 王杖の守者 (風の王国シリーズ) (コバルト文庫)
毛利 志生子 増田 メグミ
4086016613

『月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ!』

月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ! (コバルト文庫)
氷室 冴子 今 市子
4086016680


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読了。

2008年に亡くなった氷室冴子の単行本未収録作品に代表作を合わせた作品集。
収録作品は以下の通りです。


月の輝く夜に
ざ・ちぇんじ!
少女小説家を殺せ! 1
少女小説家を殺せ! 2
クララ白書 番外編 お姉さまたちの日々



目玉はほぼ遺作となった「月の輝く夜に」でしょう。
平安朝後期を舞台に、しっとりとした雰囲気で男と女の様々な関係を描いた、深くしみじみとする完成度の高い短編でした。

読んでいて、作者さんもこんな思いをしていたのかなあなどと邪推してしまうほどに、こまやかな情感が漂うリアルなやりとりにどきどきしてしまいました。

少女小説というには若干大人の機微をえがいたお話で、一般文芸にゆかれてもきっと活躍されただろうと思うと残念でなりません。

「ざ・ちぇんじ!」はとりかへばやを下敷きにした平安朝ドタバタラブコメの代表作。
わたしの大好きなお話で、買った当初は何度も読み返していたものです。
おかげで数十年経ったいま読んでもかなりこまかいところまで覚えていて、よかったーと妙なところで安堵したりw

今回あらためてみて、文章のすばらしさに感嘆しました。
すばらしくテンポがよくてなのに過不足無く情報が入ってきて品があり、さらに機知に富んでいます。
文芸という点で高いレベルで書かれていて、この方がわたしの小説への窓口だったことをとても感謝しました。

「少女小説家を殺せ!」と「クララ白書番外編」はおまけ短編みたいなものだったようです。

暴力的なまでに奇想天外なファンタジーを書く火村彩子センセに寄生された女子大生の悲喜劇がとても笑えた「少女小説家は死なない!」。
その読みどころはいずれ劣らぬ奇人変人の少女小説家の卵たちの書く、キテレツ小説だといえましょうw

彩子センセのぶっとびファンタジーも変だけど、この短編で一番笑ったのは彩子センセのライバル・ルネ由子の描く支離滅裂なハーレクイン風ロマンスです。読んでるうちに笑いが止まらなくなってしばらく本に戻れなかった……。

由緒あるキリスト教系の女子校の寄宿舎を舞台に少女たちの日常をえがくドタバタコメディー「クララ白書」はわたしが初めてであった氷室冴子作品。

主役たちをあたたかく見守るあこがれのお姉さまたち、そのひとり影の生徒会長・虹子様視点で描かれるお姉さまたちの実態にこれまた何度も吹きだしてしまいました。

『マリア様がみてる』を読んだときに同じ女子校のお姉さまもので似てるかもと思ったのは、とんでもない間違いでございました。
「クララ白書」に「マリみて」の繊細さ・情感はありません。

