『テンペスト 下 花風の巻』

テンペスト 下 花風の巻
池上 永一
4048738690


[Amazon]


読了。

日本開国前に列強の驚異を間近にした琉球王国にあって、トップ官僚である孫寧温・王の側室あごむしられ真鶴という二つの生を同時に生きる主人公の奇想天外驚天動地の運命をえがく、歴史ファンタジーの下巻。

上巻を読了して数ヶ月。ようやくようやく下巻が読めました。
下巻も上巻同様、主人公のジェットコースターな人生にハラハラドキドキ。とにかく不幸の連続なのに先の展開が読めないので、ときどき緊張しすぎて続きを読むのが辛くなったほどです。

でも、それも終盤に向かうにつれて収まっていきました。つまらなくなったわけではありません。なんだろう、収まるべきところが見えてきてそれが不幸であっても幸福であっても、主人公はけして後悔しないだろうという確信が得られたからかもしれません。

激動する世界の波にさらされつづけ、ときには日本の防波堤の役割までも果たしていた琉球。
いちはやく情勢の先を読む能力は、鎖国していた日本などおよびもつかないほど上でした。
大国に挟まれた小国という境遇から身につけたその外交能力、バランス感覚を持ってしても、独立しつづけることの叶わない厳しい事態に追いやられていくのが辛かったです。

どの国も自国の利益を優先するのは当然ですが、すこしは志を高く持つところがいてもいいのになあと思います。そんな国はいまだに現れていないから、人間には作ることのできない理想なのかもしれないけれど、理想がなければ前進もないのだからあきらめてはいけないと思うのですよね。

「国のために民がいるのではなく、民のために国がある。国はなんども壊れるけれど民が滅びることはない」

望まない結末を迎えても、この心理にたどり着いたところで嵐のように荒れ狂っていた寧温/真鶴の葛藤が収束する。そのあたりの描写でこの小説はやはり国家間のせめぎ合いだけではなくそのためにゆれうごく感情の嵐を描くものだったんだなと納得しました。

必要以上の解説や後日譚をつけ加えず、ひととして生きることの意味をあらためて深く受けとめるラストに、しみじみと感動しました。

ところで、読み終えてからこの記事を作るためにアマゾンに飛んで感想を読んでみたんですが、見事に評価が分かれてますねー(苦笑。

生真面目な歴史小説読みにはたしかに受け入れがたい作品かもしれません。
でも、この一見ふざけたような作風が著者の魅力だと私は思っているし、そこが好きなところなので、あらためてもらいたいなんて露ほども考えません。

むしろ、この程度では生ぬるいというか大人しいなと感じたくらいです。
なにしろ、オバァがでてこない!

そのかわり、巫女の頂点に君臨する聞得大君/真牛のド派手な存在感を始めとした女性軍全体のパワーはいつもよりアップしているかも。

下巻でご登場した喜舎場朝薫の従姉妹・真美那さんのお茶目ぶりと来たら、まさにとんでもない破壊力でしたし、女官大勢頭部になった思戸の暗躍ぶりもすごかったし、とにかく御内原(後宮)の伏魔殿っぷりときたら、表の政治の世界の何倍もどぎつくてえげつなくて、とんでもない世界でしたがいつも読んでいて楽しかったです。

脇役陣もそれぞれにそれぞれの人生を歩んでいるのが、ちょこちょことした文章でわかるのも面白かった。

ほんとに、私って脇役好きだなあ……あくまで脇役に徹している脇役が好きだ。多嘉良おじさんとか。

男性陣は主人公のライバル・思い人ふくめ、主人公に翻弄される人が多くて、やっぱり池上作品で元気なのは女性だなと、あらためて確認した次第です。

ファンタジーとしても美しくまとまってますが、この話は幻想より人間の体温の方が高かったなと感じます。

解放された龍達はどこへ飛んでいったんだろう……。

テンペスト 上 若夏の巻
池上 永一
4048738682

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する

Trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)