『LOVE WAY GLASS HEART』

LOVE WAY―GLASS HEART (コバルト文庫)
若木 未生 羽海野 チカ
4086002094



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読了。

青春バンド小説「グラスハート」の番外短篇集。

ヒロイン朱音ちゃんの所属するテン・ブランクのリーダー藤谷直季の異母兄弟、真崎桐哉を中心にしたサイドストーリー集です。

桐哉を中心にしていますが彼視点の話はなく、周囲の見た真崎桐哉の姿が描かれているのがこの本の肝かと。

収録作品は以下の通りです。


さよならカナリア
LOVE WAY I
アンダーエデン
LOVE WAY II
アカツキに火を放て

オーヴァークローム・クロニクル

あとがき




ご覧の通り、真崎桐哉のユニット、オーヴァーサイト・サイバナイデッド・クローマティック・ブレイドフォース、通称オーヴァークロームの誕生から終焉までを追った構成になっています。

オーヴァークロームの仕掛け人、ディレクターの佐伯さんの視点から始まり、相方を務める有栖川氏の視点、ファンの女の子視点、有栖川視点とめぐって最後にまた佐伯さん視点で締めくくる。

そのあいだに周囲の人々が真崎桐哉に何を感じ、何を求め、何を受けとったかがたいそう主観的に、感受性豊かに、ときにひりひりするくらいに先鋭的に、描かれている。

なんて痛々しい話なんだろう。
と思いましたが、思春期というものはそういうものかもしれない。
皮膚を剥がされた赤裸のまま、毎日針をグサグサとさされるような気持ちで生きていくのが青春なのかもしれない。

まだ未熟だから、弱いから、自分に何ができるのかわからないから、世界にさらされると痛くてしかたがないのかも、しれない。
だからすべてに敏感になって、自分の中に閉じこもったり、過度に防御して人を傷つけたりもして、その結果自分も傷ついてしまう。

そんな人々のカリスマが、桐哉だったのかなと思いました。

佐伯さんにとって桐哉は青春の忘れ形見。
有栖川氏やファンにとっては、自分ひとりでは進めない道を切りひらいてくれる先駆者で、世界に自分をつなぎ止めてくれる命綱。

でも、桐哉自身はなにを思いなにを受けとめなにを求めていたのだろう。

それが具体的には書かれていないことが、この作品の深い余韻になっているように思いました。
藤谷先生や朱音ちゃんとの絡みで断片的に見えてくるものはあるのですけどね。

初読の時にはそこで止まっていたのですが、今回読み返してみて、桐哉の年齢が遠くなったことも手伝ってか、私には桐哉が痛々しい少年に見えるようになってて、それはこのシリーズを読み返しはじめた時から感じていたのですが、ちょっとした驚きでした。

桐哉は自分が世界と戦うための武器が歌であることを知っている。
けどその使い方をまだマスターしきっていない、全開マックスでしか使うことができない、不器用な少年だったのか。

異腹の兄においてきぼりにされて寂しくて、自分の存在を認めてもらいたくて俺様で、好意の表し方が乱暴でひねくれていて、そんな自分にかなり苛立っている少年だったんだ。

オーヴァークロームという枠の中で、他人に多大な影響を与えてきた桐哉は、自分自身もその活動や他人によっていろんなものを与えられてきたんだなと、ラストでしみじみと感じました。

もう、機械仕掛けでなくとも歌える。
生身の自分で勝負ができる。

そうなった自分を見てくれ、と言っているような気がしました。

ところで、朱音ちゃんて桐哉のファンから見るとすごく羨ましい立場なんだなとあらためて認識。
で、桐哉はなにゆえ朱音ちゃんをかまうのかと考えてみたのですが、朱音ちゃんが自分の武器を使う必要を感じずに健やかに育ってきたことへの、ひそかな憧れと嫉妬と庇護欲なのかな。

藤谷先生については、ちょっとひねくれてぐれてみたけど、やっぱりお兄ちゃんが好きなんだなと思いましたw


余談も余談。

このシリーズって回想シーンが全然無いんですよね。この間気がついたのですが。
過去に関する情報は、すべて登場人物のなにげない台詞をつなげて推理しないと出てこない。
ここには今この瞬間、つぎつぎに飛び去って過ぎていく「今現在」の出来事だけが書かれている。
時間は逃げ足が速いのです。つかまえられないのです。戻ってこないのです。


さて、既刊分を制覇しました。
これでようやく完結編を読むことができます。
うふふ。楽しみ。

イデアマスター―GLASS HEART (バーズノベルス)
若木 未生 藤田 貴美
4344815750

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