『時間のない国で 下』

時間のない国で 下 (創元ブックランド)
ケイト・トンプソン 渡辺 庸子
4488019501


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読了。

現代アイルランドを舞台にした音楽あふれる明るいローファンタジーの下巻。

なくなった時間はどこへ行ったのか?
母親への贈り物として失われた時間を取り戻そうとJJが向かった先はティル・ナノ・グ、常若の国と呼ばれる妖精の国だった。

というわけで、ティル・ナノ・グと人間界の両方が同時進行で語られる下巻は、ティル・ナノ・グの特異性とそのために生まれる住人達の特性のためにいちいち行動を疎外されてしまうJJの、悪戦苦闘というにはなんだかほわわんとして夢を見ているみたいな冒険と、JJが行方不明になってから大騒ぎになる人間界がやっぱりなんとなくあっけらかんと描かれて、なんともいえない幻想奇譚となっています。

この危機感の薄さは乾いたユーモアに満ちた筆致もさることながら、妖精国の「今このとき」のことしか考えられない、陽気で刹那的な住人達とかれらの生み出している音楽によるところがおおきいのかなあと感じました。

アイルランドの歴史はかなり苛酷で辛いもので、そのあたりのこともきちんと触れてある話なのに、この身軽さはおどろきです。

同時に、妖精の丘で時間を忘れて音楽に身をゆだね、戻ってみたら何百年も経っていた――というはなしが、こんなにリアルに感じられる話は初めてでした。

ああ、そうなのか。こんなふうに誘われたら戻ってこられないし時間も忘れるよなと実感した。

そうしている間に人間界では深刻な事件が進行しているのにね。

妖精国のそんなふわふわ感は、名前からどんな存在だか推測できる人物があらわれてもまったく変わらず、むしろその地に足のつかない感がどんどんひどくなっているのがおかしいです。

視点がまだまだ無邪気で人生のつらさをあまり味わっていない少年に据えられているから、という理由もあるかな。

JJのお母さん視点だったら、こんなのんきな話に話にはなかっただろう。

なにを書いているのかだんだん私も訳がわからなくなってきましたが、とにかくこれはまさに現代の妖精譚だと太鼓判を押しておきます。

妖しく美しく荘厳なものではなく、あっけらかんとしてのんきでたのしくそれでいて切ないお話でした。
それから、アイルランド人ってほんとうに音楽とダンスが好きなんだなあというお話でもありました。

私は靴下がなくなるエピソードと、笛のエピソードがお気に入りです。

それにしても、アン・コーフはどこへ行っちゃったんだろう?

巻末に「妖精のさきわう国」として井辻朱美さんが解説を書いておられます。


上巻はこちら。

時間のない国で 上 (創元ブックランド)
渡辺 庸子
4488019498


こちらは続編。

プーカと最後の大王(ハイ・キング)―時間のない国で〈2〉 (創元ブックランド)
Kate Thompson 渡辺 庸子
4488019641

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