『クシエルの使徒 1 深紅の衣』

クシエルの使徒〈1〉深紅の衣 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
415020506X


[Amazon]

読了。

西洋中世風異世界宮廷陰謀ファンタジー、『クシエルの矢』のつづきで第二部の開幕編。



閨房スパイとして育てられた娘フェードル。波乱の試練を乗り越えた末にテールダンジュ王国の危機を救い、貴族の称号を得て、山国ショヴァールの所領で恋人ジョスランとともに平穏な日々を送っていた彼女の元に、深紅のマントが贈られてきた。それはクシエルの矢を受けた彼女のアングィセットたることを象徴するものであり、反逆者メリザンド・シャーリゼによって奪われたものだった。逃亡したメリザンドの行方は杳としてしれない。マントはメリザンドから自分への挑戦であり、メリザンドの逃亡を手引きした者が女王のそばにいると確信したフェードルは、ジョスランの反対を押し切って宮廷へ戻り、ナーマーの奉仕によって真実を探り出す決意をする。




あー、面白かった!!

波乱の第一部で大団円をぶちこわしたメリザンドからの贈り物。
そこから第二部ははじまります。

アングィセットと呼ばれる真性のマゾヒストであるフェードルは、クシエルの家系で真性のサディストであるメリザンドを心ならずも愛しており、手ひどく裏切られた故に憎さ百倍。

恩師と友人の仇であり、王家に徒なす逃亡死刑犯でもあるメリザンドが、潜伏先から優雅に(?)送りつけてきた自分のマントに、ひどく心を掻き乱されます。

メリザンドは自分に勝負をしかけている、と確信したフェードルはそれを受けて立つことを決意。

ふたたび、不穏な政治の駆け引きの中に身を投じることになるのでした。

メインは、平和を取り戻したと見えるテールダンジュの華やかな宮廷のかげで繰り広げられる陰惨なドラマ。
誰もが怪しく信用できない、そんななかでフェードルが幾人もの客へのナーマーの奉仕によってたぐり寄せていく情報の断片と人びとの立ち位置。

浮かびあがるチェルディッカ共和国ラ・セレニッシマの影。

そんなサスペンスフルな展開にあって、フェードルが宮廷再デビューのためのドレスを注文した白薔薇館のファブリールとのエピソードがとてもたのしかったですw

反対に陰謀サスペンスにさらに深い影を落とすのが、ジョスランとの関係。

フェードルが危険を冒すたびに心痛に苦しむジョスランは、ヒアシンスを救出する手がかりを得るために繋がりを持ったイェシュト人の教えに急速に傾いていきます。

イェシュトはひとびとを救済するためにすべての原罪を背負って死んだとされる救世主。
つまり、現実でいうならキリスト。
イェシュトに帰依すればすべての過ちが許されるといわれて、ふらふらしてしまうのですね。

そして、ナーマーのしもべであるフェードルは、イェシュトの民からすると大罪人。
フェードルとジョスランとの間にイェシュト人が入りこみ、どんどん距離がひろがり、フェードルはかれとどう接すればいいのかもわからなくなっていきます。

このあたりの心理劇が、ワタシ的に一番の読みどころだったかな。

フェードルとジョスランの関係は絶妙だなあと思います。
真性マゾヒストの彼女は、たぶん危険にさらされるのが大好きなんです。
その彼女を護る誓いを立てたかれは、彼女が好きこのんで危険なことをするのが理解できないし、ゆるせない、自分の誓いをなんと思っているのかと憤ってしまう。でも、彼女を護らねばならないかれは、彼女の意に添わないことはさせられない。護る誓いのために離れることも出来ない。
堂々巡りです。

フェードルはマゾヒストなのに、ジョスランに対してはこれでもかとサド的な行動を重ねます。
それってかれをまったく客としては見ていない、対等な心許せるパートナーとして認識しているためじゃないかな。

ジョスランはもとから守護誓願という受け身の立場なので、みずから行動を仕掛けるということができない、というか苦手なので、よけいにこじれるんだろう。

このふたり、このあとどうなるんだろうなーーー。

ところで、イェシュト人は、第一部を読んでいるかぎりではユダヤ人かなと思ってたんですが、その教義はどうみてもキリスト教でした。では、ユダヤの教えを信じる人びとはここにはいないのかな。

よく見てみると、この世界では帝国はキリスト教化されてなかったんですね。
それでイェシュト人たちは故郷なき放浪の民になってるわけで。

そのいっぽう、スカルディアでは普通に北欧神話がでてくるし、アルバではケルト風だし、チェルディッカはローマ神話なの? ギリシャ神話なの? いったいこの世界の精神世界はどうなってるの? とかなり混乱してしまいましたが。

解説で石堂藍さんがお書きになってる「パロディー」というのを読んで、そうか、と思いました。
エルーア様とナーマー様だけがユニーク設定で、あとは既視感びしばしというのもそういうことならうなずけます。

テールダンジュ人がテールダンジュ至上主義者なのとか、ラ・セレニッシマがテールダンジュの技術によって建築中だとか、イェシュト人のあいだにシオニズムみたいな運動が流行ってて分裂しそうになっているのとか、とてもディテールが皮肉っぽいのもそういうことか。

作者さんはいろんな歴史や伝説や現実を物語のために好きなように再構成しておられるのですね。

物語のすべてにオリジナリティーを求めない。
表現するためには既存のイメージも何でも使う。
そういう姿勢は「グイン・サーガ」でも見てきたものですし、なっとくすればなるほどです。

つづく二巻はどうやらラ・セレニッシマへ舞台を移しての陰謀捜索劇になりそうです。
ラ・セレニッシマはどうみてもヴェネツィアですねw
途中の海路で遠くより眺めた監獄島の存在がとても気になりました。これってフラグ?


クシエルの使徒〈2〉白鳥の女王 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey
4150205108

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する

Trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)