『パレオマニア 大英博物館からの13の旅』

パレオマニア―大英博物館からの13の旅 (集英社文庫 い 52-3)
池澤 夏樹
4087463451

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読了。

小説家池澤夏樹が大英博物館でお気に入りのモノを一つ定め、その出所へむかって現地でいろいろと考察する、十三回の旅。

紀行エッセイ、というのだろうか。それにしては文明論的ないろいろもあるしなー。

私にとってはお久しぶりの池澤夏樹です。
最後に読んだ『花を運ぶ娘』の感想は本館にあると思う……たぶん。
なんで最近読まなかったのかなと考えたら、この方の文章にはそれはもういろいろと考えさせられることがあり、その情報量や外へ向かって開かれていく思考傾向やらが、ストレス過多だった病人には辛かったんだな、と思いました。これを読んで。

今回、私的古代ブームの流れでこの本の文庫化を知り、元々本の存在自体を知らなかった私は自然と興味を持って図書館で予約して取り寄せてもらいました。受けとったときのわくわく感は久しぶり。ページをばらばらとめくってみたときにはすでに期待と興奮に満ちあふれていましたよ。

その期待は裏切られませんでした。
密度の濃い、すばらしい一冊でした。

なにしろ情報量の多さに圧倒されます。発端から旅路、目的地に到着しそこで見聞きした様々なこと。必要なことだけを絞り込んで書いているのだと思いますが、とにかく作家の観察眼が秀逸。細密なディテールから俯瞰するような大づかみの印象まで。まるで望遠レンズのついた一眼レフカメラのように、遠景から近景、ズームアップまで、さまざまな角度からの現地体験がとてもリアル。

さらに作家は自分の得た情報を元に常に考察を重ねています。様々なことに造詣があり、様々なことについてこれまで考えてきたことが土台になって、その考察はずぶの素人の到達できる範囲を遥かに超えてゆきます。

ですが、文章はあくまでも平易で客観的。これはエッセイにもかかわらず、男という自分だけれどいちおうは切りはなした人物を視点に据えているからかと思われます。一定の距離感を保ちつつ冷静で、しかも知的でフレンドリー。そういう文章のもたらすバランス力を感じました。そうだった、私はこの文章が好きだったんだよなーと読みながら思いだしました。

あとがきで「専門家の手前、観光客の先というあたりに立つことを心がけた。」という作家の旅の目次は以下の通り。


ギリシャ篇【其の1】話のはじまりとギリシャの乙女
ギリシャ篇【其の2】若くして死んだデロスの青年
エジプト篇【其の1】ナイルを渡るガラスの棺
エジプト篇【其の2】四千六百年前の船大工
インド篇【其の1】シャカの隣に美女二人
インド篇【其の2】出家のために妻を忘れる方法
イラン篇【其の1】ホメイニが消し忘れた女
イラン篇【其の2】牡牛に噛みつく獅子の図
カナダ篇【其の1】サンダーバードに導かれて
カナダ篇【其の2】まだ立っているトーテムポール
イギリス/ケルト篇【其の1】ケルト人はいなかった?
イギリス/ケルト篇【其の2】三度まで殺された男
カンボディア篇【其の1】あの魅力的な微笑への旅
カンボディア篇【其の2】石と木の永遠の戦い
ヴェトナム篇 チャンパという奇妙な国
イラク篇【其の1】過去は現在であるか
イラク篇【其の2】バビロンの流れのほとり
イラク篇【其の3】地中の宝物と発掘の原理
トルコ篇【其の1】金属という素材の輝き
トルコ篇【其の2】帳簿と碑文の間
韓国篇【其の1】韓の、童のような石仏
韓国篇【其の2】黄金の耳飾りの遠い起源
メキシコ篇【其の1】アステカの謎、カトリックの謎
メキシコ篇【其の2】ヤシュチランへの遠い道
オーストラリア篇【其の1】モノに依らぬ幸福感
オーストラリア篇【其の2】アボリジニと聖なるもの
イギリス/ロンドン篇【其の1】ロンドンに帰る
イギリス/ロンドン篇【其の2】メトロポリスにて

あとがき



私が読んでいて一番驚いたのは韓国篇、つぎにイギリス/ケルト篇かなあ。
古代日本の耳飾りのルーツは中国ではないらしいとか、イギリスにケルト人は侵攻してこなかった、という最新の(この本の出版時だけど)研究成果にも驚いたけど、韓国についてはその存在のあり方人種的性格の形成過程総てに格別のものが感じられました。最近身近になってきた隣国ですが、もっとよく知りたいなあと思わせられたです。

少しずつ、旅人とともにゆっくりと読んでいくのが最適な本と感じました。
手元に置いて、また読み返してみたいと思うところがたくさんある。
先に書いたように私が読んだのはハードカバーですが文庫で出ているので、出先で読みたい型にはそちらがよろしいかと。
アマゾンから借りている画像も、文庫版のものです。

古代好き、異文化好きにはもちろんですが、異世界ファンタジーでディテールにこだわるひとにも面白いんじゃないかなと思います。

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