『葛野盛衰記』

葛野盛衰記
森谷 明子
4062158469


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読了。


平安京の盛衰を、女性たちと土地とのかかわりから生まれた部族間の対立をふまえて描く、幻想的な歴史小説。



保延元年、きらびやかな甲冑姿の平氏の武士たちが平安京に凱旋する。かれらを率いる棟梁の忠盛の心には、桓武天皇の親王だった祖先からの悲願――平安の都に勝て――が刻まれていた。遡って平安に未だ都のつくられぬころ、多治比の一族は葛野川の上流にある渡来の氏族・泰氏と古き氏族・賀茂氏とのあいだに隔てをおいて暮らしていた。ある日、廃れ皇子を父に持つひとりの皇子が訪れた。皇子は多治比の一族にまれびととしてむかえいれられ、大刀自の流れを汲む娘・伽耶の夫となった。狩りを好むたくましくおおらかな皇子は伽耶よりはるかに年上だったが、伽耶は皇子にまるで母親のような気持ちを抱いていた。そのうち変転する運命により皇子は陽の光を浴びることになり、ついには皇位につくことになる。桓武と号されることになる帝は伽耶の里に都を移すと宣言し、おびただしい数の者たちが造営のために集められてきたが――




女性と彼女たちの根づいた土地の盛衰をベースに描かれる、平安京の盛衰です。

と、書いてもどんなだか想像がつかないかもしれませんが、土地神をいただいたある一族が、他氏族に仕掛けた陰湿な争いと陰謀との成果が平安京であった、という裏歴史が、しらないうちに追い落とされてしまった多治比の民、のちに平氏一門の視点から描かれる、幻想的な歴史小説といえばいいのかなと思います。

幻想的なといっても超常現象が直接書かれるわけではなく、被害者・体験者と相対する別人の視点、あるいは伝聞により話は進むので、そこになにかがあったのではないか、いやあったはずなのに、というどことなくミステリめいた雰囲気の話です。

個人的に日本史には疎いので……とくに平安朝はかなり苦手なので、しらないことが多かったですが、第一部はその無知を吹き飛ばすほどに興味深く、わくわくしながら読みました。

男性視点、鳥視点で語られることの多い歴史の転換点を、女性視点の土地視点で語られることでみえてくるあらたな局面がたいそう面白かったです。

藤原氏ばかりが隆盛を極めていたようにみえる時期の他氏族の動向って、歴史のお勉強では習わないところですよね。でもかれらは滅亡したわけではなかったんですね。

宮中に残された宴の松原とか、そこを根城にする怪鳥とか、賀茂の齋院の由来とか、わたしの知ってる歴史の断片を総動員して読みましたが、第一部はほんとうに楽しかった。

どことなく、著者の『七姫幻想』につうじる味わいをたもちつつ、話をスケールアップしてブラッシュアップしたような感じでした。

第二部は、いまや隆盛を極める武士の一門として凱旋したかつての多治比氏をつぐ平氏の、というか平氏と、葛野と契約を交わした皇家の裔である上皇たちによる、無意識の葛野への反抗がまねく平安京の衰亡が描かれています。

この第二部には、多治比氏の女性視点がなく、もしかしたら後の池禅尼がその流れを継いでいるのかもしれませんが、とにかく葛野についての記述が極端に減って、途中から平氏の頼盛視点に変わってしまうためか、あまりのめりこめませんでしたが、藤原氏の専横に対抗してつくられた院政とそのよりどころになっていた武力=平氏のかかわりのありさまが、目の前でおきている出来事のように感じられたのが興味深かったです。

個人的には、ぬきんでて頭がよく機をみるに敏なのに、気分に極端に波があって、こころに底知れない闇を抱えた清盛の内心をもうすこし知りたかったなと思います。

かれと後白河の関わりには、頼盛にはよみとれなかった何かがあるに違いないと感じるのです。

それに多治比氏とは無関係な清盛がなにをおもって平安京と対していたのかも知りたいし。

そういえば、六波羅は鳥辺野だったという記述に、そうかここには河原者が、と膝を打ちました。いや、いまひとりで非人ブームなのでw

頼盛の内緒の愛人・内野さんの存在も、その正体含めてツボでした。
そうなのよ、院は非人たちを集めてまわりに侍らせていたのよ、握り拳!

総じて、第二部はそれほど目から鱗にはならず、追体験の部分が多かったので、ちょっとだれてしまいました。
平氏滅亡という史実はさんざん二次創作されきっているからか、その枠を粉砕するほどのパワーはこの遠回しで上品な書き方では生まれなかったのかなと感じました。

あ、最後の、平安期の武力によらない平和はいかにして実現されていたのか、という部分は、現代的にいうと冷戦とか某国の脅威論とか、そういうのと似ているよなあと、目鱗でしたが。

第二部はもうすこし史実路線から離れてくれた方がよかったのではと思いますが、読み終えてみるととてもきれいにまとめられているし、これはこれでよかったのかなあと余韻に浸りました。


七姫幻想 (双葉文庫)
森谷 明子
4575512540

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