『リリエンタールの末裔』

リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)
上田 早夕里 中村 豪志
415031053X


[Amazon]

読了。

『華竜の宮』の作者さんのSF短編集。


リリエンタールの末裔
マグネフィオ
ナイト・ブルーの記録
幻のクロノメーター

解説/香月祥宏



桁外れのスケールをもった長編とくらべると、短編集だからかわりとあっさりとした感じの作品集でした。

「リリエンタールの末裔」は『華竜の宮』の世界の内陸が冒頭の舞台で興味深かった。
長編のプロローグ的な雰囲気があるので、もしかしたらそういう構想があるのかなあと期待。

「マグネフィオ」はSF色よりホラー色を感じる、現実との地続き感のつよいお話。

「ナイトブルーの記録」は人と機械を繋ぐ心理的なお話。のちに『華竜の宮』につづいていくのかなと思わされる記述があります。

「幻のクロノメーター」は、十七世紀イングランドの実在の時計技師をとある女性へのインタビューを通して描く、技術SF。当時の都市の風俗環境描写と、物語りの構成が絶妙でした。
たぶん歴史改変もの。

短編だからか、現実からの跳躍が少ない、一般にはなじみやすそうなお話が多かったです。わたしはその点が物足りなかったですが。

そんな中では「リリエンタールの末裔」が好きだな。
収録作の中では一番未来を描いているからかもしれませんが、人間社会に生まれてしまう差別の閉塞感と、空への解放感のコントラストが印象的でした。

華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)
上田 早夕里
4150310858

華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)
上田 早夕里
4150310866

20130820の購入

久しぶりにリアル書店に行きました。

花の名を知らない (プリンセスコミックス)
杉山 小弥花
4253190189


以上、購入。

たまには新規開拓をと思い、一冊完結の短編集をみつけたので買ってみました。

うん、けっこう面白かった。
痛々しい青春もので、理屈っぽくひねくれてるところが印象的。
青臭いので好みは分かれるだろなと思いますが、わたしは好きだな。

過去作品が多いらしく、最後の書き下ろしだけ絵柄が全く違うのでびっくりしました。
お話もすこし客観的になってるので、今現在の作品も読んでみたいところです。

が、店にはシリーズ物の四巻しか置いていなかった;

『ブラックアウト』

ブラックアウト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
コニー・ウィリス 松尾たいこ
4153350052


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読了。

21世紀から第二次大戦中のイギリスへと旅立った大学生たちの、トラブル続きのタイムトラベルSF。


2060年、オックスフォード大学。実用化された過去への移行技術は歴史的学術研究のために大学の史学部によって管理されていた。ところがタイムマシンは研究者や学生の利用がうなぎのぼりで、スケジュールは過密状態。第二次世界大戦を研究対象にした三人の学生たちは、度重なるスケジュールの変更の後にようやく過去へと降下したはずだったが。



面白かった……けど疲れましたw

ロンドン空襲をメインに、史学生たちがドタバタとうろつきまわるタイムトラベルものです。

空襲を勇気を持ってのりきった民衆の姿を観察したいと最中のロンドンに降下したのが、まずポリー。
彼女は百貨店に勤め先を得た後、なんとか一度現代に戻って報告しようとしますが、つねにトラブルに巻き込まれてそれが果たせないまま時間がすぎていきます。

空襲からの疎開した児童の実体をしりたいとウォリックシャーの領主館のメイドをしていたのが、メロピーことアイリーン。
空襲が始まる前に調査を終える予定だったのに、これまたトラブル続きで現代への報告ができません。

そしてドーヴァーで英雄的な働きをした一般人を目の当たりにしたいと志願したマイク。
降下した地点がどこなのか判らないまま、成り行きで行ってはならない歴史の転換点へと連れてゆかれて(と本人は思い込んで)しまいます。

肝は、このタイムトラベル装置は過去へしかいけないこと。
降下地点の起動にはさまざまな条件があること。
さらに、思い通りの場所と時間に降下できたとは限らないこと。
降下地点が作動しなくなったら、現代からの救出を待つしかなくなること。

