『乱鴉の饗宴 上 氷と炎の歌4』

乱鴉の饗宴 上 氷と炎の歌 4
ジョージ・R・R・マーティン酒井昭伸
4152089393


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読了。

壮大かつ緻密な設定を土台にくり広げられる異世界戦記ファンタジーシリーズの第四部。『剣嵐の大地』のつづき。

予約してから苦節数ヶ月。ようやく上巻が読めました。
相変わらず、超絶に面白かったです。

第三部で怒濤の展開を見せたためか、この巻は比較的静かに物語が進んでいきました。あくまでシリーズ比で、ですが。

基調になってるのがラニスターのサーセイですが、彼女は頂点に上りつめたとたんに起きた悲劇のためにいつもいらいらとヒステリック。つねに陰謀を企んでいるので読んでいてなんとなーく不快な気分になります(苦笑。

彼女を擁護しつづけてきた双子の弟(だということが判明した)王の楯隊長のジェイミーは、すこしずつ姉との距離を置くようになってゆきますが、それも当然だと思うな。
ここにきてジェイミーって以外とまともなんではと感じるようになりました。

まあ、サーセイがいらいらするのは理解できます。
周囲にはいまだに王の位を狙ってラニスターと対抗する勢力がたくさんあるんですから。
しかし、サーセイの視界にはどうやら都内の勢力争いしか入っていないような感じがします。サーセイは遠からず破滅するんじゃないかなあ……あくまで私の感触ですが。

バラシオン家のひとり残ったスタニスは今回の処、見せ場は無し。

代わって鉄諸島のグレイジョイ家が跡継ぎ騒動でもめてたり、ドーンのマーテル家の女性たちが当主の弟だった父親仇討ちをするために各々奔走したり、ヴェインのアリー家では女当主の死後に当主の後見人に立ったベイリッシュに豪族たちが雪隠責めをしたり。

とにかくあっちでもこっちでも権謀術数のエンドレス。

いやー、なんてみんな元気なんだろう。
乱世を生き抜くためにはこれくらいの体力と根性がないとダメなんだろうなーと思うけれども、とにかくみんなタフで冷徹です。おまけに常に相手を陥れようとしています。息つく暇がないです。面白いけど凄く疲れた。どの登場人物が出てきても安心して読めないんだもの。その人物が、比喩でなく今にも死ぬんじゃないかと怯えながらページを繰りつづける。一章読み切るとはーっと溜息が出ます。おかげでずいぶん時間をかけて読んでしまいました。

物語のなかで比較的おだやかに読める視点人物は、タースの乙女ことブライエニーと、スターク家のアリア、〈冥夜の守人〉のサムウェル・ターリーぐらい。このひとたちは基本的に相手に危害を加えようという意志がないので、みずから凄惨な現場を創り出すおそれがあまりない。

ただ、自損事故の可能性は低い代わり巻き込まれて大破の可能性はあるので、危険地帯に足を踏み入れたときには他の人物以上にドキドキします。

いまはブライエニーに危険が迫っているような気がして、だんだん不安になってきたところです。ううう。

つまりこの世界では平穏に天寿を全うできそうな人物が誰もいないんですよね。
いままでだって重要人物が何人も命を失ってて、そのたびに「ギャー!」と叫んでいたんだから。
これだけ書き込んでいる人物なんだから作者は愛着があるはずだと思っていても、それが手加減の理由にはならないようです。
むしろ書き込まれることが警報のあかしなのか?

せめてアーチメイスター・エイモンには静かな余生を送らせてもらいたいんですが……。無理のような(涙。

このシリーズで私が好きなのは、七王家それぞれの出身や土地柄や文化がきちんと描きわけられているところです。
あきらかにモデルはあって、読んでいて「あー、これの元ネタはあれだな」とすぐにわかるのですが、それがイメージを共有させるためにつぎはぎしたものではなく、しっかりとした地盤をつくったうえでの意味ある背景として有機的に活かされているところがすごいなーと思う。

グレイジョイ家の選王集会なんていかにもヴァイキングなんだけど、かれらの暮らす土地柄や民族の性質、生きてきた歴史とが積みあげられた上での出来事なので、とても説得力があるんですよね。

こういうところに私は陶酔してしまうらしいです。
だからこんなに悲惨で苛酷な話なのに苦しくても辛くても読み続けてしまう。
物語としても最高に面白いんだけど、それだけではないというところが好きなんですね。


ところで、この巻から翻訳の方が変更になり、いろいろと物議を醸しているようです。
たしかに名詞の訳語変更にはびっくりしました。
言葉ってその世界のイメージそのものというところがありますからねえ。
変更については下巻のあとがきや、公式サイトなどでも理由が説明されていますが、かなりの勇気と決断を必要としただろうことは想像にかたくありません。
でも、これから訳をつづけてゆかれる方がそのほうがベターだと判断されたのだし、おおむね変更された言葉の方が雰囲気的に物語世界に沿っている気がするので、私はよいのではないかと思います。

ただ、登場人物の名前には賛否があります。ジェイムがジェイミーになったのはかまわないんだけれども、ブリュエンヌがブライエニーになったのはちょっと違和感が残ります。ブリュエンヌの方がより彼女の本質をあらわしているという気がするので。でも著者が英語読みしているのなら仕方ないかなー。

あとですね。名詞を古めかしくした代わりに地文の漢字が減ったように思うのです。ページが黒々となるのを避けたかったのかな。たしかに古めかしい名詞に漢字ばかりだとパッと見で読みにくいと思うひとがいるかもしれないですね。

でもそのためになんとなく文章の輪郭がにじんだように感じられてこれはかなり残念でした。もっと芯の太い、硬質な文章の方がこの物語にはあってると思うんですよねー。以前の文章が戦記SFで漢文寄りとしたら、こちらはファンタジーで古文寄り、のような気がする。

まあ、こればかりは個人の好きずきだし、これまでの先入観もあるだろうし、今後馴染んでしまえばどうということもないのかもしれませんが、いまのところ私はこう感じています、ということで。


とにかくいまは、下巻をはやく読みたい! です。

乱鴉の饗宴 下 氷と炎の歌 4
ジョージ・R・R・マーティン酒井昭伸
4152089407

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