『トレマリスの歌術師 2 水のない海』

トレマリスの歌術師 (2)
ケイト・コンスタブル
4591104958


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読了。

歌による魔法がひろく行われ信じられていたものの今では忘れ去られつつある異世界を舞台にした、少女カルウィンの恋と冒険、世界の死と再生のファンタジー。三部作の二巻目。



 〈万歌の歌い手〉となろうとしたメリツロス皇子サミスの野望を打ち砕いたカルウィンたちは、ラヴァミー島を本拠地として〈諸島の魔術師〉として搾取される風歌いたちの解放をつづけていた。ある日、とある海賊船を襲撃したかれらは、捕らえられて奴隷とされていたメリツロス帝国の七氏族出身の青年ヘーベンと出逢う。ヘーベンは魔術師に捕らえられた弟妹を取り戻して欲しいと訴えた。メリツロスでは歌術師は忌み嫌われ、歌術の使える子どもたちは隔離されて幽閉されてしまうという。憤りを感じたカルウィンたちはヘーベンとともにメリツロスへと向かうことにする。ただ、その中にダロウの姿はなかった。ダロウは自分の物思いに沈み、どこかへと姿を消していたのだった。




歌術の設定がユニークな異世界ファンタジー。
今回も旅立ちからはじまりますが、旅は旅でも潜入の旅。逃亡の旅だった前巻とはすこし趣が違います。虐げられている歌術師たちを救いたい、という動機がポジティブだからだと思います。

実際、カルウィンたちはサミスとの事件の後、そのような活動をしていた模様です。ヘーベンのもたらした情報はその使命感の延長線上にあったから、かれらは否やもなく出発したのだと思います。

けれども、メリツロス帝国での旅は予想を遥かに超える辛い旅となります。
砂漠の苛酷な大地は歌術で対抗するにはあまりにも大きく、広すぎたのです。
カルウィンは自分たちの見通しの甘さを幾度も痛感させられ、樹海の民であるハラサーは癒しの術を使うたびに病んでいきます。

このあたり、こころざしの純粋さがすべての醜い現実を打ち砕くわけではないというか、理想論だけでは強固な現実を変えることは出来ないというか、そんな厳しい事実をつきつけられているようです。

同時に下層民族の反乱のためメリツロス帝国が傾きかけている現状が示されるので、読み手にはカルウィンたちの侵入行にも意味があることがわかるのでなんとかついて行けますが。

ところで、メリツロス帝国は砂漠の大国という設定。ヘゲスという名のラクダめいた家畜が乗用として使われています。それに黒宮殿のある不毛の土地の名称がハサラ。どうしてもサハラ砂漠を思い浮かべてしまいますが、多分そのイメージを利用しているんだろうな~。

宮廷のある蜘蛛の巣宮殿の存在はユニーク。奇妙奇天烈ながらたいへん興味深かったです。
が、不毛な土地ばかりのメリツロス帝国が豊かな理由がいまいち腑に落ちませんでした。現実のイスラーム帝国のように商業が盛んなのかしらん。

メリツロスの創世神話のなかに重要ななにかが秘められているように感じましたが、それだともしかしてこれってただのファンタジーじゃないんじゃないの? てなことになるようで。

それから、行方不明だったダロウの現在と今が、カルウィンたちの旅と並行して描かれるのがたいそう興味深かったです。ダロウという人間の成立過程が興味深い上に、かれの過去はメリツロス帝国に深く関連しているので、同時にメリツロスでの歌術師たちがどのような状況に置かれているのかが把握できる趣向です。

うーん……かなり病んでますね、ダロウって。

てなわけで、カルウィンは病んだ大地と病んだ男相手に艱難辛苦を味わう羽目に陥るのですが、お楽しみはもちろん伏せておきます。

私はあいかわらず歌術の描写がとても好きです。
今回は最後にかなり大がかりなことになってしまって、そのあたりちと飛躍しすぎな気もしましたし、カルウィンには荷が勝ちすぎるのではという気もしましたし、まあ、いろいろと思うところはありましたが、そのあたりの評価は完結してからということで。

ところで、この巻から翻訳の方がおひとりになったわけですが、一巻との違和感はそれほどありませんでした。ちょっとシャープさが鈍ったかなあという気はしましたが。

マンガ家の萩尾望都が手がけられている挿画が物語にとても合っていて、これはポイントが高いと思います。

読んでいると「あ、この台詞回し、萩尾望都のマンガに出てきそう」と感じるようなところがけっこうありました。あとがきによると翻訳者さんは萩尾望都の大ファンだそうです。

完結編は12月に発売予定の模様です。

トレマリスの歌術師 1 (1)
ケイト・コンスタブル 浅羽 莢子 小竹 由加里
4591103439


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