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『キプリング短篇集』

キプリング短篇集 (岩波文庫)
ラドヤード・キプリング
4003222024



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読了。

十九世紀後半から二十世紀前半にかけて活躍したイギリス作家キプリングの、日本独自に編まれた短篇集。九編収録。

『プークが丘の妖精パック』がとても好きな作家、キプリングの短篇集。
キプリングは小説と詩を並行して書いた作家で、短編の数は三百を超えるそうです。
そのなかから代表的な作品を時代的にまんべんなく、この本の刊行時点で未訳であった物を選んで編集されたのがこの本。

インドで生まれ、イギリスで教育を受け、インドで新聞記者として独り立ちした後に世界各地をまわって最後にはイングランドのサセックスに終の棲家を築いたキプリング。

作品はその人生と密接に絡み合っていますが、虚実は明確には判別不能な作家でもあるそうな。

そんなキプリング短篇集の収録作品は以下の通り。


領分を越えて
モロウビー・ジュークスの不思議な旅
めえー、めえー、黒い羊さん
交通の妨害者
橋を造る者たち
ブラッシュウッド・ボーイ
ミセス・バサースト
メアリ・ポストゲイト
損なわれた青春

解説



『プークが丘』が深みのあるあたたかさとどことない明るさを備えていたのとは対照的に、ここに収録された作品は後味が苦いものが多いです。おそらく前者は明確に児童向けとして書かれたからなんだろう。キプリングの本質は、こちらのほうなのだろうなあと思います。

恐怖、不安、恨み、嫌悪などが、夢、それも悪夢とともにけっこうそこかしこにあらわれて、ハッピーエンドになってもどこか不穏な雰囲気が残る気がする。
かなり技巧が凝らされているのと、テーマをむき出しにしない、むしろさまざまなディテールの中に隠してしまっているようなところは、文学だなあという気がします。熱さとか驚きとか、そういう感情ではないところで受け手には何かが伝わればいい、伝わらなくてもいいというような、妙な感じを受けました。

うーん、欧米物の短編はあんまり読んでないんですが、はっきりと落ちが付くのってあんまりないような。キプリングはまさに付かないタイプで、私は落ちが付いて欲しいタイプなのか、はぐらかされたような気分になることがしばしばでした。

キプリングは一時期本国でも読まれなくなっていたそうですが、その理由はよくわかる。キプリングはイングランドの保守派で、人種差別ととられかねない言葉をたくさん口にしていた模様です。

たしかに今の私が読んでいてけっこう眉をひそめる文章や台詞がありました。

しかし、キプリングの時代はヴィクトリア朝から後の、いま日本で盛んにもてはやされ書かれている時代そのものであったことを考えると、かれは一般的なイングランド人の価値観を代表していたのだろうと想像はできます。

キプリングはインド在住イングランド人の子弟でイングランドでは差別の対象でもあったこと、さらに作品中にも扱われているキプリング自身の生い立ちなども考え合わせると、無理もないのかなと。

キプリングの少年時代を題材にしたとおもわれる短編は、これはいまなら児童虐待です、というようなひどいエピソードがてんこ盛りです。
ですけど、同時代の児童書ってけっこうそういうのがありますよねー、『小公女』とか。ハリー・ポッターもその系譜なのかな。

そういうトラウマ体験がキプリングの人格形成に多大な影響をもたらしていて、今はその歪み関連でまた読まれるようになったらしい、というのを解説で読むと、作家にとっては忘れられていくのとどっちが幸せなのかなと思ってしまったりしました。

なんだかうだうだと書いてしまいましたが、読んでいて非常に気になる作品集だったということはたしか。

なかで「橋を造る者たち」は橋を作る人たちの困難の物語かと思ったらおもいがけないファンタジー展開で、これが一番後味が良かった気がします。

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