『龍の物語』

龍の物語
島田 雅彦
4880081043


読了。

1987年に刊行された龍についてのアンソロジー集。
存在はずっと知っていたのですが、なかにマキリップの「ホアズブレスの龍追い人」(ここでは「ホアズブレスの龍」)の訳者違いバージョンが収録されていることを知り、あわてて借りてみました。
収録作品は以下の通り。


第一の物語 龍人誕生 人類はいかに進化すべきか 島田雅彦
第二の物語 龍腕球伝 または「素晴らしい日本の小説」 玉木正之
第三の物語 空に白虹、地に喪山 六本木・上野心中 富田均
第四の物語 ホアズブレスの龍 北方の伝説 パトリシア・A・マキリップ 井辻朱美訳
第五の物語 香港映画の狂龍と笑龍 ブルース・リーとジャッキー・チェン 河
第六の物語 龍とは何ぞ クマグス・エンサイクロペディア 南方熊楠
第七の物語 イコノ・ドラゴン 図像構成+文
第八の物語 悪龍と美女 ドラゴン伝説の周辺 種村季弘
第九の物語 龍の本 あるいは出発のためのゆるやかな助走 松浦寿輝
第十の物語 愛のウロボロス 辰歳を言祝ぐ酔中回文詩 武田雅哉
第十一の物語 エルゼビヤ あるいは博物館の夢想 井辻朱美
第十二の物語 龍の棲み家 西洋のドラゴンと東洋の龍 草森紳一



ずいぶんとバラエティーに富んだ作品集です。
純然たる小説の中に、スポーツライターのプロ野球偽ノンフィクション+日本文学における野球について文章や、映画評論家?のカンフー映画についての論考あり、中世ヨーロッパ学者のまじめなドラゴンについての文章、さらに回文詩なんてむちゃくちゃテクニックを要するだろうけどトンデモない内容の長い長い詩、そして古今東西における龍についての図版や文章を集めたページが混じってる。

どれもかなりレベルの高い作品ばかりですが、ばりばりファンタジーのドラゴンとキワモノめいたドラゴン伝説、学術的に考察されたドラゴンと、ドラゴンという共通項がなければ「なんだ、こりゃ」になりかねないバラバラな作風が新鮮でした。

わたしが好きなのはもちろん、マキリップと井辻朱美さんの濃厚ファンタジー。
マキリップの短編は、井辻さんの訳で古めかしくたおやかで、品あるお伽噺のようなたたずまいに仕上がってました。

井辻さん自身の短編は、お得意の博物館を舞台にした幻想譚で、すこし山田ミネコ風の世界が垣間見えるところが印象深かったです。

それと、とても楽しんだのは「龍の本」。
なんと、主役が読書をするハムスターなんですよ!!!
その全身を使ってページをめくる愛らしい姿とは反対に、次第に立ち現れてくる物語世界の全容に慄然としてしまうお話でもありました。
こういう話、好きだなー。

それから「龍腕球伝」。
刊行されたころのプロ野球ペナントレースを知っている人が楽しめるのは当然として、明治以来野球が文学でどのようにあつかわれてきたかという視点からの論考にもなっていて、うわ、と思いました。
とくに正岡子規の野球テーマの俳句がとても新鮮でさわやか。読んだ途端にプレイを見た時の感動が甦ってきてふるえが来ました。
この文章、龍腕投手の存在がなければここにある意味はないのじゃ無かろうか。
超人的な投手の存在を龍になぞらえるのは、龍の荒ぶる存在感をはげしい生き様に重ね見た結果で、所属チーム(ドラゴンズ)からも当然かもしれないなーと感じたりもしたけれど。
が、やっぱり龍そのものとは無関係だな(苦笑。
でも面白かったです。

それから、ものすごく読みにくかったけどその博覧強記ぶりはものすごく伝わってきたのが、南方熊楠。
古今東西の龍伝説について縦横無尽、傍若無人に語っておいでです。

最後の「龍の住み家」はひとの想像上において龍の住み家とされてきたのはどこかという文章。
中国の龍に関するところと、八十年代までに翻訳されたSFが多く取りあげられているのが興味深かったです。

読み終えて、龍もドラゴンもひとには制御不能な巨大な力の象徴であることに変わりはないなーという印象が残りました。

西洋では人が支配者たらんとするから制御できないドラゴンは悪者になり、東洋ではひとも世界の一部だから長いものには巻かれろ的発想で、恐れ敬うものになったのかなとか。

いずれにしても、そうやってさまざまな感情を抱きつつも、ひとは龍・ドラゴンにずっと魅せられてきたんだな。

中国人が恐竜の骨を長寿の薬として使用してきたというエピソードには、ほおおおお、と唸りました。

とても興味深く、面白い本でした。
が、絶版なので図書館で借りるか古本を探すかしないと読めないのが残念です。

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する

Trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)