ごく個人的な2008年ベスト

2008年に読んだ中から個人的に面白かった&好きな本です。2008年に読んだというだけで、刊行されたのは違う年のものも多いです。というかほとんど違います。順番はたぶん読んだ順で他に意味はありません。

ちなみに2008年に読んだ本は200冊でした。

今年はえらく語ってしまったので長いです。


・ロイス・マクマスター・ビジョルド『影の棲む城』上下巻。創元推理文庫。

異世界ファンタジー。『チャリオンの影』の続編ですがネタバレを気にしないなら前作を読んでいなくても大丈夫。前作で登場したお姫様のお母さんのお話です。といっても若いうちに結婚したのだからまだまだ女盛りの未亡人。緻密な設定の上に築かれた重厚な物語世界。そのなかで年かさヒロインが活躍する、波瀾万丈ストーリー。さらに魔法濃度も高いとくればもう言うことなし!
よけいな事を考えずにひたすら物語に没頭して読みました。
三部作の完結編も、いつ出るのかなーと楽しみにしています。

影の棲む城〈上〉 (創元推理文庫) 影の棲む城〈下〉 (創元推理文庫)


・O.R.メリング『夢の書』上下巻。講談社。

これまで講談社から井辻朱美訳、こみねゆら挿画で刊行されてきたカナダ系ケルトファンタジーのシリーズ完結編です。
シリーズで初めてカナダが舞台となり、ケルトのものだけではなくカナダ先住民の精神文化をも取り入れて、もっともスケールの大きな作品となりました。現代と古代、カナダとアイルランド、現実と異界・夢が交錯していってなんともすてきなファンタジー的陶酔感にひたれる作品。感動しました。
ヒロインが前作の『光を運ぶ娘』とおんなじなので、それだけは先に読んだほうがよいかもしれません。

夢の書〈上〉 夢の書〈下〉


・フィリップ・リーヴ『掠奪都市の黄金』。

文明が崩壊し、都市が生き残るために移動するようになった未来のお話。暗くて寒くて寂寥とした雰囲気なんですが、宮崎アニメみたいな緻密な動画が脳裏に浮かぶ、少年少女の冒険活劇です。これも『移動都市』の続編。前作を読んでおいたほうがよいかもしれない。

掠奪都市の黄金 (創元SF文庫)


・パトリシア・A・マキリップ『オドの魔法学校』『ホアズブレスの龍追い人』創元推理文庫。『チェンジリング・シー』小学館ルルル文庫。

ことしはしばらく翻訳されていなかったマキリップがなぜか次々に刊行されました。
大ファンの私は嬉々として集めまくり、耽溺するように読みました。
フフフv
マキリップの本のことが書けるなんて、それだけで嬉しい!
マキリップのファンタジーは、波瀾万丈なストーリーテリングよりも言葉の生み出す夢まぼろしの空気を呼吸することに楽しみがあると思います。
『オドの魔法学校』はまさにその魔法的雰囲気を堪能できる異世界ファンタジー。
『ホアズブレスの龍追い人』は短編集ですが、その魅力はいささかも損なわれずむしろ濃密に感じることができます。
『チェンジリング・シー』は少女向けレーベルから出たので幾分おとなしめですが、海からよせる波の繰り返しが魔法の言葉のように思える佳品。

来年もそうそうからまた新刊が出るらしいので期待に胸を膨らませています。

オドの魔法学校 (創元推理文庫) ホアズブレスの龍追い人 (創元推理文庫) チェンジリング・シー (ルルル文庫)


・粕谷知世『クロニカ 太陽と死者の記録』新潮社、『アマゾニア』中央公論社。

今年の初体験。日本ファンタジー大賞で世に出た作家さんなのにいまだに読んでいなかったのは不覚というしかありません。
どちらも近世のアメリカ大陸を舞台にした魔術的なファンタジーです。『クロニカ』はほろびゆくインカ帝国を内部視点で描いたお話。『アマゾニア』はアマゾン川流域に住む先住民の部族抗争に、侵入してきた白人のエピソードを絡めて描くお話。

史実とともにひとびとの精神世界をもひとつの歴史として描こうとするなら、ファンタジーはその媒体として非常に優れたものになる可能性があるなあと思わされた二作でした。
事実とは異なるかもしれない、というか異なっていても全然かまわない、ムーブメントとしての真実を描くのは小説なんじゃないかなと。
ちょうどマヤ、インカ、アステカなどの中南米あたりの歴史に興味を持っていたため、いろいろと学びながらお話としてもたいへん楽しく読みました。
なかなか寡作な作家さんのようですが、また南米のお話を出してもらえないかなあと期待しています。

アマゾニア クロニカ―太陽と死者の記録


・アーシュラ・K・ル=グウィン「西のはての年代記」三部作。河出書房新社。

今年の大収穫はこれ! と断言できます。
「ゲド戦記」の作者の異世界ファンタジー三部作です。

このシリーズ、「ゲド戦記」がアニメ映画化された年に刊行され始めているので、もしかしたら映画化がなかったら訳されじまいだったのかなと思います。そういう意味では映画化には感謝しなければなりますまい。
とにかく凄いです。圧倒されます。物語世界の厚みと臨場感、ままならぬ運命の苛酷さと人間関係、それをうけとめて生きるひとびとの懸命さに胸うたれ、心が震えます。
一作一作が渾身の作品、といった趣の重厚な話でしたが、それをまとめあげた完結編は三部作をひとまとめにして凝縮したような苛烈で鮮明でおおきなひろがりをもった物語となりました。

やっぱり、ル=グウィンはスゲエ、と思い知りましたです。
重厚な異世界ファンタジー三部作をお好みの方には、ぜひ読んでいただきたく思います。

と書く前に自分がゲドを読み終えろ、ですね。五巻以降を読んでないんですよね。読んだのも忘れてるから、最初から読み返さないとダメであろう。

ギフト (西のはての年代記 (1)) ヴォイス (西のはての年代記) (西のはての年代記 2) パワー (西のはての年代記 3)


・エレン・カシュナー&デリア・シャーマン『王と最後の魔術師』。ハヤカワ文庫FT。

絶版となっていた『剣の輪舞』が増補版として再刊行。つづけてシリーズとして二作が訳出されてあらたに刊行された、その第二部ともいうべきシリーズ真ん中の作品です。
三部作いずれも近世の西欧風の異世界にすむ人びとを、煌びやかで退廃した貴族文化を通して描き出す、繊細な細部の描写が印象に残るお話ですが、私がこの第二作が特に好きなのは、他の二作が幻想要素のほとんどない活劇中心の展開を見せるのに対して、この作品がどっっっぷりと幻想の水底まで浸かっているような強いファンタジー指向をもった作品だからです。

それは登場人物ですらわからない、ひとつの出来事をきっかけとしてひきおこされてゆく異界の大きな波で、全身にしぶきを浴びて冷たいと感じつつも現実しか見えないかれらはなにが起きているのかはわからない。説明はなく、ただひたすら起きてゆく異常な現象に翻弄されてゆくかれらを見つめていく。そしてなにが起きているのか考えつづける。もしかしたら、読んでいてわけがわからないと思われるむきもあるかともいますが、私にとってはこれほど傍観者であることに陶酔感をもたらす作品があったかと、いま思い返してもゾクゾクする読書体験でした。

他の二作も楽しいのですが、そんなわけで『王と最後の魔術師』は別格でした!
あ、BL風味なのでその線が苦手な方はご注意を。

剣の輪舞 増補版 (ハヤカワ文庫 FT カ 2-3) 王と最後の魔術師 上 (ハヤカワ文庫 FT カ 2-4) 王と最後の魔術師 下 (ハヤカワ文庫 FT カ 2-5) 剣の名誉 (ハヤカワ文庫FT)


・酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』とその第弐部。文藝春秋。

こんなに笑える「三国志」があっていいのか! いいんです!
もうその一言だけで終えてしまいたい、怒濤の勢いで登場人物達に突っ込みまくる奇想天外阿鼻叫喚な歴史小説です。とんでもなくふざけているようできちんと資料は踏まえているところがまた凄い。昔の人間がよろこんだ物語を今の感性で冷静に読んだらどうなるか、という試みであるようにも思えます。が、とにかく、笑ってください。私は笑いころげました。

