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『クシエルの矢 3 森と狼の凍土』

クシエルの矢〈3〉森と狼の凍土 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
4150205035


[Amazon]

読了。

中世ヨーロッパ風異世界で、高級娼婦兼間諜として育てられた娘が、国の存亡に関わる使命を帯びて苛酷な旅をする、愛と憎悪と戦乱のファンタジー。三部作の第一部完結編。

面白かった……!

女王となったイサンドルの命を受け、テールダンジュからツィンガンの道を辿って海へと至り、さらにアルバへとつづく遥かな旅路。

天使の末裔という設定だけで魔法はないと思っていた物語世界に、ふいに訪れる超自然の出来事。
ツィンガンの不吉な予言に、異民族の王権争いと戦いのなかで出会う象徴。それらは、エルーア様への信仰とはべつの信仰を持つひとびとの世界にやってきたという証なのかもしれません。

旅はフェードルにも彼女の同行者にも、身をひき裂かれるような試練と決断をせまります。

この一冊の中で、これだけの紆余曲折、波瀾万丈、疾風怒濤、阿鼻叫喚を味わうことになろうとは。
読み終えるまで幾度呼吸が止まるかというような修羅場をくぐり抜けたことでしょう。

ハードでシビアな状況における苛酷な展開の中でくじけそうになる登場人物を支えたのは、それぞれがいだく深い愛だったのでしょうか。

どの登場人物もそれぞれの信念と愛と目的に動かされて、おのれの道をたどっていきます。
行き着く先がどうであろうと、それはすべてみずからの選択の果てなのです。

なによりもこの物語の肝は、エルーア様の愛の宗教だったなあと思いました。
キリスト教をモデルにしながらもさらに一歩進んで、精神だけでなく肉体の愛も尊ぶこの信仰は、すべての愛を肯定し、推奨する。

だから、天使カシエルに誓願した修道士たちをべつにして、かれらは愛の行為を蔑視したりしません。同性愛もサドもマゾも、両者の同意があれば異端とはみなされない。

その愛の先鋭的な実践者が、エルーア様に使えた八天使の長姉ナーマーだったんだな。

一般的には娼婦たちの守護者の扱いを受けている天使ナーマーですが、実際のところ、エルーア様の一行で果たしていたナーマーの役割は先陣であり、危険な敵地に身体ごと踏み込んで足がかりをつくるという、とても重要で厳しいものだった。

身を投げ出してエルーア様の歩む道を拓いていったナーマーの旅を、神娼であるフェードルは身を持って体験していくことになります。

託された重責を命がけで果たしていくだけでも大変な波瀾万丈なのに、精神的な旅まで同時進行とは……溜息です。

アングィセットと呼ばれる真性のマゾヒストであるフェードルは、ナーマーの旅を実践させるために生み出されたキャラクターなんだろうな。

自分から責め苦を受けるために飛びこんでいく、こんなフェードルを護ると誓ったキャシリーヌ修道士ジョスランの苦労を思うと非常に哀れになりますが(苦笑)、それもかれの誓願をささげた天使カシエルの選択の再現になってるんだから、これはもうどうしようもありません←褒め言葉ですw

ふたりだけでなく、この巻はたくさん出てくる登場人物たちがみなそれぞれに生き生きとして存在感があり、読んでいて非常に楽しかったです。

ヒアシンスの悲劇の王子っぷり。
テールダンジュ海軍提督クインティリウス・ルッスの豪快さ。
二人のダルリアダ王グレーンとイーモン・コンビのバランスの絶妙さ。
アルバ王ドラスタンの真摯さ誠実さ。
スカルディアの侵攻に耐えつづけていたテールダンジュ戦士貴族たちの有能さ。
カムラクのイシドール・デーグルモールの勇猛さ。
ヴァルデマール・セリグの狡猾な残忍さ。

そしてテールダンジュ女王イサンドル・ド・ラ・クールセルの、凛として芯の強い、女傑になりそうな器の大きさと、垣間見える乙女心のアンバランスw

終盤へ向かって加速していく戦のなかで展開する人間たちのドラマは縛られるような緊迫感があり、たいそう読み応えがありました。

そしてカタルシス……で終わらない物語のエピローグ。
わたしが始終恐れていた人物からの挑戦状に悲鳴をあげたのは秘密でもなんでもありません(苦笑。

まだまだつづきがありまっせw
としたり顔で告げられたようないけずな終わりに完敗しました。

読みたいです、はやく読みたいっ。

余談。
ジョスランの家族が意外にフランクで愛嬌があって楽しかった。
かれらの存在にもエルーア様の宗教の寛容さが推し量れました。

さらに余談。
神の子は認めても神の孫はみとめないひとびとというのはこの世界にはいないのかな。つまり、現実でいうならキリスト教徒ですが。


クシエルの使徒〈1〉深紅の衣 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
415020506X

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