『翼の帰る処 3 歌われぬ約束』上下巻

翼の帰る処(ところ)〈3(上)〉歌われぬ約束 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-5)
妹尾 ゆふ子 ことき
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読了。

隠居願望の強い主人公が魔法の気配と人間界の権謀術数が交錯する中で踏ん張る、格調高くも親しみやすい異世界ファンタジー。
シリーズ第三部。


虚弱で隠居を夢としていた尚書官ヤエトは三十六歳。放置区と呼ばれた北領に左遷されて喜んでいたのもつかの間、領主として赴任してきた十四歳の皇女の副官に任命されてしまった。さらに北領王となった皇女につりあうようにと四大大公のひとつ〈黒狼公〉に叙爵される。人も羨む出世を遂げたヤエトだが、本人は気苦労が絶えず不満だらけのまま生来の生真面目さで増えるばかりのつとめをこなしていた。ある日、倒れたヤエトは気がつくと北領にいた。前後の記憶が定かではないヤエトと、かれを連れ帰った鳥シロバの異変に周囲は不安と懸念を持つが、ヤエトはもっと現実的で切迫した問題を提示する。魔法の力がつよくなりつつあるのは、魔物を封じた力が弱まっている証拠。遠からず異界から魔物が姿を現すに違いないということだ。ヤエトの言葉は半信半疑で受け止められる。皇女はそれでなくとも皇位継承争いのさなかにある。北嶺の麓をめぐる踏野郡太守との会談には五の皇子が姿を現し探りを入れてきた。そんなおり、冬に侵攻してきた北方からの使者が北嶺を訪れたという報告が届く。



あーー、面白かった!!!

待ちに待った『翼の帰る処』第三部です。
上巻が出てからおよそ一年、なのですがわたしは下巻が出るまでと読むのを我慢していたのでじつに二年ぶりの北嶺との再会です。
自業自得なのですが、さすがに二年も間隔が開くと話をほとんど覚えてません。
というわけで、無印から読み返してようやく六冊読み終わり、それから3をもう一度読み直し、それから感想を踏まえてなんどか拾い読みをし、ついでに関連の別作品まで読みはじめたりして、いつのまにか感想を書くのを忘れそうになってました。

いや、もう満足満足堪能堪能、それでいいんじゃない?

と思ったりもしましたが、それではこの作品のどこが好きなのかが伝わらない、布教しなくては!

このお話の魅力は、ファンタジーのディープな世界を描いていながらも、キャラクター小説としていきいきとしていて、権力争いの歴史小説としても読みごたえがあり、それがどれも分離せずに絡み合い相乗効果を上げている所だなーと思います。

神々にあたえられた恩寵の力をめぐる世界全体の動向から、皇帝の後継争いにまきこまれる末の皇女の生き残りを目指しての戦いに、さまざまな気候風土にはぐくまれたその土地ならではの文化風俗精神世界のいろいろを折り込みつつ、外見若者だけどじつは隠居したがり中年と二十二歳離れた皇女との???な関係の動向を追いかけるという、じつに重層なお話です。

しかしです。
なによりも大切なのは、巨きな鳥が人を乗せて飛ぶことです。
この飛翔感覚、めくるめく浮遊感、スピード感、俯瞰した世界の美しさの魅力は何ものにもかえがたいです。

おまけに、この人を乗せる鳥と乗り手の間には精神的な深い絆があります。話ができるのです。乗り手として選ばれた人間だけですが。
鳥はひとを選び、ひとは鳥に尽くす。
北嶺のひとびとは鳥を肉親のように大切に扱いますが、場合によっては、鳥とひとの一対は肉親よりも近しい関係のような気がします。

これって、じつに理想的で濃厚なパートナー関係だと思いません?

ひとの心を感じ取る賢い鳥はひとを魅了し、鳥馬鹿にしますが、それもむべなるかなと思います。

そのひとと鳥との絆を直接的には感じ取れない主人公の視点で描くからこそ、その不思議さや特殊性や、憧れというか羨ましさというか、が読み手にも伝わってくるのも憎い演出だと思います。

主人公は鳥と意思を通じえませんが、かわりに別の恩寵持ちで過去視の力を持っています。
虚弱ですぐに熱を出して倒れるヤエト先生が、どのタイミングで恩寵を発動させるか、のタイミングも読みどころになってるような気がします。かれの視る過去の映像もそのやり方の描かれ方も、とても幻想的でなおかつ、体感的でファンタジーです。制限付きなのが希少価値を上げてるよね。

さらにヤエト先生をめぐるひとびとの立体度。自己主張の強さ。キャラクター小説として、にまにま読める要素は大切です。このあたりは以前の作品と比べると格段に人間世界度があがってますね。北嶺のひとびとの愛らしさと素朴さ、帝国のひとびとの複雑さと翳りのコントラストも印象的。とくに皇妹殿下の底知れなさと皇帝陛下の容赦のなさがすてき。なのに皇女に嫌われたくない陛下がかわいいのw

まったく自覚なしにひとをタラシつづける主人公・ヤエト先生と、先生を振り向かせようとする周囲の人々という構図がすっかりできあがってるのが、とてもとても楽しかったです。

先生の最大の被害者、商人のナグウィンにはすっかり同情しているわたしです。

今回は舞台が北方にまで広がり、いままで散々過去の“幻影”として登場してきた人物がついに肉体を持ってあらわれました。話の主筋もほぼあきらかになって視野がひらけてきた感があります。

これからも、魔界の罅をめぐる話と皇位継承陰険展開がつづくんだろうなー。
もしかして、ひとつ話が終わるたびに皇子が一人ずつ脱落していくのかしらん。
だとしたら、まだまだシリーズは続きそうですねw
楽しみ楽しみ。

つづきは気長にお待ちしています。

あと。
馬馬鹿の《灰熊公》にはたいそう好感を持ちました。
シロバの雛がかわいいよ、かわいいよ。
ヤエトは皇女の髪が好きだよねー。


翼の帰る処 3 ―歌われぬ約束― (下) (幻狼ファンタジアノベルス)
妹尾 ゆふ子 ことき
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シリーズ開幕編はこちら。
翼の帰る処 上 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-1)
妹尾 ゆふ子 ことき
4344814665

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