『ミムス 宮廷道化師』

ミムス―宮廷道化師 (Y.A.Books)
Lilli Thal
4338144319



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読了。


ドイツの作家による、中世ヨーロッパの架空の国(と思う)を舞台にした、道化師に師事することになった王子様の成長物語。ヤングアダルト向け。



モンフィール王国の世継ぎの王子フロリーンは、王の騎士学校の仲間たちとともに楽しく有意義に日々を過ごしていた。ある日、第三国へ赴いていた父王フィリップから使者が到着した。使者は、評判芳しからぬティロ伯爵で、長年戦争状態にあったヴィンランド王国との和平がなり、ヴィンランド王がもよおす祝宴にフロリーンも招待されたので、いそぎヴィンランドへ向かうようにという。かれの言葉を裏書きする手紙は王の手によるものに間違いはなかった。フロリーンはティロ伯爵に全幅の信頼を置けぬままにヴィンランドへと向かったが、かれを待ち受けていたのはヴィンランド王テオドの、手ひどい裏切りだった。王と重臣たちを捕らえたテオドは、フロリーンを自分のお抱え道化師ミムスの弟子にと命じたのだ。




これはすごい。面白かった!

王子から道化へと転落したフロリーンの苦難つづきの日々が、父親を人質にされていて処刑が近づいているという緊迫感のなかで、シビアに現実的に、ときどきは辛辣なユーモアとともに、巧みに描かれていきます。

道化師という存在の特殊性が物語のポイントだと思う。
人間以下、馬以下、慰みの動物並みの扱いを受けながらも、ときには国王をこきおろしても罰されることはない。
人間に非ず、つまり道化師とはふだんは人以下でも、状況によっては人以上の存在になれる、法に縛られない存在なんですね。

フロリーンの師匠になったミムスは、なかでもとびきりのプロフェッショナルな道化師です。
辛辣な舌鋒で人をあざ笑うだけでなく、曲芸もいかさまも、およそ道化師に求められる技に関してたぐいまれな才能をもち努力と研鑽を惜しまない姿に、初めは見下していたフロリーンが次第に抱いていく尊敬の念が、読み手にも次第につたわってくるのが圧巻。

ミムスの存在、そしてミムスを通して道化師という存在の可能性を描いたおかげで、この作品はただの歴史ものとはことなる存在感を放つことになったと思います。

さらに、中世ヨーロッパの日常生活が事細かに、まるで手に取れるように描写されていて、その情報量に圧倒されます。

道化という最底辺の身分から見あげる王によって築かれた世界は、とても不平等で、猥雑で不潔で暴力的で、なおかつ豊かで情にみちた懐の深い世界でした。

この本、中世ヨーロッパの資料としても使えそうだなと思いました。

舞台はたぶん著者の出身のドイツ、フランスあたりでしょうか。
初めは異世界かと思っていたのですが、キリスト教の司祭や箴言が当たり前のように出てきますし、サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者があらわれたりするので、異世界ではないと思います。

なにより、ファンタジーではぜんぜんないですしね。

とてつもなくシビアな状況からはじまった物事が、予想された未来からひとつの存在によって大きく転換するさまはまるで魔法のようですが、実際にもあり得た話なのではないかと思います。
あ、史実だと言っているわけではありません。
魔法が無くてもありうる話だと言いたいのです。

そして、そんなことを可能とする道化師という存在は、私にはこのうえなく魅力的なものに見えました。
吟遊詩人と地位的には似ていますよね。
でも、道化師の方が大変な気がします。

現代ならばお笑い芸人が近いのかなと思いますが、お笑い芸人は曲芸や奇術までは求められませんからねえ。

とにかく、とても興味深く、とても楽しめたお話でした。


ドイツの作品はファンタジーじゃない方が面白い気がします。私にとっては。

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