代わりにどこまでも我が道を突き進むユニークでドライでわがままな女の子たちが、ページからはみ出しそうなエネルギーで元気に走り回ってました。

虹子様のさばけた策士ぶりも、清らなる椿姫の非常識っぷりも、濃子先輩の気弱な王子様っぷりもあいかわらずで、楽しかったです。これはまた読み返したくなってしまった。

なつかしさと、完成度の高さへの感嘆のうちに読み終えました。

まだまだお元気で書いていて欲しかったなあと、つくづく思う作家さんでした。

いまさらですけどご冥福をお祈りします。

20121009の購入

予約本を受け取りに行ったついでにリアル書店に寄りました。

世界樹の影の都 (ハヤカワ文庫FT)
N.K. ジェミシン N.K. Jemisin
4150205507


以上、購入。

以前購入した「空の都の神々は」の続編だそうです。
まだ読んでないのですが、とりあえず捕獲しておきました。

その他、夏の間に落ちまくった筋力を取り戻すためにあれこれ購入しました。
筋トレして体力を戻して、最終的にはたまってしまった脂肪を落とすのが目標です(涙。

空の都の神々は (ハヤカワ文庫FT)
N・K・ジェミシン 佐田 千織
415020537X

『盗人の報復 ヴァルデマールの絆』

盗人の報復―ヴァルデマールの絆 (C・NOVELSファンタジア)
マーセデス・ラッキー 竹井
412501115X


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読了。

中世西洋風異世界を舞台に、貧民街で生まれ、自分の才覚で生きのびていく少年の冒険を描くファンタジー。
ヴァルデマール年代記の一冊。


スキッフは母親を亡くし、貧民街にある伯父の酒場〈柊の薮〉亭で従兄のカルチェンに虐げられながら暮らしていた。ろくな食事は寺院で学ぶたびにもらえる朝食のみで始終空腹を抱えていたかれは、金持ちの屋敷に忍び込んで盗みをすることを覚え、それだけの才覚がある自分を誇ってもいた。ある日、いつもどおりオーサレン卿の館に潜り込み昼寝をしていたスキッフは、同業者の少年ディークと出くわした。スキッフよりも年かさでスキッフよりもまともな身なりをしたディークは、スキッフを自分のねぐらに連れていってくれた。そこでは両足の無い男ベイジーが盗みの高度な技術をさずけながら少年たちとともに暮らしていた。



シリーズで存在感あふれる脇役として活躍していた元盗賊〈使者〉、スキッフの生い立ちの物語です。

というわけでこの話の主役はスキッフなのですが、この話でもっともインパクトがあったのは貧民街です。主役は貧民街と言ってもいいのではないかと思ってしまうほどすごい所でした、貧民街。

スキッフの暮らす、伯父所有で従兄が支配する酒場〈柊の薮〉亭の描写からしてすごかったです。
労働環境の酷さはある程度予想の範囲内でしたが、商売の汚さがわたしの度肝を抜きました。

これって客にだす食べ物じゃないだろう。
金とって何飲ませてるんだ、この酒場。

その他にも目からうろこというにはあれな、常識を覆されるようなところがありました。
それはもういろいろとありました。

こんな下層階級の暮らしを読んだのは初めてです。
フィクションにもあんまりくわしくは出てこないですよね、貧民街の暮らしって。
日常を細々と描くのが持ち味のラッキーだから、ここまで書いたんだろうなー。
ここに暮らしたいとはぜっっったいに思わないけど、かなり興味津々でした。ええ、ほんと。

そんな荒んだ地区に暮らす人々に、他人のことをおもいやるようなゆとりがあるわけもなく。
殺伐とした世間で親のない子供が生きていくには自分の才覚を頼りにするしかないのでした。
信じられるのは自分だけ。
他人をあてにすると馬鹿を見る。

スキッフもそうやって暮らしているわけですが、ある出来事をきっかけに変わっていくというのが、このお話です。

スピンオフとして書かれた物だと思うので、読み手はスキッフがどうなるのかを知ってて読んでる人が多いのだろうなと思うのですが、かれがなるものよりも、かれが得る物のほうが重要に感じられる話でした。

とくに、ベイジーとアルベリッヒとの出会いは特別でしたね。
そして、〈供に歩むもの〉キムリーは別にいなくてもいいような気がしてしまったりしました←おいw
キムリーが選んでくれないと使者にはなれないのだから重要なんだけれど、ただのお友達みたいなんですよね。

これはこのシリーズ全般言えることだけど、〈供に歩むもの〉と〈選ばれしもの〉の絆があまりにも日常的に描かれてるので、スペシャルさがうすいというか。それはちょっとわたしには不満なところなんですが。まあ、いいや。

シリーズでおなじみの登場人物がちらちらと顔を見せてくれるのが楽しかったです。

わたしの今回の一押しは、アルベリッヒ。
かれもこれまでのシリーズで何度も出てきてるひとですが、こんなひとだったんだ、とびっくりしました。

そのアルベリッヒの話が単独で出ているじゃないですか。
そうと知ったからには、これは読まねばなりません。

追放者の矜持 上 - ヴァルデマールの絆 (C・NOVELSファンタジア)
マーセデス・ラッキー 竹井
4125011974

追放者の矜持 下 - ヴァルデマールの絆 (C・NOVELSファンタジア)
マーセデス・ラッキー 竹井
4125011982

『クドリャフカの順番』

クドリャフカの順番 (角川文庫)
米澤 穂信
4044271038


[Amazon]

読了。

端正な文章で描かれる青春ミステリ小説「古典部シリーズ」の三冊目。


神山高校は文化部の活動が盛んでカンヤ祭といえば地域の一大イベントである。お祭りムードの高まる学園で、省エネがモットーの一年生・折木奉太郎の所属する古典部は、重大な問題に直面していた。文化祭で販売する文集「氷菓」が手違いで大量に印刷されてしまったのだ。短い協議の結果、販路拡張と知名度のアップが急務と決定した。完売を目標に掲げ、販路拡張を受け持つことになった部長・千反田えるは校内を歩き回るうちに、「十文字」を名乗るカードと引き換えに小物が盗まれる事件に遭遇する。




