『シナン 上』

シナン〈上〉 (中公文庫)
夢枕 獏
4122049342



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借りて読了。


一六世紀のオスマントルコで聖ソフィア大聖堂をもしのぐモスクを建造した宮廷建築家シナンの生涯を、かれの生きた時代の流れとともに描く。歴史小説の上巻。

オスマントルコよ、イスタンブールよ! と借りてきた本。
上巻のみだったのは他にもいろいろ借りたので重かったからです。

著者はあの夢枕獏。
私のイメージは最初期の叙情SFからエロス&バイオレンスとSFで止まってるのですが、外国の歴史小説まで書くようになってたんですね。
最後に読んだのは『上弦の月を喰べる獅子』か『陰陽師』。でも『陰陽師』は岡野玲子バージョンのほうが強烈で、原作の印象が消えてしまっているという。

で、この『シナン』なわけですが、作者=神が見下ろす感じで語る、距離のある書き方がされています。
オスマントルコという舞台が読み手から遠いので説明を簡単にするにはそのほうがいいんだろうと思います。
ただ、臨場感には甚だしく欠ける。
私はオスマントルコの空気を吸いたくて読み始めたので、これはかなり残念な書き方でした。

小説と思わず、歴史読み物として読めば、オスマントルコの歴史的な流れとか、当時の世界情勢とかが大づかみでわかるようになっていて、なかなか面白いです。

一六世紀オスマントルコがスレイマン大帝の元で繁栄を極める頃、西ヨーロッパではルネッサンスを経て各地で中央集権化がなされ、フランス、ドイツ、スペイン、イングランドといった列強が台頭してきて、互いにいがみ合いながらも西欧商業圏を拡大しようとしているのです。世界中の富を集めようとするかのように、西洋諸国は世界へと脚を伸ばしていきます。その足どりを東でせき止めていたのがオスマントルコ。強大な帝国は西洋列強諸国の共通の敵だったのです。

なるほどねー。

読んでいてそんなに西洋視点ばかり……と思ったのだけど、この時代は西洋文明が爆発的な力をもって世界へと拡散していく時代なんですね。他の地域の文明はその土地で閉じていたので、不幸にも列強と出会ってしまった地域は予備知識なしに蹂躙されてしまったわけです。

日本にも影響がなかったわけではない、ということは日本史をお勉強していれば思いあたります。

そうだったのかー。
お勉強になるなあー。

と感心してしまいましたが、肝心の主人公がいっかな活躍してくれません。
それもそのはず、シナンが宮廷建築家として名を馳せるのは五十をすぎてから。
かれの人生の前半は完璧に雌伏の時なのです。

というわけで、話は延々とシナンを取りまく情勢説明がつづき、シナンはイェニチェリ軍団の工兵にこそなりますが、その後はときおり顔を出して時代の空気を吸ってますーとばかりにハンマームに行ったり、コーヒーを飲んだりしています。

そのへんのエピソードでようやくイスタンブールの日常が出てきてくれるので、ちょっと満足したりしましたが、そんなことでいいのか。これじゃあ、スレイマン大帝とその時代に生きる一工兵シナンの日常です。スレイマン大帝の即位前から即位後、各地の反乱と戦う華麗な日々の現場的おまけエピソードでしかないではありませんか。

いつになったら活躍するんだよ!(笑。

とじれじれしていたら、ようやくシナンに密命が下りましたよ。
ああ、やっとやっと主人公が動きだす……と思ったら上巻終わり。

くっ……。
なんで私は下巻を借りてこなかったんだ……。

はげしく後悔しながら、なるべく早く下巻を手にしたいと思ってます。

シナン 下 (2) (中公文庫 ゆ 4-6)
4122049350

Comment

No title

こんにちは。
トルコと聞いて飛んできました(^o^)
この本、読みたかったんですよ。
できればトルコに行く前に。
もうとっくに文庫になってたんですね。

スレイマニエジャーミーは見応えありましたね。
観光コースに入ってないのでわざわざ自分で見に行きましたが
それだけの価値はありました。
ハンマームとか付帯設備も良く残っていて、建物フェチにはよだれものでしたよ。
スィナンさんのお墓は発見できなかったけど。

スィナンさんはカッパドキアの出身で、
キリスト教徒の地下都市の構造をモスクの建築に生かしたって
ガイドさんに聞いたんですけど、小説でもそんな感じですか?
あ、それは下巻か 笑
失礼いたしました。
お邪魔いたしました。

きんとさん、こんにちはーw

事前には読めなかったのですね、それは残念。
予備知識があるのと無いのとでは体験の深みがちがいますものね。
でも先入観なしのまっしろな気持ちで受けとめられる物もあるんじゃないでしょうか。

シナンはスィナンが原語に近いんですね。
そういえば、カバーのアラビア文字もshじゃなくてsのほうです。

カッパドキアで生まれ育って、イェニチェリで工兵になり、戦時には攻城のための坑道や橋やなにやかやを造り、戦闘にも従事して……という感じのことが書かれてますね。遠征の度に各地の建築物を見て知識を得ている模様です。

上巻の終わりではヴェネツィアで聖マルコ大聖堂を仰ぎ見てました。

まだ建築家になってません(泣笑。

下巻を見てろよ、と勝手に期待しています。
ちと不安ですが(汗。

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