『カルトローレ』

カルトローレ
長野 まゆみ
4103068116


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読了。

遠未来SFファンタジー?


数百年前に地上を離れた《船》の住人は「奇妙なる人びと」と呼ばれてきたが、《船》が航行不能になったためにかかわりを避けてきた地上に降りることになった。《船》で少年期まで過ごした私・タフィは、救済委員会による地上への予備適応化プログラムを終え、製本組合の奨学金で《船》から回収された日誌・カルトローレの調査を任されて渇いた土地にやってきた。用意された家で私を迎えたのは、土地の役人で自分も《船》の出身だという長身の男コリドー。そして、タッシル語を母語とする人びとでワタと呼ばれる先住民の小柄な少年だ。ワタは渇いた土地で水のありかを探る術を持っている。ゴシキ鳥を率い、腕に占術の紋様を描いた少年が水を探し当てると、コリドーの指揮によりすみやかに給水塔がつくられた。そうして私のあらたな日々がはじまった。




作者さんの作品を読むのはずいぶんとお久しぶりです。
最後に読んだのがいつだったかは定かではありませんがそうとう以前なのは確か。
だから記憶が薄れているのかもしれませんが、以前読んだものとはかなり印象の違うお話でした。

陽光に晒された乾いた沙漠が舞台だからでしょうか。
なんとなく世界全体がひらけていてしろっぽくて、穏やかでちょっと距離のある感じです。
逆に言うと、かつてよく用いられた暗く冷たい水のイメージがなく、神経質といってもいいような棘のある、ヒリヒリした感じもない。

文章は細やかにディテールを追い、一人称なので登場人物に寄り添っているはずなのに視点に距離があって体温や体臭とかを感じない、清潔でかわいた日常が穏やかに流れていくような、そんな感じ。

私に託されたカルトローレと呼ばれる不思議な日誌にかかわる謎。
《船》に関する曖昧な私の記憶。
コリドーの謎。
紋様や暗号の謎。
先住民であるワタたちの風習と精神世界の謎。
私の能力の謎。

話には初めからいくつもの謎が提示されていきますが、物語がそれに完全に支配されていくことはないようで、日誌に引き寄せられて起きるように思われる事件もどこからどこまでが虚構で現実なのかわからず、きび色をした砂と地続きに日常に埋もれていきます。

それは台詞がカギ括弧でくくられずに、地の文章と地つづきであることからも、また登場人物が皆いくつもの顔をもって現れることからも感じられます。

謎は増えていくばかりなのに、主人公は謎解きに拘泥しません、というと語弊があるか、すくなくとも謎解きに必死になっているようには書かれてません。

そして、物語も謎解きに奉仕することをせず、あくまでも私の物語として話が進むのでした。

そのために次第に話はどこへ行くのかわからないようになっていくのですが、この感覚がわたしはすごく好きだなあ。

人の人生は謎解きのためにあるのではないのですよね。
解けないままに終わる謎はたくさんあるし、それでもつづいていくのです人生は。

解けない謎は地下の伏流水のように人知れずひそやかに冷たく流れつづけて、何十年も何百年も経った後、あるとき地上に現れたりするのをまた人間が発見したりするのですよ。

そんな謎のひとつが《船》なんじゃないかなー、とか。ぼんやりと思ったりしたのでした。

局所的に好きなところは、日誌の手触りやなにやらや、少年のワタが身にまとう衣服のこまやかな描写とか。
沙漠の旅の描写とか。
まとう衣装によって自分の性を他者に示すワタたちの、匿名希望で年齢不詳で両性具有な感じとか。
このあたりは以前からの作者さんの感じがひき継がれてますね。

小さいワタと私とコリドーの、なにげない日常のやりとりのまとう、昼下がりのようなゆるい空気が好きです。

以前の作者さんならこの関係に耽美な月の光を落としたろうと思うのですが、白日の下、乾いた風に吹きさらされた砂の上での出来事はいたってふつうの話で(秘め事は地下の伏流水になったのかもしれませんが)、とても楽に読むことが出来ました。

事件が解決してすべての謎が解けてと、お話がきれいに終わる方が好きな方はもやっとするかもしれませんが、わたしはこの雰囲気がとても気に入りました。

不思議や謎が日常と共存しているというのが、わたしの最近の好みなのかもなー、と今気づきました。

それとなんといっても、食べ物がとっっっても美味しそうなのがたまりませんw
とくにレモネードが飲みたくなること請け合いですw

わたしが読んだのは単行本ですが、すでに文庫になっています。

カルトローレ (新潮文庫)
長野 まゆみ
4101139520

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