『トプカプ宮殿の光と影』

トプカプ宮殿の光と影 (りぶらりあ選書)
N.M. Penzer 岩永 博
4588021303


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読了。

オスマントルコの宮廷であり宮殿、トプカプ宮殿についての概説的解説書。
写真と図版多数有り。

局地的にイスタンブールで盛りあがっていたところで書名を教えていただき、借りて読んでみました。

興味深かった。

本の内容は、まずトプカプ宮殿の最初の門から入って次第に奥の方へ進む、見物者の足どりのような段取りで書かれています。
まず、建物自体の由来、その役割、実際の使用例、それにまつわるエピソードなどなど。

宮殿は奥に進むにつれて重要な施設が多くなるので、内容もだんだん深いものに変化していきます。

図版が多く、文章を読みながら眺めていると位置関係がわかって楽しいかもしれません。
などと他人事のように書くのは、私が本文を追いかけるのに必死でそれを実行できなかったからですが(汗。

印象的だったのは、トプカプ宮殿は長い年月にわたってあちこちを作ったり壊したりをくり返していたこと。
それから、建材的にも建築様式的にもビザンツ帝国の遺産の上に築かれていたということ。

そもそもトルコの支配形態というのが、どこで築かれてももともとの支配者のものを丸呑みしていくようなものだったから、これは当然だなーと思いましたが。

後宮や宦官という存在も、ビザンツ帝国から受け継がれたものだということは初めて知りました。

えっ、ビザンツ帝国に宦官がいたんだ!
トルコと中国のは知ってたけど、ビザンツ帝国は穴だったよ……。

というわけで、いちおう門から入って奥の奥まで、ひととおりの解説がある本書は邦訳タイトルも宮殿全体に関する本のようになっていますが、原題は“THE HARĒM”、つまり『ハレム』で、やはり著者の関心事は皇帝の後宮とその管理者だった黒人宦官にあるようです。

だって記述の質がまるでちがうんです。

おなじ宦官でも白人宦官についての記述は言ってしまえばテキトー(苦笑。
対するに黒人宦官については、差別意識丸出しなんですが興味津々なのも丸わかり。
そしてハレムの主役たる女奴隷達については、部屋は当然として生活から服飾から入浴の仕方、スルタンからの寵の受け方まで書いてありました。

読んでいて一番面白かったのもやはりこの部分。

ハレムの頂点にいるスルタン・ワーリデつまり皇太后と寵妃たちの権力闘争はすさまじいものがあったようで、そのために発生した王子幽閉の慣行は、トルコ帝国衰亡の原因とすら断じられています。

それと非常に強く感じたのは、著者自身の異文化であるトルコ文化への憧憬。
近代化(=西欧化)のために景観が台無しにされたとかいって本気で怒ってるんですが、このあたり、日本を妖精の国として楽園視していた小泉八雲に似ているような気がする。

私自身はトルコ民族の歴史はちらりと教わったことがありますが(ほんとにちらりです突厥からはじまって青年トルコ人まで駆け足で一年間ですから)、オスマントルコについて深く学んだことはなかったので、風俗関係の知識が増えるのが嬉しかったです。

でも、この本、かなり読みにくいので、ある程度予備知識がないと大変かも知れません。
イスラーム関係の用語がトルコなまりで出てくるのには最後まで馴れませんでしたし、すでに普及済みかと思われる単語、たとえばイェニチェリがジャニサリと訳されるのは何故なのか、理由がわからない(汗。

原書が刊行されたのが1937年でも訳本は1992年の刊行。
ということは私がトルコ史の講義をぼんやりと聞いていた頃よりもあとなのに……。

翻訳者がトルコの専門家じゃないからでしょうか。

用語の統一感がどうも……なのもアレなのですが、学術書にありがちなそもそも日本語として文章がわかりにくいという問題もあります。

ので一般にはお薦めいたしかねるというのが正直なところ。
読む場合は、興味があるところだけつまみ読みが一番効率がよろしいのではと思う次第です。

以下に目次を記しておきます。



役者序文

訳者解説
イスタンブルの歴史と主要遺跡
トプカプ宮殿の構造と主要殿館

1 序章
 ハレムの問題性
 セラーリオの語義
 少ないセラーリオの参入者
 ハレムの終焉
 トプカプ宮殿の公開個所

2 セラーリオの探求者の歴史
 ニコライ・ド・ニコライ
 ドメニコ・ヒエロソリミターノ
 トマス・ダラム
 オッタヴィアノ・ボン
 エドモンド・チシュル
 オーブリ・ド・ラ・モトレー
 ジャン・クロード・フレーシャ
 サー・アドルフス・スレード
 マキシム・ド・キャン
 二〇世紀の参観者

