『ハーモニー』

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
伊藤 計劃
415031019X


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借りて読了。

現代と地続きのリアリティーを持つロジカルで閉塞感に満ちた近未来SF。
アメリカのP.K.ディック賞特別賞受賞作品。


二十一世紀後半。核戦争と大虐殺を伴う〈大災禍〉後の世界は、生命主義のもと人びとを社会的リソースとして管理する高福祉社会となっていた。メディケアと呼ばれるシステムに繋がれることによりほぼすべての病気が駆逐され、寿命以外では死すら遠いものとなった社会は、いつのまにか個人のプライバシーを形骸化させてしまった。そんな社会に倦んでいた霧慧トァンは、苛立ちや敵意を臆さずに表明する少女・御冷ミァハと出会い、導かれて、もうひとりのクラスメート零下堂キァンと三人でとある選択をした。




これはすごいSF!
前作『虐殺器官』の現代リアリティーと血なまぐささが取り除かれて、思考実験の要素が強く前に出ている分、いっそうSFらしさの明確な話になってます。

だからといって現実離れした荒唐無稽な話というわけではなく、『虐殺器官』がいまにもこうなりそうな世界だとしたら、こちらはそのうちこうなってもおかしくない世界を描いていると思います。

むしろ実感としては、意識的にはこの世界は実現しつつあるような気がします。
命の大切さを訴える声がこころに響かない人間が多くなっているのは、それだけ現代人と死の心的距離が離れているからではないかと思うのです。

この話の世界では、死だけではなく病気による肉体の痛みや苦しみまでが人間から切りはなされ、その状態を維持するためにすべての個人データがシステムの中で管理されています。ひとは人類という集合体の一部として扱われており、個人の所有できるものはほぼその体だけになっているにもかかわらず、すみやかな治療のおかげで痛みすら感じさせてもらえないのですね。

こんなに息苦しい社会がなぜ出来上がってしまったのか。

話は社会に違和感を覚えた少女達の生命主義に対する抗議行動から始まります。
始めのうちは苛立ちや孤独や嫌悪に彩られつつも静かだった物語が、とある事件を境に劇的な展開を見せる様に、固唾を呑みました。

ああ、これ以上書くとネタばれだ……(汗。

終着点が驚天動地なのは『虐殺器官』と同等くらい、いやそれ以上かも。
違和感を覚える書式の理由も「うわ、そうだったのか!」。

読み終えていろいろと、それはもういろいろと考えさせられてしまいました。
そのことをたくさんたくさん書いてみたいのですが、そうするとネタバレ以外の何物でもないので、書けません。

思うのは、作品を書かれた当時の作者さんが文字通り死の淵にいたということ。
あくまでも推測ですが、もしかすると痛みそのものが生きていることだったかもしれない病床で、こんな世界を冷徹に考えて積みあげていかれたそのすさまじさに、言葉を失います。

P.K.ディック賞の特別賞を受賞されたというのもうなずける、SF魂にあふれながらもすぐれて現代的な作品だと感じ入りました。

ところで、この作品は『虐殺器官』とおなじ世界を舞台にしています。
どちらから先に読んでも大丈夫と思いますが、時系列的には『虐殺器官』→『ハーモニー』。
この順序で読んだほうが、メディケアシステム成立の背景が心情的に納得しやすいかもしれません。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
伊藤 計劃
4150309841

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