『中世賤民の宇宙 ヨーロッパ原点への旅』

中世賎民の宇宙―ヨーロッパ原点への旅 (ちくま学芸文庫)
阿部 謹也
4480090479



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読了。

日本人専門家による中世ヨーロッパ社会の意識変遷論。

これはたいそう興味深い本でした。
現在世界中を支配しているヨーロッパ文明がどのようにして成立したのか、人間の宇宙観の変化という根本部分から考察するという困難なことに挑戦しています。

おかげで、古代人~中世人の世界観がキリスト教化によって画期的な変革を果たしたことがよくわかりました。キリスト教はそれまで円環というか循環をなしていた人間の世界を未来へ一直線に向かうベクトルに変えてしまったんですねえ。うーむ、なるほど。

それですっかり人間中心主義が定着して、大宇宙の中の小さな存在であるという謙虚さが失われてしまったのか。

人間が一番、すべては人間のためにあるという思想が全世界にまで広がった結果が、文明としての進化を促進し、現在のかなりこまった状況をも生み出しているのですね。

私には、時代はふたたび古代の宇宙観を取り戻そうとしているように感じられますが、ほんとうのところ、どうなっていくのかはまったくわかりません(苦笑。

ところで、日本の場合、ほとんど古代のままの宇宙観にいきなり合理的な西洋文明を接ぎ木したため、あちこちに軋轢が生まれているというくだりがありますが、その最たるモノが贈収賄なのがなんともいえませぬ。

世界観の歴史みたいな本を読むとかならずといってよいほど日本の極端な例が出てくるのですが、日本人はまだヨーロッパ文明の精神を十分に咀嚼していないのでしょうね。

それが悪と思えることもありますが、よいと思えるところもあり、一概に論じることはできないと思うのではありますが。

ヨーロッパを専門に研究して大家となっても、日本人は最後には日本のことを考えることになるのだなと感じました。

目次は以下の通り。


私たちにとってヨーロッパ中世とは何か

ヨーロッパ・原点への旅――時間・空間・モノ
 一 中世社会史研究の方法によせて――出発点としての自己省察
 二 原点としての中世後期(十一―十五世紀)ヨーロッパの意味
 三 過ぎゆかぬものを見る目――二人の歴史家
 四 初期中世ヨーロッパにおける時間意識
 五 初期中世ヨーロッパにおける贈与慣行
 六 ヨーロッパにおける「公的」なるものの成立――贈与から売買へ

死者の社会史――中世ヨーロッパにおける死生観の転換
 一 死生観の変化
 二 初期中世における死者と生者
 三 キリスト教の浸透と死者
 四 遺言書の成立
 五 現世観の変化

ヨーロッパ中世賤民成立論
 一 賤民研究の問題点
 二 人間狼について
 三 二つの宇宙
 四 小宇宙としての共同体
 五 賤民の成立と解体

中世ヨーロッパにおける怪異なるもの

ヨーロッパの音と日本の音


あとがき

解説(大黒俊二)




個人的には、これはファンタジー世界の解説としても読めるなあと思いました。
ファンタジーの描くことというのは、ここでいう二つの宇宙の狭間の出来事、二つの宇宙を往還する出来事だし、そこに住む人びとの意識は中世のひとびとのものにかなり近いような気がする。

中世的な異世界を構築するためにはかなりお勉強になる本ではないかと思います。

文章がちと難解なのできちんと理解できたかどうか不安ですが、たいそう面白かったと書いておきます(苦笑。

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