面白かったー。

シリーズ開始時から言及されつづけていたカンヤ祭が、ついに本番です。
これまではホータローの一人称単視点で全編が描かれてましたが、今回は古典部四人がそれぞれ語り手になる一人称複数視点での描写となります。
でないと、古典部の部室からほとんど出ない話になりますからねえ、ホータローめww

というわけで、これまでホータロー視点でしかわからなかったほかの部員の、それぞれの環境や視点や考え方があきらかになって、ついでに彼らの見ているホータローがどんなやつなのかもわかる、たいそう興味深い展開でした。

一番意表を突いたのは、千反田さんでしょうね。
豪農千丹田家を背景に持つ環境は、それだけで普通とはちと色合いが異なりますし、彼女の素朴な好奇心に充ち満ちた視点で描かれるシーンは、その天然性を含めて、とっても愛らしく楽しかったです。カンヤ祭開幕式のところでは思わず笑ってしまいました。

ホータローへの好印象がほほえましく、それでもかれを「とても腰が重い」と評してるあたりにニヤニヤしました。

里志くんは以前からホータローに思うところがあるとわかってました。
なるほど、こんなことを考えていたんだなあ。
プライドと競争意識にどこかで折り合いをつけたいと思うのは、不安だからかなと思いました。
諦めのポーズをしていてもかれは自分の可能性をまだ信じていたいのだと思います。
挑戦しなければしくじることもない。自分からすべての芽を潰したくないのですね。

かれが摩耶花ちゃんに距離を置きたがるのがわかる気がしました。

それから摩耶花ちゃん。
ストレートな物言いの反面、自分の感情をさらけ出すのはちょっと苦手な摩耶花ちゃんは、どうやら氷菓と一緒に個人的な趣味のなにかも印刷所に発注していた模様です。本来はそちらが二百部だったんでしょうね……うんw

すばらしい作品への憧れと、自分の実力との距離の認識は、ものを創る側になりたいと思う人間にはかならず訪れるものです。
漫研のエピソードは、既視感とほろ苦さに若さがあいまって、なんともいえない心地になりました。

タイトルの理由も、そういえば考えてみればこのシリーズ自体が、自分の可能性を探りつつ限界をおそれる若者たちという、とても青春的なものを描いているのかなあと思ったり。

期待する、という言葉が含む多くの意味に、いまさらながら思いをはせたりしてしまいましたわ……。

そんな感じで、四人それぞれがいろんなことを感じながら、にぎやかに進んでいくお祭り=文化祭の様子がとても楽しいお話でした。

一番盛り上がったのはお料理研の対抗戦イベントかな。
千反田さんの意外な一面とやっぱりな一面がかわいかったのと、ホータローのわらしべプロトコルがかみ合う瞬間に興奮しました。

それにしても、ホータロー姉。
相変わらずの暗躍ぶりで、どこまで弟の状況を把握してるんですかねえ。
わたし、気になります。

シリーズのつづきはこちらです。
遠まわりする雛 (角川文庫)
米澤 穂信
4044271046

『機龍警察』

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)
月村 了衛
4150309930


[Amazon]

読了。

機甲兵装の導入されたほとんど現在の世界を舞台にした警察小説。シリーズ開幕編。


威力が増大し使用不可能になった大量破壊兵器に代わり、台頭してきた機甲兵装は、世界中を戦場に変えつつあった。ある朝、一本の110番通報により駆けつけたパトカーの前にあらわれた所属不明の三機の機甲兵装は、都内に破壊と混乱と死者を大量生産しながら逃走し、地下鉄ホームへ逃げ込んで車両ごと乗客を人質にとり立てこもりを始めた。『龍機兵(ドラグーン)』と呼ばれる新型機をもって立ち上げられた警視庁特捜部は、成立事情や構成員の独特さにより警察内部の既存勢力に嫌悪され対立している。それゆえ現場の指揮権をゆずって後方支援に当たることになった。SATを主力として展開されていく突入作戦。龍機兵の操縦をする傭兵・姿は嫌な気分になっていた。現状のなにかがひっかかるのだ。姿の予感は的中し、事件は悲惨な結末を迎える。その背後には見えない大きな闇がひろがっていたのだ。



一気読みしてしまいました。
面白かったあ!

警察小説の臨場感にミリタリーものの迫力あるアクションが楽しめます。
しかも演じるのは機甲兵装、つまりロボット!

