『この世のおわり』

この世のおわり
ラウラ・ガジェゴ・ガルシア 松下 直弘
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読了。

中世ヨーロッパを舞台に、この世の終末を回避しようと頑張る少年修道士と道連れの吟遊詩人の努力を物語性豊かにえがく、歴史ファンタジー。


西暦997年フランス。少年修道士ミシェルは、マジャール人の襲撃により所属していたクリュニー会の聖パウロ修道院を焼き払われた。ただひとつ持ちだした写本をたずさえたかれは、そこに記された予言に考えを支配されていた。この世は老いている。老いたこの世はもうじき終わる。それはキリストが処刑されてから千年経った時に訪れる。とはいえ、終末を回避する手段も写本に示唆されていた。だが、そのためには謎を解いて遠くまで旅をしなければならない。手がかりを得るために、ミシェルは旅の吟遊詩人マティアスに声をかけた。



キリスト教の終末論をテーマにしたお話です。
異民族の襲撃や教会の分裂騒動、政情不安などで暗く不穏な空気に覆われたヨーロッパを、終末を阻止する使命を負った若き修道士と、修道士の友人となった吟遊詩人が旅をしていく、ロードノベルでもあります。というか、ファンタジー的には旅物語は王道なんでしたね。

修道士ミシェルは幼い頃から修道院で育った世間知らず。終末論には懐疑的ながら、そのあまりの浮世離れした姿を見かねた吟遊詩人のマティアスは、保護者めいた気分で探索の旅に同行することになります。

ミシェルが探し求めるのは、この世の終わりを延期することが出来るという三つの胸飾り。過去、現在、未来の時間軸を支配することの出来る宝物です。

その時間軸のありかは、謎めいた言葉によって記されているため、隠された意図を読み解いて目的地を探さなければなりません。

まずは〈黄金の都市〉をめざすことになったふたりは、マティアスが見当をつけたアーヘンを目的地に選びます。

それから始まる旅のようすが、わたしにはとても楽しかったw
吟遊詩人の日常や、中世の村のまつりの様子や、騎士の実態、教会権力のありようなどが、解説書を読んでいた時よりもリアルに想像できるようになりました。小説の美点だなーと思います。

長旅なのでさまざまな土地のさまざまなひとびとが登場しますが、吟遊詩人マティアスの交友関係がその行程に大きな恩恵をもたらしてくれるのも、わたしの興味を駆り立ててくれました。

困難な旅のたすけにユダヤ人があらわれるのって、『クシエルの矢』でもあったので、ほほう、と思いました。(もちろん『クシエル…』ではユダヤ人という名ではないんですけど)

旅は、フランスからドイツのアーヘン、巡礼の道を通ってのサンチャゴ・デ・コンポステーラ行き、そして海を渡ってブリタニアへと、まるで世界遺産巡りのようにつづきます。

古き自然信仰や、アンチキリスト結社、ノルマン人のブリテン侵攻、イスラームのスペイン侵攻など、さまざまな歴史的要素が絡み合い、影響し合う展開に、ハラハラドキドキ。とても面白かったです。

途中で道連れに加わる魔女の孫ルチアの存在が女性から見た中世の実情などの要素を引き込み、さらに波乱を呼び込んでくるので、ますます盛りあがる!

霧の中で迎えるクライマックスまで一気に読んでしまいました。
とても面白かったです。

生真面目で思索的で理想を求める少年修道士ミシェルと、世慣れしてるせいで現状をよくいえばそのまま受けとめ、わるくいえば諦めている、しかし自分の仕事にはプライドと情熱を持っている吟遊詩人マティアス。

ふたりの登場人物のバランスも、かれらを迎える脇役たちのあたたかな人柄も魅力的。

ひとつだけ、世界中をキリスト生誕からの千年で区切ってしまうあたりに違和感を覚えなくもないのですが、これはこういうお話として受け入れて、すみずみまで楽しみました。

それにしても、これが作者さん二十歳のデビュー作とは……すごいな!
他の作品もぜひぜひ翻訳刊行していただきたいと思います。

漂泊の王の伝説
ラウラ・ガジェゴ ガルシア Laura Gallego Garc´ia
4035404802

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