『大奥 5』

大奥 第5巻 (ジェッツコミックス)
よしなが ふみ
4592143051


借りて読了。

江戸時代、もし男女の役割が逆転して江戸幕府の将軍が女性だったとしたら、というもしもの世界を突き詰めてするどく描く歴史コミック、シリーズ第五巻。

映画化されるというので存在を思い出し、そういえば途中までしか読んでなかったわと所持者に打診してみたところ貸してもらえました。
三巻までは持ってて、四巻までは読んでいたのに、気づいたら既刊すべてを貸してもらってた……。
おかげで最初から話をおさらいできました(汗。

物語は第七代将軍吉宗が登場して、逼迫した幕府の財政を立て直すために大奥の改革をも目論むところからはじまってました。

その時代は女将軍があたりまえ。ほぼすべての日本の家が女を当主として存続し、すべての労働は女がし、男は子孫を残すための種馬として大切にされるようになっていた。

なのに当主が公式には男名を名乗り記録にも男名しか残さないという異常な状況に疑問を抱いた吉宗が、疑問の解決のために大奥の記録をひもとき、男女逆転というシステムがいかなる状況によって生み出されたのかを知る、という導入部から第三代将軍家光の物語へと移行します。

平和を守るためにできあがった社会システムをむりに維持しようとしてゆがんでいく人びとの人生が、どこまでもシビアに生々しく繊細に描かれていく、迫力満点の歴史もの。

男女の立場が逆転して浮き彫りになるのは、いままで常識の中に見過ごされてきた矛盾と理不尽、構成員のひととしての尊厳をないがしろにして保持される組織の非道さです。

社会システムというのは状況に合わせて出来あがった物なのに、いったんシステムの形が決まってしまうと形の維持が目的になってしまう。状況に対する柔軟性がなくなってしまって状況を形に合わせようとさえするんですね。

いま、激動する社会状況に後手後手に回って対応できない現実を見ていると、そのことを切実に感じてしまう。

昔も今も、人間はかわらないんだなあと。

この五巻は犬公方と呼ばれて暗愚の象徴のようにいわれる第五代将軍綱吉の時代が描かれています。
家光がシステムを作るために犠牲になった将軍ならば、綱吉はシステムを維持するために犠牲にされた将軍です。
彼女の生活は苛酷きわまりないものですが、将軍という地位しか眼に入らない周囲の人間にとっては、恵まれた華やかな人生としか映らないのです。
彼女は将軍であって人ではない。
父親からすら、人として扱ってもらえない。
そのことをすでにあきらめ、しかたないと受け入れてもなお、ひととしての感情が彼女を傷つけつづける。

そんな彼女のまわりには、彼女を利用してのしあがろうとする者たちが汲々と権力争いを繰り広げている。

読んでいて痛ましくてなりませんでした。

この作者さん、ほんとうに人間関係の機微を描くのがうまいなあ。
綱吉の真意があきらかになっていくあたりなどは凄みを感じましたよ。
鳥肌がたちそうだった。

女性が主人公なので際だちますが、これが男性であったとしてもしあわせな人生とは言いがたいと思われます。
つまり、将軍として送る人生はあまりしあわせなものではなかった、時に苛酷で悲惨なものだった。ということなのでしょう。

赤穂浪士の事件の解釈にも唸らされました。
現実の歴史的な事件よりもワタシ的には納得しやすかったくらいです。
なるほどねえ。
赤穂浪士は今で言うならジャニーズや韓流スターみたいなもんだったのね……。

この作品がジェンダー問題に敏感なジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞を受賞したのも、当然のことだと思います。

もしもの世界でこれだけスケールの大きな、説得力のある物語を作りあげていく力量に感嘆です。

巻の最後に綱吉と吉宗が出会いました。
これから話は冒頭の吉宗の時代になっていくのかな。
つづきも借りてあるのですみやかに読みたいと思います。

シリーズ開幕編はこちら。

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))
よしなが ふみ
4592143019

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