『エノーラ・ホームズの事件簿 ~消えた公爵家の子息~』

エノーラ・ホームズの事件簿―消えた公爵家の子息 (ルルル文庫)
ナンシー・スプリンガー 杉田 七重
4094520309


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読了。

アメリカ人作家による、シャーロック・ホームズの妹をヒロインとしたミステリ小説。シリーズ一冊目。


母とふたりぐらしのエノーラ。両親の恥かきっ子として生まれた彼女に母がつけた名前はalone(ひとりで)の逆さ読みで「あなたはひとりで、ちゃんとやっていくのよ」と言われつづけて育った。その母がエノーラの十四歳の誕生日に行方不明になってしまった。駆けつけた年の離れた兄二人は、マイクロフトとシャーロック。あの有名な私立探偵、シャーロックだ。二人の話からエノーラは母と自分が置かれていた状況をようやく理解する。母の残した誕生日プレゼントに潜んでいた暗号を解読しながら、みずからも自分の足で歩み出そうと決意する。



少女向けヴィクトリアン冒険ミステリ。
シャーロック・ホームズの妹が主人公というのも興味深いですが、作者がまた驚きの本でした。
ナンシー・スプリンガーといえば、すこしばかり年季の入った翻訳ファンタジー読みならケルト風ファンタジーシリーズ「アイルの書」の作者としてご存じだろうと思います。
その作者が、ファンタジーでなく少女向け時代ミステリ?

疑問は読み進むにつれて解けてゆきましたが、まあ、それはこの本自体にはあまり関係ないので置いておくとして。

最初に感じたのは、やっぱり欧米人の書くヴィクトリア朝を舞台にした小説はリアリティーが違うなあ、というものでした。

昨今、日本では何故かそのあたりのイングランドものが大流行で、それこそ雨後の竹の子のようにあちらでもこちらでも眼にします。それぞれに勉強の跡が見えてなかにはこれは素晴らしいと思うものも複数ありますが、やはり、土台となっている文化を共有していたかどうかというところでこんなに違いが出るんだなと。

欧米文化が想像でしかない日本人の書くものは体感的な部分にファンタジーが入ってしまうのは仕方ないんだなあ。

具体的にこの作品でいえば、とくにコルセットやバッスルの書かれ方にそれを強く感じました。

当時のイングランドを階級社会であることも女性を差別する文化であることも含めてここまでさらりと自然に描いて、さらに前進しようと希望を求める少女をそこにリアリティーを持って描き出すこと。

そのあたりがとても素晴らしいと思いました。

謎解きものとしての質は私にはわかりませんが、シャーロック・ホームズの妹であることもたんなるつけ足しではなく物語としてヒロインの効果的な前提となっているなと感じます。
なにより、この話に出てくるシャーロック・ホームズはとってもカッコイイです。

この話でナンシー・スプリンガーが描きたかったのは、理不尽な社会にあまんじて生きることはない。自分から積極的に打開策を考えて実行すればいいのだ、ということなのかなと思われます。

このシリーズが翻訳されるまえ、最後に刊行された著書『炎の天使』の解説(か、もしくは訳者あとがき)に、スプリンガー自身が抑圧された生活を送っていたことなどが書かれていたように記憶しています。

これは若い読者に向かってのスプリンガーのメッセージなのかも。

読み終えた時にはすがすがしい風が吹き渡っていったような爽やかさが残りました。

ところで、作中にも出てきますが、やっぱりシャーロックという名はどう考えてもイングランド人の普通の名前ではないと思うよ、私は。

シリーズのつづきはこちら↓
エノーラ・ホームズの事件簿―ふたつの顔を持つ令嬢 (ルルル文庫)
ナンシー・スプリンガー 杉田 七重
4094520759


炎の天使 (ハヤカワ文庫FT)
ナンシー・スプリンガー 梶元 靖子
4150202311


「アイルの書」の一冊目。当然絶版ですが。
白い鹿 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (68))
ナンシー・スプリンガー
4150200688


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