『象られた力』

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
飛 浩隆
4150307687


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借りて読了。

『グラン・ヴァカンス 廃園の天使I』で復活を遂げたSF作家の、初期中編集。

うおー、これは凄い!
『グラン・ヴァカンス』を読んだ時にも凄いと思ったけど、沈黙前に書いていた作品もこんなに凄かったんだ。これは伝説になるはずだ。

非常にクリアに世界を描く端正な文章と、冷徹とも言えるストーリー展開に痺れまくりです。

収録作品は以下の通り。


デュオ
呪界のほとり
夜と泥の
象られた力

解説/香月祥宏



一編ずつちびちびと読んでいったので若干衝撃が薄まったかなと思いますが、それでも冒頭に置かれた「デュオ」と最後に置かれた「象られた力」には大ショックを受けました。

「呪界のほとり」と「夜と泥の」は上記の二作と比べると若干衝撃が落ちますが、それでもここで描かれる世界の圧倒的な質感には頭がくらくらするくらい陶酔してしまいました。

とくに素晴らしい物をひとつといわれれば、やはり最も長い「象られた力」だと思います。

端正な、五感を刺激しつつ押し寄せてくる物語世界を明示する文章は、ファンタジーの魔法の気配にとても近いけれど微妙に異なる、挑発的な物を含んでいるように感じます。例えていうなら、デジタルハイビジョンによる高画質映像に嗅覚と皮膚感覚がつけ加わったような。非常にクリアで、物事の形輪郭にくっきりと判別のつく、光と影が鮮烈な世界だと思いました。

このクリアさはとてもSFに似合います。

読んでいて感じたのは、非常にファンタジーと似通ったテーマを扱っていても、まったく違う世界が展開されているということ。
五感で受けとる別世界の異質さに陶酔しながら、視点人物から一歩後ろに下がり醒めた眼で眺めている自分がいる。
この、醒めているという部分がSFなのかなと。

つらつらと考えてみたのですが、SFって究極のところ、神と人間がいるとするとその神の視点に立とうとする、あるいは超えていこうとする人間を書いている、という部分があるような気がします。基本的に神と人間は対立項目。

ファンタジーの場合は神と一体化して心地よくなったり、神の一部分である自分を発見してしあわせになったり、神から恩寵をもらって不幸になったり、人間から神になってしまったり、という大きな力とのあいだの関係性がゆるくて柔軟性があるような。

「象られた力」もファンタジーなら中心にある異質な力は異界由来の物になると思うのですが、SFなのでそうはならないんですね。

ただ、描き方がとてもファンタジーに近いようで、ガチガチなハードSFは苦手な私にも、共感できたり、陶酔できたりするのです。

私がファンタジーに近いと感じるのは、多分、この五感を刺激するハイビジョン文章なのだと思う。それほどこの作者さんの書かれる文章は好みです。ついでに言うとこの感触は古川日出男の『沈黙』を読んだ時の興奮ととても似ているなと思う。

それと、結末部の書かれ方もどことなく伝説っぽくてとても好きだと思いました。
うん、面白いです、飛浩隆。

そういえば「廃園の天使」の二巻はまだ読んでないやと思い出したので、そのうち読もうと決めました。

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
飛 浩隆
4150308616


ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)
飛 浩隆
4152087676


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