シリアスな展開ですがキャラクターは立ってるし、ビジュアル的にもイメージしやすい、畳みかけるようなスピード感ある文章にわくわくしながら読みました。

「フルメタル・パニック!!」あたりを読んでた人ならすんなりと読めるんじゃないかな。
ボーイ・ミーツ・ガールなどは欠片たりとも出てこない、愛があるとしたら警察愛とか同僚愛とか親兄弟愛とか、マシン愛とか?ですが、そのかわり組織内部の軋轢とか駆け引きとかが書かれていて、大人のラノベて感じです。

警察でロボットものというと「パトレイバー」が思い浮かぶけれど、ミリタリ色の濃さでやはり「フルメタ」のほうが近いと思います。機種の名付けかたもゴブリンとかホッブゴブリンとかフィアボルグとかバーゲストとかバンシーとかだし。

特捜部は「攻殻機動隊」の公安九課に似てますがw
少佐みたいな女ゴリラが出てこないかなー←つまりいないw
トップダウンでつくられた、謎の元外務官僚の率いるセクション。所属するのは日本・ロシア・アイルランド出身の外部の傭兵。メカニックは女性と派手ですが。

彼らを支える捜査員はあちこちから引き抜かれた精鋭なれど、外部出身者に反感を持ちつつ、警察内部では裏切り者扱いされてる苦しい立ち位置。

周囲から叩かれ、警察組織そのものの歪みに直面し、あるべき警察の姿を模索する警官たちの任務にかける真摯な姿勢には頭が下がります。

個人的には、見た目にそぐわぬ熱血ユーリ君と、存在そのものがブラックボックスである龍機兵が気になります。

つづきも、世間ではすでに文庫になって店頭に並んでます。
機龍警察 自爆条項 (上) (ハヤカワ文庫JA)
月村 了衛
4150310750

機龍警察 自爆条項 (下) (ハヤカワ文庫JA)
月村 了衛
4150310769


早く読みたい……なにこの予約待ち人数orz

『サイバラバード・デイズ』

サイバラバード・デイズ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
イアン マクドナルド Ian McDonald
4153350036


[Amazon]

読了。

近未来の分裂したインドを舞台に描かれるサイバーSF中短編集。


サンジーヴとロボット戦士
カイル、川へ行く
暗殺者
花嫁募集中
小さき女神
ジンの花嫁
ヴィシュヌと猫のサーカス

訳者あとがき



これは面白かった!
訳文がちょっととっつきにくいところもありましたが、それもふくめて、これまであまり接してこなかったインドのエキゾチックな雰囲気が楽しめました。

日本や中国製のロボットヒーローに憧れるインドの少年を描く「サンジーヴとロボット戦士」から、欧米人と現地人の少年の関わりを描く「カイル、川へ行く」は典型的な異文化接触のお話。

「暗殺者」は連綿と続く階級抗争のなかで敵の一族への武器として生まれたと言い聞かされて育つ少女の、ちょっと谷山浩子の「仇」みたいなお話。

「花嫁募集中」は産み分け技術の発達によって男女比率が極端にバランスを欠いた結果、結婚できない男子たちが奮闘するお話。

「小さき女神」はチベットの生き神クマリとなった少女の、魂の遍歴を描くお話。

「ジンの花嫁」は、ダンサーであるヒロインと存在を禁止された上級AIの、異種婚姻譚のようなお話。

そして「ヴィシュヌと猫のサーカス」は発達したサイバー技術とAIの行き着く果てを、デザイナーズベイビーの少年の視点で描くお話。

訳者あとがきに「多文化SF」と書かれていましたが、まさにそのとおりだと思います。
文化の違いはなにもことなる人種や宗教の間だけに存在するわけではないのですよね。
階級の間にも、世代間にも、ジェンダーの間にもそれぞれことなる意識に根ざした文化がある。
そこに生ずるさまざまな誤解や行き違いが生み出すドラマはSFの枠にとらわれない普遍性を持つのだなーと思いました。

それだけでなく、ここで描かれているサイバー空間の広がりの途方もなさもとても魅力的。
AIが役者として演じるドラマが大流行という社会にはびっくり。
(それって一次創作のキャラクターを使って別のドラマを作るようなものなんじゃw)
情報の蓄積や技術の進歩により、ほとんど人間のように行動しはじめたAIが、ただ肉体がないだけの人間みたいなことになっていくのにまたびっくり。

そこから引き起こされる人間とAIのロマンス「ジンの花嫁」。
AIを炎からつくられたジン(「千夜一夜」にでてくるあれです)になぞらえた妖精譚みたいなこの話に、わたしはとても魅了されました。

サイバー技術の行き着く果て、発達しすぎた科学の世界はまるで異界のようです。
まさに彼岸へといたってしまう最後の話を読んで、大きくため息をつきました。

最先端のサイバーSFで、ファンタジーに出会ってしまったような読後感。
とても印象深い本でした。