『隣の病い』

隣の病い (ちくま学芸文庫)
中井 久夫
4480092668


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読了。

現在は神戸大学名誉教授である著者の、精神科医として過ごした日々の折々に書いた短文やエッセイを集めた『精神科医がものを書くとき』(広栄社・全二巻)に収録された作品をもとに編み直したものの後編。前編はおなじちくま文庫から出ている『精神科医がものを書くとき』。

繊細な感覚によって選び出された言葉を駆使した、穏やかな文章と知的で冷静な分析が魅力的なエッセイ集。

なかにはアンケートへの回答や、事典のためにかかれた文章もあります。
専門家のために書かれた文章も多く、かなりの部分で私の手には余る内容でした。
にもかかわらず、最後まで読み通せたのは、わたしにとってはこの方の書かれる文章の魅力がとても大きいからだろうと思われます。

以下、目次をあげておきます。




時間精神医学の試み
共時性などのこと
精神医療改善の一計
サリヴァンの統合失調症論
隣の病い
基底欠損〔英〕basic fault 〔独〕Grundstörung
ある臨床心理室の回顧から――故・細木照敏先生を偲びつつ
難症論
風景構成法(landscape montage technique)
フェレンツィの死と再生
オランダの精神科医たち
コラージュ私見
神戸大学医学部附属病院 第二病棟「清明寮」の開設について
牛込・晴和病院にて
芸術療法学会の二十五年
統合失調症の病因研究に関する私見
「統合失調症」についての問いに答える
清明寮の庭




引き返せない道――冷戦最終期の予想
「頑張れ」と「グッド・ラック」
一九九〇年の世界を考える
外国語が話せるということ
「疎開体験」に寄せて――佐竹調査官への手紙から
ムンク展覧会に寄せて
冷戦の終わりに思う
ハンガリーの旅
クラス会に出る
日本人がダメなのは成功のときである
霧の中の英国経験論
私の死生観――“私の消滅”を様々にイメージ
昆虫についてのアンケートに答えて
阪神大震災後四ヶ月
災害と危険介入
ウィーンの色、日本の色
幼児の寸景――戦前のタクシーの記憶




私の中のリズム――『現代ギリシャ詩選』を編んで
ギリシャ悲劇と私
詩の音読可能な翻訳について
現代ギリシャ詩人の肖像

あとがき

解説 「内地留学」の思い出から 藤川洋子




三部構成の第一部は精神医療に関する文章。
この部分は基礎知識がないと理解できないでしょう、私はほとんど理解できませんでした。
とりあえず統合失調症というのは過去に分裂病と呼ばれていたものであることは知っていますが、それだけではねえ……。

それでも時間精神学のところで中途覚醒は二時間おきが多いとかいうのは実感として納得できましたし、難症論についてもなるほどなーとこれまた実感つきで腑に落ちました。私も含めて我が一家は病んでいる構成員が多いので、なんとなくそうかーと思うところが多いのです。

第二部は国際関係に関する文章と阪神大震災に関する文章が集められています。

前者は世界がひとつになってからの近代からの戦争についての文章や、著者自身の渡航、学会や留学生を通じての体験談など。

後者は、阪神大震災に関する文章。

著者は震災後の神戸におかれた「こころのケアセンター」の中心人物として大変な尽力をされた方です。
その体験にもとづいての言葉には、実体験の重みとそれを今後にどうやって活かすかについての深い洞察が含まれています。

そして第三部は、言葉そのものと現代ギリシャ詩に関する文章。
音読可能に詩を翻訳するのってものすごく大変というか不可能に近いのではないかと私には思われますが、そこまでこだわって訳そうと努力するのは言葉の響きへの感受性が高いからなのかなあと感じました。

そして私は著者の文章のまさにこういう部分に惹かれているのだな。

内容はハードルが高かったですが、すこし背伸びをしてアカデミックになった気分になり、いろいろと個人的なお得感もあった、素敵な本でした。


分冊されたもう一冊はこちらです。

精神科医がものを書くとき (ちくま学芸文庫)
中井 久夫
4480092048

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