『魔法の庭』全三巻

魔法の庭〈1〉風人の唄 (ファンタジーの森)
妹尾 ゆふ子 春日 聖生
4939073076



再読。

魔法の気配に満ちあふれた、音楽のひびきわたる幻想的な異世界ファンタジー。


南方王国のうたびとアストラは、北方王国との境にある宿『はて見』亭で寒さに衰えた身体を癒していた。アストラは北の音楽にとりつかれ、うたびとの地位を捨てて北方にやってきたのだ。四十年前に南方王国との戦に破れた北方王国は、王女イザモルドの呪いによりすべてが凍てつき、生き物の気配も絶えた死の世界となっていた。そこに不思議な眼をした少年シリエンが訪れ、アストラを王女の常春の庭への案内役として指名する。アストラはそこにたどり着いて戻ってきた唯一の人間だというのだ。南方王国の追っ手からシリエンに救われたアストラは、妖魔の王だというシリエンとともに極寒の北の大地をふたたび王女の庭を目指すたびに出る。




北の音楽にとりつかれたうたびとアストラの数奇な運命を描く、ディープな異世界ファンタジーです。

始めから最後まで、濃厚な魔法の気配としびれるような音の感覚がまとわりついているのに、どこか宙に浮いているような非現実感がただよいつづける、幻想の物語です。

北方王国の王女イザモルドの悲劇に端を発し、凍りついた北の大地を開放しようとする妖魔の王シリエンの試みと、同行者となったアストラが体験するさまざまな信じがたい出来事に、読み手はめくるめく幻想の世界にひきこまれていくことになります。

名前の魔法は作者さんの中心的なテーマですが、この話でクローズアップされるのは音楽。
うたびとアストラの喉が現出させるこの世のものならぬ力の唄や、泉から湧き出るような水の唄、風妖の風鳴り、ひとつひとつの音がそれぞれに魔法をはらんで周囲に与える影響が、臨場感をもって伝わってくる描写の力がすばらしいです。

北方と南方の音楽の違いから、ふたつの文化の違い、神々への相対し方や世界そのもののとらえ方、そのはぐくまれた気候風土と経験してきた歴史にまでふみこんでゆく、いってみれば少しずつ過去を探り出してゆくような進みかたに、夢の中に深く深く潜り込んでゆくような心地になりました。

それはわたしにとってはとてもすてきな酩酊感でした。
おかげで、初読のときのわたしは話の輪郭をあんまり意識しないままだったような気がします。

振り返ってみると、これは伝説級のうたびとだったアストラの出奔の物語であり、その背後にあった北への憧れの要因を探る物語で、北方王国を呪いで凍てつかせた王女イザモルドの、孤独な魂と喪失の嘆きの物語なのですね。

基調として低音で響き続けるのは、まだ見ぬ故郷への憧憬だろうかと感じます。

自分が自分として存在できる、それがなんの障害もなく許される、突き詰めていえばここで死んでもよいと思える場所。

戦で命を失った戦士の魂も、天界から追放された神も、求めているのはおのれの在るべき場所に帰りたいという願いだったのかなーと思ったり。

『翼の帰る処 3』を読んでいて出てきた北方の物語を確かめようと読み返し始めたのですが、これはもう一度読んでよかった。いまになって、ようやく理解できた所がいろいろありました。というか、話を理解せずに読んだ気になる癖を止めたいですorz

『翼』関連で言うと、主人公のアストラは北方王国の塔で宙づりになってたうたびとです。
かれはなんでこんな存在になったんだっけ、という疑問が解けました。うたびととセットでヤエト先生のヴィジョンにあらわれる銀髪氏がシリエンですね。

そしてイザモルドの子孫が北方王国の公家のひとびとなわけですよねえ。
なんだ、またしても子育てでおんなじことを繰り返してるよ。人間てヤツは過去に学ばないのねorz

読み終えてですが、作品がまるごとつるんと生まれてきたような印象を受けました。
対するに『翼』は、大きな鉱脈からあるべき姿を模索しつつ懸命に彫り上げているようなイメージなんですよね。なにか力技が入っているような気がします。

おさらいをし終えたのでもう一度『翼3』を読もうかな。

魔法の庭〈2〉天界の楽 (ファンタジーの森)
妹尾 ゆふ子 春日 聖生
4939073157

魔法の庭〈3〉地上の曲 (ファンタジーの森)
妹尾 ゆふ子 春日 聖生
4939073254



『翼の帰る処』シリーズ開幕編はこちら。
翼の帰る処 上 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-1)
妹尾 ゆふ子 ことき
4344814665

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