『アーサー王ここに眠る』

アーサー王ここに眠る (創元ブックランド)
フィリップ・リーヴ 羽住 都 井辻 朱美
4488019676



[Amazon]


読了。

古代のブリテン島で、現実の武人アーサーとともに生きながら「アーサー王」の物語を作りあげていく吟遊詩人とかれに拾われた孤児の少女の行く末を描く、「アーサー王物語」と物語についての物語。

この話はとても面白く、興味深かったです。

「アーサー王」を扱った物語はたくさんありますが、こういう視点から描いたものはこれが初めてなんじゃないでしょうか。

主人公は、アーサー一行の焼き討ちにあって命からがら逃げ出したまだ子供といっていい少女、グウェナ。
彼女はアーサーの吟遊詩人であり軍師であるミルディンに拾われて、かれからとんでもない役割を押しつけられます。

それからグウェナは、現実のアーサーとそこからミルディンによってアーサーの物語が作りあげられていく様を目の当たりにしていくことになります。

これは物語がどのように生まれ、育っていくかの物語なんだと思いました。
吟遊詩人の意図的な創作も、受けとめた人びとの期待に叶わなければ伝播していくことはない。

そして、そのようにして定着した物語の中からさらに残っていくのは、時代時代にさまざまな解釈をしうる大きな骨格を持った物語だけなんだなーと、しみじみ感じてしまうお話でした。

この話で魅力的なのは、物語が吟遊詩人と受け手の間につくりだす、時代の空気の一体感みたいなものが感じられること。

これは魔法の出てくるファンタジーではありません。
けれど、語ることの力を書いた物語であることは確か。

吟遊詩人が作為を持ってつくりだした物語も、最後には語り手のもとを離れて飛び立っていってしまいます。

物語は自立する。

そもそも、言葉は表した途端に発し手から切りはなされて独自の道を歩き出してしまうものだから。

アーサー王の物語も、長く世界中で愛されるだけのちからを備えた物語のひとつなのだと思います。

ところで、ここに書かれているアーサーのエピソードは、私の感触からいくとマビノギオンの気配が濃厚な感じでした。

期待していた賢王アーサーの物語ではありませんでしたが、予想外の面白さだったと思います。

これが『移動都市』のフィリップ・リーヴの作品だとは。
たしかに、暗い色調と輪郭のくっきりとした動きのある描写はリーヴなんですが。

既読の作品と比べると、より主人公のこころに寄り添った書き方がされていて、それは一人称だからかも知れませんが、とても読みやすかったです。

あと印象的だったのが訳文。
井辻さんの訳は日本語としてもとても美しいのですが、最近使われる言葉がどんどん日本の時代物っぽくなってきているような気がします。
平家物語テーマの日本ものを同時に読んでいたのですが、それと語彙がほとんど変わらないようで、ちょっと驚きました。固有名詞とか貴婦人とかで翻訳物であることを思い出すのですが、なんだか不思議な空間に連れてゆかれている心地がしました。

移動都市 (創元SF文庫)
安野 玲
4488723012

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する

Trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)