『水の時計』

水の時計
初野 晴
4048733826


読了。

孤独と自暴自棄のすえに破滅まで走りつづけてきた少年と、かれを信頼する謎の少女の、奇妙で危険な人助けを、ワイルド「幸福の王子」と現代の医療問題と絡めて描く、ダークで幻想的なミステリ。
第二十二回横溝正史ミステリ大賞受賞作品。


「ここから先に進むと逮捕されますよ」暴走族ルート・ゼロの幹部である少年、高村昴は、忘れた財布をとりに戻ったマンションで、執事風の男に呼び止められる。芥と名乗った男は、ルート・ゼロがしてのけた暴力行為はすでに警察の把握する所となっているが、自分に従うならばそこから逃れることが出来ると告げる。そのかわりに昴はとある病院の一室に連れてゆかれ、ある人物と対面させられる。その人物は、見えない暴走族と呼ばれるほど平然と繰り返してきた走りの提供を求めてきた。なんのために? 脳死移植の臓器を迅速にレシピエントに届けるためだった。



……面白かったです。

先日読んだ『漆黒の王子』のように、社会の底辺で虐げられたり暴力を振るったりと、けっして穏やかではない世界からスタートする話なのに、この静謐さ、切なさはなんなのでしょう。

水の時計というのは、人間のことだそうです。
体内にたくさんの水をふくんで、月の満ち欠けに左右される、ひとの肉体。

主人公の少年・昴が抱えている無力感とやるせなさ。
かれが出会う少女の異様な状態。
彼女からかれが託される、不法な、けれど切実に助けを必要としている人たちへの救いの手。

連作短編のような構成で、レシピエントに関わるひとのせっぱ詰まった人生が、情感豊かに描かれてゆくのが、とても悲しく、苦しく、哀れで、いとおしく感じられました。

そうしてしだいに明らかになっていく昴の過去と、最後まで明かされない少女の理由も、せつないです。

月の光の中にうかびあがる情景が、いつまでも印象に残りました。

これがデビュー作だということで、ちょっと強引かなと思われる所もありましたが、この話はこれでいいのだと思わせるのは、全体を覆うこの月の光のためかもしれません。

この作者さんの話、好きだなあ。

題材が脳死移植なので、いろいろと受け止め方はあるだろうなと思いますが、この話のテーマはそこではない、と思います。

ところで、予約したのは文庫だったのですが、用意できないと電話がかかってきて、ハードカバーを借りて読みました。

というわけで、文庫版はこちらです。
水の時計 (角川文庫)
初野 晴
4048793012

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