『サンシャイン&ヴァンパイア 下』

サンシャイン&ヴァンパイア〈下〉 (扶桑社ミステリー)
Robin McKinley 藤井 喜美枝
4594055273


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読了。


デーモンが闊歩する近未来アメリカを舞台に、パン職人の娘がヴァンパイアがらみの事件に巻き込まれて本来の自分と向き合うことになる、パラレルダークファンタジー完結編。

はー、面白かったー!
光と影、善と悪のコントラストの強い世界に魔法とパン屋の甘い香りの漂う、個性的なファンタジーでした。

現代社会派ミステリ並みに日常的な人間の世界に、ヴァンパイアと魔物と魔法の非日常が覆いかぶさってくる様と、それに混乱し、反発し、絶望し、それでも前に進み続けようとするヒロインのつよさが印象的。

話自体がヒロインの一人称で語られているので当然なんですが、彼女の庶民的かつ強気な性格がこの話をからりとドライな雰囲気にしている大きな要因だと思われます。

おなじようにヴァンパイアのいるアメリカが舞台でも、アン・ライスの「ヴァンパイア・クロニクル」の妖しさ耽美さ歴史ものぽさはほとんどなく、自称“シナモン・ロールの女王”の鼻っ柱のつよさ、頑固さで、皮肉まじりのユーモア混じり描かれていく当たりがいかにも現代のヴァンパイアものという感じ。

ときどきあまりにもヒロインの感情というかパン作りへの情熱がつよくて、「あれ、いまどんな状況なんだっけ?」と一時的な記憶喪失になりかけたりしましたが、最後はきちんと本筋に戻ってくれるのでストーリーにもついてゆけました。

そう、パンなのです。
この話の大きな魅力のひとつはヒロインのいるパン焼き室とヒロインの作るパンにあるといってもよいかと思います。
義父チャーリーのはじめたコーヒーハウスで子どもの頃からパン焼きを習っていたヒロインは、周辺界隈ではパン作りの名人として有名な存在。
話には彼女の作る独創的な名前のパンがいくつもいくつも、それこそ雨あられのように頻繁に登場します。
このパンのネーミングがまた凄いんだよね。
いかにもアメリカンスウィートってかんじの、ドデカかつ極甘なブツを連想させる、とんでもないネーミング。
なのになぜか無性に食べたくなってくるんです。実際に食べたら胸焼け必至だとおもうんだけどとても魅力的に描かれているのでそんなことはどうでもいいわ! と思ってしまう。

話が佳境になるにつれてパンの出番は減るのかと思いきや、さらにあらたなメニューが加わったりと大忙しです。
このパン達のおかげでヒロインが日常にこだわる気持ちがとってもよく伝わってくるので、その点でもパンの効果は絶大だと思います。

そんなわけで日常のすばらしさを堪能できる本書ですが、魔法と魔物の幻想的なシーンもたいそういろいろと工夫されていて、闇の魅力にあふれています。

ヴァンパイアや獣人達はぜんぜん美しくないんですが、ヴァンパイアの異質な存在感はそれこそ生理的嫌悪をこえるほどに際だっていて、醜さもきわまれば強さになるといった態。
ヒロインに与えられる防御の仕掛けのうつくしい描写にはヘドロの中でみつけたひとすじの光のような希望を感じるし、得体の知れない何を考えているかもわからないけれど、とにかく味方であるはずのヴァンパイアの描かれ方もたいそう魅力的。

この話はほんとうに最後まで二項対立の話で、その点はじつにアメリカ的だなと感じるのですが、その単純さがいい意味で魅力になっているというか、こういうところがアメリカ的爽快ハッピーエンディングに結びつくんだなーとあらためて感じた次第です。

ところで、上巻でほのめかされてる? と感じたロマンス方面ですが、あまり期待しない方がよろしいかと思いました。
ロマンス目当てに読んでしまうと、きっと欲求不満に陥ると思います。

そういえば、扶桑社ミステリーはロマンス小説のレーベルじゃないんでしたね。
『嘘、そして沈黙』とかを出してた本格的なミステリのレーベルだったんだったとあとで思い出しました。シャーロット・マクラウドのシャンディー教授シリーズなんかも出てましたね。

『サンシャイン&ヴァンパイア』は『ヴァンパイア・レスタト』とかの流れで出したのかなと思いますがあれはもうずいぶん昔の話だし、その点でいうと対象読者を間違っている様な気がしないでもありません。
むしろ、先日読んだビジョルドのほうをこちらで出した方がよかったのではなかろうか。

サンシャイン&ヴァンパイア〈上〉 (扶桑社ミステリー)
Robin McKinley 藤井 喜美枝
4594055265


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