三人は、降下した時点から現代との交信を断たれ、それぞれ事前に学んできた知識を総動員して行動することになりますが、かれらの前には次から次へとアクシデントが立ちはだかります。

空襲警報が鳴り響き、対空砲がどかんどかんと応戦している戦中で、めまぐるしく自分の状況分析や対人関係の構築に励み、なんども袋小路に踏み込んでは後戻りする若者たちの姿は、奮闘以外の何ものでもありません。

ほんとうにいろんなトラブルで、あんまりドタバタとしているのでつい笑ってしまうほど。
なりふりかまわず一生懸命なひとたちの行動って、ときに滑稽そのものなんですよね。
なので状況は深刻なのに雰囲気はコメディー。

この感じ、なにかに似ていると考えていたのですが、そうだ三谷幸喜だ、と思いつきました。
防空壕で集ったひとたちがいきなり演劇を企画しはじめるあたりなんか、とくにそんな感じです。

それから、史学生たちが出会うトラブルの中には、歴史的事実の罠がいくつかあるような気がします。
歴史的事実というのは、つまり、書き記されて公になった事柄というだけで、書かれずに忘れ去られた事柄は調べようがないわけですよね。

単に記されなかったことならわからなかったで済みますが、誤って記されたことが訂正されずに残されてる可能性もあるわけで、これはタイムトラベルにはかなり大きな問題なのではないかとおもうんだけど、どうだろう?

読みながら、歴史をもっと知っていれば、もっともっと楽しめるんじゃないかなーと思いつつ、濃密な時代の空気感と細かいところまで描かれた風俗を堪能し、史学生たちと一緒にひーひー悲鳴を上げていました。

というわけで、ドイツ軍の空襲にさらされるロンドンで、途方に暮れる史学生の運命や、いかに。

つづきは『オール・クリア』で、だそうです。
うわーーー!
終わってなかったー!!
悲鳴!!!

オール・クリア 1(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
コニー・ウィリス 松尾たいこ
4153350095

オール・クリア2 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
コニー・ウィリス 松尾たいこ
4153350109

『デアラピス』

デアラピス
小瀬木 麻美
4488024955


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読了。

施設で育った少女が、突然あらわれた美貌の兄との出会いにより、その数奇な生い立ちをしらされる、SF風味なファンタジー。


物心ついた時から人にまつわる色に魅せられてきた少女、真梨亜。身よりの無い少女たちの暮らす施設で育った彼女は、高校生のある日、兄と名乗る美貌の青年・譲とともにその地を離れた。譲に生い立ちと生まれ持つ特殊な能力とを知らされ、そのために身を隠して暮らさねばならなくなった真梨亜だが、譲に深く思いを寄せるようになった彼女にはなんの不満もなかった。数年後、ふたたび日本に戻ったふたりは、小田桐静聴ルームと銘打った部屋でカウンセラーもどきの仕事を始めた。



『ラブオールプレー』の作者さんのファンタジーです。

ひとが、まとうそれぞれに独自の性格や思い、体調を色として見抜くちから。
憧れ。
初恋。
嫉妬。
歳をとらない美貌の存在。
人工的に生み出された命。
力を増幅する貴石。
運命のパートナー。
ひとがひとに抱く、愛と憎しみ。
禁断の恋。
力を伝える古い血脈。

