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『漆黒の王子』

漆黒の王子
初野 晴
4048735691


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読了。

暴力により社会の底辺に追いやられたものの憎悪が破壊へ、そして破滅へとつきすすんでいくエネルギーを強く描き出す、復讐ミステリ。


外来のワカケホンセイインコが飛び交う地方都市。インコの墓場の下には住民の知らない暗渠があった。社会からドロップアウトした七人の浮浪者たちは〈王子〉と呼ばれる少年のもと、中世オランダの職人になぞらえた名前を名のって暮らしていた。いっぽう、地上の世界では凄腕の若き組長代理紺野のもと数多ある暴力団を強引にまとめあげた藍原組で、構成員が睡眠不足の果てに謎の死を遂げる事件が連続して起きていた。藍原組にあずかりの身の水樹は、紺野に見込まれ紺野の右腕で藍原組の参謀・高遠の指示を受けて動くことになった。組には組員の死を言い当てる脅迫メールが送られてきていたのだった。




暗く不潔で非現実的な暗渠の世界と、暴力が支配する暴力団の世界を行ったり来たりしながら、死にまつわるエピソードが連続するという、どうにもあかるくなりえない雰囲気の話です。

プロローグからして、子供の苛めがエスカレートしていく話で、しかも、その苛めをうけた子供はその後もとことん辱めを受けて育っていったらしいことが、続きを読んでいるうちにあきらかになっていくという……。

しかも、本編でのその子供はすでに被害者ではなく加害者となっているわけで。
加害者として復讐の対象となって、追われる対象になっているわけで。

とまならい暴力と憎悪と復讐の連鎖に震えが来ました。

暴力と辱めによって生まれた強い怒り、憎悪のエネルギーがどれだけの破壊を希求するかという、まるで破滅へと向かうカウントダウンのような展開を、暴力団同士の抗争とからめて、暴力の連続と滴る血と痛む傷跡と秘めた感情とをもってぐいぐいと推し進めていく文章が圧巻です。

その凄惨な地上と隔たった暗渠の世界の、悪臭がしたり不潔だったりと悪夢のようでいてどこかやすらぎのある雰囲気とがとても対照的です。

たぶん、暗渠の世界はすでに彼岸なんだろうなー。

冒頭から、中世ヨーロッパ関係のいろいろが謎解きにはめこまれてますが、それもこの破滅的な話をがちがちの社会派のどろどろさからちょっと救っているようにおもいます。

そして、一番の救いは、最後まで登場人物たちが本当の孤独には陥らなかったこと。
友人との絆を最後まできらずに、終焉を迎えたことだなーと思いました。

紺野と高遠。
千鶴と彼女。
そして水樹と幼なじみ。

これは、暴力と理不尽にも負けなかった、絆の物語だったんだなー。

話全体から放たれるエネルギーの大きさに目がくらみました。
面白かった。けど怖かった。そしてしみじみしました。

藍原組のシノギの設定には驚かされました。書かれた当時はこれはフィクションだと言いきれたと思うのに、いま読むとあながちないとも言いきれないあたり、寒気がします。

読んだのは単行本ですが、もちろん文庫化されています。

漆黒の王子 (角川文庫)
初野 晴
4043943156

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