3 セラーリオの丘と城壁とキオスクの歴史
 初期の歴史
 城壁とキオスク

4 第一宮殿域
 陛下の門と前庭の静寂
 メリングの挿絵に見る第一宮殿域
 ジャニサリの歴史と組織
 メリングの絵

5 第二宮殿域――ディワーンの前庭
 中央の門
 国政庁の館と宮廷金庫
 死者の門、厩舎、槍斧兵の兵営
 大厨房
 幸福の門
 白人宦官頭
 柱頭装飾の様式

6 黒人宦官
 彼らの館と任務
 トルコでの宦官の使用とその風習の起源
 生理的・心理的様相
 文献

7 ハレムI
 ハレムの諸館
 衣装

8 ハレムII
 スルタン・ワーリデの権力
 黒人宦官頭とハレムの幹部女性
 スルタンの寵を得る途
 女性の支配

9 セラームルク
 陛下の談話室と玉座の間
 オスマン三世のキオスク
 ムラト三世の広間とアフメト一世の図書室
 王子の幽閉所
 接見室と割礼の間

10 浴場
 セラーリオの浴場
 市中にあるその他の陛下の浴場
 公衆浴場
 ブルサの温泉

11 第三宮殿域
 玉座の御殿
 アフメト三世の図書館
 宮廷学校
 遠征の広間の美術品
 食器の広間と財宝の広間
 預言者の外套の御殿

12 第四宮殿域
 第四宮殿域の外観
 レヴァン・キオスクとバグダード・キオスク
 プールと庭園
 ムスタファ・パシャ・キオスクとヘキムバシュ・オダス
 アブデュル・メジドのキオスク
 チューリップの祭

索引 ・巻末・ 

Comment

No title

こんにちは。
この本、面白そうですね~。

あちこちの歴史的建造物を見に行っても、
どういう使い方をしていたのかよくわからなかったりするので
面白みも半減してしまったりするのですが
(ガイドさんに説明してもらっても通り一遍だし)
ちゃんとした解説本を読めば、より想像力を働かせられるのかも。

買おうかと思ったら結構高いのですね。
中古本にしようかな。
図書館で済ませようかしら。
できればトルコの専門家に訳してもらいたかったですね。

No title

こんばんは。
トルコが大好きなので、惹かれてしまいましたw
ものすっごく読んでみたいです…!!
一応中世トルコ史を専門に学んだはずなんです、もう忘れてますが(笑)。
もう一度イスタンブルに行きたくなりました。

当時のオスマン帝国の中枢は、トルコ人以外が多数だったので、
黒人への差別と興味が深いという記述があるのは、なるほどと思いました。
やっぱり、風俗的な記述は面白いですよねw
トルコ熱が再燃しそうです。 ありがとうございました。

きんとさん、こんにちは~。

はい、面白かったです。
建物の由来と使われ方って案外一緒に解説されていないですよね。
実物を見てこられた方なら、またいっそう興味深く接することが出来そうです。

でも、すごーく読みづらかったですよ。
読みながら何度も机に突っ伏して寝てました。
そこんとこ、重々念を押させて貰います(苦笑。
買う前に図書館で下見をしたほうがいいかもしれませんね。

りるさん、こんにちは。
トルコ大好きな方に喜んでいただけて嬉しいです。
私にはちょっと苦戦ものの本でしたが、中世トルコ史を学ばれた方ならもっとちゃんと楽しめるかもしれません。

りるさんはイスタンブルに行ったことがあるのですね、羨ましい!

>黒人への差別と興味が深いという記述があるのは、なるほどと思いました。

えと、黒人への差別意識というのは本を書いた作者についてのことなんです。書き方悪くてごめんなさい。
トルコ内での黒人の差別は私にはわからない分野です……。
でももしかしたら白人宦官からは黒人宦官への差別があったかも知れませんね~。

風俗分野の記述は、その世界を身近に感じられるので私も大好きですv

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