そんな、たくさんの萌え要素をつめこんだ、言い替えればちょっと欲張りすぎたように感じられるお話でした。

ワンシーンワンシーンはとても丁寧で、おちついた文章の流れで読みやすいのですが、要素がありすぎて焦点がぼやけてしまったようです。

とくに、強い絆で結ばれた幼なじみの祐未さんの存在感が素敵すぎて、ただひとりの兄・譲のかけがえのなさを食ってしまったような気が。

譲の長く孤独で寂しい背景がかすんでしまったせいで、話のメインイベントの必然感というか宿命感も薄れてしまいました。

物語の舞台になっている場所がわたしにしてはなじみがあり、なんとなく想像ができてたのしかったので、よけいに残念でした。

つづきがあるのなら譲さんメインでお願いしたいと思います。

「クローズド・アクアリウム」

朝陽遥さん作「クローズド・アクアリウム」読了。

未来の月を舞台にしたSF中編、完結済み。

人類が生きのびるためにさまざまなものを犠牲にし情報操作された社会で、恋をし、成長するうちに真実に気づいていく少年の、プライベートな物語。

せつなくて苦しくて、それでも前向きな読後感。
心に残るお話でした。

『スワロウテイル人工少女販売処』

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)
籘真 千歳 竹岡 美穂
4150310017


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読了。

原因不明の感染症により人類が存続の危険にさらされている旧東京を舞台に、人工妖精と呼ばれるアンドロイドによる連続殺人を軸に未来社会をディテール豊かに描く、繊細で残酷な未来SF。


〈種のアポトーシス〉と名付けられた不治の病の感染者を隔離するために造られた人工島〈東京特区〉で、人工妖精(フィギュア)によるパートナー殺人事件が起きた。自警団の曽田陽平の要請により現場に駆けつけた人工妖精揚羽が、犯人の瓦解した身体の微細機械からひきだせたのは「一日草」という言葉だけ。人工妖精によるパートナー殺人は半年で四件。すべての事案で犯人は揚羽により処分されているが、模倣犯とも言いがたく、リナリア柄の日傘の共通点により連続殺人であるとの印象が深まった。しかし、なぜ、どうやって? 疑問を抱えたまま保護者の元に戻った揚羽に、思いがけない出会いが待っていた。



面白かったです。

何といっても、未来の光景がイメージゆたかでクリア。
蝶がとびまわり、繊細な人工妖精たちが奉仕する、人工的ですみずみまで清潔な東京特区。
それらをつくりあげている、微細機械や人工妖精のたちの気質などの未来のテクノロジーのこまやかな設定。とくに人工妖精の気質関連が興味深かったです。

それらを描写する文章の、少し古風でありながらとても理性的かつ緻密な、独特の節回しのけれん味も作品に合っていると思います。

若い娘型の人工妖精・黒い翅の揚羽の、出来損ないである劣等感をアクアノートの任務遂行により晴らそうとする、あぶなっかしくも魅力的な姿。

揚羽の保護者で一級原形師でありながら、タバコをふかしながら世捨て人のように日々を送る、外見小学生の詩藤鏡子のギャップ満載な存在感。

鏡子のタバコ供給源・屋嘉比に、その被保護者で風気質の人工妖精・鈴蘭。

殺人事件の背景はかなり複雑でハードなのですが、登場するキャラクターたちがラノベ風に性格や容姿が立っていたおかげか、とても読みやすかったです。

そのぶん、ちょっとサービスがすぎて余分かなと感じたりする部分も無きにしもあらずでしたが、こんなに広がる話とは予想していなかったにもかかわらず、一冊にまとまったので、すごいなと思いました。

ただの殺人事件かと思っていたら、自治区と本国の政治的なバランス関係や、自治区内での不安要因にくわえて、人類の行く末まで視野に入ってくるなんて。

このスケールはSFです。興奮しました。

とくに、〈種のアポトーシス〉の最終的症状が非常に衝撃的でした。これは、嫌……。すごく嫌……。

あとは、時代が明記されていないようなのですが、人類の大きな危機が二十一世紀の出来事として記されているので、二十二世紀なのかなと推測したり。

三ツ目芋虫なんて形容される赤色機関とか、あるいは日本本国や世界の現状は、どうなっているのかなーと妄想したり。すでにかなり刺激的な情報がちりばめられてるので興味津々。

人ならぬものと、人との関係がメインなんだろうなと思いつつ、ほかの要素もいろいろと楽しめて、たいへん美味しい作品でした。

これがシリーズ開幕編とのことなので、つづきをはやく読みたいです。

いつものとおり、つづきはとうに刊行されてます。

スワロウテイル/幼形成熟の終わり (ハヤカワ文庫JA)
籘真 千歳
4150310467


しかし、タイトルの「人工少女販売処」というのはどこのことなのかしら。
最後までわからなかったw