『失はれる物語』

失はれる物語 (角川文庫)
乙一
4044253064


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読了。

日常にひそむ死の匂いが印象的な不思議っぽいミステリ短篇集。

久しぶりに読んだ乙一です。
収録作品は以下の通り。

Calling You
失はれる物語

手を握る泥棒の物語
しあわせは子猫のかたち
ボクの賢いパンツくん
マリアの指
あとがきにかえて――書き下ろし小説 ウソカノ



SFやホラーの要素もあるのだけど、ジャンル分けするとミステリに入れたいなあと思うのは、この作品群のとても現代的に現実なたたずまいのせいかなと感じます。

そしてちょっとグロで残酷で孤独と死の濃厚なにおいが漂っている。

この本は乙一の作品の中でも比較的あとあじのよいものを選んであるかなと思うけど、それでもやっぱり死に至る傷があちこちに刻まれてます。

でも、ファンタジーじゃない。
不思議要素があってもぜったいに現実から離れていかないのです。
綺麗な救いも訪れない。

だからわたしはとても落ち着かない。
ぐるぐると思いを巡らせてしまい、微妙な気持ちで読み終えることになるんですよね。

登場人物たちがあらたな道を自分で見つけて歩いていくことで前向きな終わり方になるのは、じつはファンタジーの救いもそういうものの象徴なのですが、現実的に書くととってもささやかなものにしかならず、そのあたりが疲れたオバサンにはもどかしい模様です。

で、この悶々とする読後感、何かに似ているよなーと考えていたら、思いいたったのが新聞の社会面やワイドショーなのでした。

……うーん。
わたしはそれで乙一から遠離っていたんだなきっと。

というわけで、ちょっと読んでいてつかれたのですが、作品の出来映えはすばらしく。
とくに再読だった「しあわせは子猫のカタチ」はまたしてもじんわりとしてしまいました。

表題作がもっともこの短篇集を象徴しているかも。
この作品、ものすごい自己犠牲の話なんですが、わたしは主人公の置かれた状況がつらくて、想像するだけで怖くて涙が出そうでした。こんな状態でこんな選択を出来る人が本当にいるのだろうか。わたしなら最初の一日で発作を起こしてますわ。なんという話。

「傷」はすさんだ人間社会の暗部に暗澹とさせられる話。
大人に虐待される子どもの話は痛ましくて目を背けてしまいたい。
けど、現実にごろごろ転がってる話なんだろうなー。
少年たちの孤独な魂を象徴するかのような傷だらけの話でしたが、前向きに終わってくれたのが救いです。

「手を握る泥棒の物語」は一番ほっとできました。

「マリアの指」……グロい。
一番ミステリしていて読み応えもありましたが、なんというかかんというか。
犠牲者の特異なキャラクターの所以がわかればもっとすっきりしたかもしれません。

「ウソカノ」は「パンツくん」についで可愛い話でした。とはいえ、残酷さもきちんとあわせもっているのがこの作者の可愛い話です。

「Calling You」も既読。
ところが全然覚えてなかった……orz
このはなしが標題になってるジュニア新書をみつけたのがこの本を買ったきっかけです。

たしか携帯電話の話だったよねと思ったのですが、ちょっと古い携帯電話の話になってました。
いまの携帯電話はメールが主体のような気がするので。
で、姪っ子にどうかなとおもったのだけど、これはピンと来ないかもしれないなと思いました。

話はもっともSF色が濃くて、でもやっぱりミステリでした。
そして……涙の出る話です。

ひさしぶりの乙一を堪能しました。


「Calling You」を改題したジュニア新書。「傷」と「ウソカノ」も収録されてます……たしか(汗。
角川つばさ文庫版 きみにしか聞こえない
乙 一 SHEL
4046310189

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