『天地明察』

天地明察
冲方 丁
404874013X


[Amazon]


読了。

江戸時代初期、戦乱から幕府による泰平の世へと移り変わる中、社会を支えるシステムとして改暦に取り組むことになった碁打ち衆の若者の生涯を描く、歴史小説。


碁をもって徳川家に仕える“四家”のひとつ、安井家の跡取りである安井算哲は二十二歳。決まり切った定石をうちつづける毎日に飽いていた。さいわい、父親の晩年の子であったため、お役目は養子である義兄が立派に果たしている。しいて一家を支える必要に迫られず、渋川春海と名乗るようになったかれを虜にしたのは、算術だった。渋谷の金王八幡神社でたくさんの“算学奉納”の絵馬を眼にして興奮した春海は、そこで関孝和という天才とすれちがった。そしてまたその日、江戸城で老中酒井忠清の相手に指名される。




第三十一回吉川英治文学新人賞受賞作であり、2010年本屋大賞の受賞作。

『マルドゥック・スクランブル』や「シュピーゲル」シリーズの作者が、歴史小説?
と驚いているうちに、あちらこちらで話題になって賞も受賞してしまったので、うわあ、どうしようとおもいながらも予約順がまわってくるのを待っていた本です。ようやく読めました。

面白かった!
期待からはちょっとはずれていたけれど、それでも面白かったです。

僭越なことを書きますが、この作品で著者はこれまで積みあげてきた自身の作品を描くための技巧をすべて放棄している、ような気がします。

これまでの冲方作品のイメージをそのまま予想していたら、肩すかしを食らいます。
ここには、言葉遊びもこだわりのディテールもアクションもバイオレンスもありません。
登場人物がどんな服を着ているかすら、わからない。

でも、たしかに著者が書きたかったものを書いたという思いの伝わってくる作品です。

それは、高いこころざしであり、あきらめない精神なのではないか。
ここに描かれた精神は「シュピーゲル」シリーズで受けとめたものと繋がっているような気がしました。
シュピーゲルシリーズに施したさまざまな装飾をあえて捨て去って、そのテーマに真っ直ぐに素手で取り組んだ作品なのではないか。

とにかく、若い。前向き。
という印象が残るのは、宮城谷作品のあとに読んだからかもしれませんが。

歴史小説としてときに俯瞰的に後世から見た視点が混ざりはしますが、基本的に江戸時代を現在としてあらたな秩序を打ち立てようとするひとびとの奮闘の姿に、深く心を打たれました。

まるでプロジェクトXみたいだなー。いや、わたしはプロジェクトXはあんまり見てないんですが;

人々のひたむきさが好印象な話ですが、とくにわたしのお気に入りは、全国各地を天測してあるく大旅行にわくわくと飛びこむ爺様たちです。
会津藩主さまや水戸光圀公も捨てがたいけど、やっぱ建部さまと伊藤さまは特別だ。

碁打ちの同僚・本因坊道策君は、数少ないラノベの遺産でありましょうか。かれはかわいい奴だと思います。

すれちがってなかなか出会えない、まるで片恋の相手のような関孝和氏の後半の活躍は見事です。

泰平の世を安定させるためのシステムを生みだしていこうという、数多くの人間の意志が春海という人物に結実して、かずかずの挫折を乗り越えさせ、多くの成果を生み出していく時代の波を感じる展開にも熱くなりました。

暦がどれだけ日本の人々の暮らしを左右しているか。
京都の公家や天皇家と、江戸幕府との関係。
日本における宗教勢力の大まかな状況まで組み込んで、情報量は膨大な数に上りますが、それをうるさいと思わせない話運び。

必要なことだけが必要なありさまで書かれた、骨太な小説でした。
あらけずりとは思いますが、それを補ってあまりある熱気がたちのぼるような作品で、ひさしぶりに爽快な読後感でした。

わたしとしてはもすこし情景などがあってもいいようなきもしますが、この作品はそんな話ではないという気もする。うん。

あとはあれだ。数学がわかるひとにはもっと楽しめたのではなかろうかと、推測するばかりであります。
数学が大の苦手であるわたしは、数式や図形はすっ飛ばさせていただきました。
ここに伏してお詫びいたします(汗。

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する

Trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)