『琵琶法師 〈異界〉を語る人びと』

琵琶法師―“異界”を語る人びと (岩波新書)
兵藤 裕己
4004311845



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読了。

中世から近世、近代にかけて日本各地を放浪していた琵琶法師の、歴史と存在を民俗学の立場から解き明かそうとする。
最後の琵琶法師の語りを収めたDVD付録付き。

旅芸人つながりでゆきついた琵琶法師の本です。
これは大当たり! でした。

琵琶法師の日本での起源から隆盛期、そして衰亡しつつもしぶとく生き残ってきた近代までのあゆみが、その社会的な存在理由からかれらの芸のありかた、アイデンティティーまで、具体的にわかりやすくたいへんに面白かったです。

琵琶法師といえば「平家物語」ですが、その「平家」の成立過程・流行の理由などは目から鱗。

なにしろ私、恥ずかしいことですが日本史に疎いので、「平家物語」も中学か高校のときに冒頭を暗唱させられたことしか知りません。

でもこの本の冒頭でとりあげられている「耳なし芳一」にはトラウマレベルの衝撃的な記憶を持ってるので、もうすんなりとその世界に入り込むことができました。

そっかー。
芳一が起居していたお寺って、平家を弔っている寺だったのね……。
それに体中にお経を書かれるところがとても気味悪かった理由もなんとなくわかった気がする……。

「平家物語」はタイトルからしてわかるように滅び去った平氏の鎮魂歌だったそうで、それは滅ぼされたものの恨みを恐れる当時の人びとの恐怖と不安の念から生み出されたものらしい。当時は戦乱で社会が乱れた上に大地震も重なって、人心がかなり不安定だったようなのです。で、清盛は死して竜王となり大地を揺るがしたという通説が流布したらしい。

この竜王伝説というのが、まさに民俗学的なファンタジー。

それと、壇ノ浦で沈んでいった安徳帝と建礼門院が、父性を知らない琵琶法師たちに深い共感を得たという話もそうかー、とうなずけました。

さらに成立過程では平家鎮魂をメインにしていたはずの「平家」が、時代を下るに従い源氏系の王朝成立伝説となって琵琶法師も権力者に取り込まれていき、しだいに野を放浪する琵琶法師が減っていった、という件には、江戸時代モノにはなぜ琵琶法師の姿が見当たらないのかという私の疑問にわざわざ答えて貰ったような心地でした。

しかし、琵琶法師もすっかりいなくなったわけではなく、西日本・九州ではほそぼそとながら生きながらえていて、それがもともと琵琶法師の職能だった祭祀を司る役割を拠り所としていたからである、という話も興味深かったです。

というわけで、以下に目次。


序章 二人の琵琶法師
 「耳なし芳一の話」/芳一話の系譜/耳と異界/モノ語りの担い手/最後の琵琶法師/現代の芳一/ハーンと芳一

第一章 琵琶法師はどこから来たか――平安期の記録から
 大陸の琵琶法師/二つの伝来ルート/盲僧の六柱琵琶/サワリという仕掛け/平安貴族による記録/『新猿楽記』の「琵琶法師」/「地神経」読誦の記録/地神の由来/四季の土用と「地神経」/霊威はげしい王子神/地母神の信仰/東アジアでのひろがり/物語の母型

第二章 平家物語のはじまり――怨霊と動乱の時代
 怨霊のうわさ/竜王と平家の怨霊/安徳天皇の鎮魂/竜王の眷属/『法華経』の竜女/大懺法院の建立/『徒然草』の伝承/語り物と平家物語/語り手としての有王/琵琶法師と聖の接点/編まれてゆく物語/巫覡としての聖/モノの語りの文体/匿名的な〈声〉/「視点」のない語り/モノ語りとテクスト

第三章 語り手とはだれか――琵琶法師という存在
 身体の刻印/「内裏へは五躰不具の者入らざる……」/穢れと聖性/柳田国男の「一目小僧」/干死と怨霊/境界をまつる蝉丸/宿神と異形の王子/「悪」が支える聖性/「伊勢平氏はすが目なりけり」/母と子の神/竜女と韋提希夫人/弁才天の信仰/モノ語りする主体

第四章 権力のなかの芸能民――鎌倉から室町期へ
 寺社がはたした役割/座の形成と村上源氏中院流/当道座以前の数派/一方派と東の市/覚一本の成立/当道座の成立と本文の相伝/「平家」の流行と南北朝の政治史/「室町殿」への正本の進上/将軍家と当道座/村上源氏から清和源氏へ/将軍家の起源神話

第五章 消えゆく琵琶法師――近世以降のすがた
 応仁の乱以後/徳川政権との結びつき/地神盲僧への締め付け/「脱賤民化」のための支配構造/諸職諸道とのつながり/三味線・浄瑠璃の台頭/東北の奥浄瑠璃/西日本の座頭・盲僧/近代に残った琵琶法師/「あぜかけ姫」の伝承/機織り淵の伝説/「俊徳丸」の伝承/アルトー版の「耳なし芳一」/おわりに――琵琶法師とはなにか

「俊徳丸」DVDについて
「俊徳丸」全七段・梗概

あとがき



ところで、付録のDVDに収録されている最後の琵琶法師のかた。
どうやらつい最近まで……といっても1990年代くらいですが、ご存命だったらしいです。
かなりのご高齢で演目もご自宅で撮影されたとおぼしき日常的背景のなかですが、その語りの迫力はすばらしいものがありました。若き日のお姿を拝んでみたかったです。熱烈に。

熊本におられたということなのでもしやと母に尋ねてみましたが、「えー、そうなの?」という応えがあっけらかんと返ってきて残念でした。

ヨーロッパの旅芸人資料をあさりつつ、少ないなあと思っていたのですが、日本の資料ならたくさんあるじゃん。真実のヨーロッパを書きたいわけじゃないんだし、予備知識としてならいくらでも役に立ちそうだ、とおもったので、しばらくこの辺を追いかけてみようかなー。

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