『薔薇と茨の塔 下 エリアナンの魔女6』

エリアナンの魔女6 薔薇と茨の塔(下) (エリアナンの魔女 6)
ケイト・フォーサイス 井辻朱美
4198631476


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読了。

近世スコットランド風異世界ファンタジー三部作の完結編。


妖術師マヤは幻術の技を駆使しエリアナンと敵対する霧につつまれたアランの地を訪れた。娘のブロンウェンをつれた大捜索官レンショーが身を寄せているという情報を得たためだ。ところがそのブロンウェンは偽物だった。マヤはアランの女藩公マルグリットにある物をみせて決死の取引を持ちかける。いっぽう、木化けのリランテたちの尽力により妖精族の助力を取り付けた翼のラクラン率いる軍はティルソワレーの〈光の軍団〉をじりじりと押し返していた。ところが決戦の前夜、メガンやジョーグなど魔女術の使い手たちは不吉な胸騒ぎに苛まれる。




おわび。
これまで古代スコットランド風と書き続けてきた気がするのですが、どうやらここは近世です。
なんとなれば火縄銃が出てくる。
火縄銃は〈光の軍団〉の装備ですが、かれらはたぶん少しばかりのキリスト教徒たちの末裔なんだろなー。

ここにいたってわたしは、ようやく、物語世界全体を把握できたような気がします。
そういえば、十五、六世紀のスコットランドから脱出してって、最初の巻に書いてあった、ような(汗。

そのスコットランド(物語の中ではアルバ)から迫害を逃れてやってきた人間たちは、エリアナンの地にかってに住み着き、移民のくせに先住民を追い払って繁栄してたってことですね。

それも、毎巻の冒頭にかならず記してあるのになぜいままで素通りしてきたのだろう……わたしの阿呆。

ここで自分のために整理してみると、まずラクランの属する王家マックインはエリアナンの上王の地位にあり、それぞれの藩公に忠誠をもとめていた。

ラクランの長兄でエリアナンの前王ジャスパーが娶ったのが、海棲の妖精族フェアジーンの血を引く幻術師マヤ。フェアジーンは人間に故郷から追い払われ、虐げられた事にたいして復讐をもくろんでいる。

霧の国アランのマクフォグナンは、そもそもエリアナンの地にたどり着いたときからマックインの地位を認めていなかった。それで女藩公マルグリットはマヤと共闘することにした。さらに魔女術を否定する一神教のティルソワレーとも影で手を結んでいた。

エリアナンの先住者・妖精族にはさまざまな種族があり、霧の国アランでマルグリットと契約を結ぶ恐ろしいメスマードのように人間とは全く異なる生き物から、大きな勢力を持つフェアジーンや、高山にすむ誇り高い戦闘種族カンコーバン、高貴なる星見の天空人などのようにひとがたに近いからだと思考を持つものもいる。

……という感じでしょうか。

いつもは物語世界に身を委ねるにはそんなにいろいろと考えたりはしないし、その必要もそんなにないと思うのですが、この話の場合はなんとなくわたしが理解したいと思ったので、この巻は二回読んでみました。

すごく、面白かったです。

始まりはイサボーとイズールトの双子姉妹とその後見の魔女メガンが中心でしたが、第二部からは完全に群像劇になってますね。

この巻での読みどころはマヤとマルグリット、マヤとイサボー、つまりマヤがどのようにしてここにいたり、なにを思い、なにをしてのけるか、だったような気がします。

マヤとイサボーとのシーンでも視点はイサボーなんだけど、イサボーの行為はそれほど重要じゃないような。ヒロインなのにかわいそうに。苦労ばかりしているイサボーにはすごく同情してました。最初の能天気娘はもうどこにもいません。

煮え切らずに苦労するイサボーもそうですが、イズールトもけっこう心労が絶えません。この話に出てくる人はみな、長所と抱き合わせの欠点を持っていて、それがどうしようもなく運命を左右してしまうようなシーンが結構あり、それが話に生々しいような臨場感を与えていると感じます。

臨場感といえば、奥行きと質感のある書き割りでない世界を創出する描写がとても好きです。

緊迫感とスピード感にあふれる戦闘シーン。
たくさんの妖精族がそれぞれに活躍するシーン。
子供たちが懸命に頑張るシーン。
星見のわざの見せる幻想的なシーン。
悲壮な最期の決意。
そして転落した男の無様な姿。

雄大な英雄伝説に、市井の人々のちいさいけれど真剣な物語がからまりあう、地に足の着いた物語世界を堪能しました。

さまざまな神話伝説モチーフが巧みに織り込まれてますが、わたしの印象に残ったのはやはり変身譚。クロウタドリに変えられていたラクランを筆頭に、いくつもの悲劇がありました。ええ、こんなところにまで、と思うようなところにまで。どれだけ変化させたんだマヤよと呆れました。

この巻で三部作は完結ですが、訳者あとがきによれば本国では続きがすでに三冊出ているらしいです。

いちおうの区切りはついたけどまだ決着がついてない事はたくさんあるし、たとえばイサボーの幸せはいつくるのかとか、いろいろと気になるのでこのつづきもとても読みたいです。売れ行きからしてちと心配なんですが、心待ちにしているので刊行をお願いします。なむなむ。


シリーズ開幕編はこちら。

エリアナンの魔女1 魔女メガンの弟子(上) (エリアナンの魔女 1)
ケイト・フォーサイス 井辻朱美
4198630917

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