『ジプシー 歴史・社会・文化』

ジプシー 歴史・社会・文化 (平凡社新書)
水谷 驍
4582853277



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読了。

世界中に一〇〇〇万人いるともいわれるジプシーと呼ばれる人びとは、何者なのか?
イメージと現実の乖離とそれを生み出した主流社会との関係を重視して、全体像を描いてみせる、〈ジプシー〉入門書。

旅芸人に関する本を探していてなかなかみつからないのでこれはやはりジプシーから攻めるべきかなと思い、とりあえず概論をと借りてみた本です。

面白かったけど、疲れた。
理由はジプシーではない人びとからジプシーと規定された人びとが、つねに差別から生まれる困難・災難・悲劇に見舞われているから。

この本は、〈ジプシー〉といわれるひとびとに対するイメージ、たとえばロマンティックな漂泊の民だったり自由を求める自然人だったりといったものや、排斥的な生まれつきの犯罪者の集団といったものが、どれほど実態とかけ離れているかを正しながら、かれらの歴史、現在を描いてゆこうとする試みです。

読んでいて驚くのは〈ジプシー〉の内実の多種多様なこと。
ジプシーは単一の民族ではなく、ユダヤ人のようなひとつの宗教のもとに結束する人びとでもない、ただたんに主流社会から〈ジプシー〉と呼ばれているというだけの繋がりしか持たない人びとなのですね。

一時定説となっていたインド起源という説も、資料によって跡づけられたことがない仮説に留まるものだそうな。

ジプシー自身からでてくる資料がないために、主流社会の、しかも学者などではない素人がみずからの偏見や思いこみ、空想で創りあげた説が、何世紀にもわたって流布し一般化されているという事態には薄ら寒いものを感じます。

そして〈ジプシー〉が存在しないといわれる日本でも、欧米でできあがったイメージを鵜呑みにしてしまっていたわけです。私を含めて。

歴史的経緯の後に現在の状況を地方別に書いた章で、いまだに差別され敵視される存在でありつづけているのを読んで、暗澹たる気持ちになりました。

目次は以下の通り。


はじめに

第一章 ジプシーと呼ばれる人びと
 1人口と分布
  人口統計の問題点/約一〇〇〇万人が世界各国に
 2ジプシーとは誰か
  ジプシー、ツィゴイナー、トラヴェラー、ロマ、……/外見、言語、宗教/職業、誘導と定住、文化と伝統
 3ジプシーという呼称
  ジプシーと呼んではいけない?/ロマという呼称/安易な言い換え

第二章 ジプシー像の変遷
 1ヨーロッパへの登場――「エジプト人」として(一五世紀)
  異形の放浪者集団/なぜ「エジプト人」なのか
 2セルバンテスの『ジプシー娘』(一七世紀はじめ)
  「盗っ人となるために生まれてきた」ジプシー/あいまいな境界線
 3グレルマンの「科学的」ジプシー像(一八世紀末)
  「インド起源の放浪の民族」/主観的かつ恣意的な議論
 4ロマン主義的ジプシー像の確立と普及(一九世紀)
  ジョージ・ボローの作品/現代社会に生きる自然人/古きよき時代のノスタルジア
 5新しいジプシー像の探求(二〇世紀末以降)
  伝統的ジプシー像の見直し/科学的ジプシー像の追求/「烙印押捺」のプロセス

第三章 歴史――主流社会のはざまで
 1インド起源説の現段階とその意味
  定説/突き止められた起源?/インド起源説の意味
 2バルカン半島への進出と定着
  ビザンツ帝国のもとで/オスマン帝国とジプシー
 3ヨーロッパ中心部への登場と迫害
  「エジプト人」は誰だったのか?/一五世紀前後のヨーロッパ――貧民・流民層の大量発生/迫害と排斥
 4ルーマニアのジプシー奴隷制
  ジプシー奴隷制の歴史/一九世紀の奴隷解放
 5「カルデラリの大侵攻」――一九世紀後半の世界的移動
  バルカン半島からアメリカへ/「移民の世紀」
 6ポライモス――ナチス・ドイツによるジプシー絶滅政策
  「食らい尽くされた」五〇万人/ナチス・ドイツのジプシー政策/ジェノサイドを支えたリッターの「学説」
 7社会主義の経験
  期待と幻滅/苛酷な定住・同化政策/社会主義崩壊後の新たな苦難
 8自己組織化の試み
  先駆的な試み/世界ロマ会議の運動/運動の組織と戦略

第四章 ジプシーの現在――いくつかの事例
 1バルカン半島のモザイク模様
  複雑な分布と構造/ルーマニア、ブルガリア、アルバニア/流動的な自己認識
 2旧チェコスロバキアのロマ問題
  少数が遊動したチェコ、多数が定住したスロヴァキア/「移転と分散」の政策/転機となるか、EU加盟
 3オランダのヴーンヴァーゲンベヴォーナー
  新たな移動生活者集団の登場/主流社会からの隔離と封じ込め
 4スペインのヒターノとフラメンコ
  絶滅政策と同化政策/フラメンコをはぐくんだアンダルシアの風土
 5イギリスの多様なトラヴェラー集団
  ジプシーとティンカー/「ニューエージトラヴェラー」の登場
 6フィンランドのカーロ
  存在しない結婚の制度/決闘と血讐
 7アメリカのヴラフ系ロマ
  主流社会との関係/福祉制度の徹底した活用

第五章 日本とジプシー
 1日本人のジプシー認識
  国語辞典の記述/鴎外、漱石のジプシー観/グレルマン/ボローの影
 2サンカは日本のジプシーか
  サンカとジプシー/主流社会と結んだ関係/実態を離れたイメージの形成/サンカの起源

 おわりに

 主要参照文献一覧
 あとがき
 ジプシー関連年表




自分の無知をこれでもかと突きつけられる本だったわけですが、読んでいて、以前読んだ中世末から近世の始まりにかけてのヨーロッパに大量発生した放浪者のことが思い浮かびました。あのひとたちってほとんどジプシーそのものなのではという気がする。

それから、ひとびとは定住生活を成り立たせられないから放浪しはじめるのですが、ある場所に定住するかどうかは放浪している人の決めることなので、むりやり定住させるのは無意味なのだということも感じた。住む場所を他人に強制されるなんて人権問題だと思います。

社会機構を運営する側にとっては動きつづける人びとが厄介なのはわかりますが。なにかよい解決方法はないものなのでしょうか。

その存在について知らない、わからないという事態が勝手な憶測をよぶことは明白なので、ジプシー自身からの情報発信も必要なのではないかとも感じました。

最後に、あまり広範囲にわたっての内容だったため、入り口のところで終わってしまった感じです。というか、これを踏み台としてさらに詳細な資料へ誘導する書なのでしょう。

問題は、どのあたりがバイアスのかかっていない本なのかを見極めるところかなー。
なんだか、旅芸人に絞るとバイアスだらけのような気がするの(汗。

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