サブカルチャーのパロディーがてんこ盛りなので真面目な歴史小説読みよりもマンガ『銀魂』などがお好きな方のほうが楽しめるのではと思います。

泣き虫弱虫諸葛孔明 泣き虫弱虫 諸葛孔明 第弐部


・妹尾ゆふ子『翼の帰る処』上下巻。幻狼ファンタジアノベルス。

大好きな作家さんの久しぶりのオリジナル小説は期待を大きく上まわる楽しさでした。
厳かで美しい幻想シーンはそのままに、親しみやすいキャラクター達が庶民的な会話を駆使して物語を盛りあげます。出てくる人たちの間に次第に築かれてゆく絆がなんともいえず熱い!
どっぷりと浸って読んだあとは、物語世界が繋がっている既刊を読んで余韻を存分に楽しみました。
続編が出るようなので楽しみに待っております。

翼の帰る処(ところ)〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス) 翼の帰る処 下 (3) (幻狼FANTASIA NOVELS S 1-2)


・ジョージ・R・R・マーティン『乱鴉の饗宴 氷と炎の歌第四部』上下巻。早川書房。

がっしりとした骨太の設定に豊穣なディテール、峻厳な精神性に熱く血濡れた肉体感覚。鮮烈な光と底知れぬ闇。このシリーズの凄さはとても語り尽くせません、「氷と炎の歌」シリーズの第四部です。上巻で周到にまかれた不吉の種が下巻でどかんと開花したときの圧巻。心のなかで何度悲鳴をあげたかしれません。この作者氏、登場人物に対して容赦なさ過ぎ。どこにも聖域がないので息つく暇がありません。あまりにも不安を煽られつづけたために、そのうち神経が痺れて痛みもわからなくなりそうでした。読み終えた時には息絶えそうだった……。

第四部から翻訳者が代わり大幅に訳語が見直された結果、かなり以前までと雰囲気が変化したように感じましたが、その違和感も読み進むにつれてだいぶん薄れていきました。最後まで残ったのはやはり人名ですね。私としてはタースの乙女はやっぱりブリュエンヌと呼びたいです。ジェイミー・ラニスターの人格イメージがかわったのは、呼び名ばかりでなく弟と判明したせいもあったかな。

ところで、この表紙は上がジェイミー、下がサーセイ、のラニスターの双子なのでしょうか。今となるとこのふたりしかいないというぴったりの表紙でした。

つづきの――ところで壁のむこうがわでは――をはやく読ませていただきたいものです。

乱鴉の饗宴 上 氷と炎の歌 4 (氷と炎の歌 4) (氷と炎の歌 4) 乱鴉の饗宴 下 氷と炎の歌 4 (氷と炎の歌 4) (氷と炎の歌 4)


それからフィクション以外で面白かった本。
もう感想は書けない……(苦笑。

中沢新一『人類最古の哲学 カイエ・ソバージュI』
池澤夏樹『パレオマニア』
西郷信綱『古代人と夢』『古代人と死』
片倉もとこ『イスラームの世界観』

人類最古の哲学―カイエ・ソバージュ〈1〉 (講談社選書メチエ) パレオマニア―大英博物館からの13の旅 (集英社文庫) 古代人と夢 (平凡社ライブラリー) 古代人と死―大地・葬り・魂・王権 (平凡社ライブラリー) イスラームの世界観―「移動文化」を考える (岩波現代文庫)



そうじて、2008年はけっこう濃密な読書ができたかなと感じます。
というのは多分、図書館のネット予約を始めたせいで行きあたりばったりに選んでこなくなったからだと思う。
予約の際にはネットで見かけた感想にずいぶんお世話になりました。

というわけで、最初に抜き出した本が90冊もあったため、ここまで絞り込むのにたいそう苦労した。

もれてしまったのは、『トレマリスの歌術師』『天山の巫女ソニン』『クロニクル千古の闇』「魔使い」シリーズ、オペラシリーズ、『伯爵と妖精』シリーズ、『鳥籠荘の今日も眠たい住人たち』、サトクリフの「ローマンブリテン」四部作、『青いチューリップ』『オラクルの光』『獣の奏者』、「ヴィクトリアン・ローズ・テーラー」シリーズなどなどです。

2009年も充実した読書生活が送れたらなあと願っています。



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