『倒立する塔の殺人』

倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)
皆川 博子
4652086156


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読了。


第二次大戦下の東京の女学校を舞台に、思春期の少女たちの繊細な心理と純粋な悪意を細やかに描く、ミステリ小説。


青物屋の娘・わたしは、都立の女学校の生徒。育ちの異なるクラスメートの中で異分子のイブと呼ばれていたが、それほど気にすることもなく日々を過ごしていた。太平洋戦争の日本の戦況は悪化の一途を辿り、学校の授業は工場での勤労奉仕に切り替えられていた。空襲で一番の親友を失ったわたしは、小柄で華奢な三輪小枝と次第に親しくなった。そのうち、小枝の親しくしていたミッション系の女学院の女子生徒が死んだ。わたしは、小枝に「倒立する塔の殺人」と名づけられた本を手渡される。それは小枝の友人の女学生たちがつづった手記であり、推理小説でもあった。




第二次大戦時のドイツを書いた本の後で、この本を手にとったのはただの偶然なのですが、しかしなんという偶然でしょうか。

しかし、小説としてのたたずまいはかなり隔たった作品です。

米軍による絶え間ない空襲によって生死の境をさまよい、家族を次々に失い、家を焼かれて住むところもなくなり、と悲惨な状況がかかれているのですが、少女たちのこころには時代の悪意の届かない聖域があるようです。

これは時代によって変化することのない普遍的な少女の世界というものかもしれません。
普遍だからこそ、少女たちもたやすく住人の資格を失ってしまう、ある年代の少女特有の精神の世界。

戦時下の混乱のなかでも、少女たちは自分たちの世界で、純粋なあこがれや思慕や悪意を育てている。

生と死が混沌としていつどちらに転ぶかもわからない状況で、少女たちの世界はどこまでも透明で美しく残酷で永遠です。
その落差がとても印象に残りました。

それにしても、戦前戦中の女学校は義務教育ではないから、話す言葉がみなさんインテリでちと着いていけないところがありました(汗。

彼女たちの傾倒するのは、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』などの小説であり、シーレやムンクの絵画なのですね。

ドストエフスキーを小学生で読んだなんて、ええっ、でした。
ちなみにわたしはドストエフスキーを一冊も読んだことがありません。
おかげで、この本を読みながら非常に申し訳ない気持ちになりましたよ。
ごめん、君たちの何倍も生きてるのにドストエフスキー読んでなくて。

それと戦前の女学校では合唱が盛んだったという記述には、個人的な記憶にかかるところがありました。
作中に出てくる「流浪の民」の歌詞に聞き覚えがありまして。

皆川博子さんは1930年生まれでいらっしゃるのですね。
ということは、終戦の年には満で十五歳。
戦中戦後の描写にはご自身の体験が交えられているのでしょうか。
そのお年でこんなに瑞々しくも残酷な少女の物語をつづられる。
心底凄い方だなあと思いました。

ところで、わたしはやはりミステリ読みにはなれません。
ミステリ部分の楽しさがちっともわからなかったです。
倒立する塔がなんだっていいじゃん、とか思ってしまいました。すみません;

私の好きな皆川作品。
南北朝の日本を舞台にしたファンタジーです。

妖桜記〈上〉 (文春文庫)
皆川 博子
4167440032


妖桜記〈下〉 (文春文庫)
皆川 博子
4167440040

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