ごく個人的な2009年ベスト

2009年に読んだ中から個人的に面白かった&好きな本です。2009年に読んだというだけで、刊行されたのは違う年のものも多いです。というかほとんど違います。順番はたぶん読んだ順で他に意味はありません。

ちなみに2009年に読んだ本は167冊でした。


・須賀しのぶ『アンゲルゼ』全四巻。コバルト文庫。

肉体的にも精神的にも極限に追い込まれていく少年少女たちの壮絶な青春SF小説。
「流血女神伝」といいこのシリーズといい、作者さんの情け容赦のないリアル&ヘビーなジェットコースター展開には毎回悲鳴をあげさせられっぱなしです。

シンプルに言えば少年少女の成人通過儀礼小説ということなんでしょうけど、ここまで重たくシビアな現実を突きつけられないと、現代の精神には響かないのかなあとか考えさせられてしまいますが、ほんとうに面白い小説はそんなことは忘れさせてくれる。

物語世界の現実のつらさ深刻さと登場人物の痛みと哀しみが相乗効果でのしかかってきて、息も絶え絶えな感じで読み切りました。

重量級のお話でした。そしてこのハードなお話にいうのも何ですが、とてもよい青春小説を読んだと思いました。
青少年だけじゃなく大人たちもきちんと描かれている青春小説です。

お金があったら補完本(本編に入りきらなかった分を作者さんが私的に刊行されている)を買うのになあ……。


アンゲルゼ―孵らぬ者たちの箱庭 (コバルト文庫) アンゲルゼ―最後の夏 (コバルト文庫) アンゲルゼ―ひびわれた世界と少年の恋 (コバルト文庫) アンゲルゼ―永遠の君に誓う (コバルト文庫)


・パトリシア・A・マキリップ『茨文字の魔法』。創元推理文庫。

今年も東京創元社さんからマキリップの本が複数刊行されました。マキリップ好きとしてはこのままどんどん出してください、と声を大にしてお願いしたいところ。
そんななかでも一番面白かったのがこれ。
落ち着いた地味な雰囲気の滑り出しながら、気がつくとあれよあれよとどんどん予想外の所に連れていかれてしまう、じつにファンタジーらしいすっ飛びかたをする、魔法成分に満ち満ちた物語です。
やっぱりマキリップはいい! 最高にいい!
これもまた私の大好きな一冊になりました。

茨文字の魔法 (創元推理文庫)


・ケイト・コンスタブル『トレマリスの歌術師』全三巻。ポプラ社。

歌術という歌による魔法の力を描き出した異世界ファンタジー。
これも基本は少女の成長譚で、さらに世界と人との調和を歌いあげる物語です。

シビアな展開、個性的な登場人物たちそれぞれの事情と関係性、巨悪との戦い等々が、物語世界の独特さとそれをさりげなく描き出す描写。

異世界ファンタジー読みにはうっとりできるシーン続出の、たまらないシリーズでした。
とくに歌術による魔法の発現シーンには毎回ゾクゾクしてました。

第一巻が翻訳者浅羽莢子さんの最後の仕事となったことも印象深いです。

トレマリスの歌術師〈1〉万歌の歌い手 トレマリスの歌術師〈2〉水のない海 トレマリスの歌術師〈3〉第十の力


・菅野雪虫『天山の巫女ソニン』全五巻。講談社。

朝鮮半島っぽい異世界で、巫女として落ちこぼれた少女が偶然に王子の側仕えとなり、社会のありようや国同士の関わりなどに触れて成長していく物語。

文章はやさしく穏やかで児童書だなあと感じますが、とても深く重く現実的なことを扱ったお話です。『彩雲国物語』にちょっと似ているかもと思っていましたが、上橋菜穂子さんの作品と通じるところもあるかなあと今思いつきました。

児童書なのでラブ度はほぼ皆無ですが、物語優先と思っていた話のなかでキャラクターがだんだん立ちあがり個性を発揮してきたりするのを読むのは楽しかったです。そのあたりを楽しめるのは大人の読み手だと思うのですw


天山の巫女ソニン 1 金の燕 天山の巫女ソニン  2  海の孔雀 天山の巫女ソニン(3) 朱烏の星 天山の巫女ソニン(4) 夢の白鷺 天山の巫女ソニン(5) 大地の翼


・フィリップ・リーヴ『アーサー王ここに眠る』。東京創元社。

アーサー王ここに眠る (創元ブックランド)


魔法使いも英雄もいない現実、でもひとびとの心のなかでそれは生み出されていく。とある語り手の言葉によって。

英雄アーサー王という存在がどのようにして人々の心に植えつけられていったのかを、現実と夢の狭間に描き出す、とても個性的で不思議で魔的な物語でした。

悲惨な現実を生きているからこそ夢や理想を見ていたいというひとの心と、それを巧みに利用する吟遊詩人の言葉の力の相乗効果。

そういう点からみれば、これは言葉のもつ力の物語だったかもしれません。

理想を求める吟遊詩人の夢を実現化する言葉は、汚い現実よりもひとびとに受け入れられやすかったのだろうなあとか、いろいろと考えさせられた小説でした。

このアーサーと吟遊詩人の関係って今で言えば芸能人と広報係みたいなものかもしれない……とかいうと、それこそ夢ががたがたと壊れますね、はい、もう言いません(汗。

とはいえ、その汚い現実があるからこそ、夢はひときわ輝くのですよね。


・冲方丁『スプライトシュピーゲル』富士見ファンタジア文庫。『オイレンシュピーゲル』角川スニーカー文庫。

近未来のウィーンを舞台にしたSFバイオレンスアクションシリーズ。

テロ事件の解決に当たる公安と警察二つの組織。そこに所属する機械化義肢により武装化した少女たちの、孤独と痛み、辛い過去と厳しい現実を、マシンガンの掃射のように叩き出される言葉で描く、熱くて深くて緻密で複雑なのに疾走している、ふたつでひとつのシリーズです。

いかにもなライトノベルキャラクターが、ものすごく個性の強い文章による猛スピード展開で動きだすので、最初はなかなかなじめなくて混乱しましたが、これが慣れるとだんだん心地よくなって、癖になってきちゃったのです。

そしていかにもと思われたキャラクターたちが次第に輪郭だけじゃない、厚みを持った人物として感じられだしたら、もう、やられたと思うしかありません。

物語世界の背景は、悲惨な近未来です。
そこにあるのは大国間の勢力争いの影響で大量に生み出された失敗国家の数々とそこから流れ出す難民たち、そして社会からはじき出されて惑う貧困層。

その中でももっとも力なく弱い存在である少女たちがこの物語の主役であることには、ラノベ的だけではない意味があると私には思われます。

彼女たちをとりまくさまざまな人々のクールな描写、どんどん複雑化、錯綜化して、規模を拡大していく事件とその背後にある謎の組織。

ストーリーだけなら奇想天外ですが、この作品にはそれをリアルと感じさせるだけの膨大な情報と細部がてんこもりです。

いや、とにかく、面白いのです。
ちょっとというかかなり血みどろ(バイオレンス)ですが、とても面白い。
最先端のアクションビルドゥングスロマンを読んでいる気分のいっぽうで、最近は読みながら『サイボーグ009』を思い出しちゃったりするんですよ、なんでだろう?

現在は『スプライトシュピーゲル』『オイレンシュピーゲル』ふたつのシリーズが合流する完結編『テスタメントシュピーゲル』が刊行開始されています。

スプライトシュピーゲル I Butterfly&Dragonfly&Honeybee (1) (富士見ファンタジア文庫 136-8) スプライトシュピーゲル II Seven Angels Coming (2) (富士見ファンタジア文庫 136-9) スプライトシュピーゲル III いかづちの日と自由の朝 (3) (富士見ファンタジア文庫 136-10) スプライトシュピーゲルIV  テンペスト (富士見ファンタジア文庫)

オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White (1)(角川スニーカー文庫 200-1) オイレンシュピーゲル弐 FRAGILE!!/壊れもの注意!!(2) (角川スニーカー文庫 200-2) オイレンシュピーゲル 参 Blue Murder (3) (角川スニーカー文庫 200-3) オイレンシュピーゲル肆  Wag The Dog (角川スニーカー文庫)



・西魚リツコ「暁と黄昏の狭間」シリーズ全六巻。徳間ノベルスedge。

マンガ家だった作者さんの、西欧風でもなくアジア風でもない、独特な世界を舞台にした異世界ファンタジー。

このシリーズはなんとなく読み始めたのですが、巻を追うごとに面白くなっていきまして、最後には壮大で重厚なエピックファンタジー作品になりました。

私は、ストイックな話運び、ストイックな登場人物描写、どこからどこまでも物語進行のために奉仕する描写でこれだけの物語世界を描き出す、作品的にシビアでタイトなところに痺れました。

いまはキャラクター小説が盛んですが、物語世界そのものを描こうとする小説はファンタジーには在っていいと思うのです。ファンタジーだからこそ、かな。

後半の阿鼻叫喚、驚天動地の展開にはなんどもたまげました。
驚きの連続の物語というのも、読んでいて楽しいものです。この楽しさにはもれなく悲鳴が着いてきました(苦笑。

まだ荒削りなところはあるけれども、それをさしひいても読後にものすごい物語を読んだという感慨に耽ってしまう本は、そうゴロゴロと転がってはいないものだと思うのです。

暁と黄昏の狭間〈1〉竜魚の書 (トクマ・ノベルズedge) 暁と黄昏の狭間〈2〉薬王樹の書 (トクマ・ノベルズEdge) 暁と黄昏の狭間〈3〉角獣の書 (トクマ・ノベルズEdge) 暁と黄昏の狭間〈4〉甲蛇の書 (トクマ・ノベルズEdge) 暁と黄昏の狭間〈5〉月虎の書 (トクマ・ノベルズEdge) 暁と黄昏の狭間VI 鳳船の書 (トクマ・ノベルズEdge)



・アーシュラ・K・ル=グウィン『ラウィーニア』。河出書房新社。

個人的ベストのなかでももっともベストだったのは、たぶんこの本です。
ギリシア叙事詩『アエネーイス』を元にした古代ファンタジー。
リアリティーある現実と夢とが等価で交錯し、ときに現在と過去と未来もが入れかわる、夢の中で見た世界のようでいて血なまぐさくもあるという、両極端の雰囲気を併せ持った格調高い作品でした。

さすがル=グウィン。
と、感想にも書いたっけ。

語り手がいるのに物語の枠をほとんど感じさせない臨場感にあふれる描写と、それを可能にする穏やかで技巧を意識させない文章がかなり好きです。

語り手の人生に、夢の中で丸ごと触れているような心地になりました。
読後感もしみじみとしていて、いいなあー、と思える本でした。

ラウィーニア



……語りすぎて疲れました。
年ベストでこんなに語ったのは初めてかも。
それだけ面白い作品揃いだったということで、2009年、私の読書生活は大変に幸せだったということなんでしょう。

2010年もあたらしい面白い本に出会えるといいなあ。

以下はその他の印象に残った本です。

ロビン・マッキンリイ『サンシャイン&ヴァンパイア』、ジャスティーン・ラーバレスティア『あたしと魔女の扉』『あたしをとらえた光』『あたしのなかの魔法』、シャンナ・スウェンドソン「(株)魔法製作所」シリーズ、初野晴『1/2の騎士』、ローズマリ・サトクリフ『辺境のオオカミ』『運命の騎士』、ジョゼフ・ディレイニー『魔使いの戦い』、恒川光太郎『夜市』『草祭』、妹尾ゆふ子『翼の帰る処2 鏡の中の空』、パトリシア・ブリッグズ『裏切りの月に抱かれて』、中野美代子『ザナドゥーへの道』、万城目学『鹿男あをによし』、クラーク・アシュトン・スミス『ゾティーク幻妖怪異譚』、ヴォンダ・N・マッキンタイア『夢の蛇』、谷瑞恵『伯爵と妖精』シリーズ。




ごく個人的な年間ベスト一覧

Comment

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ゆめのさん、ベスト選出お疲れ様でした!
いつもゆめのさんの書評を読んでいて、書評というのもモノカキの立派な一つのジャンルなのだなあと思います。
「読む力」と「書く力」、両方ないとできないことですものね。
本当にいつも楽しませていただいております。

最近はすっかり本を読んでなくて、ゆめのさんの新作も他のweb作家さんたちの作品も全然読めてなくて申し訳なさでいっぱいなのですが。。。(>_<)
これからもこちらは日参するつもりです。
また時々コメントもしますね。
今年もよろしくお願いします。

きんとさん、あけましておめでとうございますw

ベスト読んでくださってありがとうございます。

>書評というのもモノカキの立派な一つのジャンルなのだなあと思います。

私のは書評なんて立派なモノじゃなくてただの感想にしかなってないのですけど、たしかに感想書くだけでもけっこう労力がかかりますね。
もしかして、ブログ止めたらもっと話が書けるかも知れないと思うこともありますけど、書いてみると自分が理解したことも把握できるので自分のためにもなってる気がします。

自己満足な文章をたれ流していることにはたと気がつき、時々ぎゃーっと叫びたくなることも、実はあるのですが(汗。

そんなものを楽しんでいただいてるなんて、恐縮至極でございます。

私も一時から比べると読書ペースは落ちまくりです。
去年の読了数はマンガのほうが多かったんじゃないでしょうか。

ネット作品もぜんぜん追いつかなくて、ストックが増えるばかりですよー。

『三大陸周遊記』も読みかけたままだし(エジプトあたりで結婚した奥さんはいったいどこへいったんでしょうか;)。

こちらこそ、今年もどうぞよろしくお願いいたしますw

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