『折れた竜骨』

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)
米澤 穂信
4488017657


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読了。

中世イングランドの孤島を舞台に、領主の娘と誓約を立てた騎士が殺人事件の謎を追う、呪いと魔術と詐術に彩られた時代ミステリ。


ブリテン島の東の北海に浮かぶ二つの島からなるソロンは、北海交易の要所として栄えていた。その領主エイルウィン家の当主ローレントは、館を巡回するひとりの夜警の死をきっかけに傭兵を募集し始めた。ソロンに集まったのは遍歴騎士とその部下たち、ウェールズの弓兵、マジャールの女戦士、サラセンの魔術師の四組。そしてもう一組、修道騎士団の正騎士ファルク・フィッツジョンとその従者ニコラに港で出会った領主の娘アミーナは、領主に会いたいという彼らを小ソロンの館へと案内する。領主ローレントはアミーナを含めて集った者たちの前で彼らの集められた理由、すなわちソロンに呪われたデーン人の襲撃が迫っていることを打ち明けて契約を求めた。その翌日、領主ローレントは作戦室で胸を剣で貫かれた姿で発見される。



中世ミステリというと思い出されるのは「修道士カドフェル」シリーズですが、この話はそこから少しくだった時代を舞台にしています。
女帝と王の内乱は終息し、獅子心王リチャードが十字軍に行ってる時代……たしか……です。

舞台となっているのはたぶん架空のソロン諸島。
とくに領主の館しかない小ソロンは天然の要害で、ソロンとの行き来は危険な浅瀬を乗り切る技術を持った船頭の渡し舟のみ、という孤島です。

ここで起きた領主殺人事件が話のメイン。

探偵役は領主の娘十六歳(たしか)のアミーナ。
そして魔術に手を染めて悪事を働くかつての同胞を始末すると誓約をたてた聖アンブロジウス病院兄弟団の正騎士ファルク・フィッツジョンとかれの従士のニコラです。

容疑者は領主の周辺にいた数人。つまりほとんど使用人と傭兵たちということに。

見知らぬ広い世界に憧れを抱くアミーナと、重い過去と使命を背負った苦悩する騎士ファルク、小柄で品は悪いけど身が軽く頭の回転も速いニコラ。

色恋はないですが萌えがちらりとみえる組み合わせの探偵役たちと、背景的にも性格的にも能力的にも個性的なくせ者揃いな容疑者との、たいそう現実的理論的な捜索と推理の過程が面白いです。

どれだけ呪いや魔術といった非現実的な要素が出てこようと、その成立する法則がきちんと定められていれば、むしろ推理はそれを容易に排除できて論理的には純粋化するのかもしれないなーと感じました。

というわけで、ここにでてくる魔術はひとつの技術に過ぎず、魔術そのものを探求するものでもなく、ひとつの行為から得られる結果もはっきりとしていますので、わたしはこれを純粋にミステリとして読みました。

まあ、呪われたデーン人とかいろいろあるから、ファンタジーだと思う人もいるでしょう。
でもやっぱり、わたし的にはミステリということで。

時代的な背景がきちんと話にからんでいるのと、ひとびとの生活や風俗がおりこまれてるのが、中世好きには楽しかったです。
カドフェルのすぐ後の時代だということは『大聖堂』の時代のすぐ後でもあるわけですよね。

(なのに、もとは異世界を舞台にしたネット小説だったとは……www)

なんだかんだいっても世界史ではイングランド周辺の歴史がわたしには一番飲み込みやすいみたいだなと、思った一冊でもありました。(それもカドフェルのおかげ;)

カドフェルの人間洞察はありませんが、世界が広いことを実感するお話でした。
面白かったですvvv

聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1) (光文社文庫)
エリス ピーターズ 大出 健
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「折れた竜骨」米澤穂信 (ミステリ・フロンティア)

ